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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第69話『さらばエルアラまた会う日まで!』

 その後、ゲイルとガンツの手により地下牢より救出された一行は、ガッシュの計らいによりアーリアとシルフー、そして投獄されていた者の唯一の生き残りであり証人でもあるジミーを加えた三名が、密かに砦の外へと送り出された。


 空が暗がりとなっても尚大賑わい。人ごみの中、ジミーは振り向くとにっかり、親指をぐいっと立てた。

「外へ出たいんだよね? じゃあ、ついといで!」

 そう言って先導するジミーは、スラムの軒先に吊るしてある衣類を次々にかっぱらいながら、ずんずん外壁へ向けて進んでいった。

 それに続くアーリアとシルフー。

 そうこうする内に、派手派手だったアーリアのドレス姿も、化け物そのままだった半透明なシルフーの姿も、それなりにボロをまとったいっぱしのスラムの住人らしくなっていく。

「まったく大して呆れたわ」

「な、凄いだろ?」

 えへんと胸を張るジミーが次々と放って寄越すのを、物陰でごそごそ身に着けては進んだ。


 そして外壁を前に、勝手に誰かの家の庭先へ。

 すると、枯れ果てた樹木の枝が、外壁に出来た割れ目へ丁度良い感じに伸びている。

 ジミーは、辺りの様子を伺い、それっとばかりに小走りに駆け寄ると、たちまちによじ登り、影となって姿の見えない割れ目の中から、腕だけを差し出してひょいひょいと手招きして見せた。

「とんだ一の子分だわ。でも優秀ね」

「イチの昆布?」

「行こう、シルフー」

「あ~い」

 多足の腕や足を巧みに操り、シルフーはたちまちアーリアを残して先へ進んでしまう。そしてジミーの居る割れ目へ到達すると、よっこらせよっこらせと苦戦していたアーリアへ、長い触腕を伸ばして引き寄せてくれた。


「ありがとう」

「いいって事ヨ」

 なんかどこかで見た仕草で、鼻の辺りをくいっとこすって見せるシルフー。

 クスクス笑うアーリアとシルフーに、振り向いたジミーはシッと短く警告し、それから静かに割れ目の先へと進んだ。


 外壁の外側へは、呆気なく到達した。

 ジミーの体が、闇の中へ溶け込む様に、飛び降りると、暫くしてから短い口笛が響いた。

「えい!」

 覚悟を決めてその闇へ飛び込むと、アーリアは生い茂る雑草の中へ足から飛び込んで、大きくたたらを踏んだ。

「大丈夫かい、姐さん」

 闇からジミーの腕がひょいと突き出て、その身を支えた。

「あ、ありがとう。ありがとう。大丈夫よ、ジミー・・・」

 どうにも、まだ姐さん呼ばわりはこそばゆい。

 ふわっと日干しにされていた洗濯物達の、ほこりっぽい陽だまりの匂いが鼻をくすぐった。

「でも、本当に良かったの?」

「何がだい?」

「んっと・・・お母さんの事・・・」

 ちょっと言い出し難くてアーリアは言葉を濁したが、闇の中でにっかり白い歯が笑い、快活な答えが返って来た。

「いいっていいって! 清々したって!」

「そ・・・う・・・?」

「ささ! 姐さん! もうその話は終わりにして、行こうぜ! 行こうぜ!」

 くいっとジミーに左手を引かれ、アーリアは歩き出す。

 そこへ、上空からふわりとシルフーが舞い降りて、二人の間に腕をかけた。

 その大きな目をぎょろぎょろさせて、交互に二人を見渡した。

「シルフー姐さんも、行きましょう!」

「うん! シルフー姐さんも行くノだ!」

「も~、姐さんって、どこのヤクザ者よ!」

「アーリア姐さんの親友は、俺にとっては姐さんですよ!」

「やだも~!! ふふふ・・・あはははははっ!! も~やだぁ~っ!!」

 どこまで本気か判らないジミーの言葉に、もう笑うしかなくて、アーリアは闇の中で笑いながら歩き出し、それは次第に駆け足に変わって行った。


 胸壁の影から抜け出ると、月明かりの青白い世界を、三人で駆け抜ける。

 満天の星々がキラキラと煌く下を、どこまでも駆けて行こうとした矢先、ハッとその足が鈍った。

「どうしたんだい? アーリア姐さん」

 立ち止まるジミーへ、アーリアは大真面目。

「西って・・・」

「はい?」

「西ってどっちだっけ!!?」

 ぐっと、両の拳を握り締めるアーリアに、ジミーはずるっと転びそうになる。

「知ってて走り出したんじゃないのかよ!?」

「ジミーだって、知ってて走ってたんじゃないのっ!?」

「や~だモ~、やダぁ~っ!!」

「シルフー、それ似てないっ!」

「や~だモ~、やダぁ~っ!!」

「やだも~、やだぁ~っ!!」

 笑いながら、アーリアは一つの星を指差した。

「あの星、見覚えある! という事は、こっちかな!?」

「姐さん、星が判るのか?」

 驚くジミーに、ぽんと胸を叩いてアーリアは少し自慢げに答えた。

「と~ぜん。星を頼りに旅をして来たのよ。大部分は先生に教えて貰ったんだけど」

「先生って、姐さんの先生かよ!? 何の先生!?」

「歌よ! 伝承とか、踊りとか色々・・・」

 すると、ジミーがくるっと足取りを変えて、アーリアの腕をぐいっと引っ張って来た。

「な~な~! 俺にも色々教えてくれよ~! な~!」

「それが人に物を頼む・・・態度か~っ!!」

「あいたたた~っ!!?」

 思いっきり、その鼻っ柱をひねってやると、アーリアの鼻にも別の腕がにゅにゅ~っと。

「たいドか~っ!!」

「うぷぷ~っ!!?」

「ちょ、シルフー姐さんまで!!」

「たいドか~っ!!」

「やだも~、やだぁ~っ!!」


 笑い転げながら、三つの影は一つになっては三つに戻り、それらを繰り返しながら、夜陰へ消えて行った。


 さらばエルアラまた会う日まで!



          ◇   ◇   ◇



 薄暗がりの中、幾つもの怪しげな光が瞬いていた。


 陰々と響く不可思議な音に、人の声らしきものも時折混ざった。


 そこでは、多くの人らしき存在が、不可思議な形をした機器を前に、まるで示し合わせたかの様に、一連の動作を繰り返している。


 そして、それが止むと、やおら声を上げて宣言した。


「誘導波、照射準備完了!」


「誘導波、照射準備完了!」


「誘導波、照射準備完了!」


「誘導波、照射準備完了!」


 一人の白衣の男が、右手を挙げ、ゆっくりと前へ。


「誘導波、照射開始!!」


「誘導波、照射開始!!」


「誘導波、照射開始!!」


「誘導波、照射開始!!」


 突如として、その一室は煌く光に満たされた。


「ドクトルM様、指向性誘導波は無事に照射されている様です」

「そうだね・・・」

 白衣の男は、傍らに立つAに小さく頷いた。気だるそうに、椅子に身をゆだねるドクトルMは、ゆっくりとその瞳を閉じる。


「B派、感応あり!! B派、微弱ながら感応あり!!」


「指向性の誘導波に切り替えた結果が出ましたな。早速に出力を上げさせましょう」

「いや、待ちたまえアー君」

「はっ・・・」

 手でAの動きを制するドクトルM。

「余り強烈な反応を引き出すと、連中にそれと感づかれる心配がある。微弱なままに、M230号の兄弟達に、呼びかけさせようではないか」

「判りました。では、その様に・・・」

「ベー君!」

「うははぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 まるでスポットライトを浴びるが如く、薄暗がりの中に一人の男が現れた。


 その男の身体は、まるで鋼で出来ているかの如く、ぎらぎらと黒く輝き、全く毛髪が無い様に見えた。

「ベー君。すまないが、M230号の回収に向かってはくれまいか?」

「喜んで!! ドクトルM様のお役に立つ事が、我が命!!」

「ルー君が、折角与えた飛行戦艦を失ってしまってね。一番足が速いのが、君に与えたブラックホーン号なんだ。攻城戦用に造った君には申し訳無い使い方なんだが、一つお使いに出かけてくれないかね?」

「あの飛行戦艦が失われたとは、にわかに信じられませんが・・・我が命に換えましても!!」

「頼むよ~。もう、死体でも構わないからね。五体満足の形が残っていれば良い。決して、すり潰してはいけないよ・・・」

「うははぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 暗がりに、Bの姿は消えた。


 それを見届けたドクトルMは、少し不安になったのか、傍らに立つAへそっと耳打ちした。

「誰か付けた方が良かったかね?」

「はい。彼は単独で動くには、いささか思慮に欠ける男です」

「セイ君!」

「はは・・・」

 突如、床が盛り上がり、そこへ虹色の女性的な美しいシルエットが跪く。

「先程からここに・・・」

「君も悪いんだけど、ベー君のフォローについてくれないか? 隠密行動、得意でしょ?」

「仰せのままに・・・」

「どうしよっかなぁ~・・・アレ、使っちゃっていいから・・・」

「では・・・」

 そこで、ドクトルMは、指をしきりに組み替えて、それを口元へ運んだ。愉悦を隠す様に。

「見た者は、み~んな君が食べちゃって構わないからね!」

「有り難き幸せ・・・」

 全身の虹色細胞を歓喜に震わせ、Cの姿は床に溶け込む様に消えた。


「2体も出しちゃった・・・どうしよっかな・・・」

 せわしなく指を組み替え、ドクトルMはほくそ笑む。

「ねえ、どう思う?」

 すると、傍らのAは、恭しく答えた。

「獅子は獲物を狩るのに、全力を尽くすと申します」

「成る程! 獅子か! それいいね! いいよ、アー君! あ・・・でもドラゴンでもいいかもね・・・うん、いいね! ドラゴン!」

 きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐドクトルMに、その場の全員が一礼。

「「「「「我らが錬金帝国に!! 総帥閣下ドクトルM様に!! 栄光あれ!!」」」」」

 一糸乱れぬその動き。まるで造りもの染みた無数の影は、この台詞を何度も何度も繰り返すのだった・・・



 カッカッと小気味の良い金属音を響かせ、漆黒の体が、闇色に輝く巨大な円錐形の建造物に飛び乗った。

 鍾乳洞の様に、自然の岩肌がむき出しの空間に直立したそれは、男がその切り立つ様な外面に垂直に立つと、小刻みに震え出した。

 無数の小さな光が、その表面を走り出す。

「よぉ~し、来たな!! ブラックホーン号、発進!!」

 Bの掛け声に呼応するが如く、ふわり浮き出す金属塊。

 にやりほくそ笑む鋼の男は、その建造物に腰の辺りまで沈み込む。

 そして、ゆっくりとそれは横倒しになった。

 が、地面には触れない。

 僅か数十センチの高さで、浮遊しているのだ。

「ブラックホーン号!! ゴー!!」

 ゆっくりと、その切っ先へ向かって進み出すそれは、次第に速度を増していく。

 洞穴の中を、静かに進むそれは、やがて暗がりの中へと、木々を薙ぎ払って飛び出した。

 錬金帝国の飛行ゴーレム『ブラックホーン号』。攻城戦兵器の破城鎚が、そのボディの色と同じ闇色の世界へ、解き放たれた。



 ぴちゃり・・・

 水滴の落ちる音が、その風切る音が止むと同時に、静かに響き渡った。

 地底に広がる銀色の湖面。不可思議な幾つもの光源が、それを浮かび上がらせている。

 そこへ、一滴の虹色の雫が、ぴちゃりと落ちた。

 銀色の湖面を、波紋が広がっていく。

 すると、その波紋が行き着く先から、小さな波が更にさざなみとなって沸き立つではないか。

 やがてそのさざ波は、沸き立つ荒波の如くに暴れ出し、その中より巨大な翼が、まるでチョウの様に銀色の翼が広がっていく。

 翼が、その力を試す様に大きく羽ばたく頃には、地底を満たしていた水銀の湖は消え、すべからく巨大な水銀の蝶々と化した。

 その全体を完全にコントロール下に収めたCは、ゆっくりと羽ばたいた。

 錬金帝国の液体ゴーレム。Cのもう一つの姿。もう一つの肉体。変幻自在のおぞましい殺戮兵器。それが世に解き放たれるのだ。

「ドクトルM様、行って参ります!」

 Cは全身を震わせて、そう宣言した。

 風をはらんだ水銀の翼は、死の燐粉を撒き散らすかの様に、周囲の木々を枯らしながら、ゆっくりと洞穴より大空へ飛び立って行った。

読んで下さり、ありがとうございます


いよいよ錬金帝国のゴーレム兵器群がその姿を現す様です


これらABCDは別の小説用に考えた連中なのですが、根っこは同じなので悪役としての登場です


結構、全体的にTRPGのセッションより、早めの展開になって来た様な・・・


気分良く、ルー君を出した辺りからかな(苦笑)?


果たして、ルー君がシナリオの展開通りになるかどうか(ニヤリ)。


アルファベットの連中も、どうなる事やら・・・


シナリオの冒険者レベルが前後しますが、まぁ~何とかなるでしょう(おい)


この辺のさじ加減を迷って、外伝の方に逃げていたんですよね。


外伝の方も、かなりアブノーマルな関係になっていってますが・・・(汗)


「女勇者は振り向かない」も良かったら・・・アブノーマルだけど・・・


ご意見、ご感想など御座いましたら、お気軽にお寄せ下さい


本日は、ありがとうございました

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