↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/26

22 ちょ、ちょっと待ってください ~不安と自信と~

 むかし、むかし、ある宮殿《きゅうでん》に置《お》かれたカエルの石像《せきぞう》の前《まえ》で、妖精《ようせい》の泉《いずみ》から汲《く》んだ水《みず》の入《はい》っている水筒《すいとう》を持《も》った赤《あか》いずきんの少女《しょうじょ》が相棒《あいぼう》のオオカミ、ザバンを従《したが》えて真剣《しんけん》な面持《おもも》ちで立《た》っていました。


「さあ、始《はじ》めるわよ。」

 シャルマントがザバンに向《む》かって言《い》います。

「はい、シャル様《さま》。」

 ザバンはそう言《い》うと少《すこ》し離《はな》れるように後《うし》ろへ数歩《すうほ》引《ひ》きました。


「何《なに》をするんだい?」

 王子《おうじ》さまのアルドリックも近《ちか》くから見守《みまも》っています。


 日《ひ》は天空《てんくう》の頂点《ちょうてん》に達《たっ》し、雲一《くもひと》つない空《そら》からの日差《ひざ》しは容赦《ようしゃ》なく石《いし》のカエルを照《て》らしています。石《いし》のカエルの目《め》からはいつも以上《いじょう》に涙《なみだ》が流《なが》れ落《お》ちていました。


「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン

        キイタラズンズン ハヨノビロ、 ねぇカエルさん。」

 シャルマントは石《いし》からカエルに戻《もど》った時《とき》、お話《はなし》ができるようにと例《れい》の呪文《じゅもん》を唱《とな》えます。


「シャルマント、それは何《なに》?」

 近《ちか》くで見守《みまも》っていたアルドリック王子《おうじ》が聞《き》きます。

「おまじないのようなものです。」

 シャルマントは石《いし》のカエルに向《むか》かったまま軽《かる》く答《こた》えました。


「先《ま》ずは、この石《いし》にされた姿《すがた》を元《もと》に戻《もど》します。」


 それは森《もり》の賢者様《けんじゃさま》から教《おし》えられた『石《いし》にされた呪《のろ》い』を解《と》く方法《ほうほう》ですが、シャルマントには少《すこ》しの不安《ふあん》がありました。

(んんんん・・、大丈夫《だいじょうぶ》かな~~、あの耄碌《もうろく》賢者《けんじゃ》だからな・・・、本当《ほんとう》にこれで石《いし》の呪《のろ》いが解《と》けるのかな~~~。)

(あっ! そうだ、そうだった、呪《のろ》いが解《と》けるかどうかを妖精《ようせい》さんたちに聞《き》けばよかった~~!)

(あぁぁぁ、でも、妖精《ようせい》さん達《たち》には聞《き》けなかったわよね~、あの状況《じょうきょう》じゃ。)

 シャルマントは泉《いずみ》で大暴《おおあば》れしたオオカミ一家《いっか》の暴挙《ぼうきょ》を思《おも》い出《だ》しました。


 そんな事《こと》を考《かんが》えてしまうと、ますます不安《ふあん》になって水筒《すいとう》を持《も》っている手《て》が震《ふる》えます。

(ええい、ここまで来《き》たからにはやるしかない。)


 シャルマントは一歩《いっぽ》進《すす》んで石《いし》のカエルへと近《ちか》づくと、水筒《すいとう》の中《なか》にある妖精《ようせい》の泉《いずみ》の水《みず》をカエルの上《うえ》からタラタラと垂《た》らしました。



 するとどうでしょう、妖精《ようせい》の泉《いずみ》の水《みず》が掛《か》かったところから何《なに》やらシュワシュワと小《ちい》さな泡《あわ》が出《で》て、みるみるうちにあの石《いし》のザラザラとして灰色《はいいろ》がかったカエルの表面《ひょうめん》が、陽《ひ》の光《ひかり》を受《う》けてつやつやとした光沢《こうたく》を放《はな》ち、色鮮《いろあざ》やかなカエルの皮膚《ひふ》へと変《か》わっていくではありませんか。安堵《あんど》したシャルマントは水筒《すいとう》の中《なか》の水《みず》を勢《いきお》いよく、カエルの全身《ぜんしん》に行《い》きわたるようにとドバドバと掛《か》けます。


 水筒《すいとう》の中《なか》の水《みず》を全《すべ》てかけ終《お》わると、目《め》の前《まえ》の石柱《せきちゅう》の上《うえ》には王冠《おうかん》を載《の》せたカエルが石《いし》にされた呪《のろ》いを解《と》かれ、燦《さん》々と降《ふ》り注《そそ》ぐ陽《ひ》の光《ひかり》に美《うつく》しくもヌルっとした肌《はだ》を輝《かがや》かせていました。


「おお~~~~~!」

 見守《みまも》っていた王子《おうじ》さまやその付《つ》き人《びと》たちも感嘆《かんたん》の声《こえ》を漏《も》らします。

 動《うご》かないカエルもどこか嬉《うれ》しそうな表情《ひょうじょう》に見《み》えました。


 しばらくして、

「ん? 動《うご》かないね~。」

王子《おうじ》さまが言《い》いました。

 シャルマントは向《む》きを変《か》えぬままに言《い》います。

「次《つぎ》はこの固《かた》まった身体《からだ》を動《うご》けるように、呪文《じゅもん》で呪《のろ》いを解《と》きます。」

 さっきまで不安《ふあん》に思《おも》っていた石《いし》から元《もと》の身体《からだ》へと無事《ぶじ》に戻《もど》したことで、シャルマントは賢者様《けんじゃさま》の言葉《ことば》が大丈夫《だいじょうぶ》だと確信《かくしん》でき、今《いま》は自信《じしん》満《まん》々な態度《たいど》で言《い》えたのです。


 シャルマントは握《にぎ》っていた水筒《すいとう》を放《はな》し、どこかから拾《ひろ》ってきた小枝《こえだ》をあたかも魔法《まほう》の杖《つえ》のように懐《ふところ》から抜《ぬ》き出《だ》して今《いま》だ動《うご》かないカエルに向《む》けました。そして、その杖《つえ》をまるで指揮者《しきしゃ》がゆっくりとタクトを振《ふ》るうように、そう、例《たと》えるのならマーラーが書《か》き下《お》ろした「アダージェット」か、はたまたバッハの「G線上《せんじょう》のアリア」を奏《かなで》でるように、優雅《ゆうが》に、そして流《なが》れるようにしなやかに手首《てくび》を揺《ゆ》らせ、宙《ちゅう》に何《なに》かを描《えが》いているかのように見《み》せていました。周《まわ》りで見守《みまも》っている王子《おうじ》さまやその付《つ》き人《びと》たちはシャルマントが何《なに》やら呪《のろ》いを解《と》くのに難《むずか》しい魔法《まほう》を放《はな》つのだと思《おも》い、固唾《かたず》をのんでじっと見守《みまも》っています。


 やがてシャルマントは振《ふ》るっていた杖《つえ》を止《と》め、動《うご》かないカエルにその先《さき》を向《む》けて言《い》いました。



「はい、ドロン。」



 カエルは動《うご》きません。


 シャルマントは失敗《しっぱい》したのかと少《すこ》しづつ不安《ふあん》を高《たか》めていた時《とき》です。しばらくしてカエルの可愛《かわ》くも大《おお》きな口《くち》がゆっくりと開《ひら》き始《はじ》めました。それから曲《まが》がって伏《ふ》せていた腕《うで》が伸《の》び出《だ》し、折《お》りたたんでいた長《なが》い脚《あし》も伸《の》び、縮《ちじ》こまって固《かた》まった筋肉《きんにく》を伸《の》ばすように伸《の》びをしてから、再《ふたた》びあのカエルの鎮座《ちんざ》した態勢《たいせい》へと戻《もど》ると、その目《め》からドバドバと大粒《おおつぶ》の涙《なみだ》が溢《あふ》れ出《で》てきたではありませんか。


 そして、次《つぎ》の瞬間《しゅんかん》。


「シャルマント殿《どの》っ!」

と元《もと》に戻《もど》ったカエルが叫《さけ》びながら、石柱《せきちゅう》の、その上部《じょうぶ》のシャルマントの顔《かお》に近《ちか》い所《ところ》から喜《よろこ》びを爆発《ばくはつ》させ、抱《だ》き着《つ》こうと向《む》かって飛《と》び跳《は》ねて来《き》ました。


 シャルマントも満面《まんめん》の笑顔《えがお》を向《む》け、持《も》っていた枝《えだ》を投《な》げ飛《と》ばし、自分《じぶん》へと向《む》かって跳《は》ねて来《く》るカエルを受《う》け止《と》めるかのように一歩《いっぽ》進《すす》みます。しかし、シャルマントは違《ちが》いました。カエルの喜《よろこ》びを受《う》け止《と》めるのではなく、石柱《せきちゅう》の上部《じょうぶ》から飛《と》び跳《は》ねて伸《の》びきった筋肉質《きんにくしつ》でもっちりとした腿《もも》をガシッと掴《つか》むと猛《もう》ダッシュで宮殿《きゅうでん》へと走《はし》っていきます。


 宮殿《きゅうでん》の壁《かべ》に近《ちか》づくと握《にぎ》っているカエルをその壁《かべ》に向《む》かって大《おお》きく振《ふ》りかぶました。



 カエルの王子《おうじ》さまは恐怖《きょうふ》のあまり絶叫《ぜっきょう》にも似《に》た声《こえ》で叫《さけ》びます。


「ちょ、ちょっと待《ま》ってください~~~~~っ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。