9 甘噛み 寸止め ~我慢できないかも~
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った少女がオオカミ家族の住む樹洞で、びくびくしながら周りをきょろきょろと警戒して見ていました。
「どうしてシャルちゃんが追われているの?」
お母さんオオカミのアルマが聞きます。
「そうだよねー、王子さまってこの前助けてやったヤツだろ。」
長男オオカミのウルバンが少し怒ったように言います。
「そうだよ、僕たちだって怖かったのを我慢したのに。あんなに多くの人間を前にしてさ。」
末っ子オオカミのオットーも怒りながら言いました。
「それで、どうして王子さまに追われているの?」
アルマは皆を落ち着かせようと、ゆっくりと、穏やかに聞き返します。
「ん~~、よく分からないの。でもね、私が居るところに必ずやって来るのよ。大きなお供の人を連れて。」
シャルマントの言葉に皆も首を傾げていました。そこへ、狩りから帰って来たザバンが聞きます。
「みんな、どうしたんだ?」
「ザバ~~ン。」
シャルマントはザバンのふかふかの首に抱き着いて、半べそをかきます。
ザバンはシャルマントから話を聞くと、自慢げに言いました。
「そいつをシャル様に近寄らせないようにすればいいんだろ。だったら、俺にいい考えが有るぜ。」
「どんなの?」
「俺がシャル様と一緒に王子さまのところに行くんだ。人懐っこいオオカミなんて居ないだろ。それにこのふさふさの毛を見たらきっと抱き着きたくなる。そこでだ、俺も王子さまに甘えるふりをして、ちょ~っとだけ強めに甘噛みするってのはどうだ? シャル様の傍には俺がいて、近づいたら嚙まれるっていう怖さを教えるんだ。そうすれば、もう追って来ないだろ。」
ザバンの言葉にオオカミ家族のみんなも賛成してワイワイ言います。
「さすがね、アナタ。」
「うん、父ちゃん最高だよ。」
「甘嚙みか~、甘嚙みってどれくらいの力で噛むんだ?」
「知らないのか? 肉だけ噛んで、骨は砕かない程度に決まってんじゃん。」
兄弟オオカミの会話に、ザバンが自慢げに言います。
「よく知っているな、ウルバン。だがな、肉を噛むと言っても、皮膚を貫くらいが甘噛みで、肉だけ噛んで骨は砕かない、それを、人間たちは『寸止め』って言うんだぞ。」
「アナタ凄い事知っているのね~、肉を噛んで骨は砕かないのを『寸止め』って言うのね。また一つ賢くなっちゃったわ~~。」
その会話にシャルマントは、
(あれ? 『寸止め』って、そうだったかしら。私の読んだ本では騎士さんの訓練で相手がケガしない様にすれすれで剣を止めていたような気がしていたんだけれど・・・。肉を噛んだら血が出るよね~~~。)
と、その光景を思いながら少しブルっと震えます。
すると長女オオカミのエマが言いました。
「え~~~、でも私、血の味がしたら途中でなんか止められないかも・・。」
「ふふふ、お前はまだまだ子供だな。」
「もう、お父ちゃんったら。私はまだまだ子供です~~~!」
そんなオオカミ家族のやり取りに、
「ダメよ、ダメダメ。王子さまにケガをさせる? そんな事したら、今度は本当に騎士さん達が怒っちゃうんだから。」
シャルマントは必死でオオカミ家族の話を止めました。
しばらく相談して、甘噛みはしないという事で、ザバンがシャルマントの護衛として一緒に行く事になりました。
森を出ると、そこには王子さまが例のベンチに座って待っていました。
シャルマントが森から出てきたのを見ると、王子さまはベンチから立ち上がり言います。
「シャルマント、ごめんね。君を追い詰めるつもりじゃないんだ。僕の話を聞いてほしいだけなんだ。」
シャルマントは黙って頷きます。
すると王子さまは、少しの間を置き、ゆっくりと話し始めました。
「シャルマント、僕も君と同じように魔女に呪われているんだ。名は知らないけれど、大きな紫色のリボンをした魔女にね。」




