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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第72話『アーリアが死んだ!!』

「あひゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」


 そのビジョンを目の当たりにした細身の白衣の男は、愛用の特製魔道椅子の上で手足をばたつかせてのたうった。


「嫌!! 嫌!! 来ないで、お願いっ!!」


 再び、そのビジョンが空間に大写しになった。

 その中で、大きく見開いた青い目の少女が、一瞬で黒焦げとなる。


「は~っはっはっはっは!!! 「嫌!! 嫌!! 来ないで、お願いっ!!」だってさっ!!!」


 アーリアの断末魔の悲鳴を口真似し、ドクトルMはご満悦に左右の指を素早く絡めながら、ゆったりとした背もたれにその身を預けた。


「アー君、この映像は永久保存だ」

「かしこまりました・・・」

 傍らに立つ戦士然とした男、Aが一礼の後、別の存在にその旨を指示した。


 その暗緑色の空間で、瞳を閉じ、大きくため息をついたドクトルMは何度も頷き、その声を堪能した。

「あ~~~~~~何という心地良い響きだ。これまでの胸のつかえがす~~~~っとしたよ!!」

「それは上々です、M様」

「君もそう思ってくれるかい? 嬉しいよ」

「M様の喜びは、我が喜び」

 かしこまるAに、ドクトルMは何度も頷き、上機嫌で椅子から降り立った。

 そして、そこで何かを思いついた様子で、パンと両手を打ち鳴らした。


「そうだ!! あの娘、アーリアとか言ったな。このまま、あの可愛らしい声が失われるのは惜しい! ベー君に言って、死体を持ち帰る様に伝えてくれないか?」

「はは・・・それで、M様はどの様になさるおつもりで?」

 その質問に、ドクトルMは前髪をサッと指ですいてから、そのメガネの位置を直した。

「そう!! 声帯を再生して自動機械に組み込み、色んな言葉を喋らせてみよう!!」

「あの娘は吟遊詩人だそうです。物語など語らせてみるのも一興かと?」

「いいね~、アー君!! 流石だよ!! 脳も再生してみようか!? そうなると~・・・」

 ピッとAを指差し、次から次へと沸いて出るアイディアに興奮を隠せずにべらべらと喋り出した。

「そうだ!! 特注の家具にその上体ごと組み込んで、夜な夜な物語を語らせるのだ!! 家具人間として生まれ変わった姿を、あの小憎たらしい連中に、最後の瞬間に拝ませてやるのも悪くない!! 連中がどんな顔をするのか、楽しみだなぁ~!! 感情のモードを幾つか実装して、時には晴れやかに笑い、時には悲嘆に涙し、時にはこの私に恋を語る様にしてみよう!! ニュートラルに戻した時の、あの小娘の反応も実に楽しみだねぇ~!! そうだ!! そうしよう!!」

「御心のままに・・・」

 うんうんと何度も頷き、すっかり悦に入ったドクトルMは、くるりときびすを返した。


「僕は朝まで寝るとしよう。その旨の連絡をベー君に頼むよ。僕の事は、朝まで起こさないでいいからね・・・今宵はぐっすりと眠れそうだ!」

「かしこまりました・・・」

 すっと身を引く様に、Aは上機嫌なドクトルMの歩みをお見送りする。

 すると、その不気味な空間のそこかしこから、異形の者達が立ち上がり、すっとその片腕を天へ向けてかざしてみせた。

「「「「「我らが錬金帝国に!! 総帥閣下ドクトルM様に!! 栄光あれ!!」」」」」

 一斉に鳴り響くおぞましき声の斉唱。それに軽く手を振り、ドクトルMは己の寝室を目指し、この部屋から退出するのであった。



          ◇   ◇   ◇



 闇の中を転がる様に走った。

 悲しみに全身を震わせ、嗚咽の様な声を吐き散らした。


 シルフーは最初、何が起こったのか判らなかった。

 兄弟達の後ろから覗き込んだアーリアの姿は、真っ黒の墨みたいで、どうしてそうなったのかと近付いてみて、声をかけてみたのだが返事が無い。

 まるで死んでるみたいだった。

 揺すってみても、叩いてみても、アーリアはいつもの明るい陽だまりの様な眼差しでシルフーを見返す事は無かった。

 今までそんな事は無かった。

 初めて遠くにあの綺麗な声を聞き、探し、舞い降りた時にも、何やら酷い声を漏らした事があった様な気がしたが、それでも追いかけてみたら、後でその綺麗な声を聞かせてくれた。綺麗な歌を聞かせてくれた。


 だが、今回ばかりは様子が違って見えた。

 がらんどうになった、大きく見開いた目は白濁して、落ち窪み、ぶすぶすと白い湯気を放っていた。

 まるで丸焼きにした鳥みたいだった。


 そうして、ようやく悟った。


 アーリアが死んでしまった!!


 どうして!?


 誰の性で!?


 何で!?



 わ・か・ら・な・い・・・



 判るのは、自分の中に、ぽっかりと穴が開いてしまった事だけだ。


 気持ちの中に、穴が開いてしまっただけだ。


 ひゅうひゅうと風が吹き抜けるどころか、ごうごうと全てを吸い尽くしてしまう様な、大きな穴だ。


 その穴が叫んでいた。


 アーリアが死んでしまった!!



 遠くに明かりが見えた。

 滲んで変なぐにゅぐにゅした形の赤い光だ。

 そこへ行けば、誰かがシルフーの事を慰めてくれるかも知れない。

 この胸にぽっかり穴が開いた様な感覚を、どうにかしてくれるかも知れない。

 行こう!

 行こう!

 あの光の元へ!


 シルフーはまっしぐらに、その赤い光を目指して飛んだ。


 だが、うまく飛ぶ事が出来ない。


 身体全体が変な感覚で上手く空気を取り込んで吐き出す事が出来ない。


 何度も何度も草むらに転がりながら、その光を目指した。



「何だ!?」

 光りの近くで、大柄な影が二つ、シルフーの接近に気付いたのか動き出したのが判った。

 誰かがいる!

 そこに誰かがいる!!


 シルフーは更に全力で近付こうとしたのだが、またも草むらに頭から突っ込んでしまった。

 その身は二転三転と転がり、ようやくその光りの近くへと辿り着くのだが、そこにはシルフーが望んでいた様な優しい響きの声は返って来なかった。


「こいつは・・・」

「知ってるのか?」

 冷徹にロイが、焚き火の向こうに立つグルドへ質問した。声だけで。

 その瞳は、赤い光りをちろちろと反映するのだが、冷ややかだった。

 愛用の小剣を抜き放ち、そっと化け物の反応を警戒しつつ、その命を絶つべく切っ先を低く低く構えた。


「確か・・・シルフーとか言ってたな。何でこいつがいるんだ?」

 その化け物は、思わず記憶の片隅から引きずり出したその単語に、びくりと反応して見せる。

「アーリアが死んだ・・・」

 人の大人程もあろう半透明の不気味な身体を揺すり、そう化け物は音を鳴らした。

「何だって?」

 グルドは聞き返した。

「アーリアが死んじゃったよう~・・・」

「ふ・・・そいつが本当なら、良い気味だぜ!」

「知り合いか?」

「ああ・・・あの街で何度煮え湯を飲まされた事か・・・おい! どこでどう死んだんだ!?」

 その返答に、ロイはゆっくりと構えを警戒レベルまで引き下げる。切っ先は向けたままだが、必殺の一撃を狙う素振りは隠した。

 一方、グルドの粗暴な問いかけに、優しい慰めを求めていたシルフーはがっくりと力を失ってしまった。


 そのぐったりとした触腕を、ブーツのつま先で軽く蹴り、グルドは疑い深く距離を縮める。

「おい! 返事をしな!! アーリアの奴は、どこでどう死んだ!!?」

「し、死んじゃったの・・・真っ黒になって、ぶすぶすって、丸焼きにした鳥みたいに・・・」

「う・・・ドラゴンにでも遭遇したのか?」

 子供染みた素朴な物言いに、あまりの惨い死に様を連想して、グルドは思わず耳を疑った。

 ふわりと金色の髪が風に泳ぐイメージが、一瞬で黒焦げになってどさりと転がる。

(あいつがそんな死に方をするなんて・・・)

 色々な意味で興味がわいた。胸がざわついた。

「どこだ!? おい、どこで死んだ!!」

「案内させるのか? 危険だぞ」

「そんときゃ逃げるさ・・・別に、俺は付き合ってくれなんて言っちゃいないぜ」

「俺はお前について、ブラウボウの街へ行く様に言われている。お前についていくのが、今の俺の仕事だ」

 パチンと、小剣を鞘に戻し、ロイは冷ややかにそう告げた。

「勝手にしろ! おい!! シルフー!! 起きろ!!」

「わかんないわかんないわかんないよう~~~~~!!!」

 ぱたぱたと全部の腕を打ち震わせ、シルフーは泣いた。なんで、こんな奴に出会ったのかと呪った。ジミーだったら、きっと優しく慰めてくれただろうに・・・


読んでくださり、ありがとうございます


実際のセッションでも、逃亡したPCの前に現れたのは悪漢のグルドでした


ランダムエンカウントの時、猿蟹は3つのダイスを振ります

プレイヤーは1つのダイス

猿蟹の振るダイスは良いイベント、悪いイベント、普通のイベントの3種類

プレイヤーの振った目が、どの目と同じになるかでイベントのベクトルが決定されます


この時は悪いイベントだったので、前のセッションで、酷い目に合わされたグルドが登場となった訳でした


同時に同じ三つの目が出た時は、プレイヤーのロールがその運命を切り開く事となる訳で、二十年以上のTRPGのGM歴の中で、それは1回だけあったと記憶しています


本日は、ありがとうございました

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