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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
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16、重なる運命の輪  <Side 愛良>(後編)




怪盗夜叉が渡辺宝石店が仕入れたガーネット、<紅葉>を盗むと予告状を出した。


なんとなんと、その渡辺宝石店って、和馬お兄ちゃんと大学が同じのお兄さん、修登お兄さんのおうちのことだった!!


どういういきさつでそうなったのかはよくわからないけど、和馬お兄ちゃんに誘われて、あたしは修登お兄さんのおうちでもある、渡辺宝石店にいる。


もちろん、修登お兄さんは里奈お姉さんを誘いたくて、あたしたちはおまけだけど、それでも、怪盗夜叉が狙ってる宝石を見せてくれるっていうから、すごく楽しみ!!



しかもしかも。


修登お兄さんが言うには、どうやら怪盗夜叉が盗みを行うのはある基準があるんだって。


それを教えてくれるっていうから、あたしはそれも楽しみにしながら、修登お兄さんが案内してくれた部屋に足を踏み入れた。







16、重なる運命の輪○     <Side 愛良>(後編)








<紅葉>が守られている部屋の扉は重々しい扉だったけど、特に厳重なロックのある扉には見えなかった。扉にはあまり重要視してないのかなぁ?


「あれが怪盗夜叉が狙っているガーネット、<紅葉>ですよ」


小さな部屋の中にぽつんと置かれたケース。そこに真っ赤なガーネットがあった。


「当日は警官が守るんだろうけど、あんな簡単なセキュリティーの扉だけで他に仕掛けはなしか?そんなんで、夜叉からあの宝石を守れるのか?」


宗次お兄さんがぐるりと部屋の中を見渡しながらつぶやく。和馬お兄ちゃんも<紅葉>を見るよりも、部屋の中を珍しそうに見てる。


男の人って宝石よりも仕掛けとかに興味があるのかな。なんだか少年みたい。


そんなふたりの様子にくすっと笑ってから修登お兄さんは宗次お兄さんに答えた。


「いや、ケースにはちょっとした仕掛けがあるよ。あと、部屋の中にも。それがどんなものかは、さすがに教えられないけどね」


「ふぅん」


宗次お兄さんは曖昧に頷いて、キョロキョロとまた部屋を見渡す。和馬お兄ちゃんはその隙に<紅葉>をじっくりと眺めてる。


あたしも一緒に見たいな、と和馬お兄ちゃんのところに向かおうとしたところで、里奈お姉さんに腕を掴まえられた。



「ね、愛良ちゃんも気にならない?さっき渡辺くんが言っていた話」


「話?怪盗夜叉が盗む基準ってやつ?」


「そう。渡辺くん、教えてくれるんでしょう?」


「え、あ、はい、もちろんです」


それまで視線を宗次お兄さんや和馬お兄ちゃんに向けていた修登お兄さんは、はっとした様子で里奈お姉さんの言葉に頷いた。


あたしもその話には興味があったから、和馬お兄ちゃんのところに行くのは諦めて、里奈お姉さんと一緒に部屋の入口付近で修登お兄さんの話を聞いた。




「一見すると、怪盗夜叉が盗んでいく代物は、宝石だけではなく美術品や絵画など様々で統一性がないように思えます。・・・・・・ところが、彼が今まで盗んできたものを徹底的に調べてみたら、ある共通点が見つかったのです」


「・・・共通点?」


聞き返す里奈お姉さんの声が緊張しているように聞こえる。


あたしは尊敬の眼差しで修登お兄さんを見上げていた。


だって、怪盗夜叉が盗んでいくものに共通点があるなんて、きっと警察もマスコミも気づいてない。


わかってたら、テレビでばんばん流れると思うもん。



「彼が盗むものの共通点・・・・・・それは、誕生石の名前が入っていること、もしくは誕生石であること」


あ、それは聞いたことあるかも。でも、誕生石っていっても宝石のほとんどはそれだし、絵画のタイトルに誕生石があったのは偶然かもってことでマスコミはあまり重視してなかった気がするけど。


「その話は、以前にニュースかなにかで聞いたことがあるわ。それが共通点?」


「いいえ、それだけではないのです。誕生石なんて、宝石のほとんどはそうですからね。それよりも注目したい共通点はもうひとつ」


言葉を切った修登お兄さんは、ちらりと<紅葉>に視線を向けたあと、口を開いた。


「怪盗夜叉がターゲットにしたものは、すべてヨーロッパを経由しているのです」


「でも宝石はともかく、美術品のほとんどはヨーロッパが経由するんじゃないかしら?」


「そうです。ですが、それらに<ある人物>が関わっているとしたら・・・・・・?」


「ある・・・・・・人物・・・・・・?」


問い返す里奈お姉さんの声が緊張しているのがわかる。


へぇ?里奈お姉さんって、じつは結構怪盗夜叉に興味あったんだ?


そんな里奈お姉さんの反応に満足そうに、修登お兄さんは告げた。



「その人物とは、<A・K>と呼ばれる人物です」




「名前はわからないの?イニシャルだけ?」


それまでおとなしく話を聞いていたあたしが口を挟むと、修登お兄さんはあたしに少し残念そうに笑いながら答えてくれた。


「そうなんだ、わかっているのはイニシャルだけ。百年ほど前の科学者であると同時に、芸術家でもあった資産家だってことまでは教えてもらえたけど・・・・・・」


科学者で芸術家?


なんか、変わった人なんだなぁ、その人。


「教えて・・・・・・もらった・・・?いったい、誰に・・・・・・?」


そう尋ねる里奈お姉さんの顔は、暗がりのせいか青ざめて見えた。声も震えているように聞こえる。


「じつは、今話した情報は一般には知られていないものなのです。いわゆる裏社会っていう生業のごく一部の人たちしか知らないようなものなんですよ」


「それをどうして、渡辺くんが知っているのかしら・・・?渡辺くんがそんな危ない世界に足を踏み込むタイプには見えないけど・・・?」


「ある友人が、そういう裏社会の情報屋の弟子をやってまして。怪盗夜叉の話をしたら、今の話を教えてくれたんですよ」


「へぇ~」


そんなすごい人がいるんだ~と、あたしはただただ感心するばかり。


思わず感嘆の呟きを漏らすと、修登お兄さんがにっこりと笑いかけてくれた。


「だから、今の話は秘密だよ、愛良ちゃん」


「うん、わかった!!怪盗夜叉が盗むものにそんな秘密があったなんて、すごい発見だもんね!!」


「あぁ、そうそう。その<A・K>の関わった美術品、宝飾品をまとめて<Lost Birthday>って言うとも教えてくれたよ」


「ふぅん・・・・・・?」


「それを・・・それを、マスコミに言うつもりは・・・?」


里奈お姉さんが震える声で、修登お兄さんに尋ねる。修登お兄さんは小さく首を横に振った。



「いいえ、話す気はありませんよ。俺だってこの情報は教えてもらった身だから、実際のところどこまで本当かわからないですしね。そもそも、怪盗夜叉が盗む基準がわかっても、彼は盗んだものを返していることから、目的のものではないのかもしれませんし」


ひょい、と肩をすくめて、修登お兄さんはそう言ってから、さらに続けた。


「でも、怪盗夜叉が何かを集めているのだろうという俺の予想は、あながちはずれていないことはわかりました。もっと色々と調べて、天野さんにお伝えできるようにしますね!!」


「・・・えぇ、ありがとう」


はりきる修登お兄さんとは裏腹に、里奈お姉さんの声はどこか強張っているように聞こえた。


どうしたのかな、具合が悪いのかな・・・・・・?




「お~い、いつまでそこで話し込んでるんだ?」


「早く宝石見て帰ろうぜ、腹減った~」


部屋中をうろうろしたり、<紅葉>をたくさん見て満足したのか、宗次お兄さんと和馬お兄ちゃんたちが、あたしたちに向かってそう言った。


あたしはやっと目的の<紅葉>を見ることができて、瞳を輝かせた。


「すごーい!!大きい!!きれーい!!」


「本当に紅葉の形をしたガーネットね」


ちょっと元気がなくなった声で、里奈お姉さんがあたしに話しかけてくる。あたしはじぃっと赤い宝石を見つめてから、こくん、と頷いた。


「うん、ほんとに紅葉みたい。でも、テレビで見るよりずっと綺麗!!」


「・・・・・・これが、怪盗夜叉が狙っている宝石なのね」


そっとガラスケースに手を乗せようとした里奈お姉さんを修登お兄さんがあわてて止めた。



「あ、天野さん、それには触れないでください!!電流が流れているんです!!」


「あら、そうなの?」


慌ててガラスケースから離れる里奈お姉さんとあたし。すると、修登お兄さんの後ろから、羽交い締めにするみたいに飛び付いてきた。


「くぉら、渡辺!!俺たちにそんな忠告しなかったじゃねぇか!!」


「ご、ごめん・・・・・・」


修登お兄さん、里奈お姉さんとお話しするのに気をとられてたから仕方ないよね。


あたしはくすくす笑いながらふたりのやりとりを見ていた。


「なに笑ってるんだよ、愛良?」


「あ、和馬お兄ちゃん。修登お兄さんがね、里奈お姉さんのために怪盗夜叉のことを色々調べてたんだよ」


「へぇ、怪盗夜叉をねぇ」


「ん~とね、<A・K>って人が関係あるかもしれないんだって」


「なっ・・・・・・!!渡辺が、そう言ったのか?!」


突然血相を変えた和馬お兄ちゃんに、あたしはびっくりしてしまう。


「う、うん。お兄ちゃん、何か知ってるの?」


「・・・・・・いや・・・・・・何も・・・。・・・・・・何一つ、知らないさ・・・・・・」


自嘲気味に呟くお兄ちゃんが心配になって寄り添ってみると、いつのまにか修登お兄さんが目の前に立ってた。



「本当に仲のいい兄妹なんだね」


「「・・・・・・・・・は?」」


意外な修登お兄さんの台詞に、思わずあたしも和馬お兄ちゃんも同時に聞き返した。


兄妹?


・・・・・・って、あたしと和馬お兄ちゃんが?!



「「違う、違う!!」」




そう言って否定するタイミングもあたしと和馬お兄ちゃんは同時。


「え、違うの?」


「違うよ~!!あたしと和馬お兄ちゃんは恋人同士なの!!」


と、あたしが言えば、


「違うに決まってるだろ。こいつはただの居候、同居人。だいたい、苗字が違うだろ?」


と、ほぼ同時に和馬お兄ちゃんがそう言ってた。


視界の隅で、宗次お兄さんが笑い転げてるのが気になるけど。


「え、あ・・・苗字が違うのは、複雑な家庭の事情なのかと思って・・・・・・って、恋人同士なの?!」


「そうだよ!!」


「んなわけないだろ?!」


あたしと和馬お兄ちゃんが同時にまったく異なる返事をすれば、宗次お兄さんはさらに笑い続け、修登お兄さんは困ったような表情を浮かべた。


・・・・・・なんで笑うとこなの?!




「えっと・・・・・・そろそろ、お店に戻ってもいいかな?さすがにいつまでもここにいるのはまずいから・・・。ここを警備する警察の人にも、天野さんたちが来るときだけ席をはずしてもらっているんだ」


修登お兄さんが話を誤魔化すみたいにあたしと和馬お兄ちゃんを交互に見ながら言う。


それに即座に答えたのは宗次お兄さんだった。


「あぁ、そうだな。貴重なもんを見せてもらって満足したし、もう帰るか。な、里奈?」


「・・・・・・そうね。ありがとう、渡辺くん」


「いいえ。天野さんに満足してもらえたら、お誘いした甲斐がありましたよ」


修登お兄さんがそう言うのをおもしろくなさそうに宗次お兄さんは見守ってから、<紅葉>が守られている部屋から出ていった。


ぞろぞろと里奈お姉さん、修登お兄さん、和馬お兄ちゃんも続いていく中、あたしは最後にもう一度、<紅葉>に視線を向けた。




怪盗夜叉が狙う、誕生石のうちのひとつ、ガーネット。


明日の夜には、怪盗夜叉に盗まれちゃうのかな。きっと、怪盗夜叉は犯行を成功させると思うから、修登お兄さんには悪いけど、あの宝石は怪盗夜叉の手に渡っちゃうだろうな。


あの<紅葉>、怪盗夜叉の探し物だといいけどなぁ。



そういえば、あたしが怪盗夜叉に<依頼>をしたいと思ってる<エーゲ海のエメラルド>も誕生石がタイトルに入ってる・・・・・・。


もしかしたら、<エーゲ海のエメラルド>が怪盗夜叉の探し物だって可能性だってなくもないんだよね?


でももしもそうだったらどうしよう?


あたしはあれを取り返したいのに。


怪盗夜叉に必要なものだったら、依頼してもそれをあたしには渡してもらえないかもしれない。



・・・それだったら、やっぱりあたしががんばって奪うしかないのかな・・・・・・。




「あら、プリンシアじゃない?」


ずっと考え事をしながら歩いていたら、いつの間にかお店まで出ていた。


相変わらず野次馬のお客さんでいっぱいの店内で、聞き覚えのある声があたしに呼び掛けた。


・・・・・・あたしのことを<プリンシア>って呼ぶ人はひとりしかいないしね。


「・・・ロゼ、なんでここに?!」


「ふふ、秘密よ、秘密。プリンシアはなぜここに?」


「ロゼが秘密なら俺たちだって秘密だよ」


「あらあら、ナイトにトリック、ルナールまで一緒なのね」


あたしの後ろから和馬お兄ちゃんたちもやってきて、ロゼは楽しそうに目を細めた。


だけど、和馬お兄ちゃんが少し慌ててロゼに掴みかかるようにして近寄った。


「ロゼ、おまえ、まさか・・・・・・」


「なぁに?私に聞きたいことでも?」


ロゼに掴みかかっていた和馬お兄ちゃんがぴたりと止まる。ロゼはにこにこ笑ったまま。


しばらく硬直していた和馬お兄ちゃんは、ふっと力を抜いて項垂れた。


「・・・・・・ロゼに聞いても意味ないな」


「ふふふ、わかってきたじゃない?」


「ロゼ、愛良を連れて帰ってくれないか?俺はこれから実の家に行くから」


「え、お兄ちゃん、一緒に帰らないの?」


ぱっとお兄ちゃんを見上げると、なんだか難しそうな顔をした和馬お兄ちゃんがロゼを見返してた。


そしてそのまま、あたしを見つめてくる。




「実と大事な話があるんだ」


「・・・私も行くわ」


そう言い加わったのは里奈お姉さん。やっぱりちょっと青ざめた表情。


「里奈が行くなら俺も行こうっと」


軽い調子で宗次お兄さんも加わる。


「え~ずるぅい!!だったらあたしも・・・・・・」


「オトナの大事な話だからな。愛良はおとなしくロゼと帰ってな。夕飯までには帰るから」


ぴしゃりと和馬お兄ちゃんに止められて、あたしはそれ以上何も言えず、むくれるだけだった。


気付けば、いつの間にか修登お兄さんもいないから、あたしがさっき考え事をしている間にお別れしたみたい。


そのままあたしはロゼに連れられて、先に帰路についた。





「あのお店の坊や、面白い子ね」


「修登お兄さんのこと?なんかね、怪盗夜叉のこと、色々調べてるみたいだったよ!!」


「あら、そんなに調べられちゃったら、怪盗さんも困っちゃうわね」


「ん~でもやっぱり、わからないことの方が多いみたいだよ?」


「そうね。でも、まさか素人にそんな情報が漏れるなんて、怪盗さんはあまりの衝撃で慌てるでしょうね」


くすくすと笑うロゼ。まるで、夜叉が慌ててるのを知ってるみたい。


「修登お兄さんには悪いけど、やっぱりあたしは夜叉を応援しちゃうな!!」


「明日の中継は見られるの?」


「ううん、塾があるからニュースで確認しなきゃ。お兄ちゃんもたしかバイトって言ってたかも」


「そうね。ちなみに、私も明日の夜は仕事なの」


「そっか。じゃぁ、あとでみんなで確認しようね!!」





そして次の日の夜、怪盗夜叉があたしの期待通りに渡辺宝石店から<紅葉>を盗み出したというニュースが流れていた。


さらに数日後、その夜叉が渡辺宝石に盗んだガーネットを返したっていうのも、修登お兄さんに教えてもらったんだけど。


とすると、怪盗夜叉の探し物はまだ見つかっていないってことなんだよね?


あたしが求める<エーゲ海のエメラルド>の話を早く怪盗夜叉にすることができればいいのに。



そんなことを思いながら、あたしは連日繰り返し放送される怪盗夜叉のニュースを眺めていた。





ということで、修登はこのために登場したのです(笑)


<A・K>の話はノワールが登場したときにばらしてしまおうかどうしようか迷っていたのですが、やはりここまで引っ張ってみました。


でもイニシャルだけ(笑)






で、愛良サイドで<失われた誕生石>の話をすれば浮上してくる<エーゲ海のエメラルド>もまだまだ謎。


それでも、少しずつ謎を解明していくのは結構楽しかったりします♪






さて、今回のメインは和馬サイド。


こちらはどう動いていたのでしょうか。



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