第83話『再会のアル』
五人に増えたアーリア達の一行は、これまで表立った道を避けてきたが、もう敵に、錬金帝国の側にこちらの動きは知れているだろうと、割り切る事にした。
お陰でペースは上がったが、いつ何時襲われてもおかしくない状況に、最初は緊張もしたが、日数が過ぎるにつれ、次第に気もゆるみ始めていた。
この数日、陽気も穏やか。
冬の到来を前に、秋晴れが続いていた。
「ねえねえ、グルドの兄貴分ってどんな人なの?」
「そうさなあ~・・・ふふふ・・・どこから話せば良い事やら・・・」
「うんうん!」
腕を組みながら歩くグルドとアーリアは、日がな互いの事を話しては飽きもせず、実に楽しそう。
(ほんと、ど~いう事?)
そんな二人の前を歩く荷物持ちのジミーは、肩に担いだ背嚢越しから聞こえて来る、この楽しそうな話し声に、かなりうんざり。
正直、面白くない。
本来なら、喜ぶべき事なのだが、どうにも面白く無い。
そして、さらに二人の後ろを歩く殺し屋ロイの存在が、異様に不気味だ。
何を考えているのか、ジミーにはさっぱりだ。
どうしてこうなったのか、未だに詳しい説明を受けられないで入るジミーは、がりがりっと頭を掻き毟った。
しかし、当のロイ自身も、現状、自分がおかれている立場に戸惑いを覚えていた。
頭の上に、ふよふよと漂う半透明の少女?
この数日、どうもここが定位置になったらしく、その余りにも無邪気な反応に、既に何を言っても無駄という境地に陥っていた。
「なあ・・・」
「なあニ?」
「ジミーの奴も、少しはかまってやったらどうだ?」
「シルフー、この高さ丁度イイ・・・ジミー、背低イ・・・」
しゅるるっと伸びた触腕が、ロイの頭に触れると、そのままぴったりと乗ってしまう。
「こうするとラク・・・」
「うう・・・」
まるで大きな帽子でも被っているかの様。
重さは大して感じない。
ただ、時折、行き交う人々の好奇の目が、とても痛かった。
「なあ・・・」
「なあニ?」
「・・・いや・・・なんでも無い・・・」
これもブラウボウの街へ着くまでの事。
一時的な事さ。
なあに、あと数日の事だ・・・
この微妙な空気が、この数日続いている。
現状に満足しているのは三人。
不満を抱いているのは二人。
このバランスは崩れない。
すると、前方から血相を変えた旅人らしき数名が、わたわたと駆けて来た。
皆、自分の荷物を抱え込み、必死の形相だ。
とうとう、錬金帝国の手の者が来たか!?
一行は歩みを止め、一塊になり、手に手にそれぞれの武器に手を伸ばした。
「ひいいいい!」
「オークだ!!」
「オークが多く出たぁっ!!」
どうやら、一人はそれが言いたかったらしい。
妙な精神攻撃を受け、一行はそれらの人々が逃げていくのを完全にスルー。
どうやら、追っ手の演技では無いらしい。
「おい・・・」
ロイがそう告げると、手招きされるまま、街道から外れて木立の茂みに身を隠した。
すると、三匹の醜いオーク鬼が、手に手に蛮刀を振りかざし、走って来る。
顔は豚面。でっぷりとした体躯。ボロボロの革鎧に、浅めの兜は錆びだらけ。歓喜の表情は、返り血に濡れ、新たな獲物を求めてひた走っている。
その速度なら、容易に先に逃げた人々に追いつくだろう。
すらり。鞘走る小剣は、ルーンが輝いていた。
アーリアは無言でグルドの顔を見た。
グルドもアーリアの顔を見ていた。
その瞳の輝きを見るだけで、二人は互いに何を考えて何をしようとしているのか、判ってしまう。
そして、その様子にロイもまた軽い頭痛を覚えるのだった。
小さな声で、アーリアは告げた。
「ジミー。シルフーを見てて。お願い」
「え? 俺も・・・」
「ジミー」
不意にグルドの大きな手が、ジミーの頭をぽんと撫でた。
「判ったよ・・・でも・・・」
「大丈夫・・・」
アーリアがそう言い終わるのを待たずに、グルドとアーリア、そしてロイは隠れていた茂みから飛び出し、三匹のオークに不意打ちをかました。
野太いグルドの右腕が、いきなり先頭を走る一匹に襲い掛かると、その勢いに顔面を機軸にぐるんと一回転。オークは派手に宙を舞い、たちどころに三匹が大地に叩きつけられた。
投げ出された蛮刀の鮮やかな金属音にも耳を貸さず、アーリアはその小剣の切っ先を、最初の一匹に深々と突きたてていた。夢中になって、全身で刀身を押し入れる。それだけで骨をも断ち切る鋭さで、魔法の小剣はさしたる抵抗も無く、獣臭いオーク鬼の体内に侵入し、ハッと息吐く間に引き抜かれ、持ち手を変えた細腕に、再度暖かな血しぶきを上げて革鎧をものともせずに突き入れられた。
「はっ! はっ! はっ!」
短い断末魔。
震える手足がぱたりと落ち、アーリアはそれを押しのける様に、ようやく立ち上がる。
異様に力が入ったせいか、膝、手足ががくがくと震えた。
そして、周囲を、敵を、味方をと求めて見渡せば、グルドの腕から首が異様な方向に捻じ曲がった一体が崩れ落ち、ロイは小剣についた血糊をぴゅんと飛ばしていた。
戦いは一瞬で終わっていた。
ぐいっと腕を引かれ、初めてそれがグルドだと判った。
アーリアは抱きかかえられる様に、元の茂みに引きずり込まれ、シルフーとジミーに再会した。
「しっ・・・」
ロイの口から、短い空気が漏れた。
ばたばたと足音が響き、より多くのオークの気配が駆け寄って来るのが判った。
そして、それらはピタリと立ち止まり、何事か口汚くののしりながら、落ちていた蛮刀等を拾い上げていく。
周囲の様子を伺う気配。
そして、不意に元来た道を、足早に駈け戻っていく。
アーリア達は、ほっと息をもらした。
見れば、街道には身包み剥がされたオーク鬼の死体が三つ。
血だまりの中に転がっていた。
「どうやら、引き上げたか・・・」
グルドの声に、ロイは静かに首を横に振る。
「あと少しの間、様子を見よう・・・」
「ああ・・・」
充分に時間を置いてから、街道に戻る。
そして、そっとそっと前へと進む。
曲がりくねった道の先、何かが燃えている様だ。黒い煙があがっている。
行けば、それは襲撃を受けただろう馬車だった。
馬は倒れ、数名が転がっている。
辺り一面、血の匂いが色濃く漂い、近付けば倒れている者は皆、面白半分に切り刻まれていた。
「酷い・・・」
焼け落ちる横転した荷馬車が、ばちばちと爆ぜていた。
アーリアは、誰か生きている者はいないかと、その間を駆けたが、無駄に終わった。
「埋めてやろう・・・」
「女の前で、カッコつけるな」
「ああ、悪いか?」
制止するロイの手を払い、グルドは黙々と作業を始めた。
流石に、馬の死体はどうにもならない。倒れている人を、取り合えず街道から外に引き摺りだす。
ジミーは、穴を掘ってやろうと、道から外れて草むらに適当な場所を求めた。
すると、どこからともなく、どこかで聞いた様な声が。
「え?」
慌てて歩を早めると、やはり聞いた事のある声がする。
どうして?
そんな疑問が、頭を過ぎるが、無事であるかが心配だった。
「おじさん! おじさん! しっかりして!」
必死に呼びかける少年の声。
草むらに横たわる大人の傍らで、ジミーはエルアラの街で一緒に悪さをしていたアルの姿を見つけた。
「アル・・・お前、どうして・・・」
乾いた口で、そう声をかけると、確かにアルは振り向いた。
憎しみに満ちた顔で。
「・・・ジミー・・・」
その口からは、思いもよらぬ怨嗟の声が、ジミーへと吹き付けられた。
読んでくださり、ありがとうございます
今回は、ジミー少年がかつての仲間アルとの再会を果たすシーンでした。
何故か恨まれている様子のジミー。
一体何が起こったのか?
それは次回のお話で。
宜しかったら、また読みに来て下さいね~♪
今日は、ありがとうございました~(^^)/~




