序 王子さまと赤いずきんの女の子 ~こんな穏やかな日々が~
始まりは、よくある童話の一場面的な感じにしてみました。
穏やかな日々、主人公は可愛い動物たちに囲まれていて、そこに登場するのはやっぱり王子さまなのです。
さてさて、こんどの物語はどんな展開になるのでしょうか。
王子さまにかけられた呪いとは・・・
むかし、むかし、宮殿の中にある庭園の小さな池の畔に広がる芝生で、小鳥たちやリス、ウサギやアヒルなどに囲まれ、それら動物たちと楽しそうにお話をしている赤いずきんを被った少女がおりました。時折、池のふちに並んだ多くのカエルが、赤いずきんの少女に向かってゲコゲコゲ~コとゆかいなコーラスも披露し、それに合わせて集まっている動物たちも体を揺らせていました。
多くの動物たちの真ん中に座っている赤いずきんを被った少女は、その細くかわいい指に綺麗な黄色の小鳥を乗せて話しをしています。
「へぇ~~、そんなに綺麗な景色が見られるの?」
小鳥はぴぃぴぃとさえずっているだけのようですが、その少女には人の言葉として聞こえていました。
「そうなんだよ、ここから南の森を越えたところに小さな湖があってさ、そこに映る夕日がとても綺麗なんだぜ。」
「いいな~~、私も見てみたいな~~。」
「でも残念。僕たちのように空を飛べないと見えないんだよ。」
「そうなの? でも~、湖の畔からでも奇麗な景色が見えるんじゃない?」
すると芝生に降りている青い小鳥が言いました。
「そうだよ、きっと綺麗だよ。だって湖全体がオレンジ色に染まるのだから。」
青い小鳥の言葉に少女は目をきらきらさせています。
そこへ身なりの整った少年がお供の従者を連れてゆっくりと近づいて来ました。
その少年はこの国の王子さまです。
王子さまは少女のそばまでやってくると、そっと手を差し出し、
「やあシャルマント、こんなところに居たんだね。小鳥たちと何を話していたの?」
「まあアルドリック様、小鳥さんたちから綺麗な夕日が見られる湖の話を聞いていたの。」
「綺麗な夕日が見られる湖か・・。」
「そうなの、南の森を越えたところにある小さな湖なのですってよ。」
「それは興味深いね、私も知らない湖だなんて、こんど私たちも行ってみようか。」
「本当?」
「ああ、行ってみよう。」
「まあ嬉しい。」
「ところで、一緒にお茶はどうかなって、誘いに来たのだけれど・・。」
するとシャルマントはぴょんっと立ち上がり言いました。
「では、私はお茶菓子を持っていきますね。」
「君が?」
「そうよ、『メゾン・フォシエ』のビスキュイなの。」
「えっ? あれは高級で人気があるからなかなか買えないんじゃなかったかと思うのだけれど・・。」
「ふふ~~ん、私、『メゾン・フォシエ』のランスおじいさんとお友達なの。」
「へぇ~~、私も知っているよ『メゾン・フォシエ』のランス氏と言えば有名な方だからね。そんな有名な方といつお友達になったんだい?」
「昨日。」
「昨日?」
「そ、昨日。ランスおじいさまの大切なモノを見つけて上げたの。」
「ふ~ん、その話、もっと詳しく聞きたいな。ではお茶の席でゆっくりと聞くとしよう。」
「ええ、喜んで。」
赤いずきんを被った少女はお屋敷に向かって駆けだしました。すると周りに集まっていた多くの鳥たちはパタパタパタっと一斉に舞い上がり他の動物たちはあちらこちらへと走って隠れてしまいました。池のふちに並んでいた多くのカエル達は一斉に池の中へと飛び込み、ポチャポチャポチャンと音がします。少女は走りながら振り向いて言いました。
「ザバン、あなたも一緒に食べるでしょ、『メゾン・フォシエ』のビスキュイ。」
すると、少女の振り向いた先の少し離れたところに寝そべっている大きなオオカミが、それまで我関せずといった感じで伏せていた顔を、きりっと持ち上げ、赤いずきんを被った少女に鋭い視線を向けると同時に跳ね上がって、
「うぉぅ うぉぅ。」
と声を発しながら少女に向かって駆けだしました。
「あっ、ザバンっ!」
駆けだしたオオカミがあっという間に少女を追い抜くと、赤いずきんを被った少女はその後を追いながら叫びます。
「もぅ、ザバンたら、待って~~!」
風のように早く走るオオカミは美しい毛並みをなびかせ、その大きな口から垂れる長い舌からは、美味しいものが待ちきれないかというように涎が芝の上にキラキラと光を放って飛び散っていました。
「ザバン、 ねぇザバン、待ってよ~~!」
赤いずきんを被った少女は何度も叫びながら、笑顔で追っていきます。
そんな明るい少女の楽しそうな後姿を王子さまは笑顔で見ていました。




