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13 オオカミだから ~あ・ま・が・み~

 むかし、むかし、あるところに、赤《あか》いずきんを被《かぶ》った少女《しょうじょ》が、母親《ははおや》と一緒《いっしょ》に再《ふたた》び王《おう》さまと王子《おうじ》さまの前《まえ》に跪《ひざまず》いていました。


 あいさつを交《か》わすと王《おう》さまが言《い》いました。

「よいよい、シャルマントとその親《おや》よ、面《おもて》を上《あ》げてゆっくりとするがよい。」

 その言葉《ことば》が終《お》わると、母親《ははおや》は伏《ふ》せていた顔《かお》を上《あ》げましたが、シャルマントはすっくと立《た》ちあがります。

「コレっ、立《た》つんじゃない。」

 母親《ははおや》が小声《こごえ》で注意《ちゅうい》しました。すると、

「だって、ずっと顔《かお》を上《あ》げていると首《くび》が痛《いた》くなっちゃうんだから。」

と、シャルマントが言《い》います。それを王《おう》さまや王子《おうじ》さまはニコニコしながら見《み》ていました。

 そして王《おう》さまが言《い》います。

「アルドリックから聞《き》いおるぞ、シャルマントよ、我《われ》らと一緒《いっしょ》に王宮《おうきゅう》まで出向《でむ》いてくれるそうじゃないか。」

「はい、必《かなら》ず石《いし》のカエルの謎《なぞ》を解《と》き、できれば魔女《まじょ》に・・・。」

 シャルマントは言《い》いかけましたが、母親《ははおや》の心配《しんぱい》そうな表情《ひょうじょう》が見《み》え、その続《つづ》きは口《くち》ごもってしまいました。王《おう》さまがさらに聞《き》きます。

「それで、護衛《ごえい》の騎士《きし》としてオオカミを連《つ》れて行《い》きたいと申《もう》しておるようだが。」

 シャルマントは(これだけは譲《ゆず》れない)といった真剣《しんけん》な表情《ひょうじょう》で答《こた》えます。

「はい、ザバンは私《わたし》の騎士《きし》です。ザバンと一緒《いっしょ》じゃないなら、私《わたし》は行《い》きません。」

 シャルマントは思《おも》っていました。

(だって、ザバンが一緒《いっしょ》じゃないとあの魔女《まじょ》への仕返《しかえ》しができないのだから。)

「これっ、シャルマント。」

 再《ふたた》び母親《ははおや》が小声《こごえ》でシャルマントを叱《しか》ります。でも、シャルマントは真剣《しんけん》な表情《ひょうじょう》を王《おう》さまに向《む》けていました。


 王《おう》さまと王子《おうじ》さまは困《こま》った顔《かお》をしました。そして、その表情《ひょうじょう》を横《よこ》に立《た》っている騎士《きし》団長《だんちょう》へと向《む》けると、(えっ? 私《わたし》が答《こた》えるのですか?)といった困惑《こんわく》の表情《ひょうじょう》に変《か》わり、いつもの威勢《いせい》のいいのとは違《ちが》い、すこしモゴモゴとしたような口調《くちょう》で言《い》います。

「ふむ・・、だがしかし・・、オオカミが都《みやこ》・・・、いや王宮《おうきゅう》にまで入《はい》るとなると大変《たいへん》なことになりますからな・・・。どうしたものか・・・。」

 騎士《きし》団長《だんちょう》はモゴモゴしながら困惑《こんわく》の表情《ひょうじょう》を王《おう》さまへと投《な》げ返《かえ》しました。

「わ・・・、私《わたし》が・・・、うん、そうだな。私《わたし》が決《き》めねばならぬのだよな・・・。」

 そう言《い》いながら今度《こんど》は困惑《こんわく》の表情《ひょうじょう》を王子《おうじ》さまへと投《な》げます。

 王子《おうじ》さまは、

(えっ? 私《わたし》がですか?)

といった驚《おどろ》きの大《おお》きな目《め》を王《おう》さまに向《む》けると王《おう》さまは、

(お前《まえ》がシャルマントを誘《さそ》ったのだろう・・、お前《まえ》が何《なん》とかせい。)

といったような無下《むげ》の表情《ひょうじょう》と一緒《いっしょ》に顎《あご》をクイッと前《まえ》に突《つ》き出《だ》しました。

 王《おう》さまと王子《おうじ》さまは困《こま》ってしまって黙《だま》り込《こ》んでしまいます。


 しばらくすると、騎士《きし》団長《だんちょう》がたまりかねて言《い》いました。

「えㇸん、王《おう》よ、こういうのはどうでしょう。シャルマントのオオカミがしっかりと飼《か》いならされていて誰《だれ》も襲《おそ》わないと分《わ》かるように、大《おお》きな首輪《くびわ》をつけるというのはいかがでしょうか。」

 すると、シャルマントが即座《そくざ》に反発《はんぱつ》しました。

「ダメよ、ダメダメ。ザバンは犬《いぬ》じゃないのよ、立派《りっぱ》なオオカミなの。」

「いや、しかし、猛獣《もうじゅう》であることには変《か》わるまい。」

 騎士《きし》団長《だんちょう》は声《こえ》を大《おお》きくして言《い》い返《かえ》します。するとシャルマントが何《なに》かひらめいたように言《い》いました。

「はっ? そうだったのですね。 スミマセン、スミマセン。騎士《きし》になるためには首輪《くびわ》をしないといけなかったのですね。私《わたし》、知《し》りませんでした。それで、怖《こわ》そうな騎士《きし》様《さま》たちは皆《みな》、暴《あば》れないようにと首輪《くびわ》をしていて、それをお洋服《ようふく》で隠《かく》しいたのですね。」

と言《い》うと、

「クックックッ・・・。」

王子《おうじ》さまは笑《わら》いをこらえます。騎士《きし》団長《だんちょう》は顔《かお》を真《ま》っ赤《か》にして、

「何《なに》を言《い》う! 我《われ》らを犬扱《いぬあつあ》いするのか!」

と烈火《れっか》のごとく怒鳴《どな》りました。

 ひぃえぇぇぇっと、とっさにシャルマントは母親《ははおや》の後《うし》ろに隠《かく》れて小声《こごえ》で言《い》います。

「だって、騎士《きし》さまたちは皆《みな》怖《こわ》いのですもの。身体《からだ》も大《おお》きくて、それに、ほら、声《こえ》も大《おお》きいでしょ。猛獣《もうじゅう》と一緒《いっしょ》で怖《こわ》いじゃないですか・・・。」

「クックックッ・・・。」

 今度《こんど》は王子《おうじ》さまだけでなく王《おう》さまも笑《わら》いを堪《こら》え、横《よこ》に並《なら》んでいた騎士《きし》たちもクスクスと笑《わら》いを堪《こら》えて肩《かた》を揺《ゆ》らしていました。その横《よこ》で顔《かお》を真《ま》っ赤《か》にした騎士《きし》団長《だんちょう》は何《なに》も言《い》い返《かえ》すことができずにいます。

 すると王子《おうじ》さまが言《い》いました。

「父上《ちちうえ》、こういうのはどうでしょう。シャルマントのオオカミが我《われ》ら隊列《たいれつ》の一員《いちいん》だと分《わ》かるように、我《わが》が王家《おうけ》の紋章《もんしょう》の入《はい》った旗《はた》をマントの様《よう》に纏《まと》わせては。さすれば、オオカミは我《われ》らがしっかりと従《したが》えており、むやみに人《ひと》を襲《おそ》わないと思《おも》って皆《みな》も安心《あんしん》するのではないでしょうか。」

 王子《おうじ》さまの言葉《ことば》に、

「それはいい、我《わ》が息子《むすこ》よ良《よ》い事《こと》を考《かんが》えたな。」

と王《おう》さまは言《い》い、シャルマントを怖《こわ》がらせないように笑顔《えがお》を向《む》けて言《い》いました。

「これでどうかな、シャルマントよ。」


 シャルマントはにっこりとして、うんうんと何度《なんど》も頷《うなず》いています。



 王《おう》さまとの謁見《えっけん》を行《おこ》った屋敷《やしき》を出《で》ると、そこには騎士《きし》たちの列《れつ》に並《なら》んでオオカミのザバンもちょこんと座《すわ》っていました。


 シャルマントと一緒《いっしょ》に出《で》てきた王子《おうじ》さまは、その手《て》に持《も》っていた王家《おうけ》の紋章《もんしょう》が描《えが》かれている旗《はた》をザバンに纏《まと》わせるべく、近寄《ちかよ》っていきます。

 周《まわ》りの騎士《きし》たちはザバンが飛《と》びつくのではないかと気《き》が気《き》ではありません。


 そこでシャルマントがザバンに言《い》います。

「いいザバン。あなたも立派《りっぱ》な騎士《きし》に認《みと》められて、王《おう》さまからマントがもらえたのよ。王子《おうじ》さまがそれをあなたにつけるからじっとしていてね。」

「本当《ほんとう》か? 俺《おれ》が本当《ほんとう》の騎士《きし》に?」

 ザバンは嬉《うれ》しくなり、いつもより息《いき》を荒《あら》くし、いつもよりその口《くち》を広《ひろ》げています。


 王子《おうじ》さまは紋章《もんしょう》の入《はい》った旗《はた》をザバンに纏《まと》わせるため、それはあたかも洋服《ようふく》の上着《うわぎ》を着《き》せるようにマントをザバンの背中《せなか》へと回《まわ》し、その旗《はた》の端《はし》っこ同士《どうし》を首周《くびまわ》りに結《むす》ぶためにやや抱《だ》き着《つ》くような格好《かっこう》になりました。するとどうでしょう、今《いま》まで見《み》た目《め》でふかふかそうだなと思《おも》っていた王子《おうじ》さまはザバンの毛《け》に頬《ほほ》が触《ふ》れると、そのまま包《つつ》み込《こ》まれるようにザバンに抱《だ》き着《つ》いて顔《かお》を埋《うず》めてしまいました。

 傍《そば》で並《なら》んでいた騎士《きし》たちは驚《おどろ》き、危険《きけん》ではないのかと身《み》を乗《の》り出《だ》していましたが、シャルマントだけは、「分《わ》かるわ~~~その気持《きも》ち、うん うん、顔《かお》を埋《うず》めたくなるのよね~~」と何度《なんど》も何度《なんど》もうなづいています。


 そんな周《まわ》りの心配《しんぱい》も気《き》にせず、王子《おうじ》さまはザバンの首《くび》にさらに強《つよ》く抱《だ》き着《つ》き、その毛《け》の柔《やわ》らかさをふんだんに味《あじ》わうかのように、埋《うず》めた顔《かお》をぐりぐりと動《うご》かしていました。


 ザバンは王子《おうじ》さまに抱《だ》き着《つ》かれたまま、顔《かお》をシャルマントに向《む》け、

「ウゥ ウゥゥ ウ。 ウゥゥゥゥ ウゥゥ ウウ ウゥゥゥゥ。」

と優《やさ》しく唸《うな》っています。

 その唸《うな》り声《ごえ》を聞《き》いたシャルマントは、今度《こんど》は思《おも》いっきり首《くび》を横《よこ》に何度《なんど》も何度《なんど》も振《ふ》っていました。




 そうです。ザバンはこう言《い》っていたのです。



「シャル様《さま》、 甘嚙《あまが》みしていいか? あ・ま・が・み」

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