宝樹祭当日の朝
宝樹祭当日、朝から里が賑わう中、俺は懐かしい友人と再会していた。
「カズキッ!久しぶりだなっ!手合わせしようぜっ!」
「いや、カイエン.....今から祭りを楽しもうって時に何でそうなるんだよ?」
「え?俺がしたいからだけど?」
久しぶりに会う友人が変わってない事を喜ぶべきなのか、相変わらずの様子に嘆くべきなのか.....
俺は内心でそんな事を思いながら軽くため息を吐く。
「カイエン様!お久しぶりの再会で嬉しいのは分かりますが、カズキ様に失礼ですよ」
そんな俺とカイエンのやり取りを見ていた鬼族の女性が、そう言ってカイエンを窘める。
ちなみにこの場にカイエンがいるのは、親父と母さんが連れて来たからだ。
俺の両親は宝樹祭に毎回参加しており、今回もいつも通り参加する為にユグドレフィアまでやって来た。
そして今回は俺が居るって事で、どうやら俺と仲の良いカイエンを連れて来てくれたのだそうだ。
そのカイエンと一緒にやってきたのが、この鬼族の女性である。
燃えるような真っ赤な髪をしており、眼鏡をしたその女性は、鬼族では小柄の部類なのだろうか?
俺と背丈が同じぐらいだ。
ってかもしかしてカイエンの恋人だったりするのだろうか?
「あっ、失礼しました。私はカイエン様の妻のエンカと申します。カズキ様にお会い出来て光栄でございます。今後も夫共々、是非よろしくお願い致します」
エンカと名乗る女性は、そう言ってに俺に深々とお辞儀をしてくる。
.....嫁?
「えっ?何っ?カイエン結婚したのか??俺、何も聞いてないんだが??」
一体いつの間に結婚なんてしたんだ?ってかカイエンに恋人が居るなんで全然知らなかったんだけど?
「エンカは昔からの俺の許嫁でな~.....俺は結婚とかあんまり興味はないけどさ、母ちゃんが煩いからな.....それにエンカならまぁ、別にいいかなって思ってさ。でもよ、伝えようにもカズキは地上を旅してるだろ?伝える方法がねぇじゃんかよ?」
な、なるほど.....カイエンの許嫁だったのね。
それにカイエンの言う通り、俺は地上で色々な所を観光してるからな.....ごもっともな意見である。
少し動揺してしまってたようだ。
「そうかぁ~.....カイエンも遂に結婚したのか.....アレッ?そう言えば.....狐の姉妹はいないのか?名前は忘れたけど、確か.....カイエンの嫁になるんだ~って言ってた気がしたが?」
ローグンで少しお世話になったあの狐姉妹の姿が見えないので、俺は辺りをキョロキョロと探す。
「ん?あぁ、ココンとコロンの事か?2人には悪ぃけど断ったぜ?」
「えっ?何でなんだ?少し独特な気もしたが、普通に良い子そうに思えたんだが?」
「アハハッ!そりゃ単に俺が結婚に興味無いからだな。結婚ならエンカとしたし、十分じゃないか?」
俺の質問にカイエンはそう言って笑う。
いや、別にカイエンの考えを否定する訳じゃないんだが.....
そっか.....あの2人の恋は散ってしまったのか.....大丈夫なのだろうか?
辛いと思うが、2人には何とか立ち直って次の恋を見つけて欲しいものだ。
俺が内心で2人へエールを送っていると、エンカさんが口を開いた。
「カズキ様、大丈夫ですよ?あの2人なら『どこかに良い男はいないかしら?出来れば強くてイケメンで精力旺盛な人が良いわね』『お~!強々~!.....ポッ』っとか言いながら次の男性を探しておりますので.....」
っとエンカさんが教えてくれた。
.....タフだな.....ってか切り替えが早いのか?
いや、それよりも俺、声に出してましたかねっ!?
俺は少し焦り、エンカさんに確認してみると『いえ、何となくそんな事を考えてそうなお顔をされていたので.....』っと返されてしまった。
どんだけ分かりやすいんですかっ!?俺っ!!
これはいよいよポーカーフェイスの練習を真剣に取り組むべきか?等と俺が悩んでいると、少し離れた場所から俺の両親とシロさんが一緒にこちらへ向かってくる姿が見えた。
『ちょっと挨拶してくる』『行ってくるわね~』っと来て早々、シロさんやウッディニさんの元へ向かった親父と母さんだが、どうやら挨拶も終わったらしい。
この2人がこんなまともな行動を取るなんて、最初は偽物では?と疑ったものだが、そこはナイショにしておこう.....
「やぁ!おはようカズキっ!」
「おはよう」
そう言って俺達に近づいて元気よく挨拶をするシロさんに俺も挨拶を返す。
「あぁ.....長年、夢にまで見た友達とお祭りを回るって行動.....私はずっとこの日を待ちわびていたよ!」
「お、おぅ?ま、まぁ楽しもうな?ってかもう少し落ち着いた方が良いんじゃないか?」
.....初手から何て言っていいか困るコメントは控えてもらえませんかね?
そんなシロさんはテンションが上がり過ぎているせいか、俺の言葉に反応する事は無く、今にも飛び出して行きそうな勢いだ。
俺はそんなシロさんの様子に少し不安を覚えていると、不意に親父と母さんが俺に声を掛けてきた。
「カズキ.....」
「カズちゃん.....」
「ん?.....何だ?」
いつもと少し雰囲気の違う2人の様子に、俺は思わず首を傾げる。
「孫はもう出来たか?」
「孫はもうそろそろかしら~?」
「突然変な事を言い出すんじゃねぇよっ!!」
何で今なんだよっ!!宝樹祭とか全く関係ないじゃねぇかっ!!
「いや、そろそろ1人ぐらいは.....って思ってな。ちゃんと夜は頑張ってんのか?」
「ママも早くカズちゃんの可愛い子を抱きたいわ~。まだ1人も妊娠してないのかしら~?」
「知るかっ!!ってか言う訳ねぇだろうがっ!!そもそも俺に聞く必要あったっ!?母さんなら皆が妊娠してるかどうかぐらいすぐ分かるんじゃないのかよっ!」
何で両親に夜の生活を暴露しなきゃならんのだっ!!
そもそも子供が出来たかどうかぐらい、母さんなら直に分かるだろうがっ!!
どんな嫌がらせだよっ!!
「そう言われればそうね~.....う~ん、まだみたいね~」
「オイオイッ、カズキ!何やってんだよ!もっと頑張れよ!」
「やかましいわっ!!ほっとけクソ親父っ!!」
だ、誰かっ!!誰かこの馬鹿2人から俺を助けてくれっ!!
「カズキ様が助けを求めている気配がしました。あぁ.....姉に助けを求める弟.....そして深まる絆.....駄目です、カズキ様.....私は姉なのです.....ですがカズキ様が望むのならばこのアリア、一線を越えてみせましょう.....」
あっ、やっぱいいです。
何でアリアまで居るんだよっ!!どこから現れやがったっ!!
ってか助けを求める気配って何だよっ!!怖えよっ!!
「.....母さん」
「はいは~い、アリアちゃん~。帰りましょうね~?」
俺は母さんに目で訴えると、何やら妄想しながらブツブツと言い、自分の世界でトリップしているアリアを母さんは強制転移で送り返す。
ふぅ~.....これで1人やべー奴は対処できたな。
.....出来たかな?出来てるよね?.....出来てたらいいなぁ.....
俺は不安に押しつぶされそうになる心に活を入れ、何とか気持ちを切り替える。
こうして俺の宝樹祭当日の朝は、カオスな様子からスタートしていくのであった。




