↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーリア  作者: 猿蟹月仙
97/102

第94話『わたしは運が良い』

シーンは前回の「Cがゆく」のまま、つづきです。

 C(セイ)は喜びに打ち震えた。


 取り込んだオーク鬼の骨格を利用する事で、移動が格段に楽になったのだ。

 擬態を維持するにもエネルギーが要る。万全な状態であれば、力のある細胞も大量にあったのだが、それらの多くを失った身では、ありとあらゆるもので代用しなければならなかった。そして、効率がとても悪かった。


 それらの補充も、今は全力で行える。材料が大量に手に入ったのだから。体内で徐々に吸収が進み、変換されていくのが感じられる。


(ああ・・・これまでが恵まれていたのですね・・・M様に感謝せねば・・・)


 しみじみと己の創造主に感謝するCであった。


 如何にその庇護の下、恩恵によくしていたのか、この数日のサバイバル生活が端的に物語っていた。

 草や木では全く満たされず、虫やトカゲを捕食するのに、どれだけ苦労した事か!?


(美味しいは正義! 正義はM様! M様、万々歳!!)


 おかしな思考に陶酔していると、何者かが近づいてくる気配に、ぴたと足を止めた。


(この感じ・・・四足の・・・蹄鉄・・・馬? 人が乗ってる可能性があるわね・・・)



 木々の間をかろやかに進む一騎。辺境騎士グランツ卿の子ヒンケルは、先行したアーテム卿の後を追って抜け出したのはいいもの、真っ直ぐに追ってはすぐに連れ戻されてしまうだろうと、少し大回りに馬を進めていた。


 何しろこの辺りは何度も狩で訪れていた地、一匹や二匹のオーク鬼が出ても遅れを取る事は無い自信があったし、例え相手が大勢だろうと容易に逃げ出せると軽く考えていた。


「やれ、これじゃだいぶ遅れてしまうなあ~」


 少しぼやきながらも、いきなりオークの群の中に飛び込んでしまっても面白くない。逸る心を抑えながらも、手綱が心なしか軽く感じられた。


「ん? オークか!?」


 木々の間に人影を見た気がした。

 手綱を左手に、右手で剣を抜く。

 胸が高鳴る。

(一気に襲い掛かるか?)

 早くしないと、気付かれて逃げられる。しかし、あの一匹だけとは限らない。一匹を見かけたなら、近くに十匹は潜んでいると考えなければ!


 不意打ちを恐れ、自然と馬足が鈍る。


 その緊張が、ふっと抜けた。

 相手はどうみても、人間の老婆だったのだ。

 すると、逆にどうしてこんな場所に一人でと、疑問が浮かぶ。

(危ないな・・・オークや怪物に出会いでもしたら大変だ!)


 周囲への警戒を忘れる事無く、ハインツはゆっくりと馬を進め、老婆に声をかけてみた。

「もし・・・どこの村の者です?」


 老婆はこちらに気付くと、深々とお辞儀をして首を左右に振った。

「いえいえ。あたしゃ、旅の者でございます。共の者とはぐれてしまい、難儀しておりました。若様。どうか、どうか近くの人里へあない願えませんでしょうか?」

「そうか、それは大変だね」


 ハインツは周囲に敵が居ない事を再度確認し、怯えさせてはいけないと、剣を腰の鞘へと戻した。

「近くに村があるにはあるんだが。どうやらオークに襲われたらしいんだ。ここは危険だから、別の村へ案内してあげたいところだけれど・・・悪いけど僕はその村へ向かってる最中でね。どうしたものか・・・」

 う~んと、少し悩んでしまった。



(しめた!)

 Cは内心ほくそ笑んだ。

 目の前で、馬に乗った明るい髪の、少し幼さを感じさせる若い騎士が無防備に近付いて来るのだ。

(馬があれば移動に便利ね・・・ついでに、この者の姿を奪ってしまいましょう。さあ、もう少し。もう少し前へ・・・)


 気配を気取られてはいけないと、自然と体細胞の流れが硬直するのを感じずにいられない。馬は残しておけば、人里で売り払ってお金を得る事も出来る。とても便利なものだ。実に運が良い。


 同時に、目鼻立ちやら全身の雰囲気等、外から見た感じのデータを蓄積していく。エリートヒトモドキは、こうして複数の外観データを蓄積する事が出来るのだ。通常の個体は一体分がせいぜいなのだが、Cは細胞の自己増殖により素材さえあればほぼ無限に拡張が可能といわれている。


(早速、オークの脳髄が役に立つわ! いやあ~、オークって本当に捨てる所がないのね・・・)

 変にしみじみしてしまう。



「いやあ~、いけませんぜ。お坊ちゃま」

 サッと駆け込む影が、ハインツの手から手綱を奪い、寸での所で押し留めた。


(いつの間に!?)

 驚いたのはCの方だった。

 当のハインツはやれやれと言った顔で、肩をすくめてみせた。いつもの事なのだ。


「フース! 子ども扱いは止めてよ」

「いえいえ。お坊ちゃまはお幾つになられても、私目にはお坊ちゃまで御座いますよ」

 如何にも家の使用人らしき身なりの、固太りの男が涼しげな顔で、ぽんと胸を叩いて見せた。


(・・・まずい・・・同時に二人は、流石に今の私では無理だわ・・・)

 作戦変更である。


「お坊ちゃま。森の中を一人で居る様な者は、その外見を疑ってかかるものだと、何度お教えしたら判って戴けるのですか? 悪い魔法使いや魔物が化けていたら、もうぺろりですよ」

「そんな、御伽噺じゃないんだから・・・」

(・・・そうよ・・・全部本当の事よ・・・あ~忌々しい・・・)

 そんな内心は臆面も出さずに、Cは無害な老人の振りをもう少し続ける事にした。


 さっと跪き、頭を垂れて見せるのだ。

「申し訳・・・申し訳ございません・・・あたしゃ、はぐれてしまっただけで・・・申し訳・・・」

(さて、これで通じるかどうか・・・)

 フースと呼ばれた男は、目の前に出て来るまで、その気配に気付けなかったのだ。下手な演技では見破られてしまう危険性が高い。


「フース・・・かわいそうだよ・・・」

「ふ~ん・・・」

 すらっと腰の小剣を抜いたフースは、跪くCの顔を覗き込む様に腰を落とした。

「あんた、年は? どこの出身? どこ行く途中なんだい?」

 ちらちらと、その鋭い切っ先を左右に振り、今までの少しおどけた様子を微塵も見せずに、真顔で尋ねて来た。


「はあ~44で・・・あたしゃもっとも~っと東の村の出ですが、エルアラの祭りを見てから、今度はブラウボウの川祭りにって、村のもんと近くまで来たんだけんど、オークに襲われて、みんな散り散りに・・・」

 エルアラ男爵領の作戦は失敗に終わったものの、ブラウボウ伯爵領での作戦はまだ進行中の筈。それらの関連資料の中から、適当な事をでっちあげてみた。


「ふん。確かにエルアラの領主様のお祭りは、ちょっと前にあった筈だな・・・嘘は言ってねぇみたいだ・・・」

 鼻を鳴らすと、フース剣を鞘に戻して立ち上がった。

「立ちな婆さん。こちらのハインツお坊ちゃまは、これからオーク鬼と戦いに行きなさろうって危険な身だ。ついてくんなとは言わねぇが、おたおたしてっとメディート様にご対面~てな事になっても知らねぇ~からな」


 ハインツの口からほうと安堵の息が漏れた。

 そんな様に苦笑しつつ、フースは手綱を引いて馬首を元来た方へと巡らせる。

「ささ、お坊ちゃま。旦那様には一緒に謝って差し上げますから・・・」


「やだよ~・・・」

 他の家の手前、父がどの様な罰を下すか想像も付かない。

「あ~あ・・・何の働きもしてないのに、帰されちゃったりしたら、ミッテル達に何て言われるやら!」

「いやあ~、その程度で済めば良い方で御座いますよ~」

「止めてよ~!」

 からからと笑うフースに引かれ、馬上でいやいやと足をばたつかせるハインツ。

 それを眺めながら、Cもゆっくりと後に続いた。


(まだまだ、チャンスはある・・・もしかしたら、情報も手に入るかもね・・・うふふ・・・私はついてるに違いない・・・)


エルアラのお祭りは、男爵様の誕生日を祝ったものでした。

さて、ブラウボウの川祭りとは?

それは先の話になりますw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。