13、小さな依頼人 <Side 愛良>(前編)
楽しかったあたしの誕生日パーティーの次の日は、お酒の飲みすぎでみんなずっと家でごろごろしてた。
ロゼだけはなんともないのか、二日酔いでうんうん言ってる宗次お兄さんをからかってから、どこかに出掛けようとしていた。
「仕事があるから、夜まで帰らないわ。・・・ナイトにはこのこと、秘密よ?」
あたしの誕生日パーティーのためにお仕事をキャンセルしてくれたって言ってたから、お仕事なのは仕方ないとしても・・・なんで和馬お兄ちゃんに秘密?
「なんで和馬お兄ちゃんに言っちゃだめなの?」
「あとでナイトをびっくりさせたいからよ」
くすっと笑ったロゼにあたしは首を傾げたけど、なんだかロゼが楽しそうだったから、彼女のお願いを聞くことにした。
だけど、どのみちお兄ちゃんはその日、ロゼがいないことに気づかないくらい、宗次お兄さんと一緒に二日酔いと戦ってたけど。
13、小さな依頼人▲ <Side 愛良>(前編)
「あれ?和馬お兄ちゃん、でかけるの?」
「あ、あぁ、まぁな」
日曜日、宗次お兄さんたちも帰っちゃって静かなお昼に、和馬お兄ちゃんが出掛ける支度をしているのをみかけた。
「頭痛いのはよくなったの?」
「あ、あぁ」
「どこ行くの?」
「ちょっと・・・散歩に」
散歩?!雨降ってるのに?!
・・・・・・怪しい・・・。
じとーっとお兄ちゃんを睨むと、お兄ちゃんがたじたじと後退していく。
「な、なんだよ、愛良」
「怪しい!!だって、こんな雨の中わざわざ散歩なんて行かなくていいんじゃない?」
「ち、ちょっと用事もあるんだよ」
付け足したように言うお兄ちゃんがますます怪しくて睨んでいると、後ろからそっとあたしを抱き締める腕があった。
「ナイトはこれから待ち合わせなのよ」
「ロゼ?」
「な、なんでおまえが知って・・・!!」
慌てるお兄ちゃんの様子を見ていて、あたしは女の直感で叫んだ。
「お兄ちゃんってば、あたしってものがありながら、女の人と会うつもりね?!」
「そ、そんなんじゃ・・・」
「あら、迷えるレディに会いに行くのよね?」
「ロゼ、まぜっかえすな!!・・・・・・とにかく、出掛けてくるから!!」
逃げるように家を飛び出していった和馬お兄ちゃんに向かって、あたしは大声で叫んだ。
「浮気者~!!!!」
そんなことがあったから、あたしは一日中不機嫌だった。
ロゼがおいしいお菓子を焼いてくれたりしけど、お兄ちゃんに意地悪したい気持ちはおさまらなくて、夕飯はお兄ちゃんの嫌いなもので埋め尽くしてみた。
それに対してお兄ちゃんもひきつった笑みを浮かべただけで何も言わないから、なんだかそれがまた余計にムカついた。
大変、倦怠期かしら?!
そんな週明けの月曜日、教室に着いたとたんに、しずちゃんにすごい勢いで飛び付かれた。
「愛良ちゃん、噂、聞いた?!」
「噂?ううん?」
びっくりして返事をすると、しずちゃんがさらにびっくりするようなことを教えてくれた。
「3年2組の三成さんって子が、怪盗夜叉に<依頼>したんだって!!」
「えぇ?!」
これにはあたしも二重に驚いた。その子が夜叉に会えたってことと、その夜叉に依頼できたってこと。
あたしはまだ、<依頼>ができていないのに!!
「あたし、三成さんに会ってくる!!」
「え、ちょっと、愛良ちゃん?!」
たまらず、あたしは3年2組に駆け出していた。
3年2組ならちょうどあたしの教室の真下。あたしはすぐに三成さんって子を呼んでもらって、そして、驚いた。
「あ、電気屋にいた子!!」
三成さんって子は、なんと、お兄ちゃんと放課後デートしたときに電気屋で見掛けた女の子だったから、驚いた!!
電気屋のテレビに写っていた怪盗夜叉に、祈るように手を組んでいた子。この子が、夜叉に<依頼>した子・・・・・・。
「怪盗夜叉に、<依頼>をしたって、ほんと?」
「・・・言いたくない。秘密って約束したもん」
仲のいい子に少し話したことがこれだけ大きな噂になっちゃったってとこだろうけど、三成さんは泣きそうな顔で首を横に振った。
でも、あたしだってここで引き下がってる場合じゃない。
「あたしも、怪盗夜叉に会ったことがあるの」
「・・・え?!」
「夜叉に助けてもらったことがあるの。たぶん、内緒だけど」
あたしが小さな声で言えば、三成さんは首を縦に振る。さっきより警戒心がなくなったことを確認すると、あたしは三成さんに提案した。
「放課後、うちに来ない?あたしも夜叉に<依頼>したいことがあるの」
そう言うと、三成さんはためらいながらも首をもう一度縦に振った。
「じゃぁ、放課後、正門で待ってて。あ、名前は?」
「三成 雪野」
「雪野ちゃんね。あたしは柳井 愛良。じゃぁ、放課後にね!!」
雪野ちゃんに念押ししたら、今度は彼女はしっかりと頷いた。
これならきっと、逃げずに待っててくれるかな。
その日の授業は全然身にならなかった。
いつもは好きな体育や図工も、放課後のことばかり考えていて上の空だった。だから、授業が終わって、帰りの会が終わったとたん、あたしは教室を飛び出した。
約束した正門には、ちゃんと雪野ちゃんがちょこんと立って待ってた。あたしはすっぽかされなかったことにほっとしながら、彼女に話しかけた。
「雪野ちゃん、ごめんね、待たせた?」
「・・・ううん」
雪野ちゃんは首を横に振って短くそう答えて、そのまま口をつぐんでしまった。
もともと無口なのかな?緊張してるのかな?
とりあえず、和馬お兄ちゃんの家に帰るのが先だよね。
「じゃぁ、行こうか」
あたしは雪野ちゃんを安心させるようににっこり笑ってから、一緒に歩き始めた。
和馬お兄ちゃんの家に雪野ちゃんを呼んだのには理由がある。
もちろん、夜叉の話だから、他の人に聞かれたくないっていうのもある。
だけどなによりも、この話を和馬お兄ちゃんに聞かせたかったから。怪盗夜叉の友達だっていう和馬お兄ちゃんに、色々聞きたいもん!!
なんで雪野ちゃんの<依頼>は受けてくれるのに、あたしの<依頼>は聞いてもらえないままなのか!!
早くしないと、<エーゲ海のエメラルド>が<あそこ>から移動してしまうかもしれないのに!!
「あの・・・愛良ちゃん?」
歩きながら力むあたしに、雪野ちゃんが不思議そうにあたしを見上げてる。
いけないいけない、雪野ちゃんと一緒だってこと、忘れてた。
なんでもないよ、とあたしは笑ってごまかして、和馬お兄ちゃんの家までふたりで歩いていった。
お兄ちゃんの家の前に着くと、雪野ちゃんが感嘆のため息をついた。
「うわぁ、大きい」
ここらへんは高級住宅街って言われてる地域だから、どの家も普通の家よりも大きい。だから、和馬お兄ちゃんの家もきっと、雪野ちゃんの知ってる家とかよりも大きいんだと思う。
「大きいよね。ここは、あたしの恋人の家なの」
「愛良ちゃんの家じゃないの?」
「うん。あたしのパパとママが今海外にいて、和馬お兄ちゃんの家で暮らしてるんだ」
あたしが事情を説明すると、なぜか雪野ちゃんが悲しそうな顔をしてあたしに問いかけてきた。
「パパもママもいなくて・・・さみしくない・・・?」
「えっと・・・」
改めてそう聞かれると、さみしくないわけじゃない。
やっぱり、時々パパとママに会いたくなる。
それは、ふたりから電話があったときとか、手紙が届いたときとか、和馬お兄ちゃんの家でひとりきりでお留守番しているときとか。
でも、あたしがパパとママと離れて暮らして、和馬お兄ちゃんと一緒にいたいって言ったから、そんなワガママは言っちゃいけない気がする。
それに・・・。
「さみしいときは、あるよ。でも、和馬お兄ちゃんとの暮らしも楽しいし、最近はロゼも一緒だから、毎日が賑やかでさみしいのは少しだけだよ」
笑いながら明るくそう言ったら、雪野ちゃんは意外そうな顔をした。
でも、これがあたしの本音。パパとママに会いたいけど、和馬お兄ちゃんとロゼと一緒に暮らす今の生活も大好きだから。
「・・・人の家の前でいつまでそうやって語り合ってるつもりだ?」
「和馬お兄ちゃん?!」
突然背後からお兄ちゃんの声が聞こえて、あたしは驚いて振り向いた。すると、そこには呆れたような表情を浮かべた和馬お兄ちゃんが立っていた。
今の話、聞かれちゃったかなぁ・・・?
「和馬お兄ちゃん、あのさ・・・」
「あれ、その子は・・・」
あたしが尋ねるよりも先に、和馬お兄ちゃんが雪野ちゃんを見つけてそうつぶやく。すごくびっくりしたような顔で。
「愛良、その子はいったい・・・?」
「和馬お兄ちゃんも覚えてる?この前、電気屋の前にいた子」
「あ、あぁ・・・」
「この子とね、話をしたくて連れてきたの」
「そ、そうか。じゃぁ、早くあがってもらえ」
少し動揺した様子で鍵をあけようとしている和馬お兄ちゃんの背中に、あたしはダメ元で聞いてみた。
「ねぇ、お兄ちゃん。和馬お兄ちゃんも一緒に雪野ちゃんの話を聞いてほしいんだけど?」
「え・・・?・・・あ、あぁ、わかった」
「・・・あ、あれ?」
てっきりばっさりといやだって言われるかと思ったら、あっさりと承諾してくれたから、むしろあたしの方が驚いちゃう。
そんなことをしている間に、玄関の鍵をあけようとしたお兄ちゃんの眉が寄った。
「お兄ちゃん?」
「鍵が・・・開いてる」
「えぇ?!泥棒?!」
「・・・泥棒くらいだったら、かわいいもんだけどな・・・」
静かにそうつぶやいたお兄ちゃんの雰囲気が、すごく冷たくてぞっとするようなものに変わる。
表情も厳しくて、なにかを強く警戒しているような感じになってる。
「愛良たちは、俺がいいと言うまで入ってくるなよ」
「う、うん・・・」
まさかまさか、泥棒に出くわしたらどうしよう・・・。
そう思いながら、ドアノブに手をかけた和馬お兄ちゃんの背中を心配しながら見守っていたら・・・、勝手にドアが開いた。
内側から。
「・・・あら?おかえりなさい?」
「ロ、ロゼ~・・・」
なんと、ひょっこりとロゼが家の中から現れたのだ。
なんだ、ロゼが家にいたんだ~。
でも、なんで鍵をかけてなかったんだろ?かけわすれ?
「私が誰もいないこの家に戻ってきたときに、すでに鍵はかかってなかったわよ?だからわざと鍵をかけなかったのよ?ちなみに、ナイトが今朝一番最後にこの家を出たけれど?」
にっこりと綺麗な顔を笑顔にして、和馬お兄ちゃんに詰め寄るロゼ。
「・・・そ、そういえば・・・鍵をかけ忘れた・・・かも・・・」
「不用心なナイトねぇ」
「和馬お兄ちゃん~」
「わ、忘れたのは悪かったけど、ロゼも帰ってきてるなら鍵をかけたっていいだろ?」
「あら、余計なおせっかいはしない主義よ?・・・それよりもナイト・・・」
いたずらっぽく笑ってから、ロゼはじっとお兄ちゃんを見つめてぽつりと小さな声で言った。
「私に禁じたくせに、あんな露骨な殺気は放つものではないわよ?」
「・・・わかってる」
「ならいいわ」
むっとした様子で言い返した和馬お兄ちゃんに再びにこりと笑いかけてから、ロゼはあたしにも笑いかけた。
「驚かせちゃったわね、プリンシア。これからちょっと出掛けるから、お夕飯はいらないわ」
「今夜もお仕事?」
「そんなところね。・・・子羊ちゃんもごゆっくり。じゃぁね」
子羊ちゃん?雪野ちゃんのこと?
ひらひらと手を振りながら去っていくロゼを見送りながら、あたしは首をかしげてた。
「・・・っとに、喰えない奴」
和馬お兄ちゃんはそんなことをぽつりとつぶやいていて。
横を見ると、雪野ちゃんが混乱した様子で立ち尽くしていた。
た、たしかにちょっと今、慌ただしかったかも?
「あ、あのね、雪野ちゃん。今の美人な外人さんがロゼっていって、最近一緒に暮らし始めた人なの」
嘘かホントかわからない、日本人を調査に来たスパイっていうのはあえて言わないで。
「で、この人があたしの恋人の和馬お兄ちゃん」
「誰が恋人だ、誰が。とにかく、あがってもらえよ」
ちょっと疲れた様子でお兄ちゃんが先に家に入る。あたしと雪野ちゃんもそれに続いて、リビングに落ち着いた。
「で?何の話をするんだ?」
冷たい飲み物を三人分持ってきてくれたお兄ちゃんがそう尋ねてきたので、あたしもすぐに本題に入ることにした。
「この子がね、怪盗夜叉に<依頼>したんだって」
「あ、それは・・・」
秘密なはずの話をあたしがお兄ちゃんにしたから、雪野ちゃんが慌ててあたしを止めようとする。
「大丈夫。和馬お兄ちゃんは夜叉の友達だから。ね?」
あたしはわざと責めるような意地悪な視線をお兄ちゃんに送った。すると、お兄ちゃんは少し慌てた様子でそれを否定してきた。
「だから、友達とかじゃないって言ってるだろ?ただの知り合いだって」
「でも、夜叉に会ったことがあるんでしょ?」
「それは・・・」
「なんで夜叉と会えたの?」
じぃっと見つめてあたしが問えば、横にいる雪野ちゃんも同じように和馬お兄ちゃんを見てる。
お兄ちゃんはあたしと雪野ちゃんを交互に眺めてから、盛大なため息をついた。
「・・・誰にも言わないって誓えるか?友達にもだぞ?」
「うん、誓う!!」
あたしが即座に答えれば、雪野ちゃんも何度も頷く。お兄ちゃんはあたしたちから視線をはずして、ためらいがちに口を開いた。
「・・・夜叉に助けられたんだよ」
「・・・え?」
「どうしようもないくらいに困り果ててたときに、夜叉が現れて、俺を助けてくれたんだよ!!ただそれだけ!!くっそぉ、恥ずかしいから宗次たちにも言うなよ?!」
本当に恥ずかしそうにお兄ちゃんは片手で口を覆って、悔しそうにあたしを睨む。
そっかぁ、お兄ちゃんも夜叉に助けてもらったんだ!!
あたしも二度も夜叉に助けてもらってるから、お兄ちゃんと一緒だ!!
「・・・・・・なに、ニヤニヤ笑ってるんだよ、愛良」
「ふふふ~。お兄ちゃんってば、恥ずかしくてあたしにそれを言えなかったの~?」
「わ、悪いかよ?!」
「ううん~。じゃぁ、恥ずかしい秘密を教えてくれたお兄ちゃんに免じて、昨日の浮気は許してあげる!!」
「・・・だから浮気じゃないっての。だいたい、里奈たちもいたぜ?」
「え?そうなの?」
「とにかく、その子の話を聞かせろよ」
「あ、そうだった」
雪野ちゃんの存在をすっかり忘れてお兄ちゃんの尋問を開始しようとしたあたしを、お兄ちゃんが呆れた様子で制止してきた。
たしかに、お兄ちゃんの浮気疑惑も気になるところだけど、今は雪野ちゃんの話が先だわ。
「愛良はなんでその子が怪盗夜叉に<依頼>したって知ってたんだ?」
「朝、学校に行ったら噂になってたんだよ。それで、雪野ちゃんにうちで詳しい話を聞かせてってお願いしたの」
「ふぅん・・・」
それだけ言って、お兄ちゃんは目を細めて雪野ちゃんをじっと見つめてた。雪野ちゃんはそんなお兄ちゃんの視線から逃げるように、あたしの方を向いたから、あたしはさっそく本題に入ることにした。
「雪野ちゃんはどうやって夜叉に<依頼>をしたの?」
「・・・この前の夜叉の予告日に、美術館のそばにいたの。そしたら、知らないお兄さんが、怪盗夜叉に会える場所を教えてあげるって言って・・・美術館の裏口から、人気のない通路まで案内してもらったの。・・・そしたら、夜叉に会えた・・・」
「知らないお兄さんが、夜叉に会わせてくれた・・・?」
あたしは身に覚えのあるその展開に、眉を寄せた。
まさか・・・。
「そのお兄さんって全身黒づくめで、長い黒髪?」
「うん、そうだったけど・・・?」
「夜叉を狙ってるヤツだ・・・」
あたしも一度はその男のおかげで夜叉に会うことができた。
でも、そのあとなぜか銃撃戦に巻き込まれ、誘拐までされた。しかも、ソイツは怪盗夜叉のことを銃で撃ってた!!
その男が、今度は雪野ちゃんを巻き込んだの?!
「ね、ねぇ、そのあとその男に会ったりした?」
「ううん?ないよ?それどころか、本当に夜叉に会うことができて、<依頼>を聞いてもらえることになったんだもん」
雪野ちゃんは、突然あたしが剣幕を変えて質問してきたから、驚きながらも首を横に振った。
すると、お兄ちゃんが横で聞こえるかどうかの小さな声でつぶやいたのがあたしには聞こえた。
「・・・くそ、やっぱりアイツの手の上か・・・・・・」
その言い方に、あたしはちょっとひっかかりを覚えて・・・そして、思い出した。
そういえば、あたしが誘拐されたとき、お兄ちゃんとあの長い黒髪の男が電話で喋ってた。
お兄ちゃん、まさか・・・。
あたしは、信じられない思いで、目の前に座っているお兄ちゃんを見つめた。
なんで…前中後編になってるんでしょうね?
それは、紫月には無駄が多いからです……(汗)
ロゼが初めて、日本語のニックネームをつけました(笑)子羊ちゃんって。
怪盗夜叉に依頼した、迷える子羊ってことで子羊ちゃんってことになってます。
さて、愛良は何に感づいたのでしょうか?
まさかまた長髪黒髪の男の話が再浮上するとは、ちょっと思ってませんでした(笑)
和馬くん、ピンチです。




