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23 これが私の姿 ~カエルの王子さま~

 むかし、むかし、石造《いしづく》りの宮殿《きゅうでん》の壁《かべ》に向《む》かい、呪《のろ》いを解《と》かれ動《うご》けるようになったカエルを掴《つか》んで大《おお》きく振《ふ》りかぶっている赤《あか》いずきんを纏《まと》いネコ耳《みみ》カチューシャを着《つ》けた少女《しょうじょ》がいました。


「ちょ・・、ちょ ちょちょちょ、ちょっと待《ま》ってくださいっ!」

 カエルの王子《おうじ》さまは必死《ひっし》に叫《さけ》びます。

 その必死《ひっし》の声《こえ》にシャルマントは振《ふ》りかざした態勢《たいせい》のまま動《うご》きをとめ、

「どうしたの?」

と、キョトンとした声《こえ》で聞《き》き返《かえ》しました。


「いやいや、私《わたし》への呪《のろ》いは解《と》けて、もう動《うご》けますから・・・。」

「安心《あんしん》して、カエルにされたあなたを王子《おうじ》さまの、人《ひと》の姿《すがた》に戻《もど》す方法《ほうほう》なら知《し》っているのよ。」

「え?」

「そうよ、おもいっきりあなたを壁《かべ》に叩《たた》きつければ『カエルにされた呪《のろ》い』は解《と》けるって・・・、本《ほん》で読《よ》んだわ。」

「本《ほん》って・・・どんな?」

「学校《がっこう》にあった童話《どうわ》よ。」

「ど  童話《どうわ》? いやいや、せめて学術書《がくじゅつしょ》にしてくださいよ。」

「あら、童話《どうわ》も凄《すご》いのよ。昔《むかし》の人《ひと》の知恵《ちえ》とかがいっぱい載《の》っているの。だから学校《がっこう》にあるのよ。」


 そう言《い》うと、シャルマントは再《ふたた》びカエルの王子《おうじ》さまを大《おお》きく振《ふ》りかぶりました。

「え? いやいやいやいや、やめて下《くだ》さい。そんな事《こと》したらこの素敵《すてき》で可愛《かわい》い大《おお》きなお口《くち》から色《いろ》々な、だいぶグロいモノも出《で》てきちゃうじゃないですか。」

「大丈夫《だいじょうぶ》よ。叩《たた》きつけられた壁《かべ》から下《した》に落《お》ちる間《あいだ》に呪《のろ》いが解《と》けるって、王子《おうじ》さまが人《ひと》に戻《もど》った姿《すがた》も知《し》っているわ・・、童話《どうわ》に絵《え》が載《の》っていたから。」


 そう言《い》うとシャルマントは振《ふ》りかぶっていた腕《うで》を更《さら》に大《おお》きく後《うし》ろへと下《さ》げ、持《も》っている手《て》とは反対側《はんたいがわ》の足《あし》を地面《じめん》から少《すこ》し上《あ》げ体《からだ》を反《そ》らしました。


「いやいやいやいや、ちょ・・、ちょっと待《ま》ってくださいって!」

 カエルは絶叫《ぜっきょう》にも似《に》た叫《さけ》び声《ごえ》を再《ふたた》び上《あ》げます。


「一体《いったい》何《なん》なの? 元《もと》の人間《にんげん》の姿《すがた》に戻《もど》りたくないの?」

「いやいや、戻《もど》るとか戻《もど》らないとかの話《はなし》ではないのです。」


 カエルの王子《おうじ》さまが何度《なんど》も何度《なんど》も壁《かべ》に叩《たた》きつけられるのを拒《こば》むので、

「あなた王子《おうじ》さまでしょ。そんなに一番手《いちばんて》になるのが怖《こわ》いの?」

とシャルマントが言《い》うと、

「そうではないのです・・・。」

カエルの王子《おうじ》さまは懇願《こんがん》するように困《こま》った感《かん》じで答《こた》えました。

「しかたないなー、じゃあ、お付《つき》きで来《き》ている別《べつ》のカエルさんから試《ため》すことにするわね。」


 シャルマントが振《ふ》りかぶっていたカエルの王子《おうじ》さまをブランと下《した》に垂《た》らすと、カエルの王子《おうじ》さまは堰《せき》を切《き》ったように話《はな》しだしました。

「いやいやいやいや、家臣《かしん》の者《もの》を壁《かべ》に叩《たた》きつけるなんてとんでもない。そのままカエルの躯《むくろ》になってしまいます。」

「そうはならないわ。人《ひと》に戻《もど》るのだから。」

「いやいや、絶対《ぜったい》にカエルの躯《むくろ》になりますって。そうなったらどうするんですか?」

「そうねー、何事《なにごと》にも失敗《しっぱい》は付《つ》きものだから、別《べつ》のお付《つき》きの人《ひと》を試《ため》すだけよ。」

「いやいやいやいや、そんなこと繰《く》り返《かえ》したら壁《かべ》の前《まえ》に無残《むざん》なカエルの躯《むくろ》が山積《やまづ》みになってしまいますよ。そうなったら困《こま》るでしょ。腐《くさ》るし、臭《にお》うし。」


 シャルマントは一瞬《いっしゅん》何《なに》かを考《かんが》えるかのように斜《なな》め上《うえ》を見《み》ましたが、直《す》ぐに満面《まんめん》の笑《え》みをカエルの王子《おうじ》さまに向《む》けて言《い》います。

「きっと大丈夫《だいじょうぶ》。こう見《み》えて私《わたし》、鳥《とり》さんに多《おお》くの友達《ともだち》がいるから。」


「エサかよっ!」

 カエルの王子《おうじ》さまは吐《は》き捨《す》てるように言《い》いました。



 そしてシャルマントは再《ふたた》び投《な》げつける態勢《たいせい》を取《と》ります。片足《かたあし》立《だ》ちで、大《おお》きく手《て》を振《ふ》りかぶり、今度《こんど》は掴《つか》んでいるカエルを少《すこ》しだけクルクルと回《まわ》しました。

「やめてください回《まわ》すのは。」

 カエルは静《しず》かに訴《うった》えます。

「目《め》が回《まわ》っちゃうじゃないですか。」

 すると、

「そうよ、安心《あんしん》して、次《つぎ》に目《め》が覚《さ》めた時《とき》に、貴方《あなた》は本当《ほうんとう》の王子《おうじ》さまの姿《すがた》に戻《もど》っているから。」

そうシャルマントが言《い》うと、

「もう戻《もど》っています。 戻《もど》っていますって・・・。」

カエルは遠心力《えんしんりょく》で顔《かお》も両手《りょうて》も伸《の》びきった状態《じょうたい》で訴《うった》えました。

「え?」

 シャルマントは回《まわ》すのを止《や》め、ゆっくりと掴《つか》んでいるカエルを顔《かお》の前《まえ》に持《も》ってきて聞《き》きました。

「戻《もど》っているって・・・、どゆ事《こと》?」


 目《め》が回《まわ》り、全身《ぜんしん》の力《ちから》が抜《ぬ》けたカエルはシャルマントに逆《さか》さまに持《も》ち上《あ》げられぶらんぶらんと揺《ゆ》れながら答《こた》えます。

「ラ・・・『ライスト・ヴェルドゥ王国《おうこく》』はカエルの国《くに》で、わ・・、私《わたし》はカエルの国《くに》の王子《おうじ》なのです。 こ・・、この姿《すがた》が・・・、このままの姿《すがた》が私《わたし》なのです。」

「本当《ほんとう》にカエルの国《くに》の王子《おうじ》さまなの?」

 シャルマントは吊《つ》り上《あ》げているカエルの、あれだけ振《ふ》っても頭《あたま》から離《はな》れない王冠《おうかん》を不思議《ふしぎ》そうに突《つつ》きながら言《い》いました。

「はい、カエルの国《くに》、『ライスト・ヴェルドゥ王国《おうこく》』の王子《おうじ》ですって、以前《いぜん》に言《い》ったじゃないですか。 それに私《わたし》の大切《たいせつ》な王冠《おうかん》を突《つつ》くのをやめてください。突《つつ》かれる度《たび》に首《くび》がぐきぐき揺《ゆ》らされるので・・。」

「そう? カエルの国《くに》って言《い》っていたっけ?」

「ええ・・・、あ・・、そ・う・・だ、カエルの国《くに》とは言《い》っていませんでしたね・・・。いやしかし、私《わたし》はカエルの国《くに》の王子《おうじ》で、この姿《すがた》が私《わたし》そのものなのです。」

「えええええええーーーーーっ!」

 今度《こんど》はシャルマントが大《おお》きな声《こえ》で驚《おどろ》きました。




「あの~~、そろそろ降《お》ろしてもらっていいですか? この状態《じょうたい》ですと目《め》が回《まわ》り続《つづ》けてしまうので・・。」

 カエルの王子《おうじ》さまからの訴《うった》えに、シャルマントはそっと地面《じめん》に下《おろ》し、

「カエルの国《くに》なんて本当《ほんとう》に有《あ》るの?」

と聞《き》くと、

「はい、以前《いぜん》にも共《とも》の者《もの》が言《い》いましたように『ライスト・ヴェルドゥ王国《おうこく》』というのが我《わ》がカエルの王国《おうこく》なのですよ。」

「へぇ~~~。」

「この呪《のろ》いを解《と》いてくださったシャルマント殿《どの》とザバン殿《どの》にはいずれご招待《しょうたい》したいと考《かんが》えております。」

「ほんと~~! 楽《たの》しみ~~。」

 

 シャルマントとカエルのレピド王子《おうじ》が話《はなし》をしていると、突然《とつぜん》背後《はいご》から声《こえ》がしました。

「シャルマント、君《きみ》は赤《あか》いずきんの中《なか》にこんなかわいいカチューシャを着《つ》けていたのだね。」

 その声《こえ》はこの国《くに》の王子《おうじ》、アルドリックのものでした。


 そうです。カエルが元《もと》に戻《もど》って、石柱《せきちゅう》から飛《と》び跳《は》ねたのを掴《つか》んだシャルマントが宮殿《きゅうでん》の壁《かべ》に向《む》かって走《はし》っているとき、深《ふか》く被《かぶ》っていたずきんのフードが走《はし》った時《とき》の強《つよ》い風《かぜ》でめくれてしまっていたのです。


「可愛《かわい》いね、ネコ耳《みみ》。」


 シャルマントは急《いそ》いでフードを元《もと》にもどそうとしましたが、その手《て》をアルドリック王子《おうじ》に止《と》められます。

「そのままでいいよ。」

そう言《い》われて手《て》の力《ちから》を抜《ぬ》くとフードはふわりと背中《せなか》へと垂《た》れて行《い》きました。


「これが・・、この取《と》れないカチューシャが私《わたし》への呪《のろ》いなのです。」

 シャルマントは小《ちい》さな声《こえ》で呟《つぶ》くと、アルドリック王子《おうじ》に視線《しせん》を向《む》けました。

 王子《おうじ》は、

「そうか、それでいつもそのずきんを深《ふか》く被《かぶ》っていたんだね。」

と優《やさ》しい声《こえ》で話《はな》します。



 そして、

「少《すこ》し、触《さわ》ってもいいかな。」

と言《い》うと・・・・。



 シャルマントは視線《しせん》を落《お》とし、少《すこ》しの間《ま》をおいてから言《い》いました。




「はい、この耳《みみ》に触《ふ》れるのは親友《しんゆう》のライツちゃんと王子《おうじ》さまが二人目《ふたりめ》です。」


            シャルマントⅡ ~赤《あか》いずきんと呪《のろ》われの王子《おうじ》~  完。

ストーリーは終わったのですが、カエルの王国って気になりますよね。


そこで『番外編』、カエルの王国です。

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