第93話『Cがゆく』
今回もアーリア達とは別の視点での出来事です。
疲れタ・・・
手足重イ・・・
頭クラクラ・・・
美味イ肉・・・無い・・・
駄目だったヨ・・・
大事な槍、落トす・・・
仲間いナイ・・・
・・・オレ・・・サ・イ・ア・ク・・・
ぶつぶつ呟きながら周りの草木を蹴散らし、もやもやを追い払おうとするのだが、悔しくて悔しくて悔しくて何度地団太踏んでも収まらない。
・・・腹・・・減った・・・
がっくりうな垂れ、その場に腰を降ろすと膝を抱えで縮こまった。
何も考えたくなかった。もう歩きたくなかった。
どれくらい時が経っただろう?
何かの気配に、ハッと顔を上げると注意深く辺りを窺う。敵か、味方か?
胸の内に、顔見知りが近くに居るといいなあと、希望的妄想がふわりと浮かび、思わず頬が緩んだ。
でも、敵だったら不味いなと、きょどきょどしながら、そっと気配のする方へ。生い茂る草木の間から覗き見ようとした。
獲物!!
ぱっと目に飛び込んで来たのは、人間っぽい奴だった。
首を細かく左右に振りながら、注意深く獲物を見定める。
・・・メスだ!・・・若く・・・無イ・・・
かなりがっかりした。でも、それでも口に出来る肉だったら何でも良い!
そう思ったら、飛び出していた。
精一杯威嚇する。思いっきり掴み掛かる。殴って殴って殴って殴って!!
???
何か手応えが変。
夢中になって訳も判らなくなって、必死に襲い掛かっていたら、人間の頭がぐにゃりと、まるで熟れ過ぎて腐った瓜を殴ってるみたいに潰れ、両腕にぬっちゃりとまとわりついて・・・離れない?
離れナイ!?
ナニこれ!?
人間のメスと思った相手は、見る間に色を失い、形も崩れ、大きく膨らむ様に、可愛そうなオーク鬼に覆いかぶさった。
逃げようともがくが、手、足、胴体とに絡みつき、瞬く間に全身を覆い尽くし、どさりと木々の間に倒れ込む。
尚も逃げようと、まるで芋虫かの様にのたうつのだが、そのどろりとした物体が顔を覆ってしまうと、数度大きく痙攣した後は、ぱったりと静かになってしまった。
◇
(美味しい!!!)
全身が歓喜に震えた。泣きたいくらいに、新鮮な生き物の組織は良質な栄養であり、素材であった。
エリートヒトモドキのCは、久方ぶりの大きな獲物に、すっかりご満悦だ。
普段であればオーク鬼等見向きもしない雑魚なのだが、先の戦いで不覚を取り、体組織の大半を失ってしまったCに取っては、かけがえの無いご馳走となった。
(嗚呼・・・今まで馬鹿にしていた事を謝るわ、オーク共。さあ、もっと私を楽しませておくれ!! ほほほほほ!! ほほほほほっ!!!)
皮を溶かし、脂をすすり、鼻や耳の穴から脳髄を吸い出した。脳の細胞は、記憶領域の拡充に欠かせない素材であり、質が悪くてもこの際は目を瞑ろう。人里に出れれば、よりよい素材を手に入れる事も容易に違いない。
むさぼる様な衝動が収まりつつあると、次にはゆっくり時間をかけて全ての素材を余す事無く回収する事に腐心した。骨や関節、筋肉は残し、それを「着込めば」より人間らしく動ける筈だと、立ち上がり、数歩歩いてみる。
(悪く無い・・・)
次に体表の形質を変動させる。素材が増えた為、それ用の細胞の数もそこそこの量になる。スッと体表を肌色に変え、衣服を整え、髪を伸ばした。老婆らしく、その辺で手ごろな枝を拾って杖にした。
(おお・・・これだけ緻密に、更には速さも増したわ!!)
感動である。
「弱い個体を演ずれば、また襲ってくれるかも知れないしねぇ~・・・」
声を出して発声を確認。次には声を出して笑う振りを。次には泣き、怒り、呼吸をしている様に、肺が動く練習をする。
やがて腰の曲がった老婆然とした風貌で、Cは木々の間を進み出した。
老人の演技であれば、多少動きが不自然でもそれなりに説得力がある。より大胆に、行動出来るというものだ。
一歩、一歩と歩き出したものの、その逸る心を反映し、次第に小走りへと変わってゆく。
木々をかきわけ、時には消化しつつ、人里の気配を求めてさ迷うのだ。立ち上る黒煙が、そこに人里がある事を告げていた。
(ああ・・・M様。必ずやあの者達を!)
Cはエリートヒトモドキである。
錬金帝国のドクトルMが生み出した、人造生物であり、他の生物に擬態する能力がある。
Cの擬態能力は特に優秀であり、高度な知能を備えている為に、ヒトモドキを用いた作戦行動時には現場指揮官として行動する事が想定されている。
ゴーレム兵器Bのサポートに、水銀の専用ゴーレムをまとい出撃するも、アーリアに敗れている。




