13、小さな依頼人 <Side 愛良>(中編)
雪野ちゃんが怪盗夜叉に会うことができたのは、黒ずくめのお兄さんのおかげだって言ってた。
あたしだって、一度は彼のおかげで夜叉に会うことができた。でも、次に会ったときは銃を向けられたし、誘拐されたりもした。
彼は絶対いい人なんかじゃない。
雪野ちゃんは騙されているんだわ。
でも、あたしはもうひとつの事実も知ってる。
その黒ずくめのお兄さんと、和馬お兄ちゃんが、知り合いかもしれないってこと・・・。
13、小さな依頼人▲ <Side 愛良>(中編)
じぃっとお兄ちゃんを見つめているのに気づいたのか、和馬お兄ちゃんは困ったようにあたしを軽く睨む。
「・・・なんだよ、愛良」
「・・・知ってるでしょ?」
「なにが?」
「その黒ずくめの男の人、お兄ちゃんも知ってるでしょ?」
あたしがずばりと切り出せば、お兄ちゃんが息を呑むのがわかった。
「な、なにを・・・」
「あたしがアイツに捕まったとき、お兄ちゃん、あたしの携帯で喋ってたもん」
「そ、それはだな・・・」
「別に隠さなくていいよ、お兄ちゃん。でもね」
あたしはそっと、お兄ちゃんの大きな手にあたしの手を重ねる。
慰めるかのように。
「お兄ちゃん、かわいそうだけど、騙されてるんだよ?」
「・・・は?」
「あの人はね、一見優しくていい人に見えるけど、ぜんっっぜん違うんだから!!笑い方とか冷たいし、拳銃振り回してるし、睡眠薬使ったりしてくるし!!なのに、なぜかすごい甘党だし!!」
和馬お兄ちゃんまであの黒づくめの男が優しい人だと勘違いしている違いないと思ったあたしが力説すると、なぜかお兄ちゃんはきょとん、とした表情でこちらを見てきた。
ふと、あたしは自分で言っていて、あることを思い出した。
あの男の人もびっくりするくらいケーキを大量に食べる甘党だったけど、ロゼも同じくらい甘党だ。
「・・・う~ん・・・」
「あ、愛良?なにを考えてる?」
「あの男の人も、ロゼも甘党だなぁって・・・」
「え、え~っと、愛良、それは・・・」
「最近あたしが出会う人は甘党ばっかりってことだよね?まさか、お兄ちゃんまで甘党?!」
真剣にあたしが問いかければ、なぜかお兄ちゃんは一瞬目を丸くしたあと、がくり、と項垂れて力なく首を横に振った。
「・・・いや、俺は甘党じゃないと思う」
「ほんと?!よかった、みんなケーキとか甘いものいっぱい食べる人ばっかりなんだもん」
あたしは上機嫌にお兄ちゃんにそう返事をしてから、はっと本来の話題を思い出して、ぐるりと雪野ちゃんに向き直った。
「だからね、雪野ちゃん!!あの黒ずくめのお兄さんをあんまり信用しちゃだめよ?!夜叉に会わせておいてなにか企んでいるに違いないんだから!!」
「・・・そりゃ言えてる・・・」
「ん?なにか言った、お兄ちゃん?」
「いや」
「ふぅん?・・・それで、雪野ちゃんが<依頼>した内容ってどんなの?」
「それは・・・」
それまであたしが喋ってばかりで黙っていた雪野ちゃんが、困ったようにあたしと和馬お兄ちゃんを交互に眺める。
あたしはすぐに胸を張って雪野ちゃんに笑いかけた。
「大丈夫だよ、雪野ちゃん。雪野ちゃんの<依頼>内容は、あたしとお兄ちゃんの秘密にするから!!」
「・・・お前、いちいち俺を巻き込むなよ・・・」
「あら、お兄ちゃんはあたしと恋人同士なんだから、一心同体でしょ?」
「・・・もう、いちいちつっこむ気にもなれない・・・・・・」
がくっと再び項垂れたお兄ちゃんはとりあえず置いといて、あたしは雪野ちゃんに向き直った。
「ね?だから、教えてくれないかな?」
「・・・うん」
不安そうに、でもしっかりと、雪野ちゃんは頷いて返事をしてくれた。きっと、本当は誰かに相談したかったのかもしれないよね。
「・・・怪盗夜叉に、宝石箱を盗んでほしいって<依頼>したの」
「宝石箱?それって、何か特別高価なものだったりするの?」
「ううん。ママが、死んだおじいちゃんからもらった、形見なの」
「そっか・・・。でも、それがなんで夜叉に盗んでほしいってことになったの?」
「それは・・・」
雪野ちゃんは俯いて、ぎゅっと拳を握りしめる。
「叔父さんが、その宝石箱を奪っていったから・・・」
「叔父さんが?!なんで?!」
あたしがびっくりして問い返せば、雪野ちゃんは俯いたままそれに答えてくれた。
「叔父さん、最近、変なの。新しいお仕事見つかったって喜んでいたのかと思ったら、最近は毎日ビクビクしてる。突然怒鳴り散らしたり、お金をたくさん持っていっちゃったり、勝手に雪野たちの物を売ったりして・・・」
「・・・・・・う~ん・・・」
その叔父さんって、もしかして、いわゆる<悪い人>ってやつなのかなぁ・・・。
「前は優しい叔父さんだったんだよ?パパもいない雪野に、いっぱい優しくしてくれたもん」
「雪野ちゃん・・・パパがいないの?」
「雪野が小さいときに、事故で死んじゃった・・・」
悲しそうに言う雪野ちゃんに、あたしは何て言っていいかわからなくておろおろしながらお兄ちゃんを見上げた。
すると、お兄ちゃんはすごく優しい表情で雪野ちゃんの頭を軽く叩くと、そのままあたしの頭も慰めるようにぽんぽん、と叩いた。
「・・・それで、その叔父さんから宝石箱を取り戻したくて夜叉に<依頼>したのね」
「うん。雪野が叔父さんに何度も『返して』ってお願いしても、聞いてもらえないから・・・」
「死んじゃったおじいさんの形見だったら、大事なものだもんね?」
「ママはすごく大事にしてた。だから、叔父さんに奪われちゃったときは、毎日泣いてたもん」
今は雪野ちゃんが泣きそうになりながら、あたしに話してくる。
「そっか・・・。だから、夜叉も雪野ちゃんの<依頼>を受けてくれたのね?」
「うん。でもね、待ち合わせ場所に来たのは、女の人だったんだよ」
「女の人が?」
「あ~え~っと、雪野ちゃんだっけ?怪盗夜叉は、どうやってその宝石箱を盗ってくると思う?」
せっかくあたしと雪野ちゃんで話をしていたのに、和馬お兄ちゃんがまるでそれを遮るように、雪野ちゃんに質問してくる。
雪野ちゃんも、尋ねられたことは答えなきゃって思ったのか、あたしとの話を中断してちょっと考える素振りを見せた。
「う~ん・・・。あの宝石箱がどこにあるか、雪野は知らないから、夜叉がどうやって盗んでくるかはわからない・・・」
「宝石箱がどこにあるかわからない?叔父さんに奪われたなら、叔父さんが持ってるんだろ?」
「ううん。叔父さんは、もうあの宝箱が欲しいって言った人にあげちゃったから、ないって言ってた」
「おいおい、マジかよ・・・」
なぜか、お兄ちゃんが困ったように宙を仰ぐ。
なんだか雪野ちゃんの<依頼>も大変そうだなぁ。
でも、きっと。
「大丈夫だよ、雪野ちゃん。きっと夜叉はその宝箱を雪野ちゃんのために盗ってきてくれるよ!!」
「愛良、怪盗夜叉は泥棒だぜ?犯罪者の肩を持つのか?」
和馬お兄ちゃんの突然の意地悪な発言に、雪野ちゃんは困ったようにあたしを見上げ、あたしはむっとした表情でお兄ちゃんを見返した。
「夜叉は悪い泥棒じゃないもん。盗んでもちゃんと返してるし、その盗んだものがもともと盗品だったら、本当の持ち主のところに返してるし!!」
「知ってるか、愛良?それを世間は<愉快犯>って呼んでるんだぜ?」
そうやって意地悪な表情であたしに言ってくるお兄ちゃんの目は、あたしをからかうときみたいに笑ってもいないし、楽しそうでもない。
むしろ、なんだかすごく悲しそうで、あたしはなんとかして夜叉を庇うためにも、お兄ちゃんに言い返そうと考えてみる。
きっと、そうした方が、お兄ちゃんの翳りのある瞳に、光を射し込める気がしたから。
「でも、きっと、夜叉にはなにか目的があるんだもん!!それに、夜叉は絶対に警察の人や、見学に来た人に怪我をさせたりしない。あたしのことだって、庇ってくれたもん!!お兄ちゃんだって、さっき、夜叉に助けてもらったって言ってたじゃない!!」
一気にあたしが捲し立てると、ふっとお兄ちゃんの表情が和らいだ。
「・・・・・・まぁ、たしかに・・・夜叉に救われているところもあるな・・・」
そして、苦笑してからあたしの頭をまた優しく撫でてくれた。
「悪い。ちょっと、意地悪だったな」
「ちょっとじゃないよ、だいぶだよ」
あたしの頭を撫でてくれるお兄ちゃんの雰囲気は、もういつものお兄ちゃんのもの。表情も、さっきみたいに堅くないし、瞳に翳りもない。
いったい、何がお兄ちゃんをさっきみたいにさせたのかな・・・?
「宝石箱の場所もわからなかったら・・・夜叉は探せないかな・・・」
「でも、怪盗夜叉は不可能を可能にしてきたんだよ!!きっと雪野ちゃんのママの宝箱も雪野ちゃんのところに届けてくれるよ!!夜叉はどうやって雪野ちゃんに返すか教えてくれたの?」
「うん。今週の土曜日の夜に、雪野の家に届けるからって」
「と、いうことは、土曜日の夜に夜叉が雪野ちゃんの家に現れるのね!!」
あたしは思わずガッツポーズを作って、ソファーを立ち上がった。
だって、これは大チャンスだもん!!
また怪盗夜叉に会えるかもしれない!!
「雪野ちゃん、あたしも土曜日の夜に、雪野ちゃんのお部屋で夜叉を待たせて!!」
「え、えぇ?!」
「愛良?!」
雪野ちゃんの手をしっかりと握りしめてお願いすると、雪野ちゃんは驚きの声をあげて、なぜか和馬お兄ちゃんもびっくりした声であたしの名前を呼んだ。
「愛良、なに考えてるんだよ、お前・・・」
「だって、夜叉に会うチャンスだよ?雪野ちゃんの部屋で夜に待ってたら、夜叉が来てくれるんだよ?」
「・・・愛良、土曜は塾だろ?」
「土曜日は昼間だけだもん~」
べぇっとあたしはいたずらっ子のように舌を出す。お兄ちゃんは段々呆れ顔になりながらも、なんとか反対する理由を探してるみたいだった。
「でも、夜に出歩くのは危ないだろ?その日は俺、バイトだし。ロゼだって当てにはならないぞ?」
「だ~いじょうぶ!!お兄ちゃんに誕生日プレゼントでもらったコレがあるもん!!」
じゃじゃん、とあたしが取り出したのは、この前和馬お兄ちゃんがあたしの誕生日プレゼントとしてくれた、防犯ブザー。
お兄ちゃんがそばにいない夜でも危なくないように考えてくれてたなんて、これこそ愛だわ!!
だから、お兄ちゃんの心配をよそに、あたしはその防犯ブザーをお兄ちゃんに思い出させるように見せた。
「そ、それはそういうために用意したものじゃ・・・」
「でも、これがあったら、危なくないでしょ?だから、土曜日の夜は雪野ちゃんのおうちに行ってくるね!!大丈夫、夜叉に会えたらちゃんと帰ってくるから~!!無断外泊なんてしないよ~」
「そーゆー心配をしてるんじゃなくてだなぁ・・・」
「そんなわけで雪野ちゃん、よろしくね」
きょとんとしたままの雪野ちゃんに、あたしは念押しするようににっこりと笑いかけて言った。
「愛良、雪野ちゃんだって困ってるだろ?やっぱりここはおとなしく・・・」
「ううん!!一緒にいてくれたら心強い!!」
お兄ちゃんの言葉を遮って、雪野ちゃんが慌ててそう言ってくれた。あたしは素直に喜び、お兄ちゃんはびっくりした様子で雪野ちゃんを凝視していた。
「やった!!じゃぁ、土曜日はよろしくね、雪野ちゃん!!」
月曜日にそんなことがあってから、お兄ちゃんは毎日のように顔を合わせれば、土曜日はおとなしく家にいなさい、とか小言のように言ってきたけど、あたしはことごとく無視することに決めていた。
その間も、お兄ちゃんもロゼもバイトやお仕事が忙しいみたいで、あまり家にいなかった。
特に、ロゼはこの一週間、あまり顔を合わせていない気がする・・・。
「それじゃぁ、プリンシア。今夜は泊まり掛けの仕事だから、帰るのは明日の夜になると思うわ」
金曜の夕方、あたしが学校から帰ってくると、ロゼがちょうど家を出ようとしているところに出くわした。
「泊まり掛けなんだ~。最近ロゼが忙しそうだから、寂しいな~」
「あら、うれしいことを言ってくれるのね、プリンシア。大丈夫よ、今の仕事が片付けば、またプリンシアとのんびり過ごせるから。明日はお留守番よろしくね?」
「ほんとに?!じゃぁ、お仕事が早く終わるようにがんばってきてね!!あ、でも、明日はあたしも家に帰るのが遅くなるかも・・・」
あたしがそう言えば、ロゼは綺麗な金色の髪を揺らして首をかしげる。
「いつもの塾?」
「ううん。友達の家に行くの。ほら、前にロゼがちらっと会って、<子羊ちゃん>って言ってた子!!」
「あらあら、子羊ちゃんのところに行くのね」
そう言って、ロゼはくすくすと笑い始めた。なにがそんなにおもしろいんだろ?
「じゃぁ、明日は楽しい夜になりそうね」
いたずらっぽく笑いながら、ロゼはそう言って出ていった。
一方で、上機嫌ででかけたロゼと入れ違いに帰ってきた和馬お兄ちゃんは、なんだかすごく機嫌が悪そうだった。
「愛良、ロゼに明日のこと、話したのか?」
「雪野ちゃんの家に行くってことだけ教えたよ?」
それがお兄ちゃんの不機嫌の原因?なんでだろ…?
「ロゼに会ったの?」
「あぁ、そこで会った」
「ロゼになにか言われたの?」
「いや?楽しそうに嫌味ったらしい笑みを向けてきただけだ」
むすっとそう答えてから、お兄ちゃんは部屋に籠っちゃった。
お兄ちゃんも、ここ一週間、なにが忙しいのか、部屋に籠っている時間が長い。
あたしは、お兄ちゃんに相手にしてもらえないし、宗次お兄さんたちも今週は遊びに来てくれないから、勉強がすごくはかどった。受験生だから、勉強がはかどるのはいいけど、でも、やっぱり寂しい・・・・・・。
今週はみんな忙しいのね。
あたしもいそいそと明日の用意をしながら、夜叉にどうやって<依頼>をしようか、考えてみる。
怪盗夜叉は、必ず雪野ちゃんのママの宝石箱を持って、雪野ちゃんの家に来る。
雪野ちゃんとの約束を、夜叉はきっと、守ってくれる。
だから、あたしがそこで一緒に待機していれば、あたしも夜叉に会うことができるはず。
今度こそあたしは怪盗夜叉に<依頼>をしたい。
<エーゲ海のエメラルド>を盗んできてほしいって。
あたしは、明日起きるであろう出来事に思いを馳せて、ひとりで興奮していた。
夜叉と愛良が絡もうとすると長くなりますね(泣)
で、和馬くんのピンチは愛良の暴走勘違いによって救われてます(笑)
そしてすいません・・・・。
なぜか引っ張るだけ引っ張ってしまった、和馬が愛良にプレゼントした代物・・・。
それは防犯ブザーだったのです。
これをふまえて、12話の最後の里奈たちのセリフをもう一度読んでもらえれば、「和馬、女心とかの問題以前だよ」とツッコミたくなるでしょう(笑)
これを真剣に考えつつも天然でやっちゃうのだから、和馬も愛良に負けずに天然かもしれない、と最近思うのです(笑)




