リリーナの兄、サマトリ
ロレアシに無事到着した俺達は、本日の宿に泊まるべく馬車を進めていた。
今日はもう日も遅いので、宿に一泊して英気を養って、また明日の朝からラライを目指して出発するのだ。
しかし.....もうそこそこ冒険者をやっているのに、宿に泊まるのが初めてってのはどうなんだろうか?
まぁ、王都に居る時は、城を拠点として使わせてもらってたし、わざわざ宿に泊まる必要も無かったんだけどね.....
俺達が本日泊まる宿は、トネルコさんの行きつけの宿らしく、部屋も綺麗でお風呂も完備されているらしい。
食事代抜きで、一泊1人銀貨5枚らしいのだが、これが高いのか安いのかは俺にはよく分からなかった。
まぁ、風呂に入れるのならば、多少高くても泊まるけどね。
食事は宿の1階にある酒場で頼むらしく、希望者には部屋まで料理を届けてくれるサービスもあるらしい。
俺は初めての宿に泊まると言う事で、旅行先に泊まる時のようなワクワク感を感じる。
しばらく街中を進むと、どうやらお目当ての宿に着いたらしく、場所は大きな門を潜り中へと入って行く。
「ようこそお越しくださいました。馬車はあちらの奥へ。馬は奥にいる者にお声がけして頂ければ、あとはこちらで馬房までお連れ致します」
この宿の従業員らしき方に声を掛けられ、指示通りに奥に馬車を移動させると、そのまま馬達を預けた。
馬車から降りた俺達は、ゾロゾロと宿のロビーを目指す。
馬車5台分の商隊の人と、護衛である俺達とポルト達を含めると結構な大人数である。
ロビーに入ると、カウンターが目に入り、そこには少し大柄な人族の男性がいる。
「やぁ、ボーマン!今回も世話になるよ!部屋は空いてるかね?」
トネルコさんは、その男性に気さくに声をかけて部屋が空いているかを尋ねた。
「いらっしゃい!トネルコさんじゃないか!勿論空いてるぜっ!いつもの個室と大部屋の一部屋で良かったか?」
どうやらトネルコさん達は、毎回ここの宿で泊まっているらしい。
「ああ、今回もそれで頼むよ」
「分かった!そっちの護衛の兄ちゃんや嬢ちゃん達はどうする?」
ボーマンと呼ばれた宿屋の亭主は、俺達そう言って訪ねてきた。
「え~っと、どうしよかっか?」
「僕達は1部屋でいいですよ」
俺の問いに、ポルトが答える。
「分かった、ポルト達で1部屋で、俺達はどうする?」
「4人部屋2つでいいんじゃないっすかね?」
「なるほど、皆もそれでいいか?」
ネルの言葉に、俺は皆に確認を取る。
どうやらそれで良さそうだ。
「じゃあ、4人部屋を3つお願いできますか?」
「4人部屋3つだな?分かった、すぐに準備させよう」
ボーマンさんはそう言うと、すぐに従業員達に指示を出していく。
その指示を聞き、従業員達はテキパキと動き出す。
「それで、飯はどうする?あの奥に見える酒場で食べる事ができるが、もし希望すんなら注文だけして部屋に運ぶ事も出来るぞ?」
「あ、じゃあ俺達の分は部屋にお願いします」
俺はボーマンさんの問いにそう答えた。
嫁さん達が酔っ払いに絡まれたりしたら大変だからね。
.....絡んできた相手が.....だけども。
「私達は1階で頂きますよ」
「僕達も酒場で食べるよ」
トネルコさんとポルト達はそのまま酒場で食べるらしい。
こうして俺達は別れ、明日の朝までそれぞれで寛ぐ事となった。
「おぉ~っ!4人部屋って割には結構広いな」
俺は案内された部屋を見てそう漏らす。
ベッドが4つもあれば、寝るだけの部屋かな?って思っていたのだが、ベッドの他にくつろげるようなスペースがあり、そこにテーブルと椅子も備わっていた。
「お風呂は裏庭に大浴場があるみたいですよ」
そう言ってお風呂の場所を教えてくれたのはリロロだ。
ちなみに部屋割りは、俺、リロロ、フローラ、ネル。
もう1部屋に、シャルミナ、ミラーカ、リリーナ、ピコさんとなっている。
また、部屋割りで揉めて、じゃんけんと言う名のバトルが始まるのかと思っていたが、どうやらあらかじめ決めていたらしく、部屋割りはすんなりと決まった。
「.....でも.....混浴じゃない.....男女別.....」
「まぁ、仕方ないっすよ。ってか外はそれが普通っす」
「カズキ様、大丈夫ですか?ちゃんと1人で洗えますか?」
出来るわっ!俺は子供かっ!
.....いや、確かにこの世界に来てから自分で洗った事はないんだけどさ.....流石に出来るよ?
「失礼な.....俺だってこの世界に来るまでは1人で洗ってたんだぞ?ってかむしろ、自分で洗わない奴なんていなかったんじゃないか?」
「そうなんすか?変わった世界っすね?」
いやいやいやっ!俺から言わせてもらえばこっちの世界のが変わってるからね!?
「どうしますか?宿の方にお願いして貸し切りにしてもらって一緒に入りましょうか?」
「いや、いいっ!いいからっ!ちゃんと1人で入れるからっ!」
「ですがっ!カズキ様の手を煩わすのは駄目ですっ!やっぱり私だけでも.....」
「大丈夫だからっ!それにほらっ!ポルト達もいるしっ!俺は可愛いお嫁さんの裸を他の男に見られるのは嫌だなぁ~!そんな事になったら凄く悲しいなぁ~」
「そ、そんな.....可愛いだなんて.....えへへ.....カズキ様がそこまで言うなら私も我慢します。それに.....カズキ様を悲しませる訳にはいきませんから.....にへへ.....」
俺がそう言うと、リロロは身体をくねくねさせながら照れる。
どうやらなんとか説得できたみたいだが.....
.....リロロさんマジチョロい。
「.....チョロい.....」
「チョロいっすね」
フローラとネルもそう思ったのか、ヒソヒソと小声で言っている。
少しリロロのチョロさを心配していると、隣の部屋から何やら騒がしい音が聞こえてきた。
(なんだ?確か隣はリリーナ達の部屋だったはずだよな?)
俺達は何事かと、慌てて隣の部屋へ向かった。
部屋へ着くと、そこにはリリーナと黒髪のぽちゃっとした体型の男が向き合っていた。
「なんでうちの屋敷に来ずに、こんな宿なんかに泊まってるんだ!」
「お兄様、私は冒険者でしてよ?依頼人と同じ宿に泊まるのは道理じゃなくて?」
「それだっ!なんでリリーナが冒険者なんて危険な事をやってるんだっ!」
「あら?お父様から聞いたのでは?サマトリお兄様」
どうやら彼はリリーナの兄のサマトリさんらしい。
「聞いたさっ!リリーナがどこかの馬の骨に傷者にされて、それで結婚して冒険者なんてやってるってなっ!」
すいません.....その馬の骨、今後ろにいるんですよ.....
「あらっ?失礼ですわね。ちゃんと深く愛し合っておりましてよ?.....あっ!カズキ様っ!」
リリーナの声に反応し、サマトリさんはこちらを向くと、物凄い勢いで俺を睨みつけながら詰め寄って
くる。
「貴様かっ!うちの可愛いリリーナを傷者にしやがった男はっ!カズキと言ったなっ?貴様っ.....カズキ.....カズキ?」
が、途中でピタリと止まった。
そして、錆びたおもちゃのようにギギギッとリリーナの方へと振り返る。
「.....カズキ.....いや、カズキ様って、あの?」
「どのカズキ様か知りませんけど、サマトリお兄様の想像の通りでは?」
「ジン様とミリア様の息子で、敵対した場合、国ごとこの世界から消滅しかねないから、絶対に敵対はするなと父上からキツク言われてるカズキ様?」
おいっ!それは俺じゃねぇよっ!!
「ええ、そのカズキ様ですわ」
リリーナさんっ!?しませんよっ!?そんな事しませんからねっ!?
「カズキ様、大変なご無礼をお許しください。全ての責は私にっ!ですので、どうか、どうかっ!民にはご容赦をっ!
先程の態度とは一変し、綺麗な土下座を披露するサマトリさん。
「いやっ!頭を上げてくださいっ!しませんからっ!そんな事、絶対にしませんからっ!」
するとしたらうちの馬鹿2人だけだからっ!俺はあの2人と違って常識人なのっ!
なんとかサマトリさんを説得し、顔を上げてもらう。
「いやぁ~、まさかリリーナのお相手がカズキ様だとは.....素晴らしい事ですね」
「あら?サマトリお兄様は反対してらしたのでは?」
「反対?ハハハッ!リリーナも冗談が上手くなったね!最初から大賛成だよっ!」
熱い手のひら返しである。
「それにカズキ様の側にいれば、リリーナも安全だろう?これ以上ないぐらい安心できるよっ!」
(.....ごめんなさい.....俺が1番弱いんですよ.....むしろ守られてる立場なんです.....)
ややこしくなるからそんな事は言えないけどな.....なんて考えていると、今度は外が騒がしくなってくる。
(.....今度はなんなんだよっ!?)
「囲まれてるっすね」
ネルが言う通り、何者かによってこの宿が囲まれているみたいだ。
「むっ!?あいつら.....もう来やがったのか」
「どういう事ですか?外の人達と何か関係が?」
「ソレはだな.....え~っと、あの.....その.....」
何か言い難い事なんだろうか?俺はサマトリさんの態度に首を傾ける。
「別に大した事ではありませんわ。大方、どうせまた仕事を抜け出して逃げてきたのでしょう?外の者達はサマトリお兄様を捕獲に来てるだけですわ」
言い淀むサマトリさんにの替わり、リリーナが真相を話してくれる。
(ただの脱走と、それを捕まえに来ただけかよっ!)
俺は思わず頭を抱える。
「というかお兄様。毎度毎度、お仕事から抜け出すのはどうかと思いましてよ?」
「違うんだ、リリーナっ!ヒロキ兄上がこっちにバンバン回してくるんだっ!おかげで毎日毎日書類の山と睨めっこだぞ!?書類の山が片付いたかと思えば、その片づけた倍の山が追加でくるんだ!気がおかしくなるよっ!」
あぁ、うん.....ソレは逃げたくもなるわな。
ってか、ヒロキさん、本当に仕事バンバン回してんのな.....
「まぁ、いい!とりあえず俺は逃げるっ!ヒロキ様!どうかリリーナをお願いします!」
サマトリさんはそう言って、素早く部屋から出て行った。
「いたぞ~っ!こっちだっ!」
「向こうに逃げるかもしれんっ!向こうを封鎖しろっ!」
「今日と言う今日は許さんっ!首に縄を括り付けてでも連れ帰ってやるわっ!」
「フハハハハッ!貴様らに捕まる俺ではないわっ!」
「絶対に逃がすなっ!」
「「「「オウッ!!」」」」
そんなやり取りが俺達の耳に入り、足音と声はドンドン遠ざかって行った。
「.....とりあえず、風呂でも入ろうか」
俺の言葉に皆は頷き、風呂へと向かったのであった。
やっぱおじさんの息子だわ.....
次回、お風呂回!




