16、重なる運命の輪 <Side 和馬>(前編)
怪盗夜叉としての予告日前日、俺は大学の食堂で宗次と待ち合わせていた。
明日のターゲットであるガーネット<紅葉>が置いてある渡辺宝石店の下見に行くためだ。
里奈も行けたら行く、と言っていたが、部活の練習具合によるだろうから、俺と宗次で先に向かうことになっていた。
講義もちょうど午後はないし。
男二人が宝石店に行くなんて普段なら変な光景だが、怪盗夜叉の野次馬がうじゃうじゃいるであろう今なら、きっと目立たないだろう。
「あ、ドロボウのかずくん、お待たせ」
にやにや笑いながらやってきたのは宗次。堂々と俺のことをドロボウ呼ばわりしてくるのには、訳がある。
それは怪盗夜叉のことを指しているのではなく・・・・・・。
「・・・おまえ、いい加減、しつこい、宗次」
「しつこいだと?親友の彼女の唇を大衆の前で奪っておいてよく言うよな」
「だからあれはフリだったって言ったろ?里奈もそう言ってたんだろ?」
「それでもな~あんなことされたらな~」
「劇なんだから仕方ないだろ。里奈がプロになったらもっとあるだろ、そんなこと」
「相手が怪盗夜叉ってのが気にくわないんだよな」
「あのとき、怪盗夜叉役に俺を薦めたのはおまえだろ、自業自得」
「・・・・・・う~・・・」
一体何度繰り返したかわからないやりとり。
文化祭が終わって半月経とうとしているのに、宗次は未だに、俺が劇で里奈とキス未遂をしたことをとやかく言ってくる。
あれが未遂だったことは宗次が一番わかってて、確信犯で俺にちょっかいだしてきやがる。
「まったく。文化祭の次の日には愛良が意味深に問い詰めてくるから、てっきり正体がばれたんじゃないかってヒヤヒヤしたんだぜ?」
「和馬が調子に乗りすぎたんだろ?自業自得」
にやっと俺にやり返してくる宗次。
それでも舞台は盛り上がって拍手喝采だったんだから、俺は悪いことしたわけじゃないと思うぞ?!
16、重なる運命の輪○ <Side 和馬>(前編)
「あ、瀬戸くん」
ぶつぶつ文句を言いながら宗次と遅い昼飯を食べていると、誰かが俺を呼んだ。そちらに目を向けてみると、どこかで見た顔の男がにこにこしながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「・・・誰だっけ?」
「え?宗次も知ってるのか?」
「あぁ。文化祭で愛良と一緒にいたやつなんだけど・・・」
文化祭で・・・?
あ、思い出した。
「渡辺 修登、だ」
「覚えていてくれたんだね、瀬戸くん」
親しげに俺に話しかけながら、なぜか渡辺は俺の隣に座ってきた。
・・・・・・俺が人の名前をわりと覚えていられるのは、裏の仕事のせい。
それにしたって、なんなんだ、こいつ・・・?!
「何か用か?」
「ちょっとお誘いに来たんだ。さっき、すでに天野さんには話をして来たんだけど・・・」
そういえばこいつ、里奈のファンみたいだったっけ。
怪盗夜叉を題材にした舞台の台本を里奈が書いたことを知って、里奈が怪盗夜叉に興味があるのだと思い込んで、怪盗夜叉を調べる、とかなんとか言ってた気がするな・・・。
なんだか色々面倒臭そうなやつだなぁ、とは思ったけど・・・。
「里奈に何の話をしたって?」
向かいに座る宗次が胡散臭げに渡辺を見る。渡辺は俺と宗次を交互に見てから、説明を始めた。
「怪盗夜叉が予告状を出しているのはテレビで知ってる?」
「あぁ、明日渡辺宝石店ってとこで<紅葉>を盗むってやつだろ?」
何の気なしに、宗次がさらりと答える。俺もそれに頷いて同意を示す。
「そう、その予告されている渡辺宝石店。じつは、俺の家だったりするんだ」
周りに聞かれないように小さな声で渡辺は言ったが、俺たちはあまりの衝撃的な情報に目を丸くした。
「なっ・・・!!ほ、本当か?!」
「本当だよ。それで、怪盗夜叉に興味があるって天野さんが言っていたから、<紅葉>を見てみませんかってお誘いしてきたんだ」
「で?里奈は何て?」
「瀬戸くんや橋田くんも怪盗夜叉に興味を持っているから、ふたりと一緒なら、って言われたよ」
ナイス、里奈!!
俺と宗次は互いに視線を交わすだけで心の中でガッツポーズをとった。
予告日前日に、予想を超えた下見ができそうで、俺も宗次も一気にテンションがあがった。
「行く行く!!テレビで話題の<紅葉>が見れるなんて、こんな機会、めったにないもんな。な、和馬?」
「そうだな、俺も是非見てみたいよ」
「ふたりとも、本当に怪盗夜叉が好きなんだね。特に瀬戸くんなんて、この前の舞台を見ていても、いかに怪盗夜叉を研究しているかよくわかったよ」
嬉々と語る渡辺に、俺と宗次は乾いた笑いを浮かべる。
怪盗夜叉の研究ね・・・・・・。まさか、本人だったから、なんて言えないよな。
「まるで本物の怪盗夜叉みたいだったよ。あ、そうだ、もしも都合がよければ愛良ちゃんも誘ってみてくれるかな」
「・・・愛良を?」
「この前の舞台を一緒に見ていて、彼女が怪盗夜叉が大好きなのが伝わってきたからね」
「あ~・・・・・・まぁ、うん、わかった」
渡辺に曖昧に返事をしながら、俺は愛良には言うまいと思っていた。これ以上愛良と怪盗夜叉の接点を増やしたら、本当にいつ正体がばれるか知れやしない
ロゼのやつは絶対この状況を楽しんで・・・・・・
「あ!!」
「なんだ?!どうしたんだ、和馬?」
「あ、いや、なんでもない・・・」
突然大声を出した俺を、宗次と渡辺が不思議そうに見てきたので慌てて手を振った。
俺は思い出したんだ。
昨日、怪盗夜叉のニュースを見ていたとき、ロゼは言った。
「ナイトは<どこ>で<何>が盗まれるのか、知っているのかしら」と。
あの意味深な言い方。今回のターゲットがある渡辺宝石店が渡辺の家だってこと、知ってたな?!
ロゼもこの前の文化祭で渡辺に会ったみたいだし・・・・・・。
「・・・くそ、ロゼのやつ・・・・・・」
「瀬戸くん?」
「あ、いや、なんでも。それで?何時ごろそっちに行っていいんだ?」
「じゃぁ、五時に店の前でいいかな?そうすれば愛良ちゃんも誘えるよね?」
「あぁ・・・まぁ、そうだな」
・・・・・・誘うつもりないけど。
「じゃぁ、待ってるね」
それだけ言うと、渡辺はそこから立ち去っていった。残された俺と宗次は顔を見合わせた。
「・・・予定、変わったな」
「しかも好転!!里奈もいいパスをよこしたな」
「まさか前日に<紅葉>を拝めるとはな~」
くすくす笑いながら話す俺と宗次の真意を知る者はいない。ふと、宗次が俺に指差しながら言ってきた。
「和馬、ちゃんと愛良を連れてこいよ?」
「は?なんでだよ、愛良がいたら邪魔だろ?」
「まさか、その逆だろ?」
愛良を連れてくるどころか誘うつもりもなかったのに、宗次が真逆なことを言うから俺は首をかしげるしかない。
「考えてもみろよ、和馬。せっかく犯行前に現場に行けるんだから、仕掛けは済ませたいし、向こうの出方もチェックしたいだろ?」
「そりゃぁ、まぁ・・・・・・」
「そうすると、あの渡辺ってのが邪魔だろ?」
「里奈に気を引いてもらえばいいんじゃないか?」
どうせ始めからあいつの目的は里奈なんだし。
「でもさ、里奈ひとりより愛良もいた方がより騒がしく気を引いてくれると思わないか?」
「騒がしくって、おまえ・・・」
呆れた視線を送る俺に、にこにこと笑顔を向けてくる宗次。
あ、なるほど。
「要するに、渡辺と里奈をふたりきりで話させたくないわけだな」
「愛良も渡辺のお気に入りみたいだからちょうどいいじゃねぇか。な?」
「・・・はいはい。とりあえず、愛良にも聞いてはみるよ」
聞いたら最後、愛良の返事なんてわかりきってるけど。
案の定、愛良は俺と共に渡辺宝石店に向かうことになり、そこで俺たちを待っていた渡辺と待ち合わせた。
明日には怪盗夜叉がここに現れるということで、野次馬客が異常に多い。
当初の予定では、俺と宗次もその野次馬に混じって、店内の立地条件だけでも確かめてこようとしていたのだが、まさか現場に行けるとは、まさに棚からぼた餅!!
愛良は純粋に<紅葉>を見れることで興奮していたが、俺たちも別の意味で興奮していた。
怪盗夜叉のターゲットの宝石、<紅葉>が保管されているのはこの店の奥の部屋。
じつは、そこまでの情報は俺たちもつかんでいたのだが、せっかく実際に行けるしってことで、ついでにその道のりの廊下の監視カメラの数を数えてみる。できれば、監視カメラに姿を見せずに保管室に向かいたいしな。
「・・・ふぅん。C6か・・・そこそこ。4アウトってとこか?」
「いや、7アウトだな」
「7アウト?そんなにあるか?!」
「あるある。意外に抜け道があるもんだぜ?」
「へ~。かずくんってば大きくなっちゃって・・・」
「バカにするのもそこらへんにしとけよ、宗次?」
けけけ、と笑う宗次を睨み付けながら俺はキョロキョロと辺りを見渡しながら進む。
Cとは監視カメラのこと。
この廊下に見えるだけで6個の監視カメラが設置してある。
アウト、はカメラからはずれてしまう死角のこと。
宗次は4ヶ所の死角だというけど、俺なら7ヶ所はいける。死角の箇所を拾えるようになったのは、悔しいけどノワールとの特訓の成果だといえる。
「・・・・・・ロゼのやつ、ここが渡辺が絡んでること、知ってる口ぶりだったぜ?」
「まっさか同級生の家がターゲットになるとはなぁ。世間はせまいよなぁ」
「情報収集が甘いんじゃないかい、<ビール>?」
「おやぁ?あの金髪美女直伝の特訓成果はどうしたのかね、<アールグレイ>?」
こそこそ話しながら、俺と宗次はそんな押し問答を繰り広げる。
互いの情報収集力を責めているようで、じつはお互い自分自身の不甲斐なさを呪っているのはわかってる。いくらロゼの・・・・・・ノワールの情報収集力が長けてるとはいっても、今回のは俺たちだって調べられたはず。
甘かった。ただ、それだけ。
「それでは、名誉挽回といきますか」
渡辺が里奈と愛良と話し込みながら、<紅葉>が収められている部屋の扉を開けた。
ふぅん。この扉のセキュリティはたいしたことないな。
簡単な暗証番号と旧式な鍵。抉じ開ければアラームが鳴る程度だろ。
「部屋に入るのは楽そうだな」
「あとは警官がどれくらい配置されるかだな」
「たしかに・・・」
里奈が渡辺の気を引いていてくれているお陰で、こちらは好き勝手に部屋中をうろつく。
予告日が明日、と明確なせいか、警備の人間もいない。
・・・・・・怪盗夜叉が下見に来る、とは思わないのか?!
愛良も里奈も何やら真剣な面持ちで渡辺と話しているから、内容が気にならない訳じゃないけど、今はそれどころじゃない。
俺は部屋中の監視カメラの数、仕掛けの位置を確認する。逃げ道はどうしようかな、とも考えつつ。
一方、宗次は<紅葉>を眺めるフリをしながら、器用にケースに怪盗夜叉の仕掛けを施してる。もちろん、そこはカメラの死角。
俺もその死角をつくってやるために<紅葉>に近づいて宗次を手伝う。
その宗次の手元を見て、俺は思わずぎょっとした。
「な、なにやってんだ?!」
「ん~?なんかこのケース、おもしれぇ仕掛けがしてあるから、壊しておこうかと」
こっちの仕掛けを仕込んでるのかと思いきや、逆に相手の仕掛けを崩していたらしい。手に持っているコードやら何やらを切ったり絡めたりしながら、宗次はすばやく作業をこなしていく。
こういうのは、やっぱりまだまだ敵わないよなぁ。
「よし、完了」
「・・・・・・終わったのか?」
「おう。なにが愉快って、このケース、手を触れただけで電流が流れる仕掛けになってたぜ?」
くすくす笑いながら、宗次は<紅葉>が飾られているケースにちょん、と触れる。もちろん、電流が流れている気配はない。
「そんな仕掛け、<ビール>さまにはずせないわけないだろっての」
「頼もしい限りだな」
同じようにくすりと笑って俺は告げる。
きっと、渡辺宝石店のオーナーも警察も、この仕掛けが最後の砦だと思っているに違いない。
まさか、犯行日前日にその仕掛けがはずされているとも思わずに・・・・・・って。
「さすがに前日に仕掛けをはずしたら、気づかれないか?」
「はずしてないさ。スイッチをつけただけ」
「スイッチ?」
「電流を流すか流さないかのスイッチ。回線をいじくっただけで、外しちゃいないさ」
にやっと笑いながら宗次は俺に小さな箱みたいなものを押し付ける。手を握りしめれば包み隠せてしまう小ささだ。
そこにひとつだけボタンがある。
「それがONOFFのスイッチ。おまえにやるよ」
まさにいたずらっ子。得意気にケースに触れた宗次に、俺も思わず同じような笑みを向けてしまう。
本当に、警察連中は度肝を抜かれるだろうな。仕掛けが切り替わってて。
「んじゃ、準備もできたし、里奈に合図を送るか」
「そうだな」
里奈に渡辺の気を引いてもらっている間に、俺と宗次が怪盗夜叉の仕事の準備をする。その準備が整ったら、里奈に合図を送ることになっていた。
「お~い、いつまでそこで話し込んでるんだ?」
「早く宝石見て帰ろうぜ、腹減った~」
俺と宗次の呼び掛けに即座に反応を示したのは愛良。
・・・・・・ほんとに、こいつは俺たちの行動を無意識に読んでるよな・・・。
それにしても、渡辺と話し込んでいた里奈が元気がない。
なにかあったか・・・・・・?
怪盗夜叉の獲物であるガーネットを見て騒いでいる愛良を見守りながら、俺は里奈の様子が気になっていた。
すると、その愛良がとんでもないことを俺に報告してきたのだ。
「修登お兄さんがね、里奈お姉さんのために怪盗夜叉のことを色々調べてたんだよ。<A・K>って人が関係あるかもしれないんだって」
瞬間、血の気がすっと引くのを感じた。
<失われた誕生石>の秘密。
誕生石と<A・K>の関わり。
なぜ、愛良が・・・・・・渡辺が知ってる・・・・・・?
俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、里奈と楽しそうに話している渡辺に視線を送った。
正直なところ、16話はもともと前後編にするつもりがないまま書いていたので、愛良サイドも和馬サイドも変なところで前編が切れてます(汗)
宗次のお仕事は素早いです、素晴らしいです!!
かずくんはノワールに相当鍛えられましたが、宗次は独学ですからね。彼にも師匠ができればいいのですが(笑)
さて、修登がちょろちょろしてきてますが…メインメンバーに昇格できるかは彼のがんばり次第ですね(笑)




