無理です。勘弁してください
周囲の緊張感が高まる中、ネルとシャルミナは静かに対峙している。
肌にピリピリと刺すような空気の中、お互い目を逸らす事無く睨み合いを続けている姿は、まるで西部劇の決闘のような雰囲気だ。
.....いや、コレただのバドミントンだからね?
俺がそう思った瞬間、先に羽を打ち出す側のネルが動いた。
ネルの打った羽は凄い速度でシャルミナ側のコートの手前の隅ギリギリに飛んで行く。
「甘いわっ!それぐらいで妾を倒せると思わぬ事じゃな!」
しかしシャルミナは素早く前へ詰めるとネルへと打ち返す。
「まだまだこれからっすよ!」
そう言ってネルは、今度はシャルミナのコートの後方の隅を狙い打ち返す。
「くっ!」
シャルミナは打ち返された羽に何とか追いつくが、態勢が悪いせいか打ち返す羽にそこまで威力はない。
その打ち返された羽を、再び前方の隅を狙いネルは打ち返していく。
シャルミナは何とかそれにも追いつき打ち返すが、どう見てもネルが優勢でシャルミナは防戦一方な展開になっている。
「ふふふっ。ウチの秘策にはまってるっすね」
ネルは勝ち誇ったような顔でそう言うが、別にそんな特別な策ではない。
シャルミナの弱点、それは身体の小さい為にリーチが短い事だ。
これが普通の相手ならシャルミナも特に問題にはならなかったであろう事なのだが、相手はシャルミナと張るぐらいのスピードを持つネルだ。
そして打ち出される羽の速度も常識では考えられない程の速度が出ており、結果リーチの短いシャルミナが不利な展開となっているのだ。
「ぐぬぬっ.....卑怯じゃぞっ!!」
「いや、ただの戦略にそんな事言われても.....っす」
シャルミナはネルに振り回されながらそう抗議するが、ネルの言う通り別に卑怯でも何でもない、ただの戦略である。
こうしてしばらく打ち合いを続けた結果、勝利はネルの方へと転がり込んできた。
「.....何かシャル姐に悪い事した気持ちになるっす」
ネルは苦笑しながらそう言い、負けてズーンっと落ち込んでいるシャルミナに視線を向ける。
シャルミナは負けた後、隅の方で三角座りで膝を抱えて俯いていた。
負けた事もそうなんだろうが、何より1番シャルミナがショックだったのは手足の短さを改めて思い知らされたからだろうな.....でも、身体の大きさはどうしようもないしな.....
「いいなぁ.....皆楽しそうだし、私もやってみたいな」
皆の様子を眺めていたシロさんが、俺の横でそんな事を言う。
「いや、そもそもシロさんはラケット持てないでしょ?」
俺が言ったように、シロさんは手足が無い。白蛇の姿だしな。
なので遠回しに無理じゃね?っと伝えてみたのだがシロさんは平然と答える。
「そこは大丈夫さ!見てて!」
シロさんはそう言うと、何やらググッと力を込める。
(何だろう?人型形態でも持ってるとか?それは少し見てみたい気が.....)
俺がそんな疑問を浮かべていると、シロさんの胴体から手足がスポンッっと生え、地面に2本の脚でスクッっと立ち上がった
「ふうっ。さぁ、コレでラケットも持てるし問題ないだろ?」
シロさんは胸を張ってそう答えるが.....
ただの二足歩行のトカゲじゃねぇかっ!!
主体が蛇なので若干トカゲとは違うのだが、見た目はトカゲにクリソツである。
ってかどんな人型なんだろう?ってちょっとドキドキしてた俺の気持ちを返せっ!!
「よしっ!これで私もバドミントンだっけ?で遊べるよ!」
「あぁ.....あんまり無茶しないようにな?まぁ、楽しんで遊んでくるといいよ」
「えっ?何を言ってるんだい?私の相手は勿論カズキだよ?」
「いや、俺は遠慮――」
「友達と何かして遊ぶなんて初めてだよ!楽しみだなぁ~」
「.....ソウダネ。タノシモウネ」
普通に嫌な予感がするから断ろうと思ってたけど、そんな事言われて断れる訳ねぇだろっ!!
「え~っと.....とりあえず1回試し打ちとかしてみたら?ほらっ、初めてな訳だしさ」
俺は何か嫌な予感を感じたので、とりあえずシロさんに誰も居ない方へ試し打ちを進めてみる。
「そうだね!1回試してみるよ!」
シロさんはそう言いながら明後日の方向へと向くと、手にしたラケットで羽を打ち出した。
シロさんが羽を打った瞬間、まるでミサイルでも着弾したかのような轟音が聞こえると、羽が飛んで行ったと思われる方向はとんでもない事になっていた。
地面は抉れ、周囲の木々も消し飛んでいるのその光景は、まるで某バトル漫画の強力な気功破を撃った痕みたいになっている。
「こんな感じかな?うんっ、じゃあやろうか?」
シロさんは何事も無かったかのように呟くと、俺の方を向いてそんな事を言ってくる。
「無理無理無理っ!無理だからっ!そんな威力で打たれたら俺死んじゃうからっ!!勘弁してくださいっ!」
あんな馬鹿げた威力で打たれたら俺が耐えられる訳ないだろっ!?
俺は必至にそう答える。誰だって命は惜しいのだ。
それもただの遊びで死ぬとか、絶対に嫌なんですけど!
「大丈夫さ!死にかけてもちゃんとエリクサーで治してあげるからさ!」
「全然大丈夫じゃねぇよっ!!何で死にかける事前提なんだよっ!!」
「回復魔法の方が良かったかい?」
「違うっ!そうじゃないっ!!そもそも死にかけないようにちゃんと手加減しろよっ!!」
駄目だっ!やっぱりシロさんもアッチ側の存在だったよっ!!
「そうだっ!相手なら俺の嫁さん達の方が実力も近くていいんじゃないか?きっといい勝負で楽しめると思うぞ?なぁ!皆っ?」
俺はそう言って嫁さんズの方へと視線を向けるが、全員から見事にスッと視線を逸らされてしまう。
嫁さんやぁぁぁぁいっ!?
嫁さん達の見事な連携のおかげで見事に見捨てられた俺は、コレでシロさんの相手をする事が決まってしまう。
嫁さん達の素晴らしい一体感に、俺は涙が出そうだよ.....いや、泣いた。
ってか嫁さんズは俺の奥さんであると同時にメイドでもあったはずなんじゃ!?
最近メイド要素がどこにも無いんですけどっ!?
ただ、嫁さんの尻に敷かれてるだけな気がするのは俺の気のせいだろうか?
「お~いっ!カズキ~っ!いくよ~っ!」
そんな俺の心の叫び等届くはずも無く、シロさんは無邪気にラケットを振りかぶる。
「いいかっ!優しくっ!手加減してだぞっ!泡を割らないようにソッと摘まむぐらいの気持ちで手加減して打つんだぞっ!いいなっ!?絶対だぞっ!!」
「分かった分かったっ!じゃあいくね~!」
絶対分かってないよコイツっ!!
こうしてシロさんのバドミントンとは違う何かの相手をする事となったのだが、静かな森の中に俺の悲鳴がしばらく響き渡るのであった。




