ギルドへ向かう前に保険を用意しておこう
「ネル、ギルドで1番上.....トップの人って誰なんだ?」
「え?ガツインさんすよ?カズキ様と会った時にギルド長って言ってたっすよね?」
「えっ?そうなの?俺はてっきり、王都ランドープのギルドの長って意味だと思ってたんだけど、ギルド全体の長なの?」
「そうっすよ?他の街のギルドのトップは支部長って呼ばれてるっす」
そうだったのか.....
俺は今、シャルミナとネルの3人でギルドへ向かう準備をしている。
わざわざ絡まれるってのが分かってる場所に全員でゾロゾロと向かうつもりはない。
最初は俺とシャルミナの2人で行く予定だったのだが、お目付け役としてネルが同行する事となった。
.....解せぬ。
さて、何で俺がこんな事を聞いているのかと言うと、ギルドへ向かう前の保険の為である。
俺はアリアから預かった連絡用の魔道具を取り出すと、おじさんに連絡を取る。
『もしもし?どうしたんだカズキ?何か問題でもあったのか?』
「おじさん?突然ごめんね。問題は今から起こるって感じかな?実は、カクカクシカジカ――」
俺はおじさんに事情を説明する。
『.....分かった。とりあえず準備出来たらまたこっちから連絡をする』
「了解!よろしく!」
俺はそう言って、一旦おじさんとの通話を切る。
「タカシ陛下に連絡なぞ取って、何をするんじゃ?」
「いや、ギルドも不正があるかもしれないんだろ?ならその組織のトップに事情を話して何とかしてもらった方が早いだろ?」
保険とはガツインさんに今回の事情を説明して、何とかしてもらおう作戦である。
凄く他力本願な作戦だが、その組織のトップに出張って貰うのが1番だと思うんだよね。
そんな訳で俺は再びおじさんから連絡が来るのを待った。
しばらくすると、俺の連絡用魔道具が震え出し、音が鳴り響く。
『ママ、だ~い好き!.....ママ、だ~い好き!.....ママ、だ~』
「フンッ!!」
俺は思わずず手に持っていた連絡用魔道具を地面に叩きつけた。
叩きつけられた連絡用魔道具は、カランッと少し甲高い音がするだけで、傷1つ付いていない。
くそっ!無駄に頑丈なっ!!
『ママ、だ~い好き!.....ママ、だ~い好き!.....』
そんな事をしている間も、魔道具から不快な音声が鳴り続ける。
「これ、幼いっすけどカズキ様の声っすよね?」
「間違いないのじゃ。くぅ~、妾もこの魔道具欲しいのぉ~」
「ウチも欲しいっす。こんな愛くるしい声で呼ばれてみたいもんっすね」
(どんな罰ゲームだよっ!!いや、最早ただの拷問だよっ!)
俺の心のライフがえげつない速度で減っていくのを感じる。
(ってか呼び出し音をとんでもない物にすんじゃねぇ~よっ!なんつ~モンを仕込んでんだよっ!!)
そんな事を思い、俺が悶えている間も不愉快な音声は鳴り続けている。
俺は壊すのを諦め渋々魔道具を手に取る。
「.....もしもし.....」
『なんだ?何かあったのか?凄く声が死んでるんだが.....?』
「.....いや、何でもないよ.....あぁ、それと母さんに伝言お願いできる?話があるから覚悟しとけって伝えといて.....」
『お、おぉ.....何があったかは知らんが、事情は大体察した.....まぁ、その、何だ?強く生きろよ?』
おじさん、ありがとう.....あれっ?目から汗が出て来やがるぜ.....
『オホンッ!.....まぁ、それでだな、先ほどの件をガツインに話してやってくれ。今ギルドに着いた所だ』
いや、おじさんが自分でギルドまで行ったの?
相変わらずフットワークが軽いと言うか、自由と言うか.....
『陛下、これに向かって話せばよろしいのですかな?』
おっと、まずはこっちの話をちゃんと済ませないとな。
「ガツインさん、お久しぶりです。カズキです」
『おぉ、カズキ様の声が!?い、いえ、失礼しました。お久しぶりでございますな。して、一体何事でしょうか?』
「ええ、実はですね。カクカクシカジカ――」
俺はおじさんにした説明をガツインさんにも話す。
『ふむ、お話は分かりました。ギルドの長として、この度は誠に申し訳ございませんでした。直ぐにワシ自らがそちらへ向かい、その愚か者を処分いたしましょう』
いや、処分て.....
通話越しでも分かる程、ガツインさんの声は怒りに満ちていた。
「ガツインさんが来るんですか?じゃあガツインさんが来るまで、数日待機って事ですかね?」
『いえ、ご心配には及びませぬ。直ぐにそちらへ向かいますので』
「ん?何か移動手段でも?何でしたら、俺が迎えにいきますけど?」
俺の覚えた転移魔法の、初めての使いどころなのかもしれない。
『カズキ、それは大丈夫だ。キッチリと護衛と一緒にそちらへ向かう』
「いや、どうやって?」
おじさんの言葉に、俺は疑問を投げかける。
『それは私が送るわよ~』
突然母さんの声が聞こえてきた。
「母さんっ!?何でそこにいるんだよ?」
『いや、俺が連絡しておいた。ガツインが向かうなら、これ以上の移動方法はないだろ?』
なるほど、流石おじさんだ。頼りになるぜっ!
『そんな訳で、ママがそっちに護衛の人も一緒に送るから、カズちゃんは安心してね~』
「分かった。母さんありがとう。あと、少し大事な話があるから正座する準備と覚悟を決めて来るように!」
『えっ?えっ?カ、カズちゃん!?』
「じゃあ来るまでこっちで待ってるよ。どうせ居場所とか分かるんだろ?じゃあ、また後でな」
『カ、カズちゃんっ!?待ってっ!まっ』
俺はそう言うと通話を切った。
「って訳でガツインさん達が来てくれる事となりました!」
「いや.....それはいいんすけど.....ミリア様大丈夫なんすかね?」
「まぁ、自業自得ではあるんじゃが.....何か少し可哀想じゃの.....」
俺が2人にそう言うと、2人は何やら母さんの心配をしている。
いや、あんな呼び出し音とかただの罰ゲームだからな?
何が悲しくて、あんな羞恥を受けなきゃならんのだよ.....
なのでしっかりお説教....お話をする必要がある訳だ!
こうしてしばらくすると、母さんに連れられたガツインさんと護衛と思われる冒険者数名が俺達の側に現れた。
その瞬間、俺は母さんを逃がさないように首元をガシッと掴む。
我ながらとても素早い動きだったと思う。
「やぁ母さん、とても会いたかったよ.....大事な話があるからちょっとあっちまで行こうな?」
「カ、カズちゃんっ!?ママと会いたかったって言葉は凄く嬉しいのだけれど、何か顔が怖いわよ~?それと.....ママはもう少し優しく運んでくれると嬉しいな~、なんて~.....」
「やかましいっ!説教だっ!とんでもね~モノを仕込むんじゃねぇ!」
「意義ありっ!意義ありよっ!ママは悪くないと思います~!カズちゃんへの愛があふれ出しているだけで無罪を主張します~!これは横暴よ~!横暴だわ~!」
説教と聞いて母さんが何やら喚いているが、俺は無視してそのまま引きずって行った。
俺が母さんを説教している間、シャルミナとネルはガツインさん達と挨拶を交わす。
「お久しぶりですシャルミナ様、お元気そうで何よりですな。ネルもじゃな」
「うむ、お主もの」
「何すか?ウチはついでっすか?」
「ネルよ、いかなる時でも冷静を心がけよ」
「分かってるっすよ.....ってか、隊長達が護衛として付いてきたんすね?」
ガツインさんの返事にネルが少し拗ねるが、ダンディな兎獣人の隊長がネルを嗜める。
「カズキ様の案件だ。下手な実力の者を寄越す訳にもいかん」
「そうそう、私達が来たからにはもう安心していいわよ?ネル先輩!」
「だよね~、ジーポーンの連中なんていくら束になっても返り討ちよ~」
隊長の言葉にキツネ系獣人の双子の姉妹が声を上げる。
「ココンとコロンの実力は知ってるっすけど、ちゃんと手加減はするんすよ?」
「あら?カズキ様に危害を加えるかもしれない連中なのよ?遠慮はいらないと思うわよ?」
「そうだよ~、徹底的に殲滅してやらないと~」
ネルの言葉に、ココンとコロンと呼ばれた姉妹は過激な発言を返す。
「まぁ.....程々にっすよ?」
ネルは言っても無駄だと、この話を適当に流した。
「いい?コロン。今日頑張ってカイエン様に褒めてもらうわよ!」
「お~っ!ぶっ殺、ぶっ殺~っ!」
気合いを入れるココンにコロンが物騒な掛け声で答える。
ネルはそれを見ながらため息を吐いた。
ちなみにこのココンとコロン、カイエンと同じ時期に学校に通っていた同期であり、カイエンの嫁の座を狙っている。
エンカの存在は勿論知っている為、エンカがくっ付くまではと静観していたのだが、最近ついにエンカがカイエンと結ばれた為、2人は遠慮なく動き出したのだ。
2人は今回の件で頑張って手柄上げ、カイエンにアピールする為にも気合が入っている。
少し気負い過ぎな感じではあるが.....
ミリアを説教中のカズキは当然この会話を聞いておらず、カイエンの現状を知るのはもう少し後の話だ。
その際、姉妹のふさふさのキツネ尻尾に目を奪われたカズキが、リロロとネルの焼きもちを受けて苦労するのだが、それは別のお話である。
こうしてしばらく経ってミリアの説教を終えたカズキは、気を取り直してギルドへと向かって行くのであった。




