79 弱き者
まだ距離はあるが、体調不良者が出たため、馬車を止め一旦集まることになった。
「コイツは強烈だ」
「見ただけ、近づいただけで体調を崩した者がいる。戦えそうにない者は下がらせよう」
1割ほどが戦意喪失。見た目だけではなく、非常に嫌な空気も漂っている。悪い意味でさすがは「神」といったところか。
こうしてわけられ、戦えるものは再度進軍を始める。
魔神に近づくと、足元に多数の人型生物が居るのを確認。
「闇の者か」
激しい攻撃を予想していたが、彼らがこちらに仕掛けてくる様子はない。
全員馬車から降り、彼らの前まで前進。闇の者の先頭にいるのはルアンか。
「ようこそ、人間どもよ。俺の言いつけを守ってしっかり魔物を育ててくれたようだな」
「……そうか、おかしな話だと思っていたが神の使いというのは貴様か」
「いかにも」
「となると暗黒粒の話も?」
「暗黒粒を与えられた魔物を殺すと無くなるわけではなく、殺すと魔神様に送られるのさ。魔王像の暗黒粒が0になったわけではなく、魔神様に送られただけだったわけだ。まあ本来なら復活した魔王様から徐々に暗黒粒を吸って復活、が理想だったのだが。まさか全滅とはな」
「……なんてことだ」
ややこしいな。整頓すると、
・魔王像の暗黒粒を無くせはしないが魔物に移すことによって増え方を緩和できる、そう教えられた。
・生贄等で魔王が復活。倒すことで暗黒粒が0になり、魔神復活も無くなったろうと思われた。
・実際は暗黒粒を与えた魔物を倒すと魔神に送られ、魔王を倒すと魔神に送られ。こうして魔神復活。
ということか。つまりは魔神復活を人類が手伝っていたわけだ。
「まあいい。復活が完全ではない今、奴を倒して終わりとしよう。ところで、まずは貴様らからだが、どうやらそちらの軍勢は我々と戦うには質が低いようだな」
アルベル王が言うように、数こそかなりいるが彼らから「圧」というか強さを全く感じない。
「貴様の言うとおりだ、アルベル王。後ろに控えている闇の者たちはそちらの人類の一般人に毛が生えた程度の強さではある」
ルアンは語る。
魔神が封印されると人間たちは闇の者たちを狩り始めた。気位が高く腕に自身のある闇の者たちは続々と殺される。
こうして力が弱く、気が弱い彼らだけが生き残った。
力のない彼らは「知」で人間たちに戦いを挑むことにした。気の長い話ではあるが、すでにその時から戦いは始まっていた。
話の途中、地下から金属で出来た大きな鐘がせり上がってきた。
「この鐘は「過金鐘」と言ってな。1部の闇の者の行動を制御することが出来る鐘だ。その闇の者は人間どもに溶け込み、今では全ての人間たちの体の中にいる」
「まさか!」
指を鳴らすルアン。鐘を鳴らし始める闇の者たち。途端に人間たちは苦しみ悶え、口から泡を吹き、立ったまま動かなくなった。
「あーっはっはっは! 長い長い計画だった。こうして動きを封じてしまうとあっけないな。何だか少し寂しくもある」
「ぬぐぐっ! ル、ルアン!」
「貴様らを生贄とし、魔神様は復活なされる。光栄に思うが良い」
「むぐぐ! そ、その鐘さえ破壊すれば人類は開放されるのか!?」
「そうなるな。まあ、貴様らは動けないが」
「そうか」
鐘に向かって飛び上がり、レイクラッシャーを打ち付けた。金属でできた鐘は粉々に。そうだよな。なんか周りは苦しんでいて、俺だけ全く影響を受けていないからおかしいと思った。
俺は異世界人、しかもつい最近こちらへ来たばかりだ。闇の者の因子をもっているはずがない。
驚き焦るルアン。
「ば、ばかな! 計画は完璧だったはず……。そうか、神か、神だな!」
ルアンが何やら合図を送る。闇の者たち、そしてルアンは懐から刃物を取り出し、自らの心臓に突き立てた。
「まあいい、グブッ……。俺たちはお前たちには勝った、それだけで充分だ。我々が生贄となろう。くっくっく。残念だったな、結局絶望からは逃れられないのさ。魔神様、万歳!」
血を吐き笑いながら身体が徐々に燃え、霊体のようになっていくルアン。そしてルアン、闇の者たちは魔神に吸収された。
大地が振動し、魔神の周りの氷が砕け始めた。
先ほどとは比べ物にならないほど、嫌な気配が強まる。
「こ、これは」
「これが魔神!」
俺以外は立っているのがやっとなほどの威圧感。
「サイゴ以外は撤退だ! 急げ!」
危険を察知したアルベル王は撤退を指示する。
馬は邪気に当てられ死亡。全員走っての撤退となった。アルベル王、ミア、イリス、ルモナが俺に向かって叫ぶ。
「この世界を頼む!」




