血は争えない
「カズキ殿.....子供達がどうしてこんな事になっているのか.....アタイに分かりやすく説明して貰えないだろうか?」
そう言ってセシリアさんは、俺に笑顔で詰めてくる。
しかし、その目は笑っておらず、どうなっとるんじゃ?おい、こら?と言いたいのがヒシヒシと伝わってくる。
.....ちゃうねん。
思わず似非関西弁が飛び出してしまうほど俺は焦っていた。
いや、違うんです!こんなはずじゃなかったんです!
『ドロケイ』を始めて1週間。
俺が思ってた以上に上手く行ってたのだ。
俺も1戦後、毎回行っている子供達の感想会、基反省会に顔を出し、ああすればいいんじゃないか?こうしてみたらどうだ?とか、色々とアドバイスを送っている内に、子供達から『先生!先生!』などと呼ばれて嬉しくなってしまい、少し浮かれてしまったのだ。
「フハハハハッ!先生ではないっ!俺の事は『教官殿』又は『軍曹殿』と呼ぶのだっ!」
「「「「はいっ!」」」」
「返事は『はい!』ではないっ!『サーイエッサー!』だ!」
「「「「サーイエッサー!」」」」
「よろしい!貴様達は4校の内最弱だ!だが、それは今までの話だっ!今度の大運動会で、他の3校に思い知らせてやれっ!最強はどこの学院かって事をなっ!」
「「「「サーイエッサー!」」」」
「うむっ!貴様達はたった今からただの生徒ではない!大運動会を戦い抜く、1人の兵士となるのだっ!」
.....ええ、やらかしましたよ。
浮かれて物凄く調子に乗ってしまいました。
「アレではまるで、アタイ達騎士団、軍隊みたいではないか!」
「.....申し開きのしようもありません.....本当に申し訳ございませんでした」
『アタイの可愛い子供達を返せ!』っと言わんばかりの責め立てるようなセシリアさんの目に、俺はビシッ!っとした綺麗な土下座を披露しながら謝るしかないのである。
「.....調子に乗ると.....変なノリになる所.....ジン様そっくり.....やはり親子.....」
(なん.....だと.....!?親父に似ているだとっ.....!?)
俺はフローラの呟きにショックを受ける。
「もう二度とこのような事は致しません!どうか、ご慈悲!ご慈悲をっ!!」
うん、本当に気を付けよう。本当に.....
その時、ひたすら必死に謝る俺を見かねたのか、子供達から援護が入る。
「セシリア姉ちゃん。教官殿を許してあげてよ。まだ1週間ぐらいだけど、俺達教官殿のおかげで少しだけど、ちゃんと強くなれてるって実感してるんだ」
おお、あれは確か.....バスケチームのリーダのコルクくん!
そんなコルクくんに続くように、子供達は『そうだ!』『そうだよっ!』『許してあげて!』っと次々に声を上げている。
「う、うむ.....アタイもそこまで怒ってる訳じゃないんだが、その.....お前たちはそれでいいのか?」
セシリアさんは、やはり子供達には弱いようで、その勢いはあっと言う間に衰えた。
「でも、これで他の学院の奴らにも勝てるかもしれないんだろ?なら、俺達はそっちの方が嬉しいから全然問題はないぜ?」
「そ、そうか.....お前たちが良いならアタイからは何も言えないな.....」
どうやら子供達のお陰で、俺は命を拾ったようだ。
セシリアさんの本気の拳骨を受けて、無事で済むとは思えないからね.....
俺はスクッっと立ち上がり、子供達の方を向く。
「正直、調子乗り過ぎた。.....スマン。だが、お前たちを勝たせたいって気持ちは本当だ!それは信じて欲しい!」
「大丈夫ですよ、教官殿。俺達は今、楽しいんです。強くなれてるって実感出来るから。なぁ、そうだろ皆っ?」
「「「「サーイエッサー」」」」
おおおお.....ええ子や.....この子ら皆、ええ子過ぎる。
「よ~しっ!なら今日は少し奮発しちゃおっかなぁ~!いつものプリンにプラスして、今日は特別にケーキも付けてやるぞ!」
俺のそんな発言を聞き、子供達は大声で喜び合っている。
俺は目の前で、無邪気にはしゃぐ子供達の姿とその優しさに、思わず目を細めて眺めているのであった。
しかし、カズキは気付かない。
子供達が全員、『フッ、チョロいな』っと心の中でニヤリとしていた事に。
ここの子供達は孤児院出身の者が殆どだ。孤児院出身ではなくとも、他の学院の生徒に比べると貧しい部類に入る子供達だ。
この学院の子供達は、大人が思うよりも逞しく、したたかなのだ。
そんな子供達の心の内など、カズキはこの先も気付く事はないのであった。
その後、子供達は普段通りにゲームを始める中、俺はフローラに話しかける。
「あの、フローラさん?この事は、どうか皆には内密に.....」
こんな事が親父の耳にでも入れば、あの親父の事だ。
きっと物凄くムカつく顔でニヤニヤしながら何か言ってくるに違いない。
なので、この醜態はフローラに頼んで内緒にしておいてもらわなければ.....
そんな俺の言葉に、フローラは何やら思案している。
「.....秘密にするのは分かった.....でも.....対価を要求する.....」
そう来たかっ!.....まぁ、フローラだし、そんなに無茶な事は言ってこないだろう。
「もちろんだっ!俺に出来る事ならなんでも言ってくれ!ただ.....あんまり無茶な事はなしだぞ?」
「.....それは当然.....わたしが求めるのは.....今日の夜の事.....いつもの倍以上....,頑張ってもらう.....」
ネル以外の4人は罰の期間が終わる。
夜の夫婦の営みが今日から再開されるのだ。
そして今日はフローラの番である。
つまりそこで、いつも以上に頑張れという事らしい。
「分かりました。本日は精一杯頑張らせて頂きます.....」
「.....約束.....今夜が楽しみ.....待ち遠しい.....」
俺の言葉にフローラは満足したのか、ムフーっと上機嫌になる。
え?そんな約束して大丈夫なのかって?
大丈夫だ!問題ないっ!
これがリロロやネルに言われたのでアレば、俺は再び土下座を決め、必死で別の条件に変えてくれと懇願していたであろう。
あの2人相手にいつもの倍とか、間違いなく俺死んじゃう.....
それに比べれば、フローラとの倍なんて可愛いものだ。
倍にしても、常時のリロロとネルには及ばないと思うぞ.....
あっ、そうだ。
「フローラ、間違っても他の4人にも言うなよ?特にフローラ相手に倍以上頑張ったとか、絶対に言わないように!本当、お願いね?」
こんな事が他の4人に知られたら、絶対俺が責められる。
そして、全員相手に頑張らないといけない羽目になるのだ.....
それだけは絶対に阻止しなくてはならぬ。
「.....分かった.....前向きに検討して.....善処する.....」
フローラさぁぁぁぁん!?
そこは確約して欲しい所なんですけど!?
あと、その返事をして約束を守った奴なんて、俺は聞いた事ないんですけど!?
俺は頑張ってなんとかフローラを説得する。
結局フローラから『今日だけでなく今後もずっと頑張る』という条件を追加されてしまったが、他の4人には絶対に喋らないと確約を貰えたので良しとしておこう。
こうして夜の負担が増えた俺は、少し哀愁を漂わせながら、子供達を眺めるのであった。
調子に乗る、駄目、絶対.....
俺は、深く心に刻みつけた。




