閑話・シャルミナとのんびりした夜
「か~〇~は~〇~波~っ!」
静まり返る夜の闇に、俺の声が虚しく吸い込まれていく。
俺は今、宿の裏で1人コッソリと某漫画の主人公の必殺技を練習している。
いや、自分でも何やってんだ?と思わなくもないが、折角魔法のある世界に来れた訳だし、もしかして使えるんじゃないか?って事で試しているのだ。
子供の頃の夢ってやつだな。
まぁ、成果はサッパリなんだが.....
気の変わりに魔力を使えば何とかなるのでは?と思っていたのだが、どうやら俺の考えは甘かったらしい。
「か~〇~は~〇~.....波ァァァッ!!」
今度は少し角度を変え、最後を溜めてみる。
.....うんともすんとも言わないな.....
嫁さんズが風呂に入っている中、俺が1人になれる機会など中々ない。
これはチャンスなのだ。
いや、そんな貴重な時間をこんなアホみたいな事してる自覚はあるんだが.....
俺は全く出る気配のない必殺技の事を考えながら、自分の手をニギニギとさせる。
「.....何やっとるんじゃ?」
「のわぁぁっ!?」
不意に背後からシャルミナの声が聞こえ、俺は驚きのあまり少し情けない声を出す。
「ビックリしたぁ.....風呂から出てたんだ?んっ?何か疲れた顔してないか?何かあったのか?」
「いや.....何でもないんじゃよ。妾達にはあまり関係ない話じゃ。まぁ.....そんなに心配するような話ではない。ポルトは大変であろうがの.....」
ポルト達に何かあったのだろうか?
でも、シャルミナが心配無いと言うのなら大した事ではないのだろう。
「ってかどうして俺がここに居るって分かったんだ?」
「んっ?それは魔法で常に位置を監視.....妻としての感じゃな!」
おいっ.....今監視ってバッチリ聞こえたぞ!?
えっ?何?俺って常に魔法で居場所を監視されてんの?
.....ハッ!そういえば.....
上に居た頃、まだ嫁さん達と結婚する前の話だ。
俺はファンタスの町の歓楽街に、サキュバス族のお姉さん達から素敵なサービスを受けられる店があると聞いて、そこに向かおうとした事がある。
上でカイエンを含む、仲良くなった数人の男同士の飲み会の後、そんなお店の話を聞いて向かおうって事になったんだ。その時、この世界に来てから初めて、今の嫁さん達が1人も側におらず、男同士の飲み会って事だったからな。
しかし俺達が歓楽街に向かうと、歓楽街の入口前に5人が立っていたのである。
『カズキ様?この先に何か御用ですか?』
『この先にはカズキ様が行くような場所は無いと僕は思うよっ!』
『.....カズキ様には.....必要ない場所しかない.....』
『.....カイエン達には、後で妾がキツク言うておくのじゃ』
『さっ、カズキ様、帰るっすよ』
そう言われ、俺はドナドナされて連れ戻されたのだ。
まさか、あの時から見張られてたんじゃなかろうか?
俺は物言いたげな視線をシャルミナに向ける。
「と、所でカズキ様は何をしておったんじゃ?何か珍妙な動きをしておったが?」
シャルミナは、誤魔化すように先ほどの俺の奇行について聞いて来る。
.....も、物凄く説明し辛い.....恥ずかし過ぎる.....
「なんての!あの漫画の必殺技を出来るか試しておったのじゃろう?」
バレてるぅぅぅぅぅッ!?
「アレは妾も練習してみたが、出せなんだからの」
そう言えば、シャルミナは漫画が大好きだったっけ。
しかし、既に試していたとは.....
「そうなんだよ。何とか出せるんじゃないかって思ってたんだが、全然でなぁ~.....」
「うむ、確かに魔力を使えば魔力は飛ばせるのじゃが、目に見えぬからの。それではただ魔力の塊を飛ばしているだけじゃ!それにどうしても手元から撃ち出す時に途切れてしまうからのぉ.....」
えっ!?魔力は飛ばせるの!?
俺はうんともすんとも言わなかったんだけど!?
「あの光るエネルギーの再現は難しくての、光魔法で試してもみたが、やはり何か違うんじゃよ」
「魔力を可視化って出来ないもんなのか?」
「普通は無理じゃな。まぁ、中には可視化出来る程の高密度の魔力もあるにはあるが.....それはちと系統が違うしの.....ジン様かミリア様なら再現出来ると思うんじゃが.....」
あり得る。
あの2人なら、何か簡単に出せそうである。
「そう言えば、練習しとるのはその必殺技だけかや?」
「いや、一応他にも練習してるってのはあるな」
「ほう?どんな技を練習しとるんじゃ?」
「ア〇ンストラッシュだな!」
あの全てを切ると言われる某漫画の勇者の技だ。
「大〇斬と海〇斬はまぁ、何とかなるんだよ。ただ、空〇斬だけがどうしても無理でなぁ」
「おぉ!あの漫画は妾も大好きじゃ!妾は特に、大魔王と主人公の親友の魔法使いの少年が好きじゃな!しかし、ア〇ンストラッシュなら雷属性か光属性を上手い事使えば再現出来そうじゃが?」
「いや、3つ揃ってこそのア〇ンストラッシュだろ?」
この3つのが揃っていないア〇ンストラッシュなぞ、ただの見せかけだけの技である。
「.....変な所に拘っとるんじゃな.....」
「シャルミナだって人の事は言えないんじゃないか?わざわざ普通の火魔法を不死鳥の形に変えたりしてるじゃないか」
「アレはカッコいいから良いのじゃ!今は氷と炎をなんとか融合出来ないか模索しておる!」
「いや、それは流石に.....物騒過ぎない!?」
全てを消滅させる魔法とか、そんなの覚えてどこで使うんだよっ!
「むぅ.....カッコいいと思うんじゃがのぉ.....」
「シャルミナは他にはどんな技を練習してたりするんだ?」
「うむ!それはの.....」
俺とシャルミナは2人で漫画の話に花を咲かせて盛り上がっていく。
こうして俺は、シャルミナと何でもない日常を楽しく過ごしていくのであった。




