閑話-カイエンとエンカ
カイエンくんのお話です。
カイエンは今、カズキ達から預かった出産祝いを手にある家を訪ねていた。
「おっちゃ~ん!いるか~?」
玄関口で叫びながら、ドアに備え付けられた呼び出し用の魔道具のボタンを押す。
するとすぐに中から声が聞こえドアがガチャっと開かれる。
出てきたのは牛のような2本の立派な角を頭から生やしたガタイのいい男性だ。
「お~、カイエンでね~か。どうしただ?」
「おっちゃん、子供生まれたって言ってたろ?お祝い持ってきたぞ。カズキ達からも預かってるから。あとカズキが、この前は世話になってありがとうってって言ってたぞ」
「わざわざありがとだべ。カズキ様にもお礼を言わないといけないだべな。まぁ、とにかく中に入ってくんろ」
カイエンを中へ向かい入れ、おっちゃんはお茶を出してくれる。
「ほれ。緑茶ぐらいしかねえけんども、くつろいでくんろ」
「ありがと、おっちゃん」
カイエンはお茶をズズッと口に含む。
「おばちゃんと子供は?」
「ああ、今2人共向こうの部屋で寝てるべ。やっぱり子供はパワフルだべな。元気が良すぎてオラもおっかあもへとへとだべよ。まぁ、そこも可愛い所だべ」
おっちゃんはそう言って奥の部屋を指さしながら、デレデレとだらしない顔をしている。
あんまり長居しては迷惑だな。
カイエンはそう思い、お茶をごちそうになったら帰ろうと考える。
「そう言えば、少し前にエンカちゃんが帰って来る姿を見かけたけんど、何かあったんだべか?なんかトボトボと一人で寂しそうに落ち込んでる様子だったべよ?エンカちゃんはカイエンの許嫁だべ?なにか知らないだべか?
「エンカが?ん~、今日俺と会った時は普通だったと思うけどな~?」
そう思い、カイエンは今日エンカと会った時の事を思い出す。
「よしっ!これで母ちゃんから頼まれてた物も買えたな。カズキ達はもう待ってるかな?急がないとな」
カイエンは出産祝いの子供服を買うと、母のソウカから頼まれていた物を買いに来ていた。
無事買い物を終え、急いでカズキ達と合流しようと店を出た時に許嫁のエンカに出会った。
エンカはカイエンと同じ鬼族で燃える様な赤い髪をしていて額からは少し小さな角が2本生えている小柄な女性だ。
小柄といっても鬼族なので180cmぐらいはあるのだが.....
「カ、カイエン様!ぐ、ぐ、偶然ですね。お買い物ですか?私もなんですよ。ほ、本当に偶然ですね!決してカイエン様を待ち伏せしてたなんて事はないんですよ?ええ、本当に!」
物凄くキョドりながらそう言うエンカは、見る者が見れば、どう考えても待ち伏せしていたようにしか見えないのだが、カイエンがそんな事に気付ける訳がない。
「おおっ、久しぶりだなエンカ!エンカも買い物か?」
「え、ええ。私達もその.....許嫁ですし?そろそろ、あの.....結婚なんて事も考えないといけないかなと思いまして.....よ、夜にカイエン様に御見せしても恥ずかしくないような、その.....し、し、下着などを選んでおりました.....」
エンカは顔を真っ赤に染め、チラチラとカイエンを見つめながら身体をモジモジとさせて可愛らしく何やらアピールをしている。
しかし残念。相手はカイエンだ。
「へぇ~、そうなんだ」
と、カイエンは素っ気なく返す。
しかしエンカは挫けない。
こんな事でいちいち気落ちしていてはカイエンの許嫁など務まらないのである。
エンカは諦めずに口を開く。
「あの、カイエン様?もし、良かったらこの後、私と.....」
「あっ!?そういやカズキ達待たせてるんだった!わりぃ、エンカ!また今度なっ!じゃ~なっ!!」
そうエンカに告げると、カイエンは片手を上げて走り去ってしまった。
ポツンと一人佇む、エンカを置いて......
「う~ん.....やっぱりいつも通りだったと思うぞ?」
乙女心なんて微塵も理解していないカイエンはそう結論付ける。
「そうだべか。まぁ、ただ何かあったらちゃんと元気付けてやるだよ?カイエンの許嫁なんだべから」
「おうっ!分かってるって!任せとけよっ!」
全く持って任せられないのだが、カイエンは元気にそう答える。
カイエンはそろそろお暇しようと、持ってきたお祝いの品を手渡し自分の家へと戻る。
「ただいまーっ!」
意気揚々と自宅の玄関の扉を開けると、そこには顔に青筋立てているソウカと少ししょんぼりしたエンカが立っていた。
それを見たカイエンは少し後ずさる。
「な、なんだよ母ちゃん?.....そんな怖い顔して.....」
「あなたって子は.....聞いたわよ?今日エンカちゃんを置き去りにしたそうね?」
ガシっとソウカのアイアンクローがカイエンを襲う。
「いだだだだっ!違うって!!それはカズキ達と待ち合わせしてたからっ!いだだだだっ!!」
「黙りなさいっ!全くあなたときたらいつまで経っても全く成長しないっ!」
ソウカはある計画を考えていたのだ。
エンカは昔からずっとカイエンの事を慕っている。
ずっと一途に想い続けているのだ。だがその想いは中々息子には伝わらない。
見ていて可哀想になるぐらいに.....
だからわざわざ今日、カイエンに買い物を頼み、そこにエンカを投入させたのだ。
ソウカの計画はこうだ。
今日はカズキ、シャルミナ、ネル、カイエンの4人で出かける。
シャルミナとネルはカズキにべったりだろう。そうするとカイエンは多少なりとも居心地の悪さを覚えるのではないか?
ならそこにエンカが現れれば、許嫁を紹介するという名目でカズキ達に紹介出来るのではないか?
そしてあわよくば、そのままWデートみたいな感じになってくれる事を期待していたのだ。
しかし計画は失敗に終わった。
息子カイエンは、居心地の悪さを微塵も感じず、エンカを置き去りにしてカズキ達と合流したのだ。
.....1人で。
「前々からあなたの女性に対する態度について話したい事がありました。いい機会です。今日はミッチリとお話してあげますからね!」
「いでででっ!なんだよそれっ!?いだだだだっ!エ、エンカっ!助けてくれっ!」
カイエンは藁にも縋る思いでエンカを見つめる。
するとエンカは、決意に満ちた表情を浮かべカイエンに告げた。
「カイエン様、私はカイエン様が女性の気持ちを理解できない愚か者にさせない為に決意しました!カイエン様も為にも心を鬼して我慢します!」
エンカからそう言われ、カイエンは助けがない事を悟り、絶望の表情をしながらソウカに引きずられていった。
それからしばらくの間、屋敷にはカイエンの悲鳴が響き渡るのだが、この屋敷にいる人々は全員「あぁ、またか.....』と思うぐらいで誰も気にしないのである。
こうしてこの屋敷のいつも通りの日常は過ぎ去っていくのであった。
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