宝樹祭前日
俺の命が危険に晒された恐怖のバドミントンから数日後、ついに宝樹祭前日となった。
宝樹祭が近づくにつれ、里の様子はドンドン変わっていて、今では里のいたるところにテーブルや椅子が置かれている。
里の中央にある少し広い広場には、ステージのような物もいつの間にか出来ており、当日にそこで何かしらの催しが行われる事は明白だ。
今も広いステージの上では、小さな妖精族達が集まり何やらリハーサルみたいな事をしていて、その姿は実に微笑ましい光景だ。
俺も今から明日の本番が楽しみで仕方がない。
「あれは何の料理なのでしょうか?」
そう言うリロロの視線の先では、数人のエルフ族や妖精族、そして精霊族達が何やら料理を大量にせっせと作っていた。
「.....アレは.....ジャイアントワームを使った料理.....主に.....お肉の替わりに使われる.....」
フローラがそう言って奥を指さすと、そこには巨大なミミズのような物が大量に積まれていた。
(お、おぅ.....アレを食べるのか.....いや、見た目はアレだが案外旨いかもしれないしな。それに調理されてるから原型はないし、別に丸焼きでって訳でもないから案外イケるか?)
俺はその姿に若干引いてしまうが、直に気持ちを切り替える。
こういった現地の物を味わうのも旅の醍醐味の1つだしな。うん。
俺がそんな事を考えていると、遠くから何やら足音がこちらへ近づいてくる。
どうやらリョアンさんとウリスコさんのようだが、2人は籠を抱えているようだ。
2人はしばらくもしない間に近づいて来たと思ったら、真っすぐにフローラへと近づく。
「フローラたんの為に、おじいちゃんが美味しいぺレスを沢山取ってきたぞっ!」
「フローラ、じぃじが甘くて美味しいオレゴを用意しましたよ」
リョアンさんはレタスとキャベツを混ぜた物みたいな見た目のぺレスと言う野菜を大量に取ってきており、ウリスコさんはオレゴと言う甘くて美味しい果物を持って来たようだ。
ぺレスは生で食べても調理しても美味しい野菜で、オレゴは生で食べてもデザードに使っても美味しい果物でどちらもフローラの大好物だ。
「.....嬉しい.....おじいちゃん達.....大好き.....」
フローラは輝くような笑顔でリョアンさんとウリスコさんにお礼を言うと、2人はデレッデレな少し情けない顔になりながらクネクネと身体を動かして照れていた。
.....見た目は2人共若いのだが、どう見ても成人男性のそんな姿を見るのは少し気持ち悪いな.....
ってかこの2人、前まで犬猿の仲じゃなかったっけ?何で2人で仲良く来るんだよ。
いや、仲が良いのは良い事なんだが、フローラの前でだけ取り繕ってる訳じゃないよな?
もしそうならフローラが悲しむから、ここは少しコッソリと確認しておくか。
「というか2人で一緒に来たんですか?確かにこの前仲直りみたいな感じになってましたけど、フローラの前だけって訳じゃないでしょうね?」
俺は2人に近づくと、コソコソとそう聞く。
「フンッ!可愛いフローラたんを悲しませる事なぞするもんかっ!」
「その通りです。フローラの為ならどんな事でもしてみせましょう!」
「当然じゃ!儂等のちっぽけな感情なぞ、フローラたんの前ではゴミ同然じゃわい!」
「えぇ、フローラに悲しい思いをさせるなぞじぃじ失格です。そんな物はさっさと捨てるに限りますからね。」
「のぅ?」「ねぇ?」
2人はコソコソと俺にそんな事を言うと、仲良く2人で頷き合っている。
.....お前等変わり過ぎじゃね?いや、それだけフローラが好きなのは分かったけどさ.....
「.....?」
そんな事をコソコソと話す俺達を見て、フローラは首を傾げている。
リョアンさんとウリスコさんはそんな姿を見てまただらしなく顔を緩めていた。
.....完全に孫にやられてるな.....確かに首を傾げてるフローラの姿は可愛いけどさ。
俺は2人に内心呆れながら小さくため息を吐いた。
まぁ、喧嘩されるよりはマシだろう。
2人はしばらくフローラと3人で会話を交わすと、籠を抱えてまた戻って行った。
こうして2人が去って行った後、今度はシロさんとこの里の長を務めているウッディニさんがやって来た。
「やぁ、カズキ」
「カズキ様、こんにちは」
シロさん軽い感じで、ウッディニさんは少し固い感じがまだするが、最初に比べたら随分とマシになった雰囲気で挨拶をしてくれる。
「こんにちは。シロさんは置いといて.....ウッディニさんはどうしたんですか?何か俺達に用事でも?」
「なんだと~ッ!何で私は置いといてなんだよ!」
「当たり前だろうがっ!何で数日前に殺しかけた相手からまともに相手にされると思ったんだよっ!」
「いや、アレはちょっと失敗しただけじゃないか?それに結局生きてるんだからセーフって事に」
「ならねぇよっ!完全にアウトだよっ!!それにアレをちょっとした失敗と思ってるんなら大間違いだぞっ!!」
俺の脳裏に先日の恐怖体験が思い出される。
余りの恐怖に何があったのか思い出したくもないレベルなのだが、ハッキリと言える事は1つ。
二度とシロさんとバドミントンはしないっ!って事だけだ。
そんな俺とシロさんのやりとりを見て、ウッディニさんは笑う。
「アハハッ!本当に宝樹様と仲がよろしいのですなっ!」
「ね?言っただろう?」
「いえ、別にそこまででは」
「なんだと~っ!」「なんだよっ!」
ウッディニさんの言葉に俺とシロさんはそう言いながら睨み合う。
「本当にお2人は仲が良いのですね?宝樹様のそのような姿は初めて見ましたよ.....あぁ、それと特に御用がある訳では無く、里の見回り中にたまたま見かけたのでご挨拶でもと思って声を掛けさせて頂きました」
「わざわざどうも、ありがとうございます」
俺はそう言ってウッディニさんに頭を下げる。
「いえいえ、では私達はこれで。明日から開催の本番を楽しんで行ってくださいね」
「カズキ!明日は私も一緒に行くからね!また明日!」
そう言って2人は俺達から離れ、別の場所を見回る為に去って行く。
.....え?明日シロさんも来るの?
嫁さん達とノンビリ楽しもうかと思ってたんだけど.....いや、別に構わないんだけどさ.....
こうして俺達は、里の皆がせわしなく明日から始まる宝樹祭の準備をする中、ワクワクしながら明日を待つのであった。




