↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/22

グレイザ

旧村の復興を手伝い始めてから、さらに数日が経った。


 最初に来たときは十五年間放置された廃村にしか見えなかった場所も、今では少しずつ人が暮らす場所に戻り始めている。道を塞いでいた瓦礫はほとんど片づき、何軒かの家には新しい屋根がついた。畑を覆っていた雑草も取り除かれ、水路には川から引いた水が流れている。まだ全員が移り住める状態ではないが、すでに何家族かは元の家へ戻っていた。


 俺も毎日復興を手伝ったおかげで、旅を続けるには十分な金を稼げた。大金というほどではないが、食費と宿代を考えればしばらくは困らない。


 ティアは結局、最後までほとんど働かなかった。


「ティア、今日も働かなかったね」


「荷物運んだ」


「何運んだ?」


「お昼ご飯」


「自分の?」


「うん」


「それは仕事じゃないよ」


 本人に罪悪感はないらしい。俺が働いている間は村の子供たちと遊んだり、木陰で寝たり、食事を作っている人の近くをうろついたりしていた。それでも村人たちには妙に気に入られたらしく、働いていた俺より食べ物をもらっている。


 そしてガルドは、復興作業にはほとんど参加せず、古い鍛冶場に籠もり続けていた。


「ノア、ちょっと来い」


 出発を明日に決めた日の夕方、鍛冶場から出てきたガルドに呼ばれた。中へ入ると、作業台の上に黒い防具が置かれている。魔窟の奥で倒した巨大な魔物、その甲殻を加工して作ったものだった。


「できたの?」


「一応な。着てみろ」


 渡された防具は見た目よりずっと軽かった。胸から腹を守る形になっているが、全身を覆う鎧ではない。肩や脇にはかなり余裕があり、短剣を振る動きも邪魔しなさそうだった。


「もっと重いと思ってた」


「削るのに苦労したんだよ。硬すぎて何回道具駄目にしたと思ってんだ」


「村の?」


「……あとで直す」


「壊したんだ」


「仕方ねえだろ!」


 防具を身につけ、軽く体を動かしてみる。走るくらいなら問題なさそうだ。腕を上げても肩には引っかからない。


「いいじゃん」


「だろ?」


 ガルドが嬉しそうに笑う。


「まだ改良はできるけどな。旅しながら使ってみろ。動きにくいところがあったら直す」


「ティアのは?」


「あるぞ」


 ガルドがもう一つ、小さな防具を取り出した。俺のものよりさらに薄く、守る場所も胸と腹の一部だけになっている。


「ティア!」


 外へ向かって呼ぶ。


 返事がない。


「ティア!」


「何ー?」


 遠くから聞こえた。


 しばらくすると、串焼きを持ったティアが入ってきた。


「何食べてんの?」


「もらった」


「また?」


「うん」


「お前、この村で俺より稼いでない?」


「お金はもらってないよ」


「食費考えたら同じようなもんだろ」


 ガルドが防具を渡すと、ティアは串焼きを咥えたまま受け取った。


「これ私の?」


「ああ。着てみろ」


 ティアが防具を身につける。少し大きいように見えたが、ガルドが紐を調整するとちょうどよくなった。


「重い?」


「ちょっと」


「走れるか?」


 ティアが鍛冶場の中を軽く走る。


「走れる」


「透明になれるか?」


「やってみる」


 ティアの姿が消えた。


 防具も一緒に見えなくなる。


「おお」


 ガルドが声を上げた。


「着てる物も一緒に消えるんだな」


「今さら?」


 何もない場所からティアの声がする。


「知ってたけど、自分で作った物が消えると変な感じすんだよ」


 ティアが姿を戻した。


「ガルドのは?」


「まだだ」


「なんで?」


「お前らの作ってたら時間なくなったんだよ」


「じゃあもう少しいれば?」


「嫌だよ。早く他の魔物の素材も見たい」


「結局それか」


「当たり前だろ。ここにいたって新しい素材は増えねえんだから」


 ガルドは作業台の奥を見る。まだボスの甲殻はかなり残っているし、狼やトカゲ、蜘蛛型の魔物から取った素材も収納の中に大量にある。全部使い切るには相当時間がかかりそうだ。


「残りは持っていく。旅の途中で使えそうな場所があったらまた作る」


「鍛冶場ないと無理じゃない?」


「だから鍛冶場がある街に行けばいい」


「次の目的地決まったね」


「そんな理由で決めんのか?」


 特に行く場所も決まっていない。


 俺の目的は、五年前に連れ去られた村のみんなを探すこと。そして魔王を見つけること。そのためには人が多い場所で情報を集めた方がいい。


「近くに大きい街ある?」


「ああ。ここからなら四日くらいだ」


「どんなところ?」


「でかいぞ。ベルガより人も多い。商人も集まるから仕事もあるし、鍛冶場も借りられると思う」


「仕事あるの?」


「そこに食いつくと思ったよ」


「ご飯は?」


「お前はそこか」


 俺とティアを交互に見て、ガルドがため息をついた。


「じゃあ決まりだな」


「街の名前は?」


「グレイザ」


     


 翌朝、俺たちは村を出ることにした。


 旧村の入口には老人をはじめ、何人もの村人が見送りに来ていた。数日前まで魔物に怯えながら聖堂の周りで暮らしていた人たちが、今では朝から家や畑を直している。


「もう少しゆっくりしていってもいいんだぞ」


「十分稼がせてもらったので」


「そこなのか?」


 老人が笑った。


「魔窟のこと、本当にありがとうございました」


 近くにいた男が頭を下げる。他の村人たちまで頭を下げ始めたので、少し居心地が悪い。


「俺たちもなくなるとは思ってなかったんで。それに、ガルドが一回死んでますし」


「なんで俺の功績みたいに言ってんだ」


「一番頑張ったでしょ」


「まあ……それはそうだけどよ」


 ガルドは少しだけ満足そうだった。


 老人が俺を見る。


「お前さんたちが来なければ、わしらは死ぬまであの土地で暮らしていただろう。本当に感謝している」


「だったら、ちゃんと元の村に戻ってください」


「ああ。そのつもりだ」


「また魔物が出たら逃げてくださいね」


「分かっている。魔窟がなくなったからといって、油断はせんよ」


 まだ周辺に魔物が残っている可能性はある。魔窟が消えたことで本当に新しい魔物が現れなくなるのかも分からない。しばらくは警戒しながら暮らすという。


「ティアちゃん、これ持っていきな」


 村の女性が大きな包みをティアへ渡した。


「何?」


「パンと干し肉。あと焼いた芋も入ってるよ」


「ありがとう」


「俺には?」


「ノアはバイト代もらっただろ」


 ガルドに言われた。


「ティアは働いてないのに」


「働いてないから食料をもらってんじゃねえか?」


「それおかしくない?」


 ティアはもう包みの中を確認している。


「四日分ある?」


「一人で食う気かよ!」


 最後までいつも通りだった。


 村人たちに別れを告げ、俺たちは歩き始める。少し進んだところで振り返ると、老人たちはまだこちらを見ていた。


 俺は軽く手を上げて、そのまま前を向いた。


「次はグレイザか」


「ああ」


「何か面白いものある?」


「お前、遊びに行くんじゃねえぞ」


「ティアは?」


「ご飯」


「知ってた」


 俺たちは四日かけてグレイザを目指した。


 道中で何度か魔物に遭遇したが、以前ほど戦う必要はなかった。街道を使う人間も多く、途中には小さな宿場もある。魔窟で作った防具を試す機会もあったが、ガルドが作ったものは思った以上に使いやすかった。


 四日目の昼過ぎ、街道の先に大きな壁が見えてきた。


「あれ?」


「ああ。グレイザだ」


 近づくほど、その大きさが分かる。高い壁の向こうには何本もの煙突が見え、門へ続く街道には馬車や旅人が絶えない。ベルガとは比べものにならないほど人が多く、門の外にまで露店が並んでいた。


「でかいな」


「この辺じゃ一番栄えてる街だからな。仕事探すなら困らねえぞ」


「いい街じゃん」


「ご飯屋も多い?」


「お前はそれしかないのか?」


 ティアはグレイザより、門の近くに並ぶ屋台を見ていた。


 俺たちも人の流れに混ざって門へ向かう。その途中、後ろから馬車の音が聞こえたので道の端へ寄った。


 大きな荷馬車が俺たちの横を通る。


 何となく荷台を見る。


「……ん?」


 乗っていたのは荷物じゃなかった。


 人間だった。


 男も女もいる。若い奴もいれば、俺たちよりずっと年上に見える人間もいた。全員が汚れた服を着て、首には同じ形の金属製の輪がつけられている。両手を拘束されている者までいた。


 荷台の端には武器を持った男が座っている。


「何、あれ」


 俺が聞くと、ガルドは少しだけ黙った。


「奴隷だよ」


「奴隷?」


「ああ。この街じゃ珍しくない」


 馬車はそのまま門を抜け、グレイザの中へ消えていった。


 隣を見ると、ティアも黙って馬車を目で追っていた。


 周囲の人間は誰も気にしていない。


 商人は客を呼び、旅人は門へ向かい、子供たちは笑いながら走っている。


 まるで、今の馬車もその景色の一部でしかないように。


「……とりあえず入ろうか」


 俺たちは奴隷を乗せた馬車を追うように、グレイザの門をくぐった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。