初めての実践、力の胎動
カズキの色々な恥ずかしい情報が裏で今、メイドさん達によって暴露され、やり取りされているなどとは露にも思わずにカズキは今、両親と共にマッシュの背に乗り地上を目指していた。
何故こんな事になっているのかと言うと、
ジンの友人でもある田中 隆が国王を収める国、ラグナード王国近隣に少し厄介な魔物が現れたと連絡をもらったからだ。
別にジンに知らせなくても自国で解決はできるのだが、前々からジンに手頃な魔物が見つかったら知らせてくれと頼まれており、今回の事は丁度いいと思い連絡してきたのである。
「おおーっ!結構大きい街なんだな。あの城、この距離からでもこれだけ見えるって滅茶苦茶デカくね?」
「あそこはこの国の王都だからな。まぁ、そのうち挨拶に行くと思うから楽しみにしとけよ」
「おう!それにしてもポツポツと街みたいなもの見えるけど、やっぱ自然が多めなんだな」
遠くに見える街並み、眼下に広がる草原や広大な森、高くそびえ立つ山々の大自然。
この異世界に来て初めて目にする地上の景色に、カズキは少し浮かれていた。
「浮かれるのはいいけど、今回は魔物退治がメインって事を忘れんなよ?」
浮かれるカズキにくぎを刺すようにジンは言う。
「分かってるって。ワイバーンだっけ?そいつの退治なんだろ?」
「アイスワイバーンな。ワイバーンの特殊個体だ。カズキもそろそろ実戦を経験してもいい頃だしな。だが当然油断すると死ぬぞ?気を引き締めとけよ」
実戦か.....
不思議と恐怖心は湧いてこない。
あるのはただ、自分がこの手で殺す....命を奪う事ができるのかという不安だ。
この世界は地球とは違う。地球よりも遥かに命の軽い世界だ。
敵を前に躊躇っていれば自分が死ぬだろう。
自分が死ぬだけならまだいい。しかし自分が死ねばその敵は容赦なく自分の大事な人達へ危害を加えるだろう。
守る為には、躊躇う事無く殺す、心の強さがいるのだ。
カズキもそれは理解している。
敵に情けをかければ自分の周りを危険にさらす。そんなつもりはさらさら無い。
しかし、それでも不安なものは不安なのだ。
「大丈夫よ~。カズちゃんならきっと、立派に戦えるわ~」
のほほんといつもの調子でニコニコしているミリアは言う。
よしっ!ウジウジ悩んでてもしかたない!
カズキは気合い入れるようにパシンッ!と自分の頬を叩いた。
「おっ?気合いは入ったみてーだな。それに今回の実践はカズキにとってもいい訓練になると思うぞ?」
「ん?なんか実践の経験以外にも何かありそうな言い方だな?」
「あるぞ。お前、最近伸び悩んでるだろ?」
....図星だ。
必至に訓練をして、確かに日本にいた時よりも遥かに強くなった。
しかし、それでも他のメイドさん達に追いつける気がしない.....
最近はカイエンにも負け越しが増えてきている。
悔しいが、親父にはバレバレだったみたいだ.....
「そりゃまだまだ力を使い切れてないって証拠だな。いいか?お前は忘れてるのかも知れんが、お前の片目は母さんと同じ神眼だぞ?それでメイド達の動きを追えないとか普通はあり得んからな?」
「どういう事だ?実践を経験したら目が急に良くなったりするのか??」
「そこはお前次第だとしか言えん。あと、カズキ。お前、自分の力を怖がってるだろう?いや、そこは無自覚か?そのせいでお前は全力を出してるつもりかもしれんが、力を半分も出せちゃいねーよ」
なんの事だ?俺はいつも全力のつもりなんだが.....
親父の言葉が理解できなく、俺は首を傾ける。
「まぁいい。おっ、そろそろお相手さんが見えてきたぞ」
少し高い山の中腹にそいつはいた。
巣なのか、少し広い開けた場所の中央に少し蒼色がかったそいつは寝ていた。
ふむ.....全長5mぐらいか?それにしても.....
「なぁ、ここまで近づいてるのに気づかれた様子ないんだけど?めっちゃのんびりとお昼寝中だぞ?」
「ああ、そりゃ母さんがいるからな」
『うむ、流石に我がここまで近づいたら普通は気付かれてしまいますな』
「ふふ~。凄いでしょ~?カズちゃん、褒めて褒めて~」
凄い凄いと適当に母さんを褒めて俺は親父に聞く。
「んで?どうするんだ?このまま近くまでいくにしてもどこで降りるんだ?」
「ん?それはな....」
ニヤリと笑い、ドンッ!と俺は親父に蹴り落とされた。
「クソ親父ぃぃぃぃぃぃ!!覚えてろよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺は大声で叫んだ。
さすがに気づかれたのか、アイスワイバーンはこちらを見るなり警戒態勢を取る。どうやらお昼寝を邪魔されてかなりご立腹のようだ。
まだまだ文句を言ってやりたいが、今はこっちに集中しないとな....
俺は気持ちを切り替え、マジックボックスの魔法を使う。
大剣を取り出し強く握りしめると対象を睨む。
「まずは.....飛ばれると面倒だからその羽もらうぜっ!」
空中で魔力を固め、それを足で蹴ってさらに加速して向かっていく。
その勢いのまま突っ込み、すれ違いざまに相手の片翼手を切り裂いた。
俺はなんとか着地すると、そのまま体勢を整え対峙する。
「んげっ.....全然ピンピンしてやがる.....」
アイスワイバーンは咆哮と共に飛びあがり、俺の頭上で旋回しはじめた。
その時、ワイバーンの喉元が何かを堪えるようにプクリと少し膨らむ。
「ブレスかっ!」
俺は素早く魔法を使い、炎の壁を盾にするように発動させた。
その瞬間、ワイバーンの吐いたアイスブレスとぶつかり爆発が起こる。
「おおー。中々の威力だな」
『ですな。ワイバーン如きが中々やりますな』
「フレ~、フレ~、カ~ズちゃ~ん」
親父とマッシュの会話に母さんの能天気な応援が耳に入ってきた。
色々と言いたい事はあるが、今の俺にそんな余裕はない。
爆発の煙が少し晴れ、ワイバーンの姿を視認するとこちらに突っ込み前方に回転しながら尻尾を叩きつけてこようとしている。
俺は素早く横に避ける。
ズドンッ!
そんな音を響かせながら尻尾は地面にぶつかった。ぶつかった地面からはシュ~シュ~と煙が上がり、地面が溶けている。毒かっ!?
「クソっ!尻尾に毒とか、どこのリオ〇イアだよっ!!」
俺はそう毒づく。毒だけに....
空気が凍った気がした。
おいっ!ワイバーンてめぇ.....そんな眼で俺を見るなっ!
ワイバーンにまるで哀れな者を見るような目付きで見られた気がした。
.....俺の気のせいだ。そうに違いない.....よしっ!なかった事にしよう!
俺はチャンスと思い、叩きつけられた尻尾目掛けて大剣を振り下ろす。
尻尾を切るのは剣士の役目らしいからね。
しかし、振り下ろされた剣は、ガキンッ!と音とともに弾かれてしまう。
マジかよ!?硬って~な....
その瞬間、ワイバーンの振るった爪が俺に迫る。
なんとか大剣を盾にしガードするが、そのまま勢いよく弾き飛ばされ壁に激突する。
いつつつつ.....
いやぁ、日本にいた頃ならミンチ確定の勢いで激突したのに痛いで済んでる事に驚きだね。我ながら人間辞めちゃってるのよね....いや、母さんとのハーフだから元から人間じゃないとか?まぁ、見た目はどう見ても人間だしな、人間という事にしておこう。
以外に余裕があるのか、そんな余計な事を考えながら構え直す。
さぁて....どうすっかね。剣にもう少し魔力を通せば通じるか?最初の勢いぐらいの斬撃があれば切れるか?とりあえずは魔法も試してみるか.....
俺は素早く複数の炎の矢を形成し、ワイバーンに向かって放つ。
しかしワイバーンは自分の身体を守るように翼手を前に持ってきて防がれてしまう。
何発かは当たったようだが、効いてる様子は見られない。
アイスワイバーンだから炎が弱点ってゲームみたいな事は無い訳ね.....
まだまだ手はある。そう思い、俺はワイバーンに向かって突っ込んで行った。
しばらく戦っていると、俺に少しづつ変化が現れる。
徐々に俺の攻撃がワイバーンに届くようになってきたのだ。
それに、ドンドン楽しくなってくると同時に身体の奥底から力を感じた。
ソレは黒く、徐々に大きくなり、俺を呑み込もうとするように感じた。
怖い.....コレに呑まれたら、俺が俺じゃなくなってしまうような、消えてしまうんじゃないかという気がしてくる.....
呑まれるな!
必至に抗おうとする俺をあざ笑うかのように黒いソレはドンドン大きくなっていく。
「ふふっ...ふははっ...ハハハハハハハハハハッ」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い.....
俺の意志を無視し、気持ちはどんどん高揚していく。
「始まったか」
『始まりましたな』
「ええ、そうね」
「おーいっ!カズキっ!聞こえるかーっ?お前に1つアドバイスをしてやる!それもお前の力だっ!怖がるなっ!そして....思いっきり沈め!!」
そんな親父の言葉が遠くから聞こえてきた気がした。
オレノチカラ....タノシイ....コワイ....シズム....
朦朧とする意識の中、聞こえた親父の声はとても優しく聞こえ、心が安心するような気がした。
ワカッタヨ.....トオサン.....カアサン.....ミンナ.....
.....そして俺は抗う事を止め、心をソレに委ねた。
俺の息子がダラリと力を抜くように立ち止まると、その瞬間物凄い勢いで黒い光にカズキは包まれた。
「あれは魔力....いや、神力か!?どっちにしても可視化出来るぐらいの高密度だ。我が息子ながら、想像以上にやべーなっ!」
『ジン様、少し離れますぞっ!』
そう言いながらマッシュが少し距離を取る。
「カズちゃん....大丈夫よ。ママが付いてるわ.....」
ミリアはそう小さく呟き、カズキを見つめていた。
眼下ではワイバーンが必至に攻撃を仕掛けているが、そのどれも黒い光に阻まれて届く事ない。
それどころか、攻撃をしかけた部位は消滅していっている。
その時、人型をした黒い光の塊が拳を振り上げ、ワイバーンに向かって突き出した。
「.....おいおい....マジかよ.....」
突き出した拳の先は山の中腹ごと、ポッカリと消滅していた.....
俺はその光景に冷や汗を書きながら、息子を見つめるのであった。
意識は朦朧とし、視界は黒く染まっている。自分自身で何を考えているのかも分からない。
ワイバーンはモういナい.....
マだダ.....もっトダ....モっとハかイヲ.....
「は~い、そこまでよ~」
母さんの声が聞こえた。
パンッ!と手を叩く音が聞こえると同時に、俺の視界が鮮明になる。
と同時に全身から力が抜けて、その場に倒れ込む。
「よく頑張ったわね....」
優しく髪を撫でながらそう言う母さんの言葉聞きながら、俺は気を失った。




