第57話『誕生日おめでとう!!』
まるで数百人からなるムカデダンス!
途中から入れて貰って、前の人の肩を掴むと一緒になって足踏みするものだから、土煙がもうもう。
一瞬の間を置いて一斉に大笑い。思わずタイミングを逃しても、次には合わせてやろうと結構張り切ったりもする。
おじいちゃんもおばあちゃんもお父さんもお母さんもちっちゃなお子さんは無理かも知れないけど、な~んか一緒になって盛り上がっちゃう。
「「「「「わ~っはっはっはっはぁ~っ!!!!」」」」」
しかし、その内にみんなの心に浮かび上がる疑念。いつまで、これって続けるの?
そうなる事は判ってる。
(ふふ~ん・・・)
あったまり具合を肌で感じ、アーリアは頃合を見計らって音頭を変える。思いっきり、楽しく! 弾む様に!!
「お祭り、最高ぅ~っ!!」
その瞬間、妙な安堵感が吹き抜けた。
これが最後とばかりに力いっぱい!
「「「「「お祭り、最高っ!!!!」」」」」
ザッザッザザザ!!
「お祭り、最高ぅ~っ!!」
おおっと、もう一回だ!
「「「「「お祭り、最高っ!!!!」」」」」
ザッザッザザザ!!
そして、アーリアはピッと貴賓席のど真ん中を指し示す。
「ご領主様にっ!!」
ああ、これが本当の本当にラストだと・・・みんな、思いっきり叫んでいた。
「「「「「誕生日おめでとうっっっ!!!!!」」」」」
余韻がしばらく残るのが判るくらいに、ぴったりと全体の動きが止まる。
不思議な統一感を共有する人々。
それから、わあっと歓喜の叫びが砦内に響き渡る。ある者は腕を突き上げ、またある者は見知らぬ隣人と手を打ち合わせ、誰へと構わず拍手する者も。皆、弾けんばかりの笑顔で、まるで互いを祝福しあうかの様に。
この熱気にさらされて、貴賓席の真ん中で立ちすくむ初老の男は、よろける様に身をよじって、普段なら訓練する数十の兵士達で賑わっていた砦の中庭を見渡した。
「貴方・・・」
白銀の口ひげたくましい、いかつい風貌のヘブンリー男爵は、傍らからそっと支える様に手を差し伸べる妻のジャクリーヌに、心配無いと右手で制する様に応え、それからその腕を高々と掲げて人々へ応えて見せた。
不思議な感覚が男爵の全身を吹き抜けていた。
戦場にあって、兵士や騎士らの熱狂に応えた事は幾度と無くあった。戦いの興奮が支配するその場は、ぴりぴりと刺激的で、正に血沸き肉踊るが如し。
だが、この場のこれは、妙に暖かで、いかついと自覚している己の風貌が、普段のそれとにつかわしくなく、ゆるゆるとにやけそうであった。
「う・・・」
思わず、残る左手で顔を隠すのだが、民草の注目が、その熱気が収まるに比例して己に注がれ始めると、顔を見せぬのは不味いと感じた。
「ふっ・・・お前もそう思うか?」
「はい。良いお顔をされてると思いますわ」
しわの深い、穏やかな微笑み。
妻の表情からも肯定の意を汲み取り、改めて両の腕を上げて、自分では似合わぬと思うのだが、口元が緩む様を衆目にさらす事とした。
「ありがとう!! 先ずは、みなに言いたい!! ありがとう!!」
酒焼けした、野太いガラガラ声が、少し嬉しそうに響く。
「「「「「おお~っ!!」」」」」
人々の口からどよめきが漏れた。
それを、最早諦めた様子で頬を緩めた男爵が、その反応に頷き、少し思案してから、何やら良い事を思いついたらしい。そんないたずら心に目を輝かせ、男爵は更に続けた。
「そして、大変残念な事を告げねばならない!!」
どよどよっと・・・空気が揺れる。
そんな反応を、壇上より見渡しながら、男爵はピッと右の人差し指を立てた。
「武闘大会の予選は、ここで中止とする!!」
「「「「「ええええ~~~~っ!!!!?」」」」」
その反応に、とても残念だと身振りで応え、男爵は両腕をゆっくり広げ、会場全体を指し示した。
「これでは無理だ!!」
会場は既に民衆が占拠済み。ようやく、人々は自分達がどこに立っているかを理解する。
まったくがっくりだ・・・
「そこでだ!! 誰か!! 酒蔵を開けろ!! 俺が飲んでるのと同じ奴をこれだけここに運び出せ!!!」
そう言って、男爵は両の掌を大きく広げ、全員に判る様に示した。
ワンと空気が震えた。
飛び跳ねる者。その場で転がる者。喜び方は人それぞれ。小さな子供も、一緒になって喜んでいる。
男爵の傍らで、妻は10は出し過ぎだと、思わず額を押さえてしまうが、当の男爵はこの反応に喜色満面。
「同じ酒を飲み!! 祝ってくれ!! 以上!!」
そう区切って、挨拶を終えた。
「10じゃないわ! 8よ! 8駄!」
腰の鍵束から、酒蔵の鍵を外し、兵士に渡そうとするのだが、人々の熱狂にかき消されて、どうにも伝わらない。
「もう、良いわ! 貴方! ちょっと行って来るわよ! 貴方!? 聞こえてるの!?」
聞こえてる筈も無かった。
◇ ◇ ◇
「よっ! 負けたわね!」
長いすに座った所を、不意打ちだ。
スパーンと背中を叩かれ、控えの天幕へ戻ったグルドは止めを刺された。そんな気分。
「ま~~~~~~~~た、お前か・・・いてて・・・」
ぐいっと顎を引っ張られ、目の前の女司祭を睨みつけた。
赤い僧衣が、今のグルドの目にはきつく映る。
外の喧騒がうるさいが、この中は静かだ。
女司祭の手が、素早くグルドの四肢を触れて回る。どうにもくすぐったいが、そう痛くも無い。
「ふん・・・大した怪我じゃなさそうね。あんた、い~転び方するわねぇ~」
「褒められてねぇよな? 今の・・・」
そこでハッと我に返る。
「てか、あんだあのカードは!!?」
「おっと・・・」
ざばっと手桶の水を、頭からかけられた。
ぽたぽたと滴る水に、しばし呆然。
「い~対戦相手だったでしょ?」
「ぷっ!?」
今度は頭から木綿の布を被せられ、乱暴に頭から拭われる。傷も何もお構い無しだ。
「あら? ひいひい言わないのね?」
「・・・」
グルドは、ぶすっと押し黙った。意地でも痛いと言いたくない。
そんな様子に構う事無く、次に女司祭は膏薬を指に取って、あちこちにぬりたくり始めた。
何だか判らないが、変な匂いだ。
「同程度の相手と百回戦うよりも、自分より上手の人とやった方が、得る物が大きい時もある。今回はそれね」
「・・・」
「あの子、悪ぶってるけど、親分肌だから酷い事しないだろうってね」
「あの子って、あんたより年上だろ?」
そこで女司祭の手が止まり、青い瞳をくるっと楽しげに輝かせた。
「見えるぅ~?」
普通に見て、ガッシュは3、40台。こっちは20台半ばくらいに見える。
「見えね~な! あ~、目に砂が入ってたみてえだ! ぜんっぜん見えね~な!」
しゅるり。
布切れが、グルドの首に巻きついて、きゅっと締まる。
「残念だわ・・・こんなに若いのに、あの世に旅立ってしまったなんて・・・」
「死ぬーっ! 死ぬーっ! ていうか、まだ死んでねぇっ、つーの!!」
一瞬、くらっときて本気でやばかった。
どくどくと首の辺りを脈打つのが判る。
(こいつ、どこまで・・・)
どこまで、人の身体の壊し方を知っていやがるんだ?
ぞくりと背筋に冷たいものが走る。
腕の太さなら、どう見てもこっちに力がありそうなものだが。
じろり、僧衣をねめつけるグルド。
だが、当の女司祭はあっけらかんとしたものだ。
「は~い、応急手当は終わり! 予選落ちの方は、も~帰って良いらしいわよ~」
パンパンと手を叩き、グルドを天幕から追い出しにかかった。
読んでいただき、ありがとうございます
今回の騒ぎで、武闘大会の予選は一時中止になってしまいました。
このまま、酒宴に突入して大騒ぎになりそうですね(苦笑)。
領主ヘブンリー男爵の誕生祝いもかこつけての収穫祭というお話、もう忘れられてしまってたかも。かく言う私も、あれ~~~そういえば~~~とか(笑)。
ご感想、いただけると嬉しいです
いただける程のものを書いているのかと言えば、はなはだ疑問でもありますが、まだまだお話は続きます。宜しければ、またいらして下さいね。
ありがとうございました。




