18 呪いの解き方 ~覚えておるぞ~
むかし、むかし、ある森の奥深くにある背の高いトウヒの木を赤いずきんを被った少女とオオカミの一家が見上げていました。そのトウヒの木に住む『森の賢者様』である『オナガフクロウ』に会うためです。
「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン
キイタラズンズン ハヨノビロ、 ねぇフクロウさん。」
シャルマントはオナガフクロウの賢者様とお話しができるように呪文を唱えます。
「帰れ、帰れ。我はお前らに用はない。我の時間を乱すものは帰れ。」
突然でした。トウヒの木のほど高い枝の、葉っぱで隠れて見えないところから声がしたのです。
「オナガフクロウの賢者様、お聞きしたい事があり参りました。ぜひ、我らの言葉をお聞きくださいませ。」
以前と同じようにザバンが言います。すると再び、
「帰れ、帰れ。我はお前らに用はない。我の時間を乱すものは帰れ。」
との言葉が返ってきました。
シャルマントが一歩あゆみ出て、持ってきた貢物の包みを差し出して言います。
「あの~~、貢物を持ってきたのですが・・・。」
するとどうでしょう、隠れていた葉っぱの陰から、オナガフクロウがひょっこりと顔を出し、その大きな目を閉じてニオイを嗅ぐようにクンクンしだします。
「うっ・・うんっ・・、それで、儂に何が聞きたいのだ。」
気恥ずかしそうにして、少しの威厳を保つように小さな咳払いの後、森の賢者様が葉っぱの陰からのそのそと枝をつたい出て来て言いました。
シャルマントはニヤリとし、
(それ見たことか、コイツは貢物に弱いのよ。)
そう思いながら聞きます。
「魔法の解き方を教えて欲しいのです。石にされた魔法の解き方を。」
森の賢者様は片目だけをうっすらと開け言います。
「ふんっ、憶えておるぞ。 うん、憶えておる。 しっかりと憶えておるぞ。」
シャルマントは満面の笑顔になって言いました。
「本当ですか? やったー! 今回は早かったわ。 それでどうするんですか?」
シャルマントが勢い余って少し早口で聞くと、オナガフクロウのおばあさんも堰を切ったように早口で話し始めました。
「憶えておるぞ、お主、以前に我を肉で釣ったヤツであろう。しっかりと憶えておるぞ。森の賢者と言われる我を肉の貢物なんぞで釣りおって、まぁ確かに旨かったが、もうその手には乗らぬぞ。帰れ、帰れ。あの後どれだけ苦労したことか・・・、あの肉の味を・・、あの肉の食感を忘れ去るまでどれだけ苦労したことか・・・、その後に食べた獲物の肉の何とまずい事だったか・・・、それに慣れるまでの苦労をお主は知らぬのだろう。 えいっ、もうあのような苦労はしとうないわ。 帰れ帰れ、そんな肉・・」
「本日はこのようなお肉をお持ちしました。」
シャルマントは賢者様の長ったるい話を遮るように貢物の包みを開け、持ってきた肉を見せました。すると、
「・・そ そんな肉に・・」
シャルマントの言葉にも耳をくれずに話しを続けようとしていた賢者様の言葉が止まり、差し出された肉を大きく真ん丸な目で見据え、ニオイを嗅ぐようにくんくんと嘴を動かし、
「そ そんな肉・・ そんな肉には釣られん・・ぞ・・。
まあ・・・、いい肉であるな・・・。」
と、さらに目を大きくしました。その様子を見たシャルマントは畳み掛けるように言います。
「はい、今回も柔らかいお肉をお持ちしました。前回も霜降りの柔らかいお肉でしたが少しばかり脂のノリが多かったので、今回は赤身の味を堪能していただけるよう赤身が多くても柔らかい『ランプ』という部位のお肉を選びました。あ~~、でも、賢者様が嫌だと言うのでしたら・・・。」
すると森の賢者様は黙り込み、モゾモゾとして木の枝の上で左右に体を揺らしています。
少しの時間でした。
「うぉっほん。 それで、なんの用事だっかな。」
森の賢者様は冷静を装い、落ち着いた声で言いました。シャルマントが、
「魔法の解き方を教えて欲しいのです。石にされた魔法の解き方を。」
と再び言うと、森の賢者様は即座に答えます。
「なんだ、そんな事か。知っておるぞ。」
「本当ですか~~~? でも~~、知っていても~~、また思い出すのに時間がかかるんじゃないですか~~?」
シャルマントが怪訝な面持ちで言うと、賢者様が答えました。
「失礼な・・、知っておるし、すぐに答えてやることもできるわい。この辺の森の動物達は魔法で石にされるものも少なくないのでな。色んな動物たちが聞きに来るのじゃ。」
(へえ~~、石にされる動物さん達って多いんだ。 ま、私も動けなくされたけど・・、もしかしてあれって、石にされる一歩手前って事だったの?)
そうシャルマントは思い、少しビクッと体を震えさせました。そして、シャルマントが聞きます。
「それで、どうすればいいのですか?」
「この森のさらに奥に『妖精の住む泉』がある。その泉の水を掛ければ石にされた呪いは簡単に解ける。」
その言葉を聞いたシャルマントは喜び勇んで、
「ありがとうございます賢者様。では・・・。」
と向きを変え、妖精達が住む泉へと走りかけました。
「こら待たんか。」
賢者様は急ぐシャルマントを必死に止めますが、
「大丈夫です。妖精さん達の所なら知っていますから。では・・。」
と言って再び駆けだそうとします。
「いやいや、こらっ、待てと言っておるのに。」
賢者様は再び声を掛け、シャルマントを止めます。そして、
「泉の水を掛けても魔法は解けんぞ!」
と叫ぶように大きな声でいうと、シャルマントはその動きを止め、聞き返します。
「え? さっき泉の水を掛ければ石にされた呪いを解けるって言ったじゃない。」
「そうじゃ、石にされた呪いは解ける。じゃが、元に戻った身体は固まったままなのじゃ。それには魔法を解くための特別な呪文がいる。」
「じゃあ、その呪文を唱えないと呪いは残ったままなの?」
「そうじゃ、石から普通の身体には戻るが、身動き一つできずに身体が固まったままになる。」
「・・・・・それで? その呪文を唱えないとどうなっちゃうんですか?」
「そのままじゃ。身体を動かせずにそのまま固まったままじゃ。」
「そんな・・、そのままだと?」
「そのままだと、お腹が減ってますます動けなくなるのじゃ。」
「え? じゃあ、誰かが食べ物を上げればいいんじゃない?」
「お前さん、身体が固まったままじゃと言ったであろう。動けないから口も開かないし、噛むことも、飲み込むこともできないんじゃよ。」
「・・・・・それで?」
「どんどんやせ細って、干からびて、やがて道端のミミズのようになる。」
「なんと恐ろしい。この呪いってそんなに恐ろしいものだったのね。干からびたミミズじゃ水を掛けてももとには戻らないわよね。 なんと恐ろしい呪いなの。」
「森の中でもたま~に見かけるじゃろ、干からびたのを・・。」
「あれって魔女の呪いだったの?」
「いや、それは違うがな。」
シャルマントは思います。(カエルの王子さまは夜には動けるから・・・)
「実は、カエルの王子さまがこの呪いを掛けられていて、でも、夜には動けるから食べることができるの。」
と言うと森の賢者様は、
「最悪じゃ。カエルが石にされておったのか・・・。」
じっと目を閉じてしまいました。シャルマントが聞きます。
「どうして最悪なのですか?」
森の賢者様は再び目を開け言いました。
「動けないカエルが一日中日光を浴びていたらどうなる?」
シャルマントはハッとしました。
(はっ、ツヤツヤなあのお肌が日光でカサカサに・・。 ヒィィィィ・・・。一日で干からびたミミズに・・・・。)
(それって、石にされた呪いよりも身体を動かせなくなった呪いの方が怖いじゃん。)
(呪文を絶対に教えてもらわないと・・・。)
シャルマントは必死の形相になって聞きました。
「それで、その呪いを解く呪文は何ですか?」
「それはじゃ。」
「うん、それは・・。」
「それはじゃ・・・。」
「うん、それで、それは?」
「う~~~ん、それはじゃ・・・、それはな・・・・。」
「・・・・。」
シャルマントは呪いの魔法を解く呪文を絶対に聞き洩らさないようにと、賢者様の嘴に集中し、そして固唾を飲んで待ちました。
「それはじゃな、・・・・・・、あれっ? いやまて・・、思い出せん・・。」




