20 潤んだ瞳 ~これがそうなのね~
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った少女がトウヒの木の枝にとまっているオナガフクロウのおばあさんにまん丸い目で見つめられていました。
「そうじゃ! それじゃ! よくぞ思い出した!」
木の枝の上の賢者様がシャルマントに向かって叫びます。
「その言葉を言えば固められた呪いも解ける!」
賢者様に褒められ、シャルマントも嬉しそうに微笑みました。
それも少しの間です。冷静になったシャルマントは思いました。
(あれっ? 呪文を思い出したのは私よね。賢者様は褒めているだけで、結局はボケていただけよね。)
そして言います。
「では、呪文は私が思い出したので、このお肉は半分でいいですよね。 のこり半分はここにいる可愛いエマちゃんに上げたいので。」
「キャ~~~! シャルちゃん、だ~い好き。」
女の子オオカミのエマが叫びます。
「ズル~い、ズル~い。」「そうだ、ズルいぞ~、そんな美味しそうなお肉をもらうなんて。」
男の子オオカミのウルバンとオットーが不満そうに言いました。
「そうだそうだ、ズルいぞ~~! 儂も思い出すのに頑張った。 うん、頑張っただろう。」
木の上から賢者様もホッホーと叫びます。
シャルマントは少し悲しく思いました。
(美味しいモノを前にしては、子供も賢者様と言われる賢そうな人も一緒なんだな。)
あまりの賢者様の必死な姿にシャルマントは何だか哀れに感じてお肉は賢者様に全部差し上げることにしました。エマちゃんと他の男の子オオカミ達には帰ってから食べさせてあげる事を約束して。そして振り向き、オオカミ一家に向かって言います。
「よ~し、みんな~! 先ずは妖精の泉に行くわよ~!」
ウォ~~! ウォ~~!
再びシャルマントはザバンの背に乗り、一斉に妖精の住む泉へと駆けだしました。
以前はあんなに遠くに感じていた場所に、今はとても早く着いた気がします。
(やっぱり私が歩くよりオオカミさんの背に乗って走るのって早いわね~。)
そして、例の、行く手を遮るかのように、妖精達の住処を隠すように茂っている藪の前に立っていました。
ザバンと一緒にその藪を抜けると、キラキラとまばゆい光を反射している泉が見えました。
そして、直ぐに。
木の幹から何やら抜け出てくるモノが・・・。
そうです、以前にも出てきた入口の番人の様な妖精が一匹。
「※#%♭!@¢Ж・・・何しに来た人間。ここはお前らが来る・・・ は? お前らかっ!」
その妖精も驚いている様です。
シャルマントはこの妖精の住処に入る前に、例の呪文を唱えていました。
「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン
キイタラズンズン ハヨノビロ、 ねぇ妖精さん。」
「お前ら、また来たのか。んん? ま~た何かあのフクロウババアに言われて来たのだろう。」
妖精が話している最中にも、シャルマントとザバンは藪を抜けて妖精の住処へと入って来ました。そして、その後をオオカミ一家の皆も続いて来ます。
それを見た妖精が、
「なになに? 今度はオオカミが増えているではないか。」
とハエのように(失礼)、素早く飛び回る虫のように宙を舞い、ぞろぞろと続いてくるオオカミ達を見ていました。
「はい、今回はオオカミの家族全員で来ました。皆が見たいと言うので。」
シャルマントは笑顔で答えます。
「はぁ? 見たい~? ここは観光なんかで来るところではないわ!」
「今日は、あの~~、泉の水を頂きたくて来ました。」
申し訳なさそうに、シャルマントが上目遣いで言うと。
「は~~~? 帰った帰った。この泉の水は貴重で不可思議な力を持っておるのだぞ。ハイキングの途中で飲む湧き水とは違うのだ。帰れ帰れ。」
シャルマントは慌てて両手を振りながら言います。
「いえいえ、人助けのためなのです。」
「人助けだと?」
「はい、今度も人助け、いや、カエル助けのために来ました。恐ろしい呪いの魔法でカエルにされ、さらに石にされた身体を元に戻すために・・。」
「それで?」
妖精は怪訝な顔をして聞きました。
「少しでいいのです。カエルの身体に掛けるだけの、少しの量でいいので。」
シャルマントはここに来る途中で女の子オオカミのエマが用意してくれた森の中にある自然の水筒を見せながら言います。
「・・・・・・。」
妖精は何か考え込むように黙ってしまいました。
しばらくして、
「ん~~~、ならば仕方ないか・・・。」
そう門番代わりの妖精が呟くと、
「なに?」 「なになに?」
「誰かを助けるの?」 「勇気ある、優しい子はどこ?」
とあちらこちらから多くの声がして、以前のように足元の草の葉から、木々の新緑の葉から、木の幹から、色とりどりの花の中から、そして綺麗な泉の水の中から無数の妖精が飛び出して来るではありませんか。その妖精たちが泉の上を楽しそうに飛び交いながら、シャルマントとオオカミ一家に向かって笑顔を見せています。
そして妖精たちが言いました。
「祝福よ、祝福を授けるのよ。」
その言葉に、
「あ、いえ、結構です。」
シャルマントは手の平を前に突き出して断りました。
すると妖精たちはあからさまに残念で悲しい顔をしたので、慌ててシャルマントは言いました。
「いえ・・、素晴らしい祝福は以前来た時に授かりましたから。」
しかし妖精たちの表情は晴れません。そこで、
「分かりました。是非、皆様の祝福を・・。」
とシャルマントが言うと、妖精たちは皆、満面の笑顔になり、
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
と拍手を始めます。その中をシャルマントとオオカミ一家は泉に向かって進みました。
ぼそっと、末っ子オオカミのオットーが言います。
「何にも聞こえねえな。」
泉に着いたシャルマントは、その清らかな水を水筒に入れ、喜んで言いました。
「さあ皆、これで石にされた呪いが解けるわ。急いで宮殿に戻りましょう。」
帰ろうとしてオオカミ一家を見ると、お母さんオオカミのアルマと女の子オオカミのエマ二頭だけが身動き一つせず泉を見つめています。
そのアルマとエマの瞳は潤んでいました。




