17 聞けばいいのよ ~追い詰めればいいの~
むかし、むかし、ある宮殿の入り口へとつながる通路の真ん中で、赤いずきんを被った少女とふさふさのオオカミがカエルの石像を見つめていました。
「シャル様、どうするんですか? 呪い。」
オオカミのザバンが心配そうに聞くと、シャルマントは自信ありげに答えます。
「ふふ、私は子供なのよ。」
「はい、シャル様はまだ子供です。」
「そうよ、子供には『子供の特権』があるの。特別な事ができるの。」
「え? 子供には特別な? お肉が柔らかいって事ですか?」
「ねえ、ザバン。 ま~だ私を食べようと思っているの?」
「いえいえ、そんな事。シャル様はもう家族も同然ですから。」
「そうね、そうよね。 もしあなたが私を食べたら奥さんのアルマさんが黙っていないものね。」
「ええ、ええ、その通りです。それで? 子供のってのは何です?」
「それはね、知らないことは何でも聞けばいいって事よ。それが子供の特権。」
「え?」
「子供の『え~~~? 知らな~~~い』は武器なのよ。知らないのは当たり前なのだから、教えてもらえばいいのよ。『ねえ、教えて~~!』って無邪気に聞くの。『教えて~~』は、子供が持つ槍ね。それで大人の心をズブッと貫くのよ。特に、普段から知識を振りかざしている者には心だけでなく頭の中にもよく突き刺さるものよ。」
「はぁ・・。」
「それでね、聞いた相手が知らなかったら、『え~~~? 知らないの~~~?』って罵ればいいだけの事。そうね、この言葉はさしずめ、鉄槌って事かしら。」
「そ それで?」
「簡単よ、『じゃあ、知ってる人を教えて?』って第二の槍をズブズブッと突き刺すだけよ。これを繰り返せばきっと答えにたどり着くのよ。」
「それで、最初は誰を突き刺すんですか?」
「居るじゃない。何でも知っているって豪語しているのが・・。」
「え? 誰です?」
「あなたの住んでいる森に。」
「えっ? もしかして『森の賢者様』、オナガフクロウの賢者様ですか?」
「そう、それ。ただ心配なのは知っていても耄碌していて思い出せるかどうか・・。『知っていた』って事で逃げようとするのをどうやって阻止すればいいのかって事が問題なの。」
「いや~、いくら賢者様でも魔法の事は分からないんじゃないですか?」
「だったら、それでいいじゃない。『え~~、知らないの~~』って言って、賢者なんていう肩書を引っぺがして、『やっぱり、ただの年老いたフクロウだったのね』って言うだけよ。そうよ、それにほら、肉をちらつかせて追い詰めれば何か捻りだしてくれるわ。今度のお肉はどんなのにしようかしら。」
「そうなんですか? 追い詰めるんですか?」
「あの手の者は追い詰めなきゃダメ。追い詰めてやっと思い出すか言い訳のために何かを思いつくのよ。そんなものよ、きっと。」
シャルマントは思っていました。
(まあ、石にされた魔法だけ解ければ後はカエルにされた王子さまの魔法を解く方法なら知っているから大丈夫ね。まさかこんな時に学校での読書が役に立つなんて・・。まあ、石の魔法を解くぐらいならあの森の賢者と言われているオナガフクロウのおばあさんだって思い出せるでしょ。)
「この、二重、三重に掛けられた呪いの魔法を解いて皆に感謝され、このカチューシャの耳を伸ばすのよ。」
そう言って、シャルマントはくるっと振り返り歩き出して言います。
「さあザバン、アナタの家のある森に帰るわよ。」
シャルマントが言うと、
ウォウ ウォ
とザバンは低く唸り声を出し、シャルマントの後を追って行きました。
ザバンの一家が住む森。そして、シャルマントのおばあさんも住んでいる森の中、大きな木の樹洞の前に久しぶりにオオカミ一家が揃いました。
「お帰り父ちゃん。」
駆け寄って来た三匹兄弟の一番下の少しぷっくりしたオオカミのオットーが言いました。
「もう帰って来たの?」
女の子のエマが遊んで欲しそうに言います。
お父さんオオカミのザバンは子供たちと首をこすり合わせて再会を喜んだ後、少し遅れてやってきたお母さんオオカミのアルマと何度も首を交差し、体をこすりながら言います。
「まだ終わっていないんだ。これからシャル様と森の賢者様の所に行く。」
するとエマが言いました。
「じゃあ、皆で行こうよ。」
一方、久しぶりに家に戻ったシャルマントもお母さんからの強い抱擁に身もだえていました。
久しぶりに天井裏のネズミさん達とのお話しも終え、眠りについたシャルマントは朝早く起きると、急いで出掛ける準備をして、森の入口へと向かいます。
そこにはすでにザバンのオオカミ一家が待っており、
「おはよ~~、シャルちゃん。」
女の子のエマが駆け寄って来ました。
「みんなどうしたの?」
シャルマントの問いに、
「うん、みんなで行く事にしたの。私たち森の賢者様には会ったことがないから。」
エマは答えると、シャルマントの持っているモノに鼻を近づけます。
「ダメよエマちゃん。これは森の賢者様への貢物なんだから。」
その貢物から漂う美味しそうなニオイにエマは少し残念そうな表情を浮かべました。
「シャル様、乗ってくれ。」
ザバンが少し頭を下げながら言うと、シャルマントはにっこりとして背に跨ります。
「よ~~し、行こ~~~!」
シャルマントの言葉に、オオカミ一家は一斉に森の中、森の賢者様の住む大樹に向かって走り出しました。




