学院で、まさかの再開
俺とフローラは今、自分達が担当する事になった王都南学院の門の前に立っている。
フローラは、俺と組む事が決まってから、それはもう上機嫌で、可愛いお顔もニッコニコである。
そんな上機嫌のフローラと一緒に、王都南学院まできたのだが.....
失礼だが、何か思ってたよりもみすぼらしいと言うか.....何かボロっちいな.....
学校の規模はかなり大きいのだが、なんと言うか、年季の入った見た目の校舎である。
街の外れにある為か、校舎の奥に少し大きな裏山も敷地内に見える。
他の王都の地区を都会とするならば、この辺りは田舎といった感じである。
それもそのはずだ。
元々王都の南側は、孤児院などこの王都の中でも裕福でない層が固まっている地域である。
他の国の暮らしと比べると、何不自由なく暮らせて、ご飯も毎日食べられ、学ぶ事の出来る環境は、とても裕福に思えるのだろう。
しかし、この国の中では、決して裕福な暮らしではないのだ。
まぁ、国からの援助とかもちゃんと行き届いているので、そこまで心配はないのだが。
俺とフローラが門の前で、学校を眺めていると、守衛さんらしき人物がこちらに声を掛けてきた。
「ここは王都南学院ですが、何か御用でしょうか?」
「あっ、すいません。ここから出ていた依頼を受けて来た者なんですが.....」
「ああ、冒険者の方ですね?では学院長に連絡を入れますので、しばらくお待ちください」
守衛さんがそう言って門の横にある小さい詰所みたいな所へ入っていくと、何やら取り出してゴソゴソとしている。
多分言葉通り、連絡を入れてくれているのだろう。
数分ぐらいすると、すぐに俺達の元へ戻ってきた。
「お待たせしました。では案内しますので、着いて来てください。俺は客人を学院長室まで案内してくる。しばらくの間頼んだぞ」
守衛さんは、もう1人のお仲間にそう声を掛けると、俺達を中へと案内してくれた。
案内されるがまま、校舎の中へ入り、学院長室を目指す。
今は授業中なのか、窓から見える教室の中では、生徒達が黒板に向かって先生の話を聞いている姿も見えた。
「こちらになります。では私はこれで戻らさせて頂きます」
「ありがとうございました」
「.....ありがとうございます.....」
そう言って、門へと戻って行く守衛さんに、俺とフローラはお礼を言う。
俺はそのまま、部屋のドアをノックする。
すると中から『どうぞ』と女性の声が返ってきた。
俺は失礼しますと言いながら、ドアを開いた。
「貴方達が依頼を受けてくれた冒険者ね?私はっ――――」
中にいたエルフ族の女性は、こちらに視線を向けると、言葉を途中で詰まらせた。
俺も言葉を詰まらせた。
DEKAI.....どこがとは言わないが、凄くDEKAI。
.....もしかしたら、リロロといい勝負なのでは?
しかし、どうしたのだろうか?何やらこちらを見て固まっている。
物凄く驚いているのか、あんまり美女がしてはいけない顔をしている。
(なんだ?何か俺達に問題でもあったのか?いや、なんかこっちというよりかは、俺の方を向いてない気がする。フローラが何かしたのか?)
俺はフローラの方を向く。
すると、フローラも同じように驚いていた。
目は大きく見開かれ、口を大きく開けていた。
かと思うと、プルプルと震え出し、目に大粒の涙を浮かべ、その女性に向かって走って行った。
「.....ママっ!ママッ!!」
「っ!?フローラ!?フローラなのねっ!」
フローラとフローラの母親らしいその女性はお互いに駆け寄り、ガシッと熱い抱擁を交わす。
いや、フローラの飛び込んだ音を表現するなら『ぽよん』なんだけども。
しばらくの間、そのまま2人は抱き合ったまま涙を流していた。
事情が呑み込めない俺は置いてけぼりなのだが、母子の感動の再会みたいなので黙って見守る。
しばらくすると、お互いに少し落ち着いたのか、2人は泣き止んでいた。
「フローラが無事で本当に良かった.....ずっと、ずっと.....探してたのよ?怪我とか病気とかしてない?ご飯はちゃんと食べてるの?」
「.....うん.....わたしは元気.....ママも無事で本当に良かった.....もう.....あ、会えないかと.....お、思って.....た.....」
そう言ってフローラは再び泣きだしてしまった。
フローラの母親は、優しく慰めるようにフローラの頭を撫でている。
.....がっ、俺は完全に蚊帳の外である。
この空気の中切り出すのは、物凄く気まずくて嫌なんだが、このままだと話が進まない。
「あの~.....」
俺は勇気を出して話しかけた。
「ハッ!?ごめんなさい!あまりの嬉しさでつい.....依頼を受けて来てくれたって事は、フローラは冒険者をしてるのかしら?立派になってまぁ.....ごめんなさいね?私はフローリア、ここの学院長を務めているの。貴方はフローラの冒険者仲間かしら?パーティーを組んでいるのかしら?」
どうやらフローリアさんは、フローラと違い口数は多いみたいだ。
しかし.....名前がややこしい.....
「初めまして、カズキ・カミシロと申します。パーティーを組んで冒険者をさせてもらってるのもありますが、え~っと、フローラと結婚させて頂いております.....」
「まぁっ!?フローラの旦那さん?フローラも大人になったのね.....孫はいつかしら?それにしても、カミシロというと.....ジン様と関係が?」
「あっ、父になります.....フローリアさんは父とお知り合いで?」
「ええ、昔はよくこの学院に来て、生徒達の指導をしてくれてたわ」
.....いらん事を教えてないだろうか?物凄く心配である。
しかし世間は狭いな.....
「ジン様の息子さんとフローラが結婚していただなんて.....運命かしら?フローラ.....頑張って早くママに孫を見せて頂戴ね?他種族同士だと特に出来にくいから、ガンガン行くのよ?」
「.....任せて.....頑張ってる.....」
フローリアさんもそっち側の人なんですね.....
「こほんこほんっ!あ~、それで依頼の話なんですが.....」
俺は誤魔化すように強引に話を戻す。
「あら?ごめんなさい。また話が脱線してしまったわね」
「いえ、それは構わないんですが.....ところで、他の学院と違って、この南学院だけ相談って内容だったんですけど、どうしてですかね?」
「ああ、それはお金が無いのも理由なんだけど.....実は.....――――」
こうして俺達はフローリアさんから今回の依頼についての説明を受けた。
「なるほど.....それで『鍛えてくれ』や『指導してくれ』ではなくて『相談』なんですね?」
「そうなのよ.....何か良い方法はないかしら?」
「.....む~.....難しい.....」
フローリアさんから説明された、依頼の内容でもある相談とは、大運動会についての事である。
この南学院は4つある学院の中でも、ぶっちぎりで弱いのだそうだ。
毎年、最下位を取り続けている。
そのせいか、生徒達も自信を失い、やる気も低下しているそうだ。
教員達もなんとかしてあげようと、必死に訓練の量を増やしたりしたらしいのだが、やる気のない状態なので、どんなに練習しようがあんまり上達はしなかったみたいだ。
しかし、その競技の事自体は今でも好きらしい。
ふむ.....つまり、その競技は好きだが勝てなさ過ぎて自信を失っている。
練習してもどうせ.....って思いがあるから練習にも身が入らないって事か.....
だから、何かいい方法がないか相談に乗って欲しかったみたいだ。
「う~ん、実際に生徒達を見てみないと.....なんとも言えませんね」
「.....同意.....状況の把握は大事.....」
俺とフローラはそのまま放課後の練習時間に直接見せてもらう事にした。
「そういえば、いくつか質問してもいいですか?」
「ええ、私に答えられる事なら、遠慮なく聞いてもらって構わないわよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて.....まず、なんで指導依頼を冒険者ギルドに?普通、教員とかが指導するもんじゃないんでしょうか?」
「ああ、それは伝統だからよ」
「伝統??」
「ええ、この大運動会が行われる事となった時に、ジン様が各学院を周って色々と指導されてたのが切っ掛けで、今では大運動会は冒険者に指導してもらうって伝統になってるのよ」
親父かよっ!.....いや、これはまぁセーフだな。何が切っ掛けで伝統になるか分からんしな.....
「え~っと、じゃあ、もう1ついいですかね?少し聞き難いんですけど.....この南学院だけお金が無いってのは、どういう事なんでしょうか?」
「ああ.....それはね、この学院に通う生徒は、孤児院出身の子とかが殆どなの。他の学院では、生徒の親で多額の寄付を収める人が少なくないのよ。でもうちには寄付を出しせる程余裕のある人が少ないの。親が居ない子も沢山いるしね.....」
「その寄付とかって、不正の元になったりしないんですか?」
「それは大丈夫よ。寄付は王家から派遣された役人の方が一任しているから、不正しようとするのがバレただけでその人は全てを失う事になるわ。この国の王家の方々は、不正には物凄く厳しい事で有名なのよ?」
「なら、国からの援助とかはないんですか?」
「国からの援助は頂いてるわ。これは全ての学院に平等にね。でも、寄付は我が子の通う学院を、少しでも良くしようとする親心からきているわ。だからそれを勝手に他の学院に使うような事をしようとすれば、たとえ王家が相手でも揉める事になるから出来ないのよ」
まぁ、そりゃそうか。自分の子供にいい環境で勉強させたくて寄付したのに、それを勝手に別の人に使いました~って言われた日には怒るのも当然だな。
「じゃあ、依頼内容を『指導』にしなかったのは?」
「それもお金の問題ね。ほかの3つの学院は『指導』に金貨10枚でも、うちは5枚。それだと皆、ほかの3つの依頼に飛びついてうちは受けてもらえないのよ.....だから『相談』にしてあるの.....」
「じゃあ、最後にもう1つ。生徒達の様子を見て、もし俺達がイケると思ったら、そのまま指導もしてもいいでしょうか?」
「それは.....こちらとしてはありがたいけど.....本当にいいのかしら?」
「ええ、もちろんです。フローリアさんはフローラのお母さんで、俺のお義母さんでもありますからね。何か力になれるなら協力は惜しみませんよ」
俺は少しカッコ付けて言ってみた。
「ありがとうございます.....フローラは本当にいい方と結婚したのね.....」
「.....カズキ様は優しい.....わたしの自慢.....」
感激するフローリアさんに、フローラは少しドヤ顔で答える。
「あと、今更なんですけど、この依頼って俺達が受けても大丈夫だったんですかね?一応ランクフリーの場所にあったんですけど.....」
「ええ、問題ないわよ?元々この依頼は、どちらかと言うと新人さんが受ける事を推奨しているのよ」
「えっ?そうなんですか?『指導』するなら高ランクのベテランの方がいいのでは?」
「冒険者を呼ぶ伝統とは言っても、ほとんど形だけ守ればいいのよ。だからそこは建前ね。むしろ新人さんに安全で高額な依頼を受けてもらって、装備とか整えてもらうって意図もあるのよ」
何か、そんな話を聞くと新人用の仕事を奪ったみたいで申し訳なくなってくるな.....
俺も冒険者としては新人だが、お金には困ってないし.....
え?なんでかって?
そりゃもちろんうちの両親のお陰である。
親父も母さんも、この世界ではトップレベルのお金持ちなのだ。
そしてその息子が、自分達から離れて地上に行くと聞いた時に、あの超過保護とも言える2人が何もしないだろうか?
その答えは否である。
当然、相当の金額になるであろう資金を無理矢理持たされているのだ。
.....と言っても、俺は持っていないのだが。
その資金は嫁さんズが均等に管理している。
特にリロロは俺にお買い物をさせてくれないのだ。
曰く『そのような事は私達のお仕事です!』と言って.....
俺としては金銭感覚を覚える為にも自分で買い物とかしたいんだが、リロロは頑なに譲ってはくれない。まぁ、何か彼女なりの吟じがあるのだろう。
他の4人はそこまでじゃないんだけどなぁ。
おっと、話がそれた。
まぁ、俺達も新人には違いないし、早い物勝ちって事で今回は許してもらおう。
「色々ありがとうございます。じゃあ放課後まで待たせてもらっても大丈夫ですか?」
「ええ、もちろんよ!」
そう言って、俺達は放課後まで待たせてもらう事となった。
フローラとフローリアさん.....母子で話したい事は沢山あるだろう。
こうして俺は、嬉しそうに会話をする2人を静かに眺めているのであった。
リロロは若干、駄目人間製造機の資質を持ってます.....




