第66話『な、なんだってぇ~っ!!?』
「な、なんだってぇ~っ!!?」
ドカドカと金属板入りの靴音も高く、床石を蹴って無数の足音が突き進むと、突き当たりの扉を勢い蹴り開けた。
にも関わらず、ワッと室内の喧騒がそれを押し返さんばかりに一行を出迎える。
笑う大釜亭の半地下にある食堂はごった返しの大賑わい。そのほとんどを丘小人が占めており、既に相当出来上がっている。
テーブルの上で踊り狂う者達。
肩を組み、高らかに酒盃をかち合わせ、浴びる様に口へと注ぎ込む者達。
一心不乱に相当にでかい鳥の丸焼きに格闘を挑む者達。
そして、厨房の中を、汗だくになって右に左に飛び回る者達。
「だから!! 俺が例年通りに『おかみさ~ん!! 時間で~すよ~っ!!』って知らせに行ったら!!」
「ど~して、こいつらがここに居るんだっ!!!!?」
数倍もの馬鹿でかい声が、一喝で全てを黙らせた。
普段なら、山の中の穴倉で鉱石を掘っているのが大体の山小人。一般にドワーフとかドゥエルグとか呼ばれ、男女区別無くたくましい髭面で、他の種族には見分ける事は至極困難と言われている。
当の声の主であるガダルは、無論男の中の男を自負する山小人の中の山小人であるが、流石にこの事態には取り乱さずにはいられないでいた。
真っ赤になった顔から、正に火が噴出さん勢いで、逆立った頭髪の中からはぶすぶすと白い煙の様なものが立ち上り始めた。
「砦の武闘大会が中止なったらしく、おかみさんは我々の仲間に店の全権を委任して出かけられた」
静まり返った店内に、トーンの低いその声は異様に響いた。
「誰だ~?」
ねめつけるガダルは、ゆっくりと店内を見渡す。
そして、そこから一番奥のテーブルでピタリと止まった。
「遅かったじゃないか」
くる~り。丸イスの上を滑らかに半回転。
黒いふと眉の間に、深いしわを刻み、ギラリ。
お祭り巡礼隊の隊長、丘小人のダンチョーが、ガダルのねじ込む様な鋭い目線を、腕を組み真っ直ぐに受け止めた。
「てめぇかっ!!」
「待っていたぞ、ガダル。一足先に、祭りのただ酒は、いや、この会場は我々が戴いた」
そう言って、不敵な笑みを浮かべるダンチョーは、テーブルの上に店の鍵束をガチャンと置いて見せた。それはカペラ婆の前掛けにあった物。店のあらゆる鍵を開ける事が許される、この店の主の証である。
「この会場は我々が占拠した。言ってる意味が判るか?」
一斉に奇声を上げる四十人もの丘小人達。
ざまあみろとばかりに尻を向けて、一斉にぺんぺん叩く。
関係の無い、普通の人たちは隅のテーブルに一塊となり、これから始まるイベントを固唾を呑んで酒を呑んだ。
鼻の穴を大きく開き、ぐぬぬと唇を噛み締めるガダルに、その背後からねじ込む様に室内へ入ろうとする山小人の戦士達が目をむいて吼え猛る。
「どういうこった!!?」
「酒っ!! 酒っ!!」
「てめらっ!! 俺達の酒を盗んだなぁっ!!」
「はぁ~っはっはっはっはっは!!!!」
ダンチョーのわざとらしい高笑いに、掴みかからんばかりの仲間をその全身で制し、悔しさを隠そうともせず、ガダルは仲間の意を代弁した。
「何がおかしい!!?」
火花散る様な視線の交錯。
ダンチョーは冷徹に、一言告げた。
「俺達の酒とは滑稽だな」
「ふざけるな!! 俺達は、毎年、ここの振る舞い酒に与かってたんだ!! 祭りの酒だ!! 誰の物でもねえっ!! 誰の物でもねえって事は、誰の物でもあるって事だ!! それを、お前ぇはわたくししようってのかっ!!?」
「それは判っていた。調べたからな。だから、お前達には選択肢が二つある。黙ってここを立ち去るか、ここで俺達と祭りの酒を呑むか。二つに一つだ。祭りをぶち壊す者に、この酒を呑む資格は無い」
ダンチョーはそれ以外に選択肢は無いと断言した。
それは、街を火の海にしても恨みを晴らすか、祭りの振る舞い酒を呑んで共に祭りを盛り上げるのか、どちらを選ぶかと言う事である。
どちらにせよ、受けて立つという意思表示である。
それだけ言うと、ダンチョーは傍らのカップをぐびぐびと一気に空けて見せた。
ぷう~。
「美味い!」
挑発的にニヤリ。
「ぬお~!! きさまぁ~っ!!」
目をカッと見開き、ガダルはダンチョーの顔面を指差した。
「勝負だ!!」
「いいだろう!」
即答するダンチョーに、ガダルはずかずかと店内へ進み出る。それを追う様に、山小人達も雪崩れ込む。
たちまち店内を二分する山小人と丘小人。
ダンチョーもテーブルを飛び越えて、軽やかにガダルの前に立った。
「で? 勝負方法は? お前が勝ったらどうする? 明日の勝負は譲らんぞ」
「馬鹿かてめぇはっ!! 酒場で勝負って言ったら、呑み比べだろうがっ!!」
おお~っ!!
「頭いいなぁ~」
「自分だけはたらふく呑めるもんなぁ~」
「ずるくねぇ?」
ガダルの背後から、次々とガダルを誹謗する声が。
「ふ・・・ふふふ・・・」
わなわなと開いた指を震わせて、怪しげに蠢かせるガダル。
「ぷっ!」
「笑うんじゃねぇっ!!」
食って掛かるガダルに、ダンチョーは苦笑しつつ手をひらひらと振った。
「おお~い!! 厨房!!」
「はは~い・・・!」
厨房から声が、ヒースの半分死んだみたいな声が。
「飢えた観客共に、酒と料理を頼む!! 大至急だ!! 何でもいい!!」
「ひ、ひえぇぇぇぇ~~~~・・・」
くるくる独楽鼠の様に駆けずり回る厨房で、すってん。派手な音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
「「「「な、なんだってぇ~っ!!?」」」」
ガッシュ、ホーク、ルイス、そしてアーリアの四人は、びっくりして声をはもらせた。
アウリーリンと半分気絶してるシルフーは、何の事やらさっぱりだった。
「ではあらゆる言語で、さようなら~♪ 『燃えてサヨナラ』【破裂してサヨナラ】≪ばらばらになってサヨナラ≫~♪ ひゃっはぁ~~~~~~っ!!!!」
人語、妖精語、古代語、古代神聖語と、どうせ判らないだろうと馬鹿にしたMは、その起爆指令を2体の『超汚染ヒトモドキ』へ指示した。
Mの脳裏に、破裂してばらばらに吹っ飛ぶ全員の姿が浮かぶ。
「ひゃぁ~っはっはっはっは!!! 超汚染ヒトモドキには触れちゃいけない!!! 関わっちゃいけない!!! 戦ってもいけないのさっ!!! ひゃぁ~っはっはっはっは!!!」
背もたれたっぷりのイスに全身を投げ出して、手足をばたつかせその歓喜の程を全身で表現するM。
あ~~~~~すっきりした。
目蓋の裏に、連中の粉々になって吹き飛ぶ様が思い浮かぶ。
あ~~~~~すっきりした。
目蓋の裏に、恭順を拒んだエルアラのヤクザ共が、その拠点ごと破裂して吹っ飛ぶ様が思い浮かぶ。
あ~~~~~すっきりした。
目蓋の裏に、エルアラの砦がちゅど~~~~んとばらばら爆散して、見る間に闇が広がっていく様が、それに飲み込まれている生き残って悶え苦しむ人々の姿が思い浮かぶ。
あ~~~~~すっきりした。
以下同文。
脳髄を支配する歓喜の分泌物質に酔いしれ、ふと気付くとMはしきりに傍らのアーに呼ばれている自分に気付いた。
「どしたの?」
「M様・・・非常に申し上げにくい事なのですが・・・」
涙で滲んで何も見えなかった。
丁寧にメガネを外し、差し出されたハンカチで涙を拭うと、改めてメガネをかけなおした。
そして、眼前に用意していた魔道装置に、その映像は半分になったものの、未だに五体満足ながらも床に転げているまぬけな連中の姿が、こちらを凝視している事に気付いた。
「へ? なんで?」
「M様・・・爆発致しませんでした・・・」
「な、なんだってぇ~っ!!?」
ドンガラガッシャン!!
おったまげて、イスをひっくり返して転がったMは、慌ててそれを手がかりに起き上がる。
魔道装置のガラス面には、まだ半分映像が映ってるという事は、超汚染ヒトモドキの本体が半分残っているという事。たぶん、上半分は消し飛んでる筈なのだが・・・
エルアラ砦の牢の廊下では、Mの想像通り超汚染ヒトモドキの2体は、自爆して上半身が吹き飛んだ状態で、2体ともまだその身体にMの映像を映したままふるふると震えていた。
その生命活動は終わりを告げようと、画像も音声も途切れ途切れとなるのだが、アウリーリンを庇う様に身を屈めたガッシュも、シルフーを庇うアーリアも、身を縮めていたホークとルイスも、目の前にすっくと立つアウリーリンがその青白い左腕を真っ直ぐに突き出し、みるまに赤黒く燃え盛ろうとする火球の勢いを奪っていく様を呆然と見上げるのだった。
『燃えてサヨナラはいけません』
歌う様に、アウリーリンは妖精語で、Mへ語りかけた。
【破裂してサヨナラもいけません】
歌う様に、アウリーリンは人界では最早死語である古代語で、Mへ語りかけた。
≪ばらばらになってサヨナラもいけませんね。私の大切な方々を、そんな目に合わせる訳には参りませんわ≫
最後に、神々の間で使われていたと伝承されている、魔法語とも言われる伝説の古代神聖語を流暢に使い、魅力たっぷりの笑顔を仲間に降り注ぐアウリーリンは、そっとガッシュとアーリアへ手を差し伸べる。
最早、炎はたいまつ程の大きさも無く、換わって空間を歪ませる闇色の渦の様なものが、まるで内側へと折りたたまれるみたいにその大きさを縮め、そして消えてしまった。
「え、えくすてぃんぐいっしゅぅ~・・・!? 水の対炎最強の消火呪文だって言うの・・・?」
Mは水色の女性を一目見て、何が行われたかを理解した。
2体が破裂すると同時に、アウリーリンの手より放たれた濃密な霧が、その膨れ上がろうとした炎を飲み込んで、たちまちに無力化してしまった。
「なんて、インチキ!! 聞いてないよ~~~~!!! 何でウンディーネがいるの!!!? いつから!!!? どっから沸いて出たの~~~~!!!? ぼ~ふらかよ!?」
思わずイスのクッションを噛むMに、至極残念そうにガッシュは一言だけ答えてやった。
「最初からいたがね・・・」
「なんだ、バカヤロー」
そういって、普通目の前でやられたらたまらないだろう、極上の笑顔でガッシュの腕に身を寄せるアウリーリンに、Mはそういえばやたらこの男は背中になんか庇ってた様なと思い出した。
「あ~~~~~~~なるへそ・・・」
ようやく理解した。
「お前らは、どうやら僕の最大の敵らしい」
「いえいえ。所詮は野良犬・・・」
「ぼ~ふら?」
「私、まだ子供だし」
「・・・」
「い~土産話が出来たぜ」
「いやあ~、良い歌が出来そうです」
六者六様の、敵なんてとんでもない、頼むからもう関わらないでくれ、世界の果てで好き勝手に叫んでいてくれ、と言った風情の返答をあえて無視し、Mはその超汚染ヒトモドキ共の生命活動が終わりを告げようとしている最中、消え入りそうな映像から最後のメッセージを送る事にした。
右手の指を3本、ピッと立て、Mは告げる。
「だがね。世界は・・・」
それをすっと振ると「World」と文字が描かれ、そのWの部分がMの指となる。
Mはそれをくるり下へ向ける。「World」を掌で覆う様に。
「最初から、我が手の元にある・・・覚えておけよ・・・」
Wの文字は、ひっくり返るとMとなる。
「お前達は、最初から最後まで、我が手の内で踊るのだ・・・死のダンスをな・・・」
それは死の挑戦状であり、負け惜しみであった。
だが、次々と爆ぜていくヒトモドキの姿が、その生命へ対する異常なまでの軽視っぷりが、Mのおぞましさを助長する。
その回廊は、自ら爆ぜて散っていった、十数体ものヒトモドキ達の体液でぬるぬるのぐちょぐちょとなり、酷い異臭に満たされてしまった。
読んで下さり、ありがとうございます
久しぶりにダンチョーさんが出て参りました。
M様も一時撤退です。
しかし、覚えていろよ!といった感じですね。
RtoLの基本ルールでは、一日でレベル+1回の魔法が使用可能なのですが、この戦闘終了を以って、アーリアのレベルを1にアップしようと思います。
そう!
サブタイトルもいよいよ変更ですね!
レベルアップして、冒険者の称号を手にしたアーリアの物語は、まだまだ続きます。
よろしければ、また読みに来て下さいね。
ご意見、ご感想ありましたらどうぞお気軽にお寄せ下さい。
今日もありがとうございました!




