事情を聞いてみよう
助けた親子3人と、冒険者4人を車の中に運び込み、俺達は王都を目指す。
ちなみに死体は、土魔法で深い穴を掘り、そこに風魔法で放り込み、シャルミナが火魔法で骨すら残さずに灰に変えた。
ちに濡れた地面は水魔法で洗い流したのだが、完全には綺麗にならなかったので、穴を埋める時に奥の方に混ぜておいた。
その削った部分には他から土を持ってきて、綺麗に整地しておいたので他の人の迷惑になるような事はないだろう。
そんな訳で俺達は今、王都を目指して車で移動中である。
この車は、2階建てとなっており2階部分は寝室となっている。
1階部分には簡単な調理台やトイレ、そして流石に湯舟はないがシャワーも付いている優れものである。
こちらの世界の車は地球の車と違い、タイヤの数が多い。
この車も計8本のタイヤが付いており、それぞれのタイヤを別々で稼働させる事も可能なので、大きいが小回りも利く。
ボディはミスリルやミスリル合金を使用しており、とても頑丈だ。
窓のガラス部分も、希少な水晶を加工した物で、薄くて透明度の割に耐久性もバッチリだ。
敵に襲われた時は、中から施錠さえしてしまえば、シェルター替わりにもなるとても万能性の高い車である。
しかし、運転するには複雑で特殊な訓練が必要らしく、滅茶苦茶難しい。
なので日本の免許のように、許可のある人しか運転出来ないらしい。
俺も少し練習として、小型の魔動車を運転させてもらったのだが、運転出来る気はしない。
今いるメンバーではネルとピコさんが運転できるらしく、今はピコさんが運転してくれている。
リリーナはピコさんが1人で寂しくないようにと、近くの座席に座っているようだ。
なんかこの2人、主従ってよりは仲のいい姉妹みたいだな.....
俺達は1階のリビングスペースとなっているソファーに腰掛け、今後の話を相談していく。
「とりあえず、親子3人と女性の冒険者の2人は上に寝かせてきたっす。年頃の女性と並べて寝かせる訳にもいかないっすから、この剣士と魔法使いの2人はこのままここで寝かせとくっすよ」
俺はネルに言われ、床に寝かされている2人に視線を向ける。
床に寝かせるといっても、当然そのままではない。
ちゃんと下に毛布などを重ねて寝かせているのだ。
俺はネルに視線を戻す。
「それで?王都に戻ったらどうするのがいいんだ?このまま城まで行ったほうがいいのか?」
「いや、街に戻ったら病院っすね。そこに預けて、ウチ等はギルドに報告っす。タカシ陛下への報告はその後っすね」
「分かった」
俺はネルの言葉に頷く。
確かにそっちの方がいい。怪我を治療したとはいえ、専門の人がいるのならそちらに任せるのが道理だろう。
「ところで嫁さん達や?俺はキミ達に、少し言いたい事があります」
「「「「「??」」」」」
俺がそう言うと、嫁さんズは揃って首を傾けている。
「キミ達は少し、自分の欲望に忠実すぎないですかね?.....特に夜に関して。あそこはどう考えても俺の転移魔法を使った方が早かっただろ?そりゃ、使ったら今日の夜は間違いなく無くなると思うが、人命のが優先すべき事なんじゃないんですかね?」
俺がそう言うと、嫁さんズは揃ってスッと目を逸らした。
「俺との時間を大切に思ってくれてるのは嬉しいよ?俺も大切に思ってる。だけどな、やっぱり時と場所は考えような?そのせいで救える命を救えませんでした~、なんて馬鹿らしいだろ?」
「すいませんでした.....」
「ごめんなさい.....」
「.....反省.....」
「すまぬ.....」
「申し訳ないっす.....」
俺の言葉に素直に反省したのか、すぐに謝ってくる。
「まぁ、幸い今回は命にも別状はないし、今度から気を付けるって事でいいさ」
その時、床で寝ていた剣士から声が聞こえてきた。
「.....うぅっ.....こ、ここは.....」
どうやら気が付いたらしい。
「気が付いたみたいっすね。.....あっ!?ほらっ!途中で気が付くと思ってっす。そこで話を聞いた方がいいと思って車での移動を提案したんすよっ!」
本当にぃ~?本当にござるかぁ~?
というか、今思いっきり『あっ!?』って言ってたよね?思い付きだよね?
本当に反省してくれてるよね?ね?
俺はジト目をネルに向ける。
まぁ、いいか。それよりも今は.....
「気が付きました?俺はランドープで冒険者をやってるカズキって言います。仕事から帰る途中で、貴方方が襲われていたのを見かけたので、勝手ながら助けさせてもらいました。今はランドープに向けて戻ってる途中ですね。ここは魔動車の中です」
俺がそう言うと剣士はキョロキョロと周りを見渡すと、隣で寝ている魔法使いの仲間に気が付く。
「ランドリック.....ハッ!そうだ!サラッとニーナはっ!?」
「お名前は知りませんけど、お仲間の女性2人なら上に寝かせてありますよ。あと、貴方達が守ってた親子も無事です。そちらも上で一緒に寝かせてあります」
「ホッ.....そうか.....無事なのか.....」
俺が上を指さしてそう伝えると、剣士は安堵したのかホッと一息を吐く。
そして姿勢を正し
「救って頂き感謝します。俺はポルト。4人で『赤の希望』と言うパーティーを組んでいて、リーダーをさせてもらってます。冒険者ランクは4人共ランク4です。いや~、高位の冒険者の方に出会えて救ってもらえるなんて.....感激ですっ!」
そんな事を言いながら尊敬するような目でこちらを見つめてくるポルト。
いや、なんかごめんね.....俺達ほとんどまだランク3なんです.....
一応ネルがランク9で、ピコさんが8だったかな?
だから高位の冒険者がいないって訳ではないのだが.....
俺は物凄く居た堪れない気持ちになった。
「え~っと、その話はいいとして、とりあえず何であそこで襲われてたのか、事情を教えてもらえませんか?」
俺は誤魔化すようにポルトに事情を尋ねた。
「はい。分かりました。それはですね.....―――」
こうしてポルトは俺達に事情を話し始めた。
なるほどねぇ.....
ポルト達は元々、ジーポーン帝国の国境付近にある、小さな村の出身らしい。
そしてその村から近くの町のジューゼンという所に出稼ぎを兼ねて冒険者として活動する為に向かったのだそうだ。
ジーポーン帝国は階級至上主義みたいな国で、選民意識も非常に高い国らしい。
平民にも上級と下級に別れており、上級以外は人ではないと言わんばかりの扱いなのだそうだ。
本来は国とは別の、独立した組織である冒険者ギルドも、この国では腐敗しきっているのだそうだ。
職員による報酬の中抜きは当然として、ランクを上げる為には賄賂なども要求されるらしい。
冒険者達もチンピラやゴロツキのような輩が多く、治安もとても悪いみたいだ。
当然ジューゼンの町もそうらしく、ポルト達は弓使いのサラや、神官のニーナの身体目当ての連中にしつこく絡まれていたそうだ。
ちなみに魔法使いのランドリック君はサラの弟で、ニーナはポルトの妹らしい。
そして限界になり、逃げだす事を決めた訳だが.....
ジーポーン帝国は逃げだす者を許さない。
アレか?逃がして絞り取れないぐらいなら殺してしまえってか?
なんつ~ゴミ国家だよ.....
ちなみに一緒にいた親子は依頼で知り合ったらしい。
なんでも小さな薬屋を開いているらしく、よく薬草採取の依頼を受けていたそうだ。
しかし、その親子も下級らしく、町での扱いは散々だったらしい。
町を離れる為に、もう依頼は受けられないと伝えに言ったら、そのまま自分達も連れて行って欲しいと懇願されたのだと言う。
いやいや、即断で逃げ出す判断させるとか、どんだけなんだよ.....
そうしてなんとか隙を突いて逃げ出した訳だが、あっさりと見つかり追手を差し向けられたって訳か.....
「ところで、逃げ出して村とかは大丈夫なのんですか?」
「はい!そこは大丈夫だと思います。悪い噂は色々と村でも聞いてたので、一応用心の為に、別の町から来たって事にしておきました」
え?それってすぐにバレるんじゃないの?って思ったが、よく考えたら、住民登録とか記録してるのってラナードとか少数の国だけだったっけ?
「にしても、よく国境を超えれましたね?」
「はい。サラべ山脈を越えてきました」
「うえっ!?サラべ山脈っすか!?」
その言葉にネルが反応する?
俺は一体何事だと、ネルに視線を向けた。
「サラべ山脈ってのはっすね。ラナードとジーポーンに国境を跨ぐようにある山脈っす。しかも魔力濃度が濃いせいか、厄介な魔物もうじゃうじゃっすよ。そんな所を超えてくるなんて自殺に等しい行為っすからね?普通は.....」
そんな危険な場所を、普通の親子を連れて来たって事?
なんつ~無茶を.....
「あのままあの国にいても、僕達はいずれ死んでましたからね。どうせ命を懸けるならって事で.....運良く、なんとか超えてこの国に入れたのですが.....追手があそこまでしつこいとは.....この国に入れば諦めると思っていたんですが.....」
「う~ん、てかあのアホ共は、ポルト達を仕留めるのに成功したとして、どうやって帰るつもりだったんだろうな?」
「何も考えてないと思いますよ?あいつらは弱者を見下し、嬲り、殺す事に快楽を覚えるような屑共ですからね。大方、楽しくなってその辺りの事は忘れていたんでしょう」
えぇ~、ジーポーンの兵士ってそこまでの頭の悪さなの?
どこの世紀末のヒャッハー共だよ.....
いや、モヒカンさんの方がまだ賢いと思うぞ?
「まぁ、それで追いつかれて戦ってた訳なんですね?」
「はい。あいつらは俺達を嬲り殺して楽しむつもりだったんでしょうが.....」
「そんな事をしていたせいで、俺達に見つかり.....って事ですか.....」
「はい」
.....アホ過ぎない?
俺はそのアホさ加減に思わず頭を抱える。
「うっ.....」
流石に長く喋り過ぎたのか、ポルトの身体がフラッとする。
「まだ病み上がりなのに長々とすいません。傷は治ってても失った血はまだ回復してませんからね。あっ.....そうだっ!」
俺はマジックボックスからある物を取り出し、ポルトに渡す。
「これ飲んでみてください。即効性の増血剤ですよ。沢山ありますんで、他のお仲間にも目が覚めたら飲ませて上げてください」
俺はそう言って、複数個を渡す。
前まで、ミラーカの夜の相手をする時の必需品だった物だ。
母さんから血を即座に修復する薬ってのを貰って飲んでからは死蔵していたのだ。
死蔵させてるよりは、使ってもらった方がいいしね。勿体ないし。
俺から増血剤を受け取ったポルトは、そのまま1つをゴクッっと呑み込む。
.....渡した俺が言うのもアレだけど、もう少し疑ってもいんじゃない?
増血剤を飲んだポルトの顔色がどんどん血色良くなっていく。
「おおっ.....凄い効き目ですね。さっきまでの身体のダルさと重さが嘘みたいに楽になったよ.....あの.....助けてもらった上に、こんな高価な薬まで.....俺達、そんなにお金持ってないんです.....だからお礼は少し待って欲しいんです。必ず支払いますから。本当にごめんなさい!」
ありゃ?まぁ、普通の常識ある人ならこんな反応にもなるか.....
「ああ、全然気にしないでいいですよ?お金ともかもいりませんし。俺達も助けたくて勝手に助けた訳ですからね。ありがとうの言葉で十分ですよ」
「そんな訳にはいきませんっ!どれだけ時間がかかっても絶対にお礼をさせてもらいます!俺達は恩人に恩も返せないような失礼な真似は出来ないですっ!」
それでもなんとかお礼を返そうとしてくるポルト。
こういった人を助けられて良かったと心底思う。
「ではこうしましょう。ポルトさん達はこの国で冒険者としてやっていくんでしょう?それで落ち着いてきたら、何かご飯でも奢ってください。お礼はそれがいいですね」
「しかしっ!それでは.....いえっ、重ね重ね、本当にありがとうございます.....」
そう言って頭を下げるポルトの顔の下には、ポタッ!ポタッ!っと雫が降っているのが見えたが、俺は気付かない振りをした。
「まぁ、まずはゆっくりと寝てください。疲労もあると思いますしね。再起するにしても、身体を治してからです。焦らずに地道に行きましょう」
俺がそう言うと、ポルトは蚊の鳴くような震える声でお礼を言い、横になって寝息を立て始めた。
車内はポルト達に気を遣うように皆口を噤み、静かにしている。
こうして俺達を乗せた車は、王都を目指して静かに走り続けるのであった。




