19 簡単な呪文 ~思い出せ~
むかし、むかし、赤いずきんを被った少女がトウヒの木の枝にとまっている『森の賢者様』である『オナガフクロウ』を幻滅した目で見上げていました。
(やっぱりそうかい、そうなんかい!)
(肝心なところが思い出せないんかい!)
(こうなると思っていたんだよね~~。)
シャルマントは呆然としながら、こんな事を思っていました。そして、
(呪いも半分しかとけないんだったら、貢物で持ってきたお肉も可愛いエマちゃんに半分あげようかしら。)
とも考えていました。木の枝の上では、賢者様のオナガフクロウのおばあさんが目を閉じ、やや上を向いて固まっています。
(あれっ? この前とは違い真剣に思い出そうとしているのね。)
シャルマントは感心感心と思い、その答えをじっと待っていました。
動きません。
ま~だ動きません。
森の賢者様であるオナガフクロウのおばあさんは目を閉じ、枝の上で固まったまままったく動きそうにありません。
どの位の時間が経ったのでしょうか。
(長い、長すぎる。)
シャルマントはしびれを切らせてきます。
(この前は貢物のお肉をチラ見していたけど、今日は目も開かない。)
(もしかして、フクロウのおばあちゃん、考えている途中で寝ちゃったのかしら。)
(いやいや、そんなことはない。この肉を前にしてあの食いしん坊のフクロウばあさんが眠るなんてことは絶対にない!)
(えっ? あれっ? ってことは、もしかして本当に忘れたんじゃないの? 思い出せないんじゃなくって、完全に忘れちゃったんじゃないの? ダメよダメダメ、それじゃあ魔法が解けない。)
そんな不安がシャルマントに襲い掛かって来ます。
シャルマントはとても不安になって賢者様を見つめていると、木の枝の上の賢者様が体を左右に揺らしだし、時折、貢物の肉に視線を向けて片目をチラチラッと開けだしました。
(はぁ~~~、やっぱりか~~~。)
(思い出せないと、次はおねだりを始めるのよね。前もそうだったわよね~、ちょっと肉をかじらせてくれなんてね。)
(さっさと『誰か知っている人を教えてください』って聞いて帰ろうかしら。)
などと思っていると賢者様が嘴を開け言いました。
「その~~~、お前さんが持っている肉を少しもらえば思い出せるのかもしれん。だから、一口でいいんじゃ、くれんか。」
(キターーー、ほら、やっぱりきたよ。ちょっとだけかじらせてくれおねだり。)
残念な気持ちになったシャルマントは、広げていた貢物の包みをゆっくりと戻しながら、
「だ~め、以前も言ったように、ダメなものはダメって。ちょっとだけかじっても思い出せませんから。石になった体を戻すのはササっと思い出してくれたから助かりましたが、あと少しでしたね。身体が固まったままでは・・、肝心な呪文が思い出せそうにありませんし、時間もかかりそうなので今日は帰って、明日にでも出直してきます。それまでに思い出して、忘れないように何かに書いておいてくださいね」
そう呟き、
「はい、お~しまい。」
と言葉を残して家に戻ろうと振り返りました。すると突然、
「それじゃ。」
賢者様が叫びました。
「それじゃ、それそれ。」
シャルマントもびっくりして聞き返します。
「何が?」
「固まった身体を動くように戻す呪文じゃ。」
「え? どれ?」
「それじゃ、その~~、さっき言ったじゃろ。」
「え? どれですか?」
「その~~。」
「『ダメなものはダメ』?」
「いや違う。 ほれ、呪文のような・・・。」
シャルマントは、
(え~~? 呪文のような言葉、言ったかしら。)
と、何を言ったのかを思い返して言います。
「テクマクマヤコン テクマク・・」
「ホッホー! そんな事は言っておらんじゃろ。」
賢者様が大きな声で鳴いて言います。
テヘっとシャルマントはいたずらな表情をして次の呪文ぽいのを言いました。
「夜になると動けるから・・・、『月にかわっておしおき・・』」
「ホッホホー! そんな事も言っておらんじゃろうが!」
再び賢者様は怒ったような大きな声で鳴きます。
「ならば、これはどうでしょう、『エコエコアザラク エコエコ・・』」
シャルマントが言っている途中で、
「ホッホホー ホッホー! お主は我をからかっておるのか! しかも、それは逆に呪いを掛けるような呪文ではないか。」
と、賢者様が言うと、
「へ へー。」
とシャルマントはいたずらな表情でニヤッとしました。そして、
「さすがは賢者様。色んな事を知っているのですね。でも不思議です、こんな森の奥深くに居て、エコエコまで知っていたなんて。」
と言うと、
「馬鹿にするでない。森の奥に居ても渡り鳥はやって来る。世間の流行もちゃんと知っておるわい。」
賢者様は自慢げに言いました。
そして、賢者様は落ち着くように少しのため息をついて言います。
「こんな事をしている場合か? 呪いを解く呪文が知りたいのだろ。ほれ、最後に言った・・・。」
「『はい、お~しまい』・・・、ですか?」
「そう、それ! そんな感じじゃ、呪いを解く呪文は。」
賢者様は元々丸い目を更に大きくして言います。
「それじゃ、それ。 よくぞ思い出したな。」
そして次の瞬間、今度は目を細くして、疑いの眼差しで言いました。
「お主、やっぱり儂をからかっておったのじゃろう。この、小娘が!」
シャルマントは『へへへへ』とニヤニヤ笑っています。
それからすぐに賢者様は「はい、お~しまい・・・、お~しまい・・」とブツブツ言いながら再び目を閉じてしまいました。
シャルマントも呟きます。
「はい、お~しまい。 お~しまい・・・。 はい、お~しまい。」
そして、思いました。
(あれっ? このフレーズ、どこかで聞き覚えがあるわ。)
(え~~と、何所だったっけな~~。)
(魔女・・、魔女・・・、魔女よね~~~。)
(私が魔女に会ったのは~~~。)
しばらくブツブツ言いながら思いを巡らせています。そして、
(そうだ、私も動けなくされた事が有ったんだ。)
(そうだそうだ、あれは・・・・・、そう、あの憎っくき紫魔女に会った時だ。)
シャルマントはカチューシャを着けられた時の事を思い出しました。
(そうだ、あの時、カチューシャを着けられた後、アイツが言った言葉・・・。)
「はい、ドロン。」




