↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーリア  作者: 猿蟹月仙
98/102

第95話『アーリアは何処へ?』


 父親とは創造主の事だろうか?


 目の前で、いきなりハインツの頬を叩いた『父親』とやらの剣幕に、C(セイ)は度肝を抜かれてしまった。


 それは、この人間の集団に合流してからすぐの出来事。

 人間達はひとしきり何かを揉め、結果としてハインツは剣を取り上げられ、連れて来た老婆の、つまりは私の世話を命じられている。


 俯き、私の横で膝を抱えて座っているハインツの左頬は、赤く変色し、形も少しおかしくなっていた。あの時『父親』に殴られたからだろうか?




 Cはそっと手を、手に見せかけた触手を伸ばしてみた。

「痛っ!?」

「・・・痛いのかえ?」

「見れば判るでしょ!?」

 ハインツは顔をしかめ、すっと身を引き、少し離れて座り直した。


(・・・どうやら内部の組織が傷付いてしまった様ね・・・)

 僅かな触感の違いを鑑み、痛んだ部分が修復の真っ最中なのだろうと納得した。が、もう一度、触って確認したいものだと、じっとハインツの頬を眺めた。

 きっと、もう触らせてはくれないだろう。

 でも、触ってみたい。

 さて、どうしよう・・・


 そんな思案にくれていると、陽気な足取りで口笛吹き吹きフースが戻って来た。

「いやあ~、大丈夫ですかい、お坊ちゃん?」

「大丈夫、じゃない・・・」

 不機嫌そうにそっぽを向くハインツだが、そんな事はお構いなしのフースはその目の前にしゃがむと、いきなりその頬に、びちゃりと濡れた布を押し当てた。

「ひゃっ!?」

「ほらほら、どうです? 村の井戸をお借りして冷たい水で塗らして参りましたよ」

「や~め~て! 触るなよ、まだ痛いんだから!」

「まあまあ、こういう時は最初、少し冷やしておいた方がいいんですぜ。さあさあ・・・」

 カラカラと笑いながら、フースは傷をぽんぽんと軽く叩く様に押さえてみせ、次には本人に持たせて押さえさせた。


(成る程・・・人間はこういう時、冷やすものなのか・・・今度機会があれば試してみましょう・・・)

 このやり取りを眺めながら、人間の仕草をじっと考察するCは、そろそろ状況を知りたいとフースに声をかけてみた。

「ところでフース様、村が助かっていて良かったですねえ」


「よせやい。様なんてつけられたらこそばゆいぜ」

 そう言って立ち上がると、フースは周囲の様子を見渡した。


 そこは村の外壁の外。

 辺境騎士の一行は、無事に到着していたのだ。徒歩で走って来た農民兵達はその場でへたり込み、騎士たちは集まって何事かを話し合っている様子。

「信じられるかい? 何でもアーリアって女が、巨人に化けてオーク鬼の一団を追い払ったってぇ~言うんだから驚きだぜ」

「本当!? あたた~・・・」

 思いっきり顔を上げたハインツは、思わず顔をしかめて俯いた。


 だが、Cは静かにその名前を聞いていた。全身があわ立つ様で、ぶるっと震え。

「それはまた凄いお話ですねぇ~・・・そのアーリアさんとやらは、村においでで?」

 もし、近くに居るのなら・・・

 途端に全身が冷たくなるのを感じた。


「いんや。昼前に村を出ちまったらしい。何でも旅を急いでるんだとか。丁度、隣村へ急ぎで向かう馬車に乗ってったてな話だから、どうするのかねぇ? もしかしたら、話を聞きに誰か人をやるのか、それとも・・・」

 そこまで言って、フースはふと何かを思い出した様子で。

「そういや、婆さんはブラウボウの街へ行くんだったよな?」


「は? あ・・・ああ、そうでしたそうでした・・・」

 そういえば、そういう設定にしたのだと、少し焦った。


「そのアーリアの一行も、ブラウボウへ向かうらしいな。もしかしたら、あんた、向こうで会うかもな?」

「はあ・・・縁があればですねぇ・・・」

 Cはすうっと目を細め、心の中で縁があれば、ですねぇ~と改めて想った。



 そこでフースはポンと手を叩き、ハインツを元気にしてやろうと、陽気に振舞った。

「そうだお坊ちゃん! あっちにその女の足跡があるんですぜ! とってもと~ってもでっかい足跡でね!」

「行こう行こう! ね、お婆さん!」

 パッと立ち上がったハインツは、傍らに座っていたCを誘おうとするのだが、いつの間にかその姿は消えていた。

「あれ!? お婆さんがいないよ!?」

「んんっ!? 今、確かここに居た筈・・・」


 肌寒い風がひょうと吹き抜けていく。


 すると、それに乗って号令が響いた。

 ざわざわと農民兵達が気だるそうに立ち上がり、騎士たちが慌しく駆け抜けていく。

 どうやら、隊を二つに分けて、近辺を捜査する様子。

 だが、ハインツは戦列に加わる事を禁じられ、後ろで老婆の面倒を見ていろと厳しい命を受けているのだ。

「大変だ! どうしよう!?」

「ん~・・・お坊ちゃま! 取り合えず、近くを探してみましょう!」

「うん!」


 雑然と人々が動き出した最中、ハインツとフースはその流れに加わる事も無く、名も知らぬ老婆の姿を求めて、しばしさ迷うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。