第81話『姐さんの仇!!』
暗闇から、不意に男が姿を現した。
両手に小剣を持つ、その男は冷たい眼差しで火の番をしていたジミーを見据え、その切っ先を向けた。
「おい、静かにしろ」
アーリアとシルフーの帰りを待っていたジミー。手にしたナイフで、素早く身構えた。
「て、てめぇは・・・」
その男の顔に愕然としたジミーは、次にその突きつけられた小剣に目を見張った。
「ん? 俺に見覚えがあるのか?」
蛇の様に蠢く刀身が、僅かな炎に照らされてぬらぬらと輝く。
ジミーは一瞬だが、それを凝視し、それから男の顔を睨んだ。
「や、やい! このすっとこどっこい! そいつはどうしたんだ!?」
「俺の質問に答えてねぇな・・・んん? お前は・・・」
冷たい目が、刺すようにジミーの顔を見据えた。
「なんだ、お前、生きてたのか・・・」
「うう・・・殺し屋、ロイ・・・」
唸る様に、ジミーは相手の名を呟いた。
どういう訳か、目の前に殺し屋が居る。どうみても仕事の真っ最中だ。こっちが生きていた事を意外に思っている様子から、目標は俺じゃない。だが、顔を見られた上に素性も互いに知ってるとなると・・・
ジミーは、じりじろと後ずさりしながら、退路を求めた。
が、あの小剣は明らかにアーリア姐さんの物。
こいつが、それを持ってるって事は・・・
ジミーの背を、さっと冷たいものが走った。
「て、てめぇっ!! まさか、姐さんを殺っちまったんじゃっ!!?」
思わず叫んだ。
まさか、相手が馬鹿正直に答えてくるとは、微塵にも思っちゃいなかったが。
そう叫ばざるを得ない。
何故なら・・・
ジミーは返事を待たずに、ナイフの切っ先を前に、残る左手でその柄をぐいとねじ込める様に、掌を握りの部分に押し当てた。
懐に飛び込んで、どてっ腹に一発。それ以外は考えねぇ!
咄嗟に覚悟を決め、全身を弓を引き絞る様、力を溜め込んだ。
「アーリアか・・・あっちで、宜しくやってるぜ・・・」
ぴくり。
ジミーの眉が僅かに動いた。
生きてるのか・・・?
そういや、こいつは仲間がもう一人いたな・・・
あのでかぶつ・・・
赦せねぇっ! マジ、赦せねぇっ!!
ジミーの脳裏に、淫売窟で働く母親やその仲間達の姿が、アーリアのそれと被っていく。
「この・・・ド畜生どもが・・・」
「ん? お前、何か勘違いしてねぇか?」
ぷるぷる怒りに震えだしたジミーに、ロイは少し面倒くさそうに、愛用の小剣をちらちらと突きつけ、アーリアの小剣をサクッと地面に投げた。
アーリアの小剣は、見事に地面に突き立ち、そして、ロイは無言でアーリアの背嚢に手を伸ばす・・・
「そいつに触れるんじゃねぇっ!!」
同時に、ジミーの小さな身体は、弾ける様に跳び出した。
それを予め予想していたロイは、ひょいと避けて見せ、空いた左手でアーリアの背嚢をぽ~んと半分投げる様に、その腕に抱え込んだ。
「おいおい、ジミー。せっかく拾った命だ。大切にしろよ」
「何の事かよっ!!」
半分、転がる様に起き上がったジミーは、改めてナイフの切っ先をロイへと向けた。
まるで、アーリアの背嚢が盾みたいになって、パッと見、隙が無い。
飛び込んで、ナイフを背嚢で受けられたら、あの小剣が自分の身体を貫いている。そんな予測は容易に出来た。
(くっそ~・・・今のを避けられたのが痛ぇっ!!)
相手の隙を求めて、ジミーはゆっくりと右へ、右へと足を滑らせ始めた。
そんなジミーをからかう様に、ロイもまた背嚢を盾に、ゆっくりとだが距離を縮め出す。
「おいおい。どうした? 今までの威勢は?」
「う、うるせぇっ!! 今、てめぇのどこにこのナイフを突き立ててやろうか、考えてるのさ!! どこを刺せば、一番ひいひい言い出すかってな!!」
「そいつは、どうもだ・・・」
ペロリ。ロイは唇を舐めた。
どうも今夜は退屈しない。
愉快な連中と、愉快な事が多過ぎる。
否。
ほぼ、あの化け者共相手に何も出来なかった鬱憤が、どうにもこの目の前の小僧を相手に、うまい具合に発散出来そうだ。
ちょいと傷付けて、ひいひい言わせてやるか・・・
それとも、目の前に刀身を押し当てて、小便でもちびらせてやるか・・・
それくらいなら、容易に出来そうな相手に思えた。
「くっそ~!! 舐めやがって!!」
「別に・・・お前が、一人でくるくる回ってるだけなんじゃねえか?」
なかなか踏み込めずにいるジミーを、ロイはからかい半分、わざと距離を保ってなぶる。
ひょいひょいと、盾にした背嚢を突き出しては、ジミーがびくっびくっと、距離を取ろうとする動きを引き出す。
その内に、緊張から消耗し、集中力が切れて音を上げ始めるだろう。
おっと・・・
ジミーは、前を見ている余りに、焚き火の残り火に足を突っ込んで、飛び上がった。
「うひぃ~っ!!?」
「ぷっ!」
「笑うんじゃねぇっ!!」
「ぷぷぷのぷ~!!」
「だから、笑うんじゃ・・・」
別方向からの突っ込みに、ハッとしたジミーは、岩陰から顔を出したシルフーを視界の隅にとどめた。
「来ちゃ駄目だ!!」
「来ちゃったヨ~・・・ナニしてんの?」
すたすたとロイとジミーの間に立つシルフーに、ジミーはすっかり取り乱してしまった。
「こ~いう遊びさ・・・」
そう言って、ロイはシルフーを背後から抱え込み、その刀身を突きつけて見せた。
「はい、人質ごっこ~」
「わ~い!」
「あああ~・・・」
悲鳴の様に息を漏らすジミーを前に、シルフーはとても楽しそうだ。
「あら? 楽しそうじゃない?」
「楽しく無いですよ!!」
咄嗟に、アーリアへ向けて叫んだジミーは、その光景に目が点になった。
振り向くと、奴が居た。
素手で人を殴り殺す為に生まれて来たんじゃないかってくらいの、凶悪そうな大男。の腕に抱えられた、アーリアのすっぽんぽんの白い肌。
酷い目に合わされたんじゃないかって、ジミーの勝手な想像が、ガラガラと音を発てて崩れていく、そんな感覚。
アーリアは、実に嬉しそうにその身体を男に摺り寄せて、見つめ合っている。
それから、名残惜しそうにして、ジミーの方を向いた。
「紹介するね、ジミー! この人は、グルド! 私のだんな様なの!」
「コンゴトモヨロシク・・・」
でれでれの大男は、口元を歪ませ、とても言い辛そうに続けた。
殺し屋グルドが仲魔になった・・・
「ええ~っ!!?」
ジミーはロイの方を見た。
すると、ロイはすっとぼけた様子で、その小剣を腰の鞘へと戻してみせる。
更にシルフーは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、ロイの腕と足にまとわりついた。
「ねー、ねー、次は何して遊ぶ?」
「そうだな・・・おいっ! アーリア! 着替えはこの中でいいのか!?」
そう言って、ロイは手にした背嚢をアーリア達へ放り投げた。
それを片手で受け止めるグルド。
「サンキュー!」
「ありがとう、ロイさん!」
「良いって事よ・・・」
ロイは二人に軽く手を振って、シルフーに向き直り、ひょいと持ち上げてはその場でくるくると、たかいたかいをして見せた。
「わ~イ! わ~イ!」
「ええええ~~っっ!!!!?」
「ジミーは見ちゃ駄目だからね!」
てへぺろ。
そう釘を刺して、いそいそと、グルドと二人で木陰に隠れてしまうアーリア。
「ええええええ~~~っっっ!!!!!!?」
カチャリ・・・
ジミーの手の中から、ナイフが滑り落ちて、地面に落ちた。
読んでくださり、ありがとうございます
今日は一人取り残されたジミーとの合流シーンでした
ついついゲームブックの「ロストワールド」と「ファミコン版女神転生」ネタを、かる~く入れてしまいましたが若い方にはお分かりでしょうか(苦笑)?
しょ~もないおっさんで、ごめんなさい・・・orz
次は、明け方のお話になるかな?
宜しかったら、また読みに来て下さいね
今日は、ありがとうございました~♪




