1 平和すぎる村 ~これじゃあ、ポイント貯まらない~
ここからが本編の始まりです。
シャルマントの住んでいる村。
圧倒的に少ない人口。
そんな村は大体が平穏な日々を繰り返しているものですよね。
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを絶対に取ろうとしない『シャルマント』という女の子がいました。シャルマントはその赤いずきんの中に、あらゆる動物たちの鳴き声が人の言葉となって襲ってくる、耳の付いたカチューシャを隠しています。そのカチューシャはある魔女のイタズラで、良いことをたくさんしなければ取れない呪いのようなモノなのです。それは『聞き耳カチューシャ』と呼ばれていました。
その『聞き耳カチューシャ』という魔法の “イタズラおもちゃ” を今は自分の思うがままに使いこなせるようになったシャルマントは、襲ってきたオオカミを自分の相棒にして森の中での冒険を終えたのは遠い昔。
そう、この呪いの様なカチューシャを着けられてからもうすぐ一年が経とうとしてています。シャルマントは八歳になっていました。
シャルマントは今、村はずれの、森にほど近いところにある小さな広場の片隅に置かれた丸太の椅子に座り、赤いずきんを脱いで、例のカチューシャをさらけ出し、テーブルに身を投げ出してうっ伏しています。この場所はその近くに一本の大きな木が生えていて、それが通りからこの場所を見えづらく隠している、いわば秘密基地のような場所なのです。
そこへお友達のライツェントちゃんがやってきました。
「どうしたの? シャルちゃん。」
「ライツちゃん、あたしゃぁ、もうダメだよ。」
「ん? どうしたの?」
「もうこの村ではポイントが貯まらないんだ。」
「ふふふ、ねえシャルちゃん、お耳触ってもいい?」
「どうぞどうぞ、お好きなように。」
ライツちゃんはシャルマントのカチューシャについている耳を優しく、いじいじします。
「ふわふわで気持ちいいね。」
「そう?」
「うん、私、この耳好きよ。私の命の恩人なのだから。」
「遠い昔の話ね。」
「何言ってるのよ、まだ一年も経っていないじゃない。ふふふ。」
シャルマントが呪いのような、魔女のイタズラで取れなくなったカチューシャでライツちゃんの病気を治してから十の月が経とうとしていました。
シャルマントはそのカチューシャの秘密を母親の他には親友のライツちゃんにだけ打ち明けていたのです。
「でも、大きくなったねー。」
「そうだけどさー。」
「今は、ネコさんの耳ぐらいかな?」
「うん、たまにね、屋根裏のネズミさん達も私をみて驚くんだ。」
「なんて?」
「『まさか、俺たちを喰わねえだろうな。』ってね。ネズミは食べたくないよねー。」
「ふふふ、いいな~~、ネズミさん達ともお話しができるなんて。」
「まあね、いろんな動物さん達と話しができるのはいいけどね。やっぱり邪魔なんだよ、頭洗うときとかねー。」
そんないつものゆるい話しを友達のライツちゃんとしていると、その横を黒猫が優雅に歩いていきます。
「やあ、黒猫の『マリ』さん。」
シャルマントが声を掛けると、黒猫は歩みを止めて、顔だけ向けて言います。
「なんだ、シャルマントちゃんじゃない。今日もぐだぐだしているの?」
「ねーー、マリさん。誰か困っている方居ない?」
「居るわけないさ、なにせこの村は平和そのものだからね。」
「だよねーー、平和だよねーー。ああ、どうしよう。」
「“良いことしたねポイント” ってやつかい?」
「そう、ここ何日も貯まっていないの。もう限界なの。」
「大変だねー。」
「マリさんはどこへ行くの?」
「わたしゃぁいつもの見回りさ、何にも変わったことはないけどね。これから帰って午後の眠りをむさぼるのさ。じゃあね。」
そう言って黒猫のマリさんは行ってしまいました。
「なんて言ってたの?」
ライツちゃんはまだシャルマントの耳をイジイジしながら聞きます。
「この村は平和だって、これから帰って寝るんだって。ああ、もう、あたしゃダメだよ。困っている人が全然いないんだ。ポイントが貯まらないんだ。」
「元気出して、私も協力するから。」
ライツちゃんはニコニコしながらまだカチューシャの耳をイジっていました。
「ねえシャルちゃん、聞いた? 今度、王さまと王子さまの隊列がここを通るんだって。」
「へぇ~~~~。」
「王子さまって十歳でしょ、私たちの二こ上じゃない。どんな方なのかな~。」
「王さまか~~~、お城の周りにはいっぱい人が住んでるんだろうね~。困ってる人も多いんだろうね~~~。ポイント貯まりそうだな~~~。」
「そうだね、大きな町なんだろうね。」
「でもさ、行けないよね。」
「そうね、私たちまだ子供だものね。遠いし、行き方も分からないよね。」
「あ~あ~、ザバン、乗せて行ってくれないかな~。」
「ザバン? オオカミさんでしょ。ダメよ、町になんて行ったら大騒ぎよ。」
「だよね~~~~。」
そんなことを言いながらもシャルマントは、
(ちょいと近くまで行ってみようかな。ザバンだったらどれ位の時間で行けるんだろう。)
(お城の場所知ってるかな~。)
(ま、知らなかったら、鳥さんにでも聞けば平気か。)
などと、次の冒険に向けろくでもない事を考えていました。
いつもの生活範囲を越えて、少しだけ離れた場所に行く。これ、もう冒険ですよね。
物語の中だけでなく、新たな発見も有ったりして・・・・。
お天気が良い日は、少し遠出のお散歩もいいですね。




