第77話『正しいBの使い方』
「おや? もしかして、低脳過ぎて、私の言ってる意味が判らなかったのかい?」
己の揺るがぬ勝利を信じ、錬金帝国の鋼の男、アルファベットエージェントBは右に左にと辺りを見渡した。
「それとも、同時に襲い掛からねば、攻撃が出来ないのかな? この卑怯者共!!」
そう言い放つと、その巨体を物ともせず、瞬時にアーリアとグルドに肉薄して見せた。
「じゃあな!! あばよ!!」
その向こうでロイがくるっと身を翻す。
視界いっぱいに広がるBの巨躯が、瞬間くいっとそっちに気を取られるのを、アーリアとグルドはパッと左右に分かれて、その足を払った。
まるで、映し鏡の様な、息もぴったりの動き。
それもその筈。
アーリアを動かしているのは、星の精霊の命だが、それを巡らせているのはグルドの気。アーリアはグルドの気配を、敏感に感じ取っている。そして、グルドもまた、アーリアの気配を肌で感じていた。正に二人は気心の知れた仲と言うべきか、気の通じた仲と言うべきか、気の合う仲になっていたのだ。
ドッゴーン!!!
石壁を砕いて、Bは勢い良く頭から突っ込んだ。
ぱらぱらと弾ける破片。
ロイの足音は、高らかに走り去り、アーリアとグルドもそれに続いた。
二人とも無言で軽やかにハイタッチ。
三人が目指したのは、更なる地下だった。
ガラガラと岩を押しのけ、ゆっくりと起き上がるBの両耳から、ピューっと蒸気が吹き出した。
作り物の目を大きく見開き、獲物を求め、Bは最大出力で吼えた。
「このっ!! 腐れ外道共!! 待ちやがれぃっ!!」
「待てってさ!!」
先を走るロイが、笑いながら階段を駆け下りる。
そこは、もう何かが点々と青白い光りを放つ、先程と同様に幅の広い階段。
「冗談!!」
グルドも笑いながら、アーリアと手をつなぎながら走った。
アーリアも声は出ないものの、笑った。思いっきり笑った。
三人が目指したのは、地上では無い。
地下にあるという魔道装置。その破壊である。
無言で三人は分かれた。
ばらばらになって、この階層にある部屋を片っ端から覗いて回った。
わざと足音が反響する様に走った。
後から追いかけて来る、あの化け物の為に。わざとだ。
シルフーはカンテラを手に、おそるおそる皆が降りて行った階段を覗き見た。
あの黒い化け物も、もう飛び込んだ後だ。
「アーリア~・・・」
心細くて、友達の名を呼んでみた。
返事は無い。
どうしようと、逡巡してから、シルフーはゆっくりとその階段を降りて行った。
「待て待て待て待て待て~いっ!!」
「やだね!」
飛びかかって来る、Bを咄嗟に避けるロイ。
ころころと転がってから、むっくり。背後にあった、何だか良く判らない巨大な装置に、冗談みたいにBの巨躯が突き刺さってるのを確認し、ニヤリと笑った。
「狙い通り!」
「くっそ~っ!!」
不可思議な液体を頭からかぶり、火花散る装置を内側から引き千切りながらBがその上体を抜ききると、ボン!! その装置が爆ぜた。
逃げ惑う赤い猿達。その身体は最初から燃えているのだが、装置の破片と炎を受けてバタバタと倒れていく。
更なる地下には、更に大きなフロアが幾つもあった。
そして、それらには何の為に使われているのか判らない装置が幾つもあり、それを奇妙な姿をした化け物達が操作している。
今、その一つにBを誘い込み、その破壊に成功したのだ。
「次行くぞ!! 次!! へっへ~いっ!! お尻ぺ~んぺ~ん!!」
幅の広い戸口に立ったグルドは、アーリアと共に全く同じ動作でBにお尻を向けて、ぺしぺし叩いて見せた。
それを見たBは、怒りに身を激しく震わせ、その頭頂部からも湯気をピューピュー噴きながら、全力で頭から突っ込んで来た。
だが、それを馬鹿正直に待つ二人では無い。
さっと左右に分かれる様に逃げて、Bは廊下の向こう側の石壁を突き抜けて、別のフロアへと飛び込んでしまった。
その向こうでも右往左往する化け物達。
鋭い全身の棘をさわさわ揺らしながら、飛散する破片を受けてぱっくりと二つに割れて倒れた。
アーリアは、まるでウニみたいだなと思った。
水の底で、似た様な大きな大きな海の精霊に会った様な。
グルドもこの有様を一緒に見て、額にしわを寄せる。
「おいおい、勝手にやってくれたぞ・・・」
「この調子であと二つだな。いくぞ!」
ポンとグルドの頭をロイが叩いて、さっさと別の部屋へと走り出す。
Bが開けてくれた穴から覗いていた三人は、もうもうと吹き出す煙を逃れ、身を低くして走った。
嫌な匂いが充満して来た。
何ともヤバイ気配だが、二つだけで充分かどうかが判らない。
ドン!! バババン!!!
またどこかで何かが爆ぜた。
「うお~っ!! どこだぁ~っ!! 出てこ~いっ!!」
爆発音と共に、Bのこちらを捜す声が聞こえて来る。
「おい。そろそろ逃げた方が良くないか?」
黒い煙を避け、咄嗟に三人でしゃがみこむと、建設的な意見がロイからなされた。
しかし・・・
(ルリさんは大丈夫なのかな?)
そんなアーリアの考えは、元々グルドの考えだったのか、それともグルドがその考えを受けて感じたのか。
「しかし、ルリさんは大丈夫なのか?」
「しっ!」
ロイが真顔で、自分の口の前に人差し指を立てて、短く息を吐いた。
一瞬、Bの声がとても近くに響いた、そんな気がした。
すると、近くの壁が内側から砕けて、黒い塊が別のフロアへと飛び込んで行っては何かを破壊する音が響いた。
三人は、顔を見合わせて頷いた。
「逃げよう!!」
誰が言ったのか、もう聞き取るのも困難なくらいに、酷い破裂音が断続して起きていた。
ガラガラと、天井が崩れていそうな音も聞こえて来る。
そんな最中。
アーリアは、渦巻く煙の向こうに、シルフーらしき姿を認めてハッと息をのんだ。
ゆらゆらとイカの様な身体を揺らし、手にはカンテラを持っていた。
自分を焼き殺したシルフーの兄弟なのか?
それともシルフー当人なのか?
全然、判らなかった。
だが、その手に持つカンテラは、どこかで見た様な・・・
その時である。
バラバラと、イカ怪人の上から崩落物が・・・
アーリアは、咄嗟に走った。
肺の中の空気を、思いっきり吐き出した。
「シルフーッ!!!!」
「アーリア~!!」
手にしたカンテラを、嬉しそうに振るシルフー。
その上から、一気に土砂が!
(間に合わない!!)
悲痛な閃きがアーリアの脳内を駆け巡る。
その傍らを、黒い影が走り、ホッと安堵の気持ちが走る。
カッと目を見開いたグルドだった。
アーリアの上からも、土砂が。
それでも、その瞬間、気持ちは安らかだった。
世界は暗転した。
そして、光りに包まれた。
アーリアは、ルリさんの声を聞いた様な気がした。
いや、あれは歌だったかも知れない。
肺の中に、新鮮な空気が不意に流れ込む。
アーリアは森の下生えの中に横たわっていた。
シルフーと、グルドと、ロイと、折り重なる様に。
そして、アーリアを包んでいた白い光は、巨大な掌だったと気付く。
アーリア達は、その手に包まれる様にして、地上へ運び出されたのだ。
見上げると、ルリさんの顔があった。とても端整で、浮世離れした神々しさを漂わせる美しい顔。
巨大な、ルリさんの顔。
そしてゆっくりと立ち上がるルリさんは、木々の背丈を軽く超える、大きな大きな巨人だった。
「大丈夫ですか?」
そのサイズに見合った大きな声で、遙か上から響いて来る。
星の精霊であるルリは、白く輝く衣を身にまとい、胸元には二つのドロップ状の結晶が輝いていた。
柔和な眼差しで、四人を見つめ、それから深々と頭を下げた。
すると、木々の枝がぎしぎし言っては折れてしまい、バラバラと四人の上に落ちてきた。大量に。
「あらあら、すいません」
慌てて半歩、ズシンと後ろに下がると改めて頭を下げた。
その向こうに、炎上する錬金帝国の建造物が、黒く浮かび上がっている。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
ゆったりとした物腰で、丁寧なお礼をするルリ。
そんな様を眺め、四人は異口同音に叫んだ。
「「「「でっかい!!」」」」
「嫌ですわ・・・この姿は仮の姿。普段は、皆さんと変わらない程度なんですよ・・・」
そう言って頬を赤く染めてくねくねと恥ずかしがる様は、それ相応のお嬢様。
ホッとした。
アーリアは悪夢が過ぎ去ったとばかりに、グルドの逞しい胸に頬を寄せて、きゅっと抱き締めた。
「そういえば、アーリア! お前・・・」
グルドに言われて、ハッとなった。
「喋れる!! 私、喋ってるよね!!? あ~あ~!!」
「アーリア!!」
喜ぶのも束の間、アーリアはグルドにきゅっと抱き締められていた。
「良かった・・・本当に、良かった・・・」
「どうしてだろう・・・?」
グルドの顎に、こつんと頭を当てて、アーリアはそっと囁いた。
「何が?」
「私ね、グルドの事が好きなの・・・どうしてだろう? どうして、こんなに素直な気持ちで、好きって言えるんだろう? とっても不思議・・・」
「そいつは・・・今度、あの主教さんに聞きに、二人で教会へ行ってみようか?」
半分伏し目がちだった瞳を、ゆっくりと大きく開き、アーリアはグルドの顔を見上げた。まるでとても信じられない事が起きたとばかりに。
グルドは、無骨な人殺しの指で、アーリアのほっそりとした吟遊詩人の指を覆う様に掴んだ。
「その時ゃ、俺からお前に指輪を贈るよ」
「ね~ね~、何でお水出てるの~?」
シルフーのまんまるい瞳が、アーリアの事を見上げていた。
触腕が伸びて、アーリアの頬を伝う涙を拭った。
「うわっ!? 信じられねぇ!! 俺の事を、証人にしやがった!! うわっ!? 信じられねぇ!!」
ロイも興奮の性か、いつになく饒舌に叫んだ。
頭を掻き毟って叫んだ。
「うふふふ・・・私の目に、狂いは無かったわ・・・式には呼んで下さいね・・・飛んで来ますから・・・」
どうやれば連絡が取れるか判らないが、星の精霊のルリはとても嬉しそうに微笑んでいた。
本当に、どうすれば連絡が取れるのだろう?
「はぁ~っはっはっはっは!! 悪党共!! 悪巧みもそこまでだっ!!」
突然、全員に冷水を浴びせる様な声が響き渡った。
ガラガラと瓦解する錬金帝国の施設から、黒い巨大な影が浮き上がっていた。
そして、その上には、ゆらゆらと湯気を立ち昇らせるBの姿があった。
「ヒーローは死なず!! ただ高い所から、現れるのみ!!」
そして、素早いポージング!!
俺、かっこいい!
俺様、TUEEEEEEE!!
ギィィィィィィン!!
横になった黒い円錐状の物体が、怪しい光りに包まれる。
「ブラックホーン号!! ゴー!!」
下半身がその巨体に沈み込み、腕組したBは不敵な笑みを浮かべた。
読んでくださり、ありがとうございました
今回もB君には大活躍して貰いました
お陰で大変な事になってしまった! ど~しよ~(笑)
まだまだB君の活躍は続きます
巨大なゴーレム兵器と、大きな大きな星の精霊であるルリさんとの一騎打ち!
ど~みても、これは・・・
はてさて、どうなる事やらです
宜しかったら、また読みに来て下さいね
今日はありがとうございました
そういえば・・・外伝の方でも、一騎打ちの真似事をやっておりました
やっぱりこういうシーンは書いてて気持ちの良いものですね!
明日は外伝で、その後の始末を書いて、その翌日にこちらの更新を予定しております
ではでは・・・




