いや、お断りします
あの後、直にリリーナとピコさんの戦いは終わった。
「久しぶりに運動すると気持ちがいいですわね」
「ぐぬぬ.....1発もまともに入らなかった」
いい汗かいたと言わんばかりのリリーナの顔を見て、ピコさんは悔しそうだ。
確かリリーナはラナードでおじさんに次いで強いんだっけか?
ならこの結果も仕方ないのかな?
でもそれに食い下がるピコさんも凄いと思う。
.....俺だといい勝てるのだろうか?
いや、今はそんな事はいいか。
「それで?結局どうするんだ?」
ピコさんがどうするかで今後の予定も変わるかもしれないしな。
「どうするも何も変わりませんよ?今まで通りにリリーナ様を始めとして奥様方とカズキ様に仕えさせていただきます」
「ムーッ.....」
淡々と今まで通りと話すピコさんにリリーナは不満そうで顔を膨らませている。
「って訳なんで、今回は諦めてもらえませんかね?また後日、機会があればって事でどうです?」
俺はフリーグルさんにそう聞いてみた。
「なるほど。分かりました。ではまた明日告白させて頂きますね?」
何も分かってねぇじゃねぇかっ!!
「いやいやいやっ!そうじゃなくてですね?俺達は今、宝樹祭を見学しにユグドレフィアに向かう途中なんですよ。なのでピコさんへのアプローチは、この旅が終わった後ぐらいにって意味でですね?」
「そうなのかい?なら僕もその旅に同行させてもらえないかい?」
「いえ、お断りします」
「.....迷い無く即決で断るんだね.....」
そりゃそうだろ?
「いくらフローラの兄みたいな人でも、会って直の人と一緒に旅なんて出来ませんよ?」
それにピコさん以外は俺の嫁さんだし.....何もないと分かっちゃいるが、他の男と寝泊りとか何か嫌だ。
「.....お兄ちゃんは今.....どこに住んでるの?.....仕事.....は?」
そんな様子を見ていたフローラがフリーグルさんに尋ねる。
「僕かい?僕は今、ラナードで魔道具の研究開発をしているよ?」
そう言えば、確かこの里はおじさんが助けたんだったな。
その時にフローラの母、フローリアさんみたいに自分の国で保護した人も多いから別に不思議じゃないか。
全員が全員ラナードに来たって訳でもないだろうけどさ。
「.....なら、ラナードで.....待つのが良いと思う.....それに.....お兄ちゃんじゃ移動には.....付いて来られない.....」
「移動?リリーナ様も居るって事は、車なんじゃないのかい?」
「.....違う.....走ってる.....」
「.....えっ?.....僕の聞き間違いかな?もう1回言ってくれないか?」
「.....移動は.....走ってる.....」
「.....本当に?」
「.....うん.....」
「冗談とかでもなく?」
「.....うん.....わたし達は.....走った方が.....早い.....」
.....言いたいことは分かる。よ~く分かる。
だから俺をそんな顔で見るんじゃないっ!
『えっ!?コイツ等マジで?』って顔は止めろっ!
俺だって.....俺だって出来る事なら車で優雅にノンビリ旅がしたいんだよっ!
俺は悪くねぇっ!!
「あ~、うん。確かに僕には無理そうだね.....でも、車も持ってるんだろう?」
「あるっすけど、今はただのテント替わりっすね」
フリーグルさんに質問にネルが答える。
言い方ぁぁッ!?くっ、絶対に俺がいつか有効活用してやるからな!
確かにほぼテントみたいな役割しか果たせてないけどさっ!
いや、待てよ.....一応少しは車としての役割も果たした事あるしセーフじゃね?
本当にほんの少しだけどさ.....
「ピコさん.....2人の間の障壁は思いのほか分厚かったようです。今回は残念ですが、僕は諦めませんよ!」
「あの.....お気持ちは大変嬉しく思います。ですが.....いえ、ここまで私に言ってくれる方を袖にするのも返って失礼でしょうか?.....分かりました。ラナードに戻った際には少しお話をさせてください」
「勿論だともっ!僕はいつでも大歓迎さっ!」
「あら?どういう風の吹き回しですの?」
「いえ、ただ単に私も少しお話をしてみたくなっただけです」
「ふ~ん?.....そうですの?」
「.....あの、ニヤニヤしながら私を見るのは止めてください」
フリーグルさんに少し歩み寄る形でピコさんが譲歩した様子を見て、リリーナは楽しそうにニヤニヤ笑いながらピコさんを見つめる。
「ピコさん、貴女の帰りを100年でも1000年でも僕は待ってますよ」
「いえ.....私は人族なのでそこまで生きられないのですが.....」
「さぁやるぞぉぉぉぉッ!!今の僕は活力満タンでやる気に漲ってる!ハッ!?今ならあの魔道具の行き詰まってた場所も解決できるかもしれないっ!いや、きっとしてみせるっ!」
ピコさんのツッコみも耳に入ってないのか、フリーグルさんは1人で盛り上がっている。
「何か1人で燃えてるんだが.....」
「.....昔からそう.....スイッチが入ると.....1人で突っ走る.....」
俺の呟きにフローラがそう教えてくれた。
「では僕はこれでっ!ピコさん、道中の安全をお祈りしております。どうかご無事にラナードまでお戻りください」
「ありがとうございます。フリーグルさんもお気をつけてお戻りください」
フリーグルさんはピコさんの手を握りながら別れの言葉を投げると、ピコさんも返事を返しながら頭を下げる。
お~いっ、一応俺達もいるんですけど~?
ってかせめてフローラには声掛けろよっ!!
「フローラも元気でな?じゃあ皆さん僕はラナードに戻ります。お元気で!」
俺のツッコみが届いたのか、フリーグルさんは俺達にそう言って元気に去って行った。
ピコさんの対応に比べると、本当についでな感じがしないでもないが.....
「.....何か変な人だったな」
「.....昔とあんまり.....変わってない.....いつもあんな感じ.....」
「そっか.....」
「.....でも.....悪い人じゃ.....ないよ.....?」
「いや、それは何となく分かるよ。それに.....フローラのお兄ちゃんみたいな人なんだろ?」
「.....うん.....血は繋がってない.....けど.....お兄ちゃん.....」
「じゃあ俺にはそれで充分だよ。少し変わった人だけど、嫌いになったりはしないさ」
俺がそう言うと、フローラは俺に輝くような笑顔を向けてくる。
「.....うんっ.....ありがとう.....」
こうしてフリーグルさんと言う少し変わった人と出会う事となったが、無事にフローラの故郷の墓参りを済ませ、俺達は宝樹祭を見学する為にユグドレフィアを目指すのであった。




