転4
(5/1 1:50 予約投稿日時を間違えていて、未完成な状態で公開してしまっていました。1:10に気づいて慌てて書き直してなんとか完成させました。すみませんでした)
「シーラ!!生きてるか!?おい!!生きてるか!?」
バババババッバババババババッババババババババババがガララララララダゴンッドガガガッ
「生きてるか!?死んでる!?また!?また失うのか!?死ぬな!おい!生きてるよね!?死なないでくれ!生きてて!頼むから!!」
「……うるさいわねなんの音よ!?」
おちおち気絶もできやしない。
助けに来てくれた王子様に安心して、ちょっとイイカンジで気を失ったはずなのに、爆音に脳みそを揺さぶられて目が覚めた。目を開けたら青空が見えたし、私のまわりを一周するように光の膜が張られ、その周囲ではあらゆるものが砕け散っていた。
「いやホントどういうこと!?」
叫んだところで声は自分の耳にも届かない。うるさすぎるのだ。音というのは大きすぎると凶器になるらしい。骨を揺さぶり頭蓋骨も割れそうな音の振動に、私は強制的に完全に覚醒させられた。
「あぁッ生きてる!!まだ噛まれてないな!!よしっ!!今度は間に合った!!」
「なんだってー!?」
「あー生きてるー!!」
いつの間にか真横にいた焦げたマントを纏った王子様が、ワタワタとパニックになって騒いでいる。何も聞き取れなくて、いつものように王子に言い返せば、ぐわっと力の限り抱きしめられた。私の口からはロマンチックさのカケラもない「ぐえ」という声が漏れたが、聞こえてはないだろう。なにせ周りがうるさすぎる。
「君が死んだらどうしようかと思ったよシーラ!」
私の頬を両手で包み込んだ涙目の王子は、私が生きていることを確認するように首に手を当てて拍動を確認する。そして再び勢いのままに私を抱きしめると、耳の真横で叫んだ。
「生きててくれてありがとう!君がまた死んでしまったら、もう僕は生きていられないよ!」
鼓膜が破れそうな轟音の中で揺れる屋敷に、重なる二つの影。恋愛劇ならクライマックスだが、あいにく影は見えないだろう。なにせ周りは燃え盛る業火なのだ。真っ赤?真っ白?これ何色?
「死んでないから正気に戻りなさいこの馬鹿!!」
「痛っ!」
ボコンと頭を叩けば、王子が嬉しそうに笑う。
「なんなのよこれ!?火事!?一瞬気を失っていた隙に何があったのよ!?」
「ごめん、爆破したらやりすぎたんだ!逃げよう!!」
「はぁ!?」
私を軽々と抱きかかえた王子は、足元に白目を剥いて転がっている王弟を何度か思い切り蹴飛ばした。床に散らばる木片や破片にガグッと何度か引っ掛かりながら転がり、王弟は割れた窓から落ちていく。
「あ、窓枠でどっか切ったかな?まあいっか」
「どうでもいいわよ!私たちも燃えて死ぬわよ!?」
おおお!という男たちの野太い声がする。破壊された窓、というか窓枠から外に蹴り出された王弟が、おそらくは下でキャッチされたのだろう。バキバキになった窓枠の一部が血で真っ赤に染まっているが、私は残念ながらそれどころではない。だって燃え盛っているのだ。周りが。
「よし!じゃあ飛び降りるから、しっかり捕まっててね!」
「んああああ!?嘘でしょここ何階……三階ぃいいいい!?」
「五階だよーー!」
呑気な返事とともにふわりと空中に飛び出した王子は、ぎゅっと私を抱え込むと周囲に風を放つ。青ざめて声も出ない私を抱いてゆっくりと下に降り立った王子は、ニコッと笑って言った。
「王城の窓から脱出しようとしてたくせに、高いところ苦手なんだね」
「ものには限度があんのよ!」
呑気ともいえるようなセリフを吐く王子に、私は血の気の引いた顔で怒鳴りつけた。背後では巨大な屋敷がガラガラと音を立てて崩れていく。
「さて、君の手当も必要だ。あとは騎士団に任せて、僕らは馬車に戻ろう」
唖然とする私を抱いたまま、王子はあっさりと崩壊した屋敷を後にした。
「で、どういうこと?」
「いや、君が逃亡したのか誘拐されたのか定かではなかったんだけど、場所が蛇屋敷だったからさ」
馬車で手ぬぐいを片手に私の身体を拭いはじめた王子に、私は疲れた顔で尋ねた。
「これはもう時間の猶予がないと思って、突入と同時に内と外から爆破したんだ」
「外からはともかく、内から?」
「そう。結界もろとも破壊するために、君に渡しておいた守護魔法具を通してドカンと。あまりに卑怯な真似をされて、温厚な僕もキレちゃったんだよねぇ」
怪訝な顔で尋ねれば、当たり前のように返答されてげんなりする。よくもまぁそんな離れ業をやってのけたものだ。失敗すれば私も木っ端みじんじゃないか。
「守護魔法具ねぇ……アンタの血で出来てるって噂の?」
「あはは、ばれちゃった。重いかなって思って言えなかったんだよね」
てへ、とでも効果音が付きそうな気軽さで笑っているけれど、重いどころの話ではない。人間の血を持ち歩いていたと思うと普通に怖い。私は半眼で言い放った。
「照れないで。気色悪いわ」
「ひどいなぁ。結構難しい魔法を一発で成功させたのに」
苦笑して嘆く王子に、私は無言を返す。じとっと睨んでくる私に、王子は拗ねたように呟いた。
「結構大変だったんだよ」
「……そりゃそうでしょうよ。正直意味が分からないわ」
はぁ、とため息をついて私は顔を上げる。王子はいつもと同じような穏やかな顔だけれど、春の青空のような瞳の奥が、冷たく波打つように光っている。強い魔法を放った残り香はこれだけか。普通なら魔力消費が大きい高難度魔法を使えば、もっと消耗したり、興奮したりしていそうなものだけれど、先ほど巨大な屋敷を爆破するほど激昂していたらしいこの王子様からは、ほんの余韻しか感じられない。
「確かに急に光って、爆発音がしたのよ。アンタ、何をしたのよ」
「君を守りつつ、君の半径二マールを除いて、全てを爆破するように命じたんだ。……その、僕の血を介してね」
「そこ、照れるところなの?」
妙なところで頬を赤らめている王子様にますます頭が痛くなる。
「アンタにそんな根性があると思わなかったわ。意外と思い切り良いじゃない」
「相変わらずの減らず口だね、元気そうでよかったよ……怪我は足か。貸して」
「ん?」
挨拶のキスすら恥ずかしがってできない腰抜け男のくせに、淑女の足に触れるなんて大胆な真似をするものだ。包帯でも巻いてくれるのかしら?……なんて思っていたら、王子はそっと私の足に触れて靴を脱がし、ケガをじっくりと見分したあとで、掌をかざした。
「あったか……え、アンタ治癒魔法まで使えるの?」
じんわりと広がる熱と、それに伴って急速に痛みがひいていく足に、私は何度目かの驚きとともに尋ねた。足が痒い。どんな速度で治しているんだ、コイツ。
「そっちの方が有名だと思うよ、僕。戦嫌いの平和主義って有名だから」
「戦嫌いねぇ」
あっさりと頷く王子に、呆れて私は首を振る。
「……思い切りド派手に、王都の真ん中でお屋敷をまるごと爆破したくせに?」
「緊急事態だったから、仕方なくね」
私の疑問に、王子は当然のような顔で頷くと、小さく笑った。
「いやぁ、返す返すも君に守護魔法具を渡しておいて良かった」
「こんなトンデモナイ威力の武器になるとは思ってなかったけど」
「僕もそんなつもりなかったよ。チョットした問題に対処するための、ただ媒介具になるだけのはずだったんだから」
「君がちゃんと持っていてくれたおかげだよ。ありがとう」
「……まぁね」
心底嬉しそうに、ほっとした顔で笑う王子に、私は気まずい思いで曖昧に頷く。王宮に入ってからずっと首から下げていたのだが、実は肌に馴染み過ぎて持たされたことも忘れていただけなのだ。まぁ私の素直さと順応力の高さゆえだと思っておこう。こいつの魔力はやたらと肌馴染みが良いのがいけない。そう考えていたら、王子は急に何か気づいたように小さく「あっ」と叫んで真顔になった。
「待って、王弟が吹き飛んでいないってことは、君の半径二マール以内にいたってことだよねぇ。うわ、わりと許せないな。僕って結構嫉妬深いのかも」
「そういう問題?まぁ死んでないなら、後で話を聞いてから殺せばいいんじゃない?」
「君、本当に強靭だよね。王妃にぴったりだよ」
「はいはい」
いつもの軽口を叩きながら、王子はすっかり治ってしまった私の足に優しく包帯を巻く。それも割とうまい。意外となんでも器用な男なのだな、と改めて感心した。
「で?アンタが戦嫌いに擬態していたのはなんでなの?どう見ても攻撃魔法特化型の一級近衛騎士レベルだけど」
「いや、戦嫌いは本当だよ。僕、戦いは得意だけど、苦手なんだ」
王子は苦笑すると、はぁと息を吐いて背もたれに体重を預ける。私のまっすぐな眼差しの中で、王子は静かに呟いた。
「僕は一応、歴代屈指の魔力量と言われてるけど、戦いは人が死ぬし、怪我をするから怖くて苦手なんだ。だから、話し合いで解決を目指して、やらないで済むようにしよう、ってのが、僕の基本指針なんだよ。それが武を重んじる人たちには軟弱に思えて反発されることもあるけれどね。戦なんてしないに越したことはないだろう?」
「ま、そうね」
私はあっさり頷いた。城下でも血気盛んな若い男たちや騎士に憧れる少年たちは、王子よりも王弟を支持していた。規模の大小はあれど、喧嘩の強さを競う男たちにとって、王子の考えは物足りなく感じるのだろう。
「でもさっきは、ずいぶんと思い切りよく破壊していたじゃないの」
「今回は君がいたからね」
私の言葉に、王子は困ったように笑い、苦し気に目を伏せた。
「僕はもう二度と大切なものを失わないたくはないからさ」
「なんだ、知ってたの。アンタの前の婚約者が、あの蛇に殺されたって」
「うん」
憎悪と後悔のにじむ声に、王子が王弟の所業を知っていたと察して尋ねれば、あっさりと頷かれた。そして悔し気に重い息を吐く。
「でも証拠がなくてね。本当に蛇みたいに狡猾な人だから。一応警戒はしていたんだけど、今、あの人は隣国にいるはずだったから、……ちょっと油断してしまった。ごめん」
懺悔するように謝罪する王子に、私はわざと大仰なため息をついて、ぺしんと目の前の形の良い頭を叩いた。
「ほんとよ。世の中には話が通じない馬鹿もいるから、話し合いで解決しようとするのは、ほどほどになさいな」
「うん。……巻き込んで、本当にごめんね。怖かった?」
「まぁ……そこそこね」
眉を情けなく下げて申し訳なさそうな顔の王子様に、私は肩をすくめて苦笑する。実はそんなに怖くなかったのだ。私に色んな魔法具をベタベタ貼り付かせているような過保護男が、なんとかしてくれるんだろうと妙な確信があったから。
「でもアンタ、同じ失敗を二度はしないタイプでしょ?」
「ん?……え?」
私は向かいに座る綺麗な男の横に移動した。初めてと言っても過言ではない私からの接触に動揺している王子は、私に触れていいのか分からず少しのけぞるような姿勢で固まっている。
「だから、まぁ、助けてくれるんじゃないかしらとはは思ってたのよ。悔しいけど」
「え?」
頬を染めながら困惑している王子の横で、私は言いたいことを言い終えると目をつぶった。力を抜いて隣にもたれかかれば、明らかに身体を緊張させた王子が、どもりながら私の名を呼んだ。
「シシシシ、シーラ?ど、どういう意味」
「眠いから寝るわ。また後でね……」
もう疲れた私は、すべてを放り出して脱力した。肺を空にするほど深く息を吐けば、一瞬で睡魔に取り込まれる。隣から聞こえる速い鼓動とじんわり移ってくる心地よい体温に、私は安堵とともに意識を手放す。
「……寝ちゃったのかい?疲れさせてごめんね」
すまなそうな声で囁かれて、優しく抱き寄せられる。思ったよりずいぶんと大きな胸の中で、私は運命に降参しようと決めた。
誰かに助けを求めた時、瞼の裏に浮かんでいたのは、たった一人。
いつだって困った顔をするばかりであまり役に立たないけれど、最近ずっと隣にいるこの男だったから。
きっともう、この優しい腕を離すことはできないのだろう。……王妃になんてなりたくはないし、認めたくはなかったのだけれど。
王弟の屋敷に突入させるために、たぶん王子は騎士団の人たちに自分の血を浴びせています。空を飛んで突入しがてら自分の手の動脈とかを切ってフシャーと上から皆に浴びせて、突入までの間に自分の傷はサクッと治癒魔法で治しています。多分。
王弟を木っ端みじんにしてしまった場合は、まだ清い仲のくせして「わが子を孕んでいる可能性のある女を殺されそうになったから」とかしれっと言う予定だったと思います。




