11 可愛いじゃないですか ~魔女からの贈り物~
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った少女が王子さまからの秘密の告白に、ポカンとした表情をしていました。
(何それ、なんだそれ。)
シャルマントは王子さまの話に訳が分からないといった感じで、どこを、どう突っ込めばいいのか悩んでいました。
すると、王子さまも
(だよね~~、理不尽だよね~~~、君がポカンとしてるの分かるよ~。)
というように、少し困ったというような表情をシャルマントに向けています。
さらに、王子さまは話を続けます。
「それから数日して、例の魔女さまから僕へのプレゼントが届いたんだ・・。」
シャルマントはそんな理不尽で恐ろしい魔女からどんな怖いプレゼントが届いたのかと息をのんで王子さまを見つめています。
王子さまは、少しの間を置き、ゆっくりとそのプレゼントを思い起こすように言いました。
「ある朝、王宮にある私達の建物の入り口の通路の真ん中にね、それが突如として置かれていたんだ。」
「・・・・・。」
シャルマントはさらに真剣な表情を王子さまに向け、その続きを待ちます。
「そこにはね、石像が置かれていたんだよ。こう、これくらいの太さの石の柱の上に。」
王子さまは両手を囲むように石の柱の太さを表しながら言いました。
「その石の柱の上にはね、石で彫られたカエルの像が乗っかっていたんだ。」
「石で彫られたカエルの像?」
「そう、これくらいの石のカエル。」
そう王子さまは言いながら、カエルと同じくらいのボールを持つように両手で囲いながら言います。
「そのカエルはね、王冠を被っているんだ。」
「カエルが王冠を?」
「そう、まるでカエルの王さまを石に変えたと言っているようにね。いや、もしかしたら、我が父、王をカエルに変えるんじゃないか、いや、僕への誕生日プレゼントだから、僕が王になったら、僕自身をカエルに変えてやるというようなメッセージを伝えてきているんじゃないのかってね。」
シャルマントは王冠を被ったカエルを想像して言います。
「王冠を被ったカエルですよね・・・・、
え~と、それって、可愛いじゃないですか。」
「うん、僕たちも初めて見た時はそう思ったんだ。 え? そう? 僕の言った事聞いていた? 僕がカエルにされちゃうかも・・・だよ・・。」
シャルマントは無表情で答えます。
「でも、魔女は、王子さまたちをカエルにするって言っていないのですよね。プレゼントをあげるって言ったのですよね。だったら大丈夫なんじゃないですか?」
「・・・・・。」
そこで王子さまは一旦話すのを止めて遠くを見ます。傍にいた護衛の騎士たちはそっと視線を落としました。
「それにね、まだあるんだ。その石のカエルなんだけれど、目から涙を流すんだ。石で作られたカエルなのに、日が高くなる頃に、しだいに目が潤んで・・・、やがて溜まった涙が流れ落ちるんだよ。」
シャルマントはその光景を想像して今度はゾクッとしました。
さらに王子さまの話は続きます。
「それだけじゃない。その石のカエル、夜になると歩き出すんだ。日が落ちて辺りが暗くなると柱の上にあった石のカエルが消えるんだ・・・・、 やがて『ぴちゃっ ぴちゃっ・・』って濡れたモノが跳ねるような音が聞こえてくる。暗闇から聞こえてくるその音は王宮中に響き渡るんだよ。皆、どこからともなく聞こえてくる音に何かあるんじゃないのか、いつか自分たちを襲ってくるんじゃないのかとびくびくして夜を過ごす。護衛の騎士たちにその音の出所を探させても見つからない。そして翌朝には、その石のカエルは元あった柱の上に戻っていて、柱全体が水を垂らしたように濡れているんだ。」
「・・・・。」
シャルマントは暗闇に響き渡る音を想像して、少し体をすくめます。
「それがね、毎日なんだ。朝、明るくなった頃は石の柱がびっしょりと濡れていて、日が昇り始めた頃には乾く。そして日が高くなると今度は石のカエルが目から涙をこぼし、二本の水の跡が石の柱を伝うんだ。妹は怖がって母と一緒に王宮を出て行った。侍女たちも怖くなって夜は王宮の外にある館で寝るようになったんだ。残ったのは父と私と交代の騎士たち数人だけ・・・。」
王子さまはその日々を思い出しているかのように黙り込んでしまいました。
しばらくして、シャルマントは怖いのを我慢しながら王子さまに聞きました。
「それで・・・、」
「それで・・・、だれが食べられちゃたんですか?」
「ん? いや、誰も・・・。 こんな大きさだよ。」
王子さまは先ほどと同じように両手を広げ、きょとんとして答えます。シャルマントはさらに聞きました。
「では、誰が頭をパクっとされたのですか?」
「ん? 誰も・・・。」
「誰もですか? カエルさんのあの可愛い大きなお口で頭の上からパクっとされたのではないのですか?」
「いやいやいや、カエルは石でできているから動かないよ。」
「でも、夜になると動くのですよね。」
「それにね、こんな大きさだよ、カエル。人の頭をパクっとするほど口も大きくないから。」
そこでシャルマントは再び王子さまに聞きました。
「では、では、誰が、誰が寝ているとき、カエルにペロッと舐められたのですか?」
「ん? 舐める? いや、誰もだよ。」
「パクっとできないとなると、カエルさんのあのヌルっとした長い舌で通りすがりの人の頬をペロッとしたのではないのですか?」
「いやいやいや、していないよ。石のカエルだからね。」
再び王子さまはきょとんとして答えました。シャルマントの質問にも熱が入ります。
「ではでは、誰がカエルの霊に取り憑かれたのですか?」
「いやいや、誰もカエルの霊になど取り憑かれてなどいないよ。」
王子さまは同じようにきょとんとした表情で答えました。
シャルマントはさらに熱く聞きます。
「ではではでは、誰がカエルのように四つん這いになって、ぴょこぴょこと跳ねるようになったのですか?」
「いやいやいやいや、だから、誰も憑りつかれていないから何ともないんだ。」
「誰もですか?」
「そう、誰も・・・。」
「では、魔女の呪いっていうのは?」
シャルマントは何も無かった事がつまらなそうに聞きます。
「みんな寝不足で倒れそうになって、王宮から・・、そう、私のそばから離れて行ってしまったんだよ。」
そこでシャルマントはもっと無表情で言いました。
「壊しちゃえば? カエル。」
「うん、皆もそういった事を考えて、ある日、騎士が大きなハンマーで壊そうと振りかぶったんだ。すると突然、石でできているカエルの目からドバドバと溢れるように涙が流れ出し、それを見た騎士は呪いを恐れ逃げ出してしまった。それにね、もしも壊したことが例の魔女さまに知られたら次はどんな酷い呪いを掛けられるのかと・・・。」
しばらく黙り込んだ後、シャルマントは首を傾げて聞きました。
「ん~~~、夕方に王宮を出て行った皆さんは朝になったら戻って来られるのですよね。」
「うん、そうだよ。」
「では、皆さんが王子さまから離れたのではなく、王宮から離れただけですよね。」
「まあ、そうかな。」
「だったら、王宮を移動すればいいんじゃないですか? 石のカエルだけそこに残して。」
シャルマントは自分の家の大きさを頭の中に思い浮かべ、王さまたちが住むお屋敷だからちょっとは大きいのかしらと勝手な想像をして言います。しかし、実際には王宮はシャルマントの家の何十倍もの大きさがあり、庭園までとなると物凄い広さでした。
「・・・・。(いや~~、それはちょっと無理かな~~~。)」
王子さまは黙ってしまいます。
しばらくの沈黙の後、王子さまは言いました。
「シャルマント、君は皆から名探偵って言われているそうじゃないか。そこで、お願いがあるんだ。僕たちと一緒に王宮に来て、そのカエルの謎を解いて欲しいんだ。」
シャルマントは驚き、目をまん丸くして王子さまを見て言います。
「わ・・、私が王宮に行くのですか?」




