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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
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番外編:最後のトレジャーハント







イタリアの首都ローマから少し離れた、悲劇的な過去を抱く都市ポンペイ。


ヴェスヴィオ火山による大噴火により、街ごと民も一瞬にして死に絶え、約1500年もの間火山灰の下に埋もれていた幻の商業都市。


スペイン国王カルロス3世の手によって蘇った悲劇の古代都市は、世界遺産にも記録されている巨大な遺跡である。



そして、今や立派な観光地ともなったポンペイの遺跡に、入場時間も過ぎた人気もない深夜にひとりのトレジャーハンターが、ある意味命懸けの重大な任務を抱えて、忍び込んだ。







最後のトレジャーハント






トレジャーハンターとは、ただの宝探しを趣味としているような連中とは違う。


危険だってたくさんあるし、トラップの下調べ、対策、道具の準備等もろもろある。


まして、それがプロとして活動する身の上ならば、なおさら入念かつ、絶対の奪取を求められる。どんなトラップがあろうとも、傷一つなく、その獲物を手中におさめなければならない。



そして、どんなライバルがいようとも、絶対に我が物にしなければならないのは鉄則である。



そんなカルロは、イタリアを中心に活躍するプロのトレジャーハンターである。


プロ、と名乗っている時点で、当然『裏』からの依頼も絶えない。それでも危険度を鑑みて依頼を受けるかどうかを考えるのだが、今回に限っては、カルロにその選択権はなかった。


ゆえに、しぶしぶといった様子で、彼はポンペイの街に足を運んだのだった。



・・・クソ、なんでよりにもよって、あんな大物が<依頼人>なんだ。





カルロは内心舌打ちしつつ、今回の<大物依頼人>のことを脳裏に浮かべた。


この<依頼人>は裏世界では結構名が知れ渡っている、ある分野でのプロである。


たしかに、トレジャーハンターではないが、この<依頼人>の専門分野でも、今回の獲物を奪うことくらいできそうなものだが・・・・・・。


とにかくも、その裏世界に轟く名声と、この<依頼>を断ったあとの自らの身の振り方に危機感を覚えたカルロは、<依頼>を受けるしかなかった。


・・・失敗は許されない。









目的の獲物があるのは、ポンペイの遺跡の街中、灰に埋もれた大浴場跡のとある一角。


じつはその中に隠し扉があり、その先に進むと、暗号と共に獲物が待っているのである。しかし、それは巧妙に用意されたトラップのお出迎えを超えた先の話ではあるが。



「・・・ふん、オレにかかれば、こんなもん、ちょろいぜ」



そう言って数々のトラップを乗り越え、獲物を握り締めるカルロは、その台詞とは裏腹にちょっと満身創痍だったりもするのだが、そこは彼のプロの意地とプライドにかけて態度にも口にも出さない。


それよりも、なんとか<依頼人>の<依頼>を達成できそうで、ほっと胸をなでおろし安心したカルロである。




だが、油断大敵。


遠足は、家に帰るまでが遠足。


トレジャーハンターの<仕事>は、獲物を<依頼人>に渡すまでが<仕事>である。



意気揚々と獲物を抱えながら隠し扉から脱出してきたカルロは、油断していた。


突然、黒い塊が彼に襲いかかってきて、獲物を抱える彼の手を弾いてきたのだ。


「あっ・・・・・・!!」



突然襲いかかってきた黒い塊が、鞭であったことはすぐさま理解できたが、苦労した先にやっと手に入れた獲物が、その鞭に奪われたことに気づくまでにカルロは時間がかかった。


それほどまでに、彼のショックは大きかった。


・・・<依頼人>があの大物だけに・・・・・・。




「誰だ?!」


「・・・ふむ。ポンペイの遺跡が発見された年次とこれらのシリーズが散らばった年次とに誤差があるから、得た情報に半信半疑だったが・・・・・・あの情報屋も捨てたものではないな」


「・・・・・・だれ、だ・・・?」


月明かりの逆光で、声の主の姿がよく見えない。


けれど、声の主こそが、先ほど鞭を使ってカルロの手中から獲物を盗み取った輩だというのはわかった。




「あの隠し扉はあとから遺跡に紛れて用意されたもののようだな。御苦労だったな、トレジャーハンター君?」


からかうようにカルロに話しかけた声の主は、少し身体を反らし、立ち位置を変えた。そのお陰で、カルロはその憎き相手の姿を拝むことができた。




「なっ・・・!!」



しかし、今度はその姿に声を失ってしまう。


月明かりに照らされて現れた、カルロから獲物を奪った無礼者の姿が、あり得ないほど滑稽で・・・・・・現実ではありえないほど、摩訶不思議であったのだから・・・・・・。





一瞬仮面かと思うほど、真っ白に塗りたくられた顔。


そして両目を覆うようにして縦に描かれた黒い筋。


笑む口端。


そんな奇抜で奇妙な顔とは対照的な、動きにくそうな燕尾服と頭上には黒いシルクハット。



「ピ、ピエロ・・・・・・?」


「残念、はずれ」


ニッコリと笑ってくるその顔は、本当にまるでサーカスのピエロのようだ。


だけど、首から下の格好がそれを裏切っている。



茫然としていたカルロだったが、すぐに彼は自らの<仕事>を思い出し、その奇妙な男が手に握る獲物を指さした。


「そ、それを返せ!!これはオレが手に入れた、獲物・・・・・・!!」


「うん、ご苦労だったね。ワタシも厄介な場所に置いてあるこれを取りにいくのに、自分で行くか、プロに依頼するか迷っていたから」


あっさりとカルロの主張を聞き流すと、ピエロのような顔をしたその男は背を向け歩き始めた。



「ま、待て!!」


カルロは必死になって、触れるのも躊躇われるようなその奇妙な男に飛びかかった。



なぜなら、この獲物を<依頼人>に渡せなければ、自分の命はどうなるのかわからないのだから。


摩訶不思議な得体の知れない不気味な奇妙な男に触れるのがいやだ、などと言っている場合ではない。


ここで、懐に忍ばせている拳銃であの男を撃たないあたりで、すでにカルロの思考回路は混乱の極地にはあったのだが。



しかし、いったいどうしたものか、カルロはたしかにその男に向かって飛びかかったというのに、何の感触もなく、彼は遺跡の街の地面にダイブすることになった。


慌てて立ちあがって見渡しても、人影ひとつ見当たらない。



「・・・うそだろ・・・・・・」



そのつぶやきは、煙のように消えてしまったあの奇妙な男のことか、それとも、奪われた獲物のことか、それを知るのはカルロ本人だけである。


わかっているのはたったひとつ。



<依頼>を達成することができなかった、という事実である。











「・・・それで?まさか、プロの君が、手ぶらで仕事の失敗を報告するためだけにここに来たわけじゃないよね?」


「えっと・・・・・・」



約束の日時と場所で、カルロは<依頼人>である、裏世界の大物と対峙していた。


すでにコトの成り行きが恐ろしくてたまらないカルロは、相手の顔をまともに見ることもできず、今回の出来事をどう報告するべきか思考を巡らせていたというのに、なにもかもすでにお見通しなのか、出会い頭に、いきなり相手にそう言われた。



恐怖にすくみながらも、気を失わずにここに立っている自分に、カルロは自らのことながら、舌打ちしたくなる。


気を失っていられたら、どんなに楽なことか!!




「獲物を横取りされて失敗しました。たったこれだけの報告でわたしの<依頼>を終わらそうとは思ってないよねぇ?アマチュアの遊びじゃあるまいし。君はこちらの世界でも割と名の通ったトレジャーハンターなんだよ。もちろん、<プロ>の」


プロ、というところを強調して、相手は静かにそう語る。



言われた言葉の節々に、自らを誇ってもよさそうなものあったはずなのだが、今のカルロにそんな余裕はない。


硬直したまま、目の前の恐怖を噛み締めている。



「あの獲物を自分で取りに行くには、今回わたしはわたしで別件の用事があったからできなかったんだよ。でも情報は流れ始めていたしね、他の輩に奪われる前にアレを手に入れたいと思って、君の力を信用して<依頼>したのだけどね」



何が怖いって、その口調と内容とは裏腹に、相手の声色は明るく軽快なことなのだ。


その明るく冷静な流れるような声音が、硬直する彼にさらりと恐怖を誘ってくる。



「まさかというか、やっぱりというか、よりにもよってアイツに奪われるなんてね」



気配に敏感なわけでもないカルロでさえ、突然目の前の人物が放った戦慄な気配に思わず顔を上げた。


・・・上げてしまった。


怖い物見たさ、というものもあったのかもしれない。



けれど、彼は直後にひどく後悔した。



そこにあったのは、こちらを見る、<依頼人>の顔。


サングラスのせいで表情は半分ないに等しかったが、なぜか口端は笑ってる。



・・・笑ってる、笑ってるのだ。


なんで、笑ってるのだ・・・・・・。




「獲物を横取りされるなんてね。まさか、プロたる君がね」


にこにこと笑いながら、軽快な明るい声で、<依頼人>はそうカルロに言う。



なんで笑ってるんだ?!


なんでそんな明るい声なんだ?!


怒ってる・・・怒り狂ってるに違いないのに、なんでそんな明るく笑顔なのだ?!


いっそ顔と態度に表してくれ!!!



もちろん、そんな恐怖心を煽るような態度も<依頼人>の策略であることは、動揺中のカルロにはわからない。


ただただ、彼はせめて命だけは無事にこの場から離れられることを祈った・・・・・・・・・。






数日後、再起不能までに叩きのめされたカルロは、トレジャーハンターを廃業し、さんさんと太陽の光が降り注ぐポンペイの街に自嘲の笑みを浮かべて佇んでいた。


その姿は、まるで廃人のようであったとかなかったとか。



そして、プロのトレジャーハンターであったカルロの最後の仕事の<大物依頼人>が、<ノワール>と呼ばれる裏世界では有名な殺しのプロであったことは闇の中である。





前回に引き続き、ノワール・スペシャルです(笑)

前回はお仕事するノワールで、今回は依頼するノワールってことで。

最後のカルロとノワールのやりとりを書きたくて書き始めました。

ノワールを主役にするとあちこちを舞台にできるので楽しいです☆

そして、あいかわらず若干フライング気味なのは否めません・・・・・・。

時間軸は、前回のお話よりもわりと前にあたるかもしれません。

これ、と決まってない時間軸のお話だったりします(汗)

次回はまた、本編に戻ります~。

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