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10 ちっが~~う ~それじゃない~

 むかし、むかし、あるところに、赤《あか》いずきんを被《かぶ》った少女《しょうじょ》が王子《おうじ》さまの秘密《ひみつ》の告白《こくはく》に、声《こえ》を震《ふる》わせ叫《さけ》びました。


「紫色《むらさきいろ》のリボンの魔女《まじょ》って、『グロルのむらさき魔女《まじょ》』でしょ! どこで会《あ》ったの? 『ヒェルン・マーダリー』は今《いま》どこ?」

 興奮《こうふん》した赤《あか》いずきんの少女《しょうじょ》は、あろうことか王子《おうじ》さまの両腕《りょううで》を掴《つか》みぶるんぶるんと前後《ぜんご》に揺《ゆ》さぶって聞《き》き返《か》します。少女《しょうじょ》の勢《いきお》いに圧倒《あっとう》されている王子《おうじ》さまは、頭《あたま》を前後《ぜんご》にぐらぐらと揺《ゆ》らされながら、

「待《ま》ってくれシャルマント。言《い》ったように、僕《ぼく》は魔女《まじょ》の名前《なまえ》を知《し》らないし、会《あ》ったのは一度《いちど》きりなんだ。」

と答《こた》えながら、王子《おうじ》さまは「さすがオオカミを従《したが》えているだけの事《こと》はあるのだな」などと感心《かんしん》しています。

 シャルマントは王子《おうじ》さまの「魔女《まじょ》の名前《なまえ》を知《し》らない」という言葉《ことば》に、

「・・・・。」

揺《ゆ》さぶるのを止《や》め、黙《だま》り込《こ》んでしまいました。


 王子《おうじ》さまは、自身《じしん》の腕《うで》を掴《つか》んでいる少女《しょうじょ》の手《て》を優《やさ》しく解《ほど》き、今度《こんど》は少女《しょうじょ》の肩《かた》にそっと手《て》を乗《の》せて話《はな》しかけます。

「聞《き》いて、シャルマント。」

 シャルマントはただ頷《うなず》き、一緒《いっしょ》にベンチに座《すわ》りました。


「あれは私《わたし》の十歳《じゅっさい》の誕生《たんじょう》パーティーの事《こと》・・・。」


 王子《おうじ》さまは、ゆっくりと話《はな》し始《はじ》めます。


―――〈アルドリック王子《おうじ》 十歳《じゅっさい》の誕生《たんじょう》パーティー〉―――

 柔《やわ》らかそうな雲《くも》が青《あお》い空《そら》にぷかぷかと浮《う》かんでいる暖《あたた》かい日《ひ》の事《こと》でした。


 アルドリック王子《おうじ》の十歳《じゅっさい》のお誕生《たんじょう》パーティーが王宮《おうきゅう》の庭《にわ》で華《はな》やかに行《おこ》われています。色《いろ》とりどりの花《はな》に囲《かこ》まれ、鮮《あざ》やかで美味《おい》しそうなお料理《りょうり》が並《なら》べられた幾《いく》つものテーブルと、その花《はな》にも劣《おと》らないほどの色鮮《いろあざ》やかなドレスをまとった多《おお》くの貴婦人《きふじん》たちが楽《たの》しそうにおしゃべりをしています。

 そこへ、王《おう》さま王妃《おうひ》さまが王子《おうじ》であるアルドリックと妹《いもうと》のお姫《ひめ》さまを伴《とも》い皆《みな》の前《まえ》で言《い》いました。

「ようこそ、我《わ》が息子《むすこ》、アルドリックの誕生《たんじょう》パーティーへ。今日《きょう》は存分《ぞんぶん》に楽《たの》しんでいってくれ。」

 アルドリック王子《おうじ》は王《おう》さまの横《よこ》に立《た》ち、招待客《しょうたいきゃく》に向《む》けて軽《かろ》やかに手《て》を振《ふ》っています。


 その庭園《ていえん》の中央《ちゅうおう》に、空《そら》からふわっと何《なに》かが降《お》りてきました。


 皆《みな》が視線《しせん》を集《あつ》めたその先《さき》には、ホウキに乗《の》った魔女《まじょ》が居《い》たのです。

 

 その魔女《まじょ》は、老婆《ろうば》でしたが身《み》なりもきれいで、ふっくらとした体《からだ》つきでした。

 何《なに》より皆《みな》の注目《ちゅうもく》を集《あつ》めたのは、黒《くろ》っぽいローブの胸《むね》にある大《おお》きなリボンです。そのリボンは綺麗《きれい》な紫色《むらさきいろ》をしていました。

 その優《やさ》しそうな雰囲気《ふんいき》の魔女《まじょ》は周《まわ》りの皆《みな》に気軽《きがる》に話《はな》し掛《か》けます。


「あら、突然《とつぜん》の訪問《ほうもん》、お邪魔《じゃま》だったかしら。」


「いやいや、ようこそ魔女《まじょ》さま。」

 王《おう》さまは両手《りょうて》を広《ひろ》げ、満面《まんめん》の笑《え》みを浮《う》かべて魔女《まじょ》のもとへと歩《あゆ》んでいきます。


 この国《くに》で『魔女《まじょ》』は特別《とくべつ》な存在《そんざい》でした。

 誰《だれ》からも、そう、王《おう》さまですら敬意《けいい》をもってもてなされる存在《そんざい》なのです。

「我《わ》が息子《むすこ》、アルドリックの十歳《じゅっさい》の誕生《たんじょう》パーティーに魔女《まじょ》さまがいらして下《くだ》さったのは誠《まこと》にありがたい。こんな嬉《うれ》しいことはありません。どうぞ、ごゆるりとしていってくださいませ。」

 王《おう》さまの言葉《ことば》に、魔女《まじょ》さまは満面《まんめん》の笑《え》みで答《こた》えます。

「まあ、嬉《うれ》しいわ。突然《とつぜん》の訪問《ほうもん》にも優《やさ》しくしていただいて。」


 そう言《い》うと、魔女《まじょ》さまはテーブルに並《なら》んだ色《いろ》とりどりの美味《おい》しそうな食《たべ》べ物《もの》が並《なら》ぶお皿《さら》を見《み》て回《まわ》ります。


 ところが、突然《とつぜん》。


「ぎぃやぁぁぁぁぁ~~~!」


 魔女《まじょ》が叫《さけ》びました。


 周《まわ》りにいた者《もの》たちや、警護《けいご》にあたっていた騎士《きし》たち、配膳《はいぜん》をしている使用人《しようにん》、そして王《おう》さままでもが慌《あわ》てて魔女《まじょ》の周《まわ》りに駆《か》け寄《よ》ってきます。

 魔女《まじょ》は、ぷるぷると震《ふる》えながら、テーブルにのっているある一枚《いちまい》の大《おお》きなお皿《さら》を指《ゆび》さしていました。

「ど ど どうゆう事《こと》?」

 震《ふる》える声《こえ》の魔女《まじょ》に王《おう》さまが聞《き》きます。

「魔女《まじょ》さま、どうされました。」

「ど ど どうゆう事《こと》か聞《き》いているのです。」

「魔女《まじょ》さま、どうゆう事《こと》かとは、どうゆう事《こと》なのでしょうか。」

「アナタ、これを見《み》て何《なん》とも思《おも》わないの?」

 魔女《まじょ》が指《ゆび》さしているお皿《さら》には、美味《おい》しそうに焼《や》かれた子豚《こぶた》が乗《の》っています。

 集《あつ》まった誰《だれ》もが魔女《まじょ》の指《ゆび》さしているお皿《さら》を見《み》つめ、ふたたび王《おう》さまは聞《き》きました。

「ん? この子豚《こぶた》の丸焼《まるや》きがどうされました。」

「ちっが~~~~う。豚《ぶた》じゃない。」

 魔女《まじょ》の言葉《ことば》に、ふたたび王《おう》さまが聞《き》きます。

「では、この皿《さら》がどうかされたのですかな?」

「ちっが~~~~う。その上《うえ》よ。」

「その上《うえ》?」

 集《あつ》まったみんなが、子豚《こぶた》の丸焼《まるや》きとお皿《さら》の間《あいだ》をじっと見《み》つめました。


 そこには、子豚《こぶた》の丸焼《まるや》きを美味《おい》しく見《み》せるように、色《いろ》とりどりの野菜《やさい》が敷《し》き詰《つ》められています。

 王《おう》さまが少《すこ》し首《くび》を傾《かし》げて聞《き》きます。

「この野菜《やさい》ですか?」


 すると、今《いま》まで震《ふる》えていた魔女《まじょ》が、怒《いか》り狂《くる》ったように大《おお》きな声《こえ》で話《はなし》出《だ》しました。

「そうよ、この野菜《やさい》よ! この野菜《やさい》を見《み》てみなさい! 私《わたし》の、この私《わたし》の・・・、この高貴《こうき》な色《いろ》をした紫《むらさき》の野菜《やさい》を、あろうことか豚《ぶた》の下《した》に敷《し》くとは一体《いったい》どうゆう事《こと》? 紫《むらさき》は私《わたし》の大好《だいすき》きな色《いろ》で、私《わたし》を象徴《しょうちょう》する色《いろ》なの。それを、豚《ぶた》の下《した》に・・・。 ああぁぁぁぁぁぁ~~~~。」

 子豚《こぶた》の丸焼《まるや》きの下《した》に敷《し》き詰《つ》められていた野菜《やさい》の中《なか》に、紫《むらさき》玉《たま》ねぎを薄《うす》く切《き》ったものが他《ほか》の野菜《やさい》と共《とも》に、綺麗《きれい》な絨毯《じゅうたん》のように並《なら》べられていたのです。

「ああぁぁぁぁぁぁ~~~~、この私《わたし》を愚弄《ぐろう》するつもりなのね。」

 魔女《まじょ》の言動《げんどう》に動揺《どうよう》した王《おう》さまは、

「も 申《もう》し訳《わけ》ありませんでした。すぐにこの皿《さら》を下《さ》げます。 ええぃ、お前《まえ》たち、すぐにこれをどこかに持《も》っていけ。」

と、使用人《しようにん》に向《む》かって叫《さけ》びました。

 しかし、魔女《まじょ》は、

「もう遅《おそ》いわ。見《み》てしまったのだから。どうしてくれようかしら・・・。」

恨《うら》めしい目《め》つきで王《おう》さまを睨《にら》みつけます。

「どうか、どうかお気《き》を静《しず》めて下《くだ》されませ。」

 王《おう》さまはおろおろとして魔女《まじょ》に跪《ひざまず》きます。


「許《ゆる》さない・・・。」

 魔女《まじょ》はそう言《い》うと、急《きゅう》に何《なに》かを思《おも》いついたのか笑顔《えがお》になり、

「そうそう、今日《きょう》はあなたの息子《むすこ》の誕生《たんじょう》パーティーだったわよね。私《わたし》も何《なに》かプレゼントしないといけないわよね。フフフ・・・。」

そう言《い》って跪《ひざまず》く王《おう》さまに見下《みくだ》した視線《しせん》をおくります。


「後《あと》で届《とど》けるわ。フフフ・・・、楽《たの》しみにしていてね。」


 魔女《まじょ》はそう言《い》うと、魔法《まほう》のホウキにのって、空高《そらたか》く飛《と》んで行《い》ってしまいました。

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