生徒への練習方法
「.....これは酷い」
「.....スタミナが全く.....足りてない.....」
俺とフローラの口からは、思わずそう漏れた。
俺とフローラは、放課後にリングゲットとボールシュート.....もとい、バスケとサッカーの代表である生徒達を見学させてもらっている。
主に大運動会に参加するのは、9学年と8学年の最高学年から上2つの学年だ。
その学年から、それぞれ10名づつ代表として選ばれているので、各20名のチームだ。
なので子供達は、中学2年生~3年生の合同チームなのだそうだ。
そして俺とフローラはその様子を見させてもらった訳なのだが.....
まず、体力が足りてない。
スタミナが足りてない上に、子供達は大技を好む。
派手な大技はカッコいいから、その気持ちは分からないでもないが、そもそもスタミナが足りてないのでその大技を使えばすぐにヘロヘロになっている。
さらにポジションが全く活かされていない。
初心者にありがちな、ポジション関係なく、皆ボールの元へ集まる。
おまけにチームワークもない。
ボールを持ったら、ほぼその子がそのまま突っ込んでいるだけである。
しかし、悪いところだけではない。
ボールを扱う技術はそこそこあるように思えるし、何より大技に固執しているせいなのか、その技の威力は中々のモノだ。
スタミナはあと一月しかなので、そこまで劇的に増えるような事はないだろうが、これは出来るだけ走り込んで愚直に続けるしかない。
ポジションの重要性を理解していないのは、ある意味仕方がない事だ。
元々知識のある人がいないので、指導のしようがないのだ。
あるのは親父が渡した、指南書という『漫画』だけである。
その漫画では、攻め込む主人公をライバルが止めにくるシーンが良くあるのだが.....
現実でやれば『お前、自分のポジションを無視して何でここにいんの?』っと突っ込まれるであろう。
当然漫画にもパスシーンは描かれているのだが、やはりライバルとの対決は盛り上がるので、強く描かれている事が多い。
これはポジションの重要性を、説明するのと同時に身を持って実感してもらうしかない。
チームワークに至っても、ポジションと同様かな.....
う~ん、何かいい方法はないだろうか.....
「どうだ?なんとか良い方法はないか?」
そんな悩む俺に話しかけてきたのは、セシリアさんという、第4騎士団の隊長を務める女傑だ。
このセシリアさん、元々孤児院出身で、この南学院の出だと言う。
非番の日など、たまに訪れては子供達の指導を行っているのだそうだ。
今日ここに居るのは、なんでもおじさんから休暇を言い渡されたからだそうだ。
なんでも、日頃の勤務態度に免じて特別に、少しの期間休暇を与えると言われたのだそうだ。
.....それってセシリアさんが暴走しないように、たんに引き離してるだけだよね?
ちなみにこのセシリアさん、物凄く背が高い。
俺が最初に会った時に、鬼族なのかと間違えてしまう程だが、間違いなく人族なのだそうだ。
背が高く、筋肉もムキムキで、巌のような見た目だが、子供達を見る目はとても優しく、子供達を大事にしている事が伝わってくる。
最初は俺に対して、物凄く丁寧な言葉使いで接してくれていたのだが、普段通りでいいですよ。っと伝えた。
『そっちの方がセシリアさんも楽でしょ?』っとカッコ付けてニヤリと笑って言った俺に対し、『わかってんじゃねぇ~か!』っと笑いながらバシバシと背中を叩かれた。
1撃1撃が骨の真に響くぐらい重かった。
.....それで子供達に拳骨でも落としたら、子供達ミンチにならない?大丈夫?
俺はセシリアさんの方を向き、考えてた事を伝えてみた。
「う~ん、上手く行くかは分かりませんけど、思いついた事ならありますよ」
「本当かっ!?それは一体?」
「あっ、その前に1ついいですかね?子供達にご褒美になるような物って何かありますか?こう、子供達がやる気になるような物がいいんですけど」
「ん?それなら街の中央通りにある、甘味屋の特性プリンなんてどうだ?」
「特性プリンですか?」
「そうだ!そこのプリンは物凄く美味しくてな、子供達だけじゃなく、女性にも物凄く人気だ。ただ.....少々値が張ってな.....他の学院の子供達は、年に数回は普通に口に出来るだろう。だが、ここの子供達は孤児院の子共達が殆どだからな.....子供達からすれば滅多に食べられる事のない、まさに高値の花なのさ。だがどうしてご褒美なんて物を?」
「いや、子供達に少しでもやる気にさせるのにいいかなぁって思いましてね。それって普通に手に入れられます?人気があるんなら難しいですかね?」
「いや、普通に買えると思うぞ。プリンを保管しているケースには保存の魔法が掛かっているし、人気があるのを店主も分かっているからな、いつも大量に作っているはずだ」
(ふむ.....売れるのが分かってるし、保存も出来るから大量に用意されてる訳か。好都合だな)
俺はそう考えると、フローラに話しかけた。
「フローラ、出来れば今日の帰りにでもその店に寄りたいんだけどいいかな?」
「.....もちろん.....そこでプリンを買えばいいの?.....わたしも食べてみたい.....」
「そそ、そこで子供達のご褒美を用意するついでに、皆のお土産として買って帰ろうか」
まぁ、俺自身お金を持っていないので、フローラに付いて着てもらわないと買えないんだが。
「まてっ!そこそこ値が張ると言っただろう!?それを子供達の分、40人分も買うとなるとかなりの値段になるぞ!?」
どうやらセシリアさんは、俺達の懐事情を心配してくれているようだ。
だが、俺は親父達から使切れない程の金額を持たされているのだ。
死蔵させとくより、子供達に喜んでもらえた方が、お金も本望だろう。
「大丈夫ですよ!こう見えてもお金には困ってないんで」
それに無駄使いするつもりはない。今回は必要だと思ったから買うのである。
俺はセシリアさんに『大丈夫だ!問題ない!』と伝えた。
「まぁ、それよりも話を戻しましょう。子供達の訓練方法です」
「分かった!カズキ殿がそう言うなら、アタイからはもう何も言わないさ。それで?どんな訓練をするんだい?」
「俺が住んでた世界で、子供達が遊んでいた遊戯の1つを使おうかなぁと思っています」
「遊戯?そんなモノが本当に訓練になるのか?」
「まぁ、やってみないと分かりませんけど、俺は案外上手く行くんじゃないかと思っています」
「ほう?それは一体どういった遊戯なんだ?」
「ええ、『ドロケイ』、または『ケイドロ』って言って、地方で呼び名は変わるんですが、まぁ、簡単に説明すると、集団戦で行うおいかけっこですよ」
鬼ごっこと言わずにおいかけっこと呼んだのは、この世界には鬼族がいるからである。
何故鬼から逃げるのか?と聞かれてしまえば困るからだ。
日本の鬼とこちらの鬼は概念が違うからね。
ちなみにこちらの世界でのおいかけっこは、日本で言う鬼ごっこなので、おいかけっこと言えば意味は伝わる。
「ふむ.....アタイには想像が付かないが、カズキ殿が何か考えているのならそれに従おう」
「ええ、まぁ、いくつか意図はあるんですが、そはまた明日、子供達に実際に教える時にでも説明しますよ」
「分かった。それでよろしく頼む」
「フローラもそういう事で良い?何か勝手に決めてごめんな.....」
「.....良い.....カズキ様のやりたい様に.....わたし達は.....それを支えるだけ.....妻としての務め.....」
フローラはそう言うと、フンスッ!と自分の胸の前で両手て握る。
「フローリアさんもそれでいいですか?」
俺は、今まで黙って聞いていてくれたフローリアさんにも訊ねた。
「ええ、構わないわよ。フローラの選んだ旦那さんがどれほどの者か、楽しみにしておくわっ!」
「いやぁ.....お手柔らかにお願いします.....」
「じゃあ、また明日の放課後にお邪魔しますね」
俺は、フローリアさんからの期待にそう答えるとそのまま学院を後にした。
フローラと共にまずは途中でプリンを買う為に、教えてもらった甘味屋へと寄る。
ちゃんと皆の分のお土産も買ってから、俺達は城まで帰ったのである。
.....お土産で買ったプリンは物凄く美味しかった。
人気があるのも頷けるな.....
後日、プリンにハマった嫁さんズがちょくちょくその店に買いにいく姿を多くの人に目撃されているのであった。
呼び名やルール等、地方で全然違いますよね。




