16 ちょっと強噛み ~新たなる決意~
むかし、むかし、あるところに、ミミ付きのカチューシャを被った少女とオオカミのザバンが、月の明かりに照らされ、池から顔だけを出している多くのカエル達に話しかけていました。
「いい、しっかりと思い出して欲しいの。あなたに呪いを掛けた魔女は、紫色のリボンをしていたのよね。」
シャルマントは池に浮かぶ多くのカエルの中の王冠を乗せたカエルに向けて聞きます。
「そうです。そうなのです。あなたが見たように石のカエルにされ、夜にしか自由に動けなくされたのです。」
そのカエルの王子さまの言葉に、周りの多くのカエルがおいおいと泣き出し、大きな可愛い目から涙をポロポロと流します。王子さまは続けます。
「しかも、朝日があの石柱を照らすまでに戻らないと我はその場で固まり、やがて砂のようにこの身が崩れ去ってしまうそうなのです。」
「なんと恐ろしい呪いだ。」
「お労しや。我らはこの水の中に居られるというのに。」
「王子さまの艶やかな肌が石にされ、乾き荒れるのを見るに悲しき思いです。」
周りのカエル達はその小さな手を大きな口に当て泣き崩れていました。
カエル達はシャルマントとザバンが自分たちを襲ってこないと分かり、池から這い出してきてぴょこぴょこと集まってきます。いつしか、座っているシャルマントを取り囲むようになっていました。その真ん中でシャルマントが呟きます。
「それで毎晩石のカエルが居なくなるのね。」
と言うとカエルの王子さまが答えます。
「はい、石にされ、日に照らされて乾ききった肌を一刻でも早く潤したいと、全力で飛び跳ねて来てこの池に飛び込むのです。」
王子さまの言葉にシャルマントは軽く頷きながら言いました。
「それで悲しくて、悔しくて、石にされているときに涙を流すのね。」
「いえ、別に、そうではありませんが。」
シャルマントはきょとんとした視線をカエルの王子さまに向けます。カエルの王子は続けます。
「涙は自然に流れ出てくるだけです。」
「え? どうゆう事? 石にされて悲しいんじゃないの?」
「はい。悲しくて涙を流すのではありません。石にされ、ずっと目が開きっぱなしになっているから涙が出てくるのです。あなたもどうぞやってみてください、ほら、頑張って瞼を閉じないように。なんなら指で無理やり開けていてもいいですよ。」
シャルマントは瞼が閉じないようにしばらくは我慢していましたが、目が乾き、やがて見開いている瞼の「閉じたい」という強い意志の、それに逆らうため指で強引に瞼を押し上げていると、あっという間に目に涙が溜まりだしてくるのが解りました。でもその前に、乾いた目が痛い。
「分かったわ、これ、すっごく痛いし、つらいのね。」
シャルマントは瞬きができるって事はなんと幸せなのかと感じました。
「それで、どうしてあなた達はあの紫魔女から呪いを掛けられてしまったの?」
シャルマントは不思議に思って聞きます。
「それが、よく分からないのです。」
カエルの王子さまが首を傾げて言いました。
「分からない?」
「はい。ただ・・・・。」
「ただ・・・・。」
「ただ、あれは、確か・・・・。」
カエルの王子さまは何日も前の事を振り返り、その時の事を思い出そうとして尖った口先を夜空に向けて話し出します。
「確か・・・、我が王国と友好関係を結んでいる国に遊びに行っていたときです。そこは美しい花が広がる国で、その花を見ていたと思うのですよ、例の魔女のおばあさんが・・・・、花に向かってしゃがんでいましたから。おばあさんがしゃがんでいたので声を掛けようと近づいたのです。」
「何て声を掛けようとしたの?」
「はい・・、確か・・『どうされましたか、おばあさん。お腹が痛いのですか?』って。」
シャルマントは思いました。
(あれっ? 私と同じじゃない・・・。 王子さまは優しいのね。)
カエルの王子さまは続けます。
「するとそのおばあさんは、私が近づいているのが分からなかったみたいで、振り向いた途端、ヒェッっと声を出し尻もちをついたのですよ。私は驚かすつもりなどなかったので、『大丈夫ですか?』って言おうと近づくと、顔を真っ赤にして怒り出したのです。尻もちをつかせたから怒らせてしまったのでしょうか。それで、気づいた時には石のカエルにされ、ここの宮殿の通路に置かれていたのです。」
(えっ? それで? そんな事でこんな酷い魔法を掛けたの? それに家臣の方たちも皆カエルにされて?)
シャルマントは思いました。
(心配して声を掛けようと近づいただけなのに、たまたまそれが後ろからだけだったのに、いやいや、声を出していないから驚かせても居ないわよね。時々あるけど、突然後ろから声をかけられてびっくりしちゃう事って、でも、声出していないから・・・。理不尽だ、解せない・・、あんの紫魔女のヤツ。)
(王子さまはカエルにされただけでなく、石にまでされるなんて。あ~~、なんて理不尽なの。)
(私と同じようにしゃがんでいたから・・・、おばあさんだから・・・、心配して声を掛けようとしただけなのに・・・。)
シャルマントはすっくと立ちあがりました。その両手は固く握られています。
「ひどいわ。まったくの理不尽ね。王子さまがびっくりさせたんじゃなくて、自分で勝手に尻もちをついたのに、こんなひどい呪いを掛けるなんて・・・。」
そしてシャルマントは思いました。
(甘かったわ。アイツをぶん殴ってザバンに甘噛みしてもらおうとしていたけど、尻もちを着いただけでこんなひどい呪いを幾つも掛けるなんて・・・。アイツは相当に執念深いのよね、きっと。)
(そうだ、だから、ザバンには甘嚙みじゃなくって、ちょっと強噛みしてもらおうかしら、ふふふ、そうだわ、尻もちよりももっと痛くて魔法なんか使えなくすればいいんだわ。)
(あ~~~、でも、血は見たくないわね。)
(ま、いいか。アイツ、悪いヤツなんだから・・ふふふ、やってやるわ。やってやるのよシャルマント。)
シャルマントは強い視線をカエルの王子さまに向けて言いました。
「分かったわ。私が呪いを解いてあげる。」
カエル達は「わーい わーい」「お願いします」「やったー!」などと口々に言って飛び跳ねていますが、カエルの言葉の分からぬ人から見れば、多くのカエルがゲコゲコと鳴きながらシャルマント達の周りで飛び跳ねていて、何かの儀式をおこなっているように見えるのでした。




