21 ここなのね ~そうです、お母様~
むかし、むかし、あるところに、二頭のオオカミがうるうるとした目つきで、妖精の泉を見つめていました。
「ここなのね。」
お母さんオオカミのアルマが言います。
「そうです、ここです、ここ。」
女の子オオカミのエマが答えました。
二頭のオオカミはお互いを見合い。
「行くわよ。」
アルマが言います。
「行きましょう。」
エマが頷きます。
次の瞬間。
二頭のオオカミは妖精の泉の中へと一気に飛び込みました。
ザッブーン ドッボ~ン
バシャバシャ ザブザブザブザブ
飛び込んだ二頭のオオカミは水の中を泳いでいる、というよりはわざと手足をバシャバシャとさせて溺れているかのように暴れまわっています。
「さあ、全身を泉に浸すのよ。」
アルマが叫びます。
「分かっていますお母様。」
何故かエマの話し方がお上品になっていました。
それを見た妖精たちが一斉に騒ぎ立てます。
「何をやっている!」 「ええい、泉を汚すな!」 「一体何なの?」
「これはどうゆう事?」 「お前ら、何しにここに来た!」 「さっさと出ろ!」
そんな妖精たちの言葉も泉の中の二頭には届きません。
それどころか、潜ったり、犬掻きならぬオオカミ掻きやら背泳ぎやらでますます激しく暴れ出したではありませんか。
「これで私たちもフサフサよ!」
「そうですそうです、これでお父様みたいなフサフサの毛並みになれるのですね。」
「いいですかエマ、しっかりと浸かって毛の根元まで水を行きわたらせるのですよ。」
「分かってますお母様、耳の中までもしっかりと浸かりますね。」
二頭の水浴びは止まりません。
それを見ていた兄弟オオカミたちも、
「面白そうじゃん。」
「俺らも行こぅ。」
と泉に駆け寄り、ドッボ~ンと飛び込みます。
さらに、
「ついでだ、俺も入っておくか。」
とザバンも後から飛び込みました。
もう泉の中は暴れまわるオオカミ一家のせいで、波は立ち、跳ね上げられた水があちらこちらへと飛び散っていました。それだけではありません。何だか体毛にこびりついていた今までの汚れが泉に流れ出て、その汚れて透明感を失った水がゆっくりゆっくりと泉全体へと広がると同時に、フワ~っと泉の底の方へと沈んでいきます。
泉を住処としている色とりどりの魚たちはその汚染されて広がるモヤッとしたものから逃れようとどこかへ消えて行ってしまいました。
残されたシャルマントは、四方八方から集まって抗議の言葉を叫ぶ妖精たちやら、何やら悲しんで絶叫している妖精たちに向かって何度も何度も向きを変え申し訳なさそうに頭を下げています。
やがて、泉を堪能したオオカミ一家が陸へと戻って来ました。
そして、陸に上がると、その濡れた身体の水気を吹き飛ばすようにブルブルっと勢いよく身体を震わせると、その震って飛び散った多くの水滴が、文句と抗議のため耳元にまで迫っていた妖精たちを襲うように降りかかっていくではありませんか。悲鳴を上げ逃げ惑う妖精たち。シャルマントからサッと離れて行ったかとおもうと、あっという間にどこかへと消えてしまいました。
泉の傍らには、全員がフサフサになったオオカミ一家と、びしょ濡れで呆然としている赤いずきんを纏った少女だけが残されていました。




