第92話『辺境騎士』
オーク鬼騒動に対する周辺領主達の行動です。
日は既に高い。
まばらな木々の間、カシャカシャと小さな金属音と蹄の音も軽やかに、並足で進む一団があった。
騎馬14騎、徒歩百名余り。
先頭を行く馬上の者達は、鎧武具を身に着けたそれなりの身分に見えるが、後に続く徒歩の者達は、一見してみすぼらしい農民がフォークやフレイルといった農具を手にしただけといった手合いが大半で、若干名が革鎧に兜、弓、剣、槍を身に着けた従者と思しきいでたちであった。
「煙が!?」
騎士の一人がサッと右の腕を上げ、残る左腕で手綱を引き馬を止めると、それに合わせ他の騎士達も馬を静止させた。続く徒歩の者達は、息も荒く安堵の吐息を大きく漏らす。
遠く木々の間より、一条の黒煙がたなびく様が見てとれた。
「報告のあった、村でしょうか!?」
「ち、父上っ! ここはわたくしに偵察を!!」
ふわりと汗ばんだ馬の肌より蒸気が立ち上り、ブルルと嘶くその首元を優しく撫で上げた。
「おそらく・・・」
左右より馬体を寄せられ、挟まれる様に声をかけられた辺境騎士のグランツ卿は、隣の領主であるアーテム卿を見やり、身を正す様に胸を張り、真っ直ぐに相手の目を見据えた。
「ここは、卿に先行しては貰えませぬか?」
「任されよ! ミッテル!! ナーゲル!!」
颯爽と馬首を巡らせるアーテム卿。
「ははっ!」
「喜んで!!」
呼ばれ、後続の騎馬より2騎が進み出る。いずれも若く、喜びと緊張に僅かにぎこちない。そして、お付の者らしき従者数名が後に続いた。
「父上! わたくしも!」
抗議の声も高く、まだ声変わりもせぬ少年騎士。
「ははは・・・ヒンケル殿はお父上の指揮ぶりを、まずはその横で学ばれるが良かろう。それ!」
そう告げ、アーテム卿が馬を走らせ出すと、それに若い騎士二人も続く。
「まあ、ここは俺達に任せなよ!」
「ははっ、お前の分も少しは残しておいてやるさ!」
「待てよ! 俺も連れていけ!! 父上っ!?」
身を乗り出す様に馬を進めんとしたヒンケルの手綱を、横からぐいと引くグランツ卿。
それと走り去る幼馴染でもある二人を交互に見、悲鳴にも似た声を上げてしまった。
「ミッテル!! ナーゲル!!」
「やめよ」
「ですが父上! あの者達とわたくしは年もそう変わりません! どうかわたくし目にも任務を!」
ぐいっと兜に手を置かれ、軽く前に引かれると、ヒンケルの視界は途端に真っ暗になった。
「わ・・・」
慌てて兜の位置を戻すも、動揺を隠せずおたおたしてしまう。
そんなヒンケルの顔を、父グランツ卿は穏やかに眺めていた。
「ヒンケルよ。あの辺りはかの家の者達も土地に明るい。時には、信頼し任せる事も大切と知れ」
「・・・はい・・・」
「ふ・・・その様な結び目では、いざと言う時に同じ目に合うぞ」
そう言われて、慌てて顎に手をやるヒンケル。それを確認すると、グランツ卿は馬首を巡らせ、近隣の領主達の元へと馬を寄せた。
「農奴共を少し休ませた方が良いだろう」
「小休止ですな・・・」
「まだそれ程に走ってはおらぬが、いざと言う時に役に立たぬではな・・・」
後ろを見れば、多くの者はその場でへたり込んでいる。
騎士達のそれと比べて、農民達はほとんどが体も貧弱で線が細い。周辺の村々より駆り出され、一旦落ち合う約束の場所へと集合させられ、それからの行軍である。大部分がほぼ走りづめでかなりへばっていた。
「これより先は、いつオーク共と遭遇してもおかしくない」
「速度を落とし、アーテム殿が戻られてから・・・」
「左様左様・・・」
「異議はありませぬ」
各家の主だった者達が額を寄せ、これからの方針を確認し合っている様子に、ヒンケルはそっと馬を脇へ進め、木々の間へと分け入って行くのだった。
朝の騒動に対し、日が高くなってから行動しているのには、色々と理由があるのですが・・・




