第91話『燃やせ燃やせ! 炎を燃やせ!』
抜けてた字があったので修正しました。
継ぎ接ぎだらけの、厚手のボロを纏った男が、胸を大きくそらした。
「お~~~い、急げよ~~~!!」
まだまだ興奮冷めやらぬ空気が村人達を支配していた。
急く様にと、大手を振って呼び戻す男に、手に手にオーク鬼達の落し物を拾った村人達が駆け戻ると、村の門扉はゆっくりと閉ざされてゆく。
雑多な岩を積んだだけの簡素な外壁はひとまずオーク鬼達の侵入を防いでくれたが、数匹が肩車でもしようものなら、容易に乗り越えられた事だろう。その程度の高さしかない簡素なものだ。
それでも閂がかけられると、ようやく安堵の息が人々の口から漏れ出た。
更に古老らしき数人が矢継ぎ早に指示を出し、人々が動き出す。
小山の様に積まれたオークの武器防具。蛮刀やら槍、小剣、弓矢、盾に兜と雑然としており、獣じみた悪臭が立ち上っている。そんな中から、男達は長柄の槍を取り出し、女子供はそれ以外をぷらぷらぶら下げてはカランカランと乾いた音を発てながら危な気な足取りで運び出す。
そんな人の動きに。
「これ~、どこに運ぶの?」
「井戸で洗うの~!」
「くっさいんだもん!」
「判った! あたし、ちょっと行って来るね!」
「あっ、俺も~!」
パッと手を振り、村の子らと一緒になって手伝いだすアーリアに、慌ててジミーも後にとたとた続く。
「じゃあ、僕も手伝って来ますね」
ぺこりと頭を下げ、きびすを返して二人に続くアル。それらを見送る、大の大人二人。否、ろくでなし殺し屋家業の鉄砲玉どもだ。
「おい。へらへらしてんじゃねぇぞ」
「ん? そうか?」
いかつい顔を緩ませ、手をひらひらとしていたグルドに、ロイはドスの利いた声で詰め寄った。
「確か、俺たちは先を急いでいるんだったよな? お前の都合で」
とんと心臓の上を突っつく。
「仕方ねぇ~だろ? 成り行きだよ、成り行き!」
ぱんとその手を払い、面倒臭そうにそっぽを向いたグルドは少し考える様に目をつむり、次には何やら思いついたかに、少しおどけた口調で言い訳をする。
「ここで、はいさようならって訳にはいかんだろ? その~・・・悪目立ちしちまう」
「もう十分目立ってる」
刺すぞと言わんばかりの目だ。
だがグルドはそんな威圧もどこ吹く風と、まるで平然としている。
ゆすりたかり盗みに殺しと悪行を一通りこなして生きてきたろくでなし共にとって、朝の挨拶程度とさほど変わらぬ。ましてや、二人はとんでもない化け物共を見て来てしまった。
錬金帝国・・・錬金術により産み出されたらしき、余りに巨大で凶悪なバケモノ達。
それを前に、たかが裏家業の人間風情が何を出来よう。
地べたを這いずり回るアリとどこが違う?
そんな無力感が、互いの胸に重く硬いしこりとなって存在する事を、本能的に悟っていた。そして二人は、それと既に敵対してしまっている。
一行がブラウボウの街に着き、手持ちの情報を元に組織がどう判断するか。いや、それ以前に組織の方針が決まってしまっている可能性すらあった。グルドはそこが悩ましい。
が、その説得材料の為のアーリアでもあるのだ。
「お前ぇ~、まさか・・・足を洗おうなんて考えてねぇだろうな?」
「今更? はっ・・・」
ロイを鼻で笑う。
だがそれも悪くないと考えるグルドがある。
その場合、両方の組織から逃げる事になるだろう。希望的にはアリだが、現実的にはありえないと頭では判っていた。
「馬鹿な事、言ってんじゃねぇ~よ! あと少ししたらおいとまさせて貰うさ・・・」
「あ~・・・是非、そうして貰いてぇもんだな・・・」
互いの腹の内を探る様に目線を交わし、二人は宿にした農家へと、ゆっくり戻るのだった。
◇
鳥除けの麦わらの案山子に、オーク鬼の兜を被せ、壁の上から顔を覗かせた。
見張ってるぞというアピールだ。
遠目から見て、そう勘違いしてくれれば良いだろうとの農民の知恵。
そして、村の中央ではもうもうと黒い煙を立ち上らせる巨大な焚き火が。そこにアーリアやジミー、アル。そして上空にはシルフーの姿がある。
「こ、これっ! すごいね!!」
「なんだよ、この葉っぱ!!?」
切り出して来たばかりの、青く肉厚の葉がいっぱい付いた生木の枝を、三人でえいやと放り込むと、たちまちバチバチバチ!!と派手な音を発て、屋根より高く燃え上がるのだ。そしてその上空を、立ち昇る黒煙の周りを楽しそうにひらひら踊るシルフー。
「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」
村の子供たちと一緒になって、くべてはその熱量に目をしばしばさせ大いに楽しむ。
「油っ気がつえ~んだよぉ~」
「煙上げて、近くの村に合図すんだぁ~・・・」
「あ~ぶねぇ~ってよぉ~!」
それを切り出して来た老人達は、ひぇっひぇっひぇっっと歯のまばらな口を楽しそうに開けては、次にいたたたた・・・と腰を伸ばす。
「あんたぁ~、無理せんでええ~んよ~」
「何の~。まぁ~だ、身体が動くんよ~」
みんなして、日焼けで浅黒い顔を赤くほころばせ、炎から煙へと、煙から炎へと見ては恍惚に身を委ねるかに放心する。
「あ~・・・あったかいねぇ~・・・」
「ああ・・・」
「一時は、どうなる事かと思ったよぉ~・・・」
そんなほのぼのとした空気、しばしアーリア達も目を細めてひたり込んでいた。
すると、その目がハッと開かれた。
「私、ちょっと荷物取りに行って来る!」
ニパッと子供っぽい笑みを浮かべ、くるっと踵を返すアーリア。
その金の髪が、炎の赤味を帯び、色鮮やかにふわりと舞う様に、ジミーは一瞬目を奪われ、とっさに反応出来なかった。
「あ、姐さ~ん!?」
パッと駆け出すアーリアは、巧みに村人達を避けながらひた走ったかと思うと、愛用の古びたリュートを抱えて、息を弾ませ舞戻って来た。
「あはははは! やっぱりこういう時は、これがなくっちゃ!」
闊達に笑いながらも大きく肩を上下させ、少し不恰好なくらいに大き目なリュートを肩から下げ直すと、ちょっとの間を置いてからボロロ~ンと一掻き。さっとチューニング。
その心地よい余韻に、みんなの注目が吸い寄せられる、その機運を読んでか、アーリアは楽しげな音色を一気に掻き鳴らすと、ぽ~んと軽やかなステップでくるくるっと回転しては奇声を上げてみせた。
途端に真似して、わっと飛び出す子供たち。一緒にくるくる踊り出す。
繰り返しのリズムに合わせ、めいめいが好き勝手に体をゆすった珍妙な、精一杯の踊りを楽しんでいると、やれやれと小首を傾げた年長者が悠然とこのロンドに歩み出し、途端に軽妙なステップを披露し始めた。
これには場がワッと盛り上がり、手を叩いては次々と奇声や口笛が。
負けじと、独自のステップで対抗する者が現れ、意外な才を発揮する。
「お~・・・俺だってぇ~えっ!!?」
つるっとこけそうになるジミーの体を、ふわり受け止める者がいた。それはそのまま、上空から舞い降りたシルフー。
「なになにするの? こうスルの?」
体内の空気袋をしぼませたシルフーは、目の前でみるみると人間サイズに戻り、そのままジミーの手を取って体を左右にふわふわと揺らし出す。と、その手をアルが取っては間に入り3人で輪を作った。
「多分、こうすると良いと思うよ」
少し怪しげなアルの笑み。
くいっと腕を引き、ゆっくりとした足の動きでリズムを取る。
「どうだい?」
「アル!? お前、いつの間にこんな・・・」
唖然とするジミーに、何を言ってるんだいとばかりに苦笑してみせたアルは、二人をリードする様に回り出す。
「これくらい・・・娼婦のお姉さん達が教えてくれなかったかい? 尤も・・・」
くいっと腕を持ち上げられ、二人は釣られてアルに引き寄せられた。
「こうされて、良く足を踏んじゃってね。あははは!」
「ち、近い! 近ぇ~よ!」
「あははは! た~のし~!」
三人は胸が合わさる位の距離感で、互いの足を踏んだり蹴飛ばしたりしながら、それがまるで新しい遊びであるかの様に、しばし楽しむのであった。
「ったく! 暑っ苦しいってんだよぉっ!」
顔を真っ赤にしたジミーが逃げ出すまでの、ほんの僅かな間の・・・




