15 カエルの王子さま ~レピド・バトラクス~
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った少女が、オオカミのザバンと一緒に王宮の中にある池のほとりで月を眺めていました。
昨晩よりも月の上弦が少し欠け、丸みを帯びた月からやや非対称さが感じられるような形へと変わった月を眺めています。
「ザバン、もうそろそろだよね。何かニオイを感じる?」
「ええ、シャル様、近づいて来ています。」
そこでシャルマントとザバンは池の近くにある小さな茂みの陰に隠れ、近づいてくるモノに警戒を張はることにしました。
しばらくすると、池の中からピチョピチョと多くのカエルが出て来て、それが皆同じ方向に向かってゲコゲコと鳴き始めました。
隠れていたシャルマントはカエル達が何を言っているのかを聞こうと例の呪文を唱えます。もう、手はカチューシャに乗せていません。
「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン
キイタラズンズン ハヨノビロ、 ねぇカエルさん。」
するとどうでしょう、カエル達の鳴き声が言葉となって聞こえてきました。
「まだかな、まだかな。」
「早く来ないかな~。」
「我らの愛しき君は・・・、もうそこまで・・・。」
やがて、カサっカサっと芝の擦れる音がしたかと思うと、そこの暗闇の中から一匹のカエルが現れました。
「来た~~! 我らが王子さまさまが来たぞ~~!」
「おお、レピドさまが戻られた。」
「レピドさま~~、早く早く~~、水に入ってください。」
池に居並んだカエル達がぴょこぴょこと跳ねながら一匹のカエルを迎えていました。
暗闇から現れたそのカエルは、小さな王冠を頭に乗せています。
その王冠が月の明かりに照らされて小さくキラリと光りました。
その時です。
隠れていたシャルマントとザバンが飛び出すと、カエル達は一斉に池へと飛び込んで逃げてしまいました。それからしばらくすると、その水面から目と可愛くとがった鼻先だけを出し、いきなり現れたモノの正体を確認するかのように二人に視線を集めます。
シャルマントがその中の一匹を指さして言います。
「見つけたわ!」
そこには小さな王冠を乗せたカエルがいました。
するとカエル達はお互いを見合い、ゲコゲコ ゲコゲコゲコと何やら会話をしています。そのカエル達に向かって、シャルマントは自慢げに言いました。
「どうしてあなたたちの言葉が解るのかって、私は色んな生き物の言葉が解るのよ。」
そして、
「ここに居るオオカミのザバンとだってお話しができるの。」
と言うと、王冠を乗せたカエルがゲコゲコと言い出しました。彼はこう言ったのです。
「私は『レピド・バトラクス』、『ライスト・ヴェルドゥ王国』の第一王子である。どうか皆に危害を加えないで欲しい。 特にそこのオオカミ。」
シャルマントは驚きながら言いました。
「あなた、王子さまだったの? ライスト・ヴェルドゥ王国? 知らない国ね。」
「そうだ、ここから離れたところにあるからな。我が国『ライスト・ヴェルドゥ王国』からここへと魔女に連れて来られたのだ。この者たちは私を慕い命の危険を顧みることなく追って来た親愛なる家臣たちである。」
するとカエル達が一斉にゲコゲコと鳴き始めました。
「あの魔女、我らが敬愛するレピド王子が何をしたというのだ。」
「そうだそうだ、我らはただただ平和に暮らしていたというのに。」
「ああ、早くこの呪いを解いて皆で国に戻りたいものだ。」
「多くの者たちが我らの帰りを待っている。必ずやレピド王子さまと帰るのだ。」
ゲコゲコゲコとカエルの合唱はその数と響きの大きさを増して行きました。
するとシャルマントが、
「分かったわ!」
と、辺りに響き渡る声で言うと、カエルの合唱はピタリと消え、ふたたび月明かりの夜に静けさが戻ります。
「これは紫魔女との闘いよ!」
「私があなた達の呪いを解いて、国に戻れるようにしてあげるわ。」
仁王立ちのシャルマントは自信満々に胸を張って言いました。




