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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第56話『踊る変態色魔強姦魔』

 武闘会の会場はドッと笑いに包まれた。


 物が飛び交い、兵士の隙を盗んでは柵を乗り越え、老いも若きも我も我もと闘技場へ飛び込んでいく。

 手前勝手にはしゃぎながら、一直線に中央へ滑り込んだ者は、全身で己の感動がいかばかりであったかを表現しつつ、その確かな根拠を求めるかの様に、アーリアやガッシュ、そして倒れたままのグルドに掴みかかった。

「ええ~い、どけどけ~い!」

 ぶんと拳がうなり、ガッシュの前からもんどりうって転がった男は、歓喜の悲鳴に身をよじる。

「すっげー!! すっげー!! 黒騎士様の裏拳、すっげー!!」

 顎を抑えて喜ぶ男に、わらわらと集まった男達は、羨望の眼差しを向け、それは次に黒い流れ星『一番星』のガッシュへと向けられた。

「あ~、い~な~!」

「い~ない~な~!」

「俺も・・・」

「俺も殴ってくれ~!!」


「なななっ!?」

 一斉に掴みかかって来る相手に、ガッシュは一瞬驚いたものの、巧みなステップで誰かの身体が盾になる様、常に動き続けて拳を振るう。

 すると、不思議な事に、一発喰らった相手はそれ以上は追って来ない。

「なんなんだ、こいつら!?」

 目を白黒させるガッシュの前で、男達は嬉しそうに殴られた場所を押さえている。

「うっひゃ~、いってぇ~!」

「すっげぇ、いてえ~!」

「黒騎士様の拳、ぱねぇっす!!」

「思い出になりまっす!」

 殴られて礼を言う男達の群れに、いい加減うんざりだ。

 くるっと逃げを打とうとして、周囲を見渡すのだが、視界の隅でちらっとだけ人だかりが団子みたいになってる所があり、思い切ってそこを目掛けて走り出した。



 一方、ハッと意識が戻ると何やらあったかでぐにゃりとした物の上に寝ている自分にアーリアは気が付いた。

 見上げる空は土ぼこりに薄汚れシルフーが舞い、アーリアを取り囲む見た事の無い人々の好奇の眼差しに包まれている。

 これはびっくり!

「なっ!?」

 無数の腕が、アーリアの身体を無理矢理に起き上がらせようと、くんずほぐれつ。

「や!? ちょっと! 止めて!!」

 抵抗虚しく、やたら熱いでこぼこした上に腰を浮かす。

 その時、頭の片隅で、リュートはと。

 肩にかけたベルトを回し、何とか前に持って来て、目と両手で無事を確認する。

 どこも折れて無さそう。どこも割れてなさそう。

 ほっと安堵で胸のつかえが降りた気分。

「よかったぁ~・・・」

 本当に本当に良かったと、ぎゅっと抱き締めたアーリアは、バンバン誰彼構わず背中を叩かれながらも、薄っすらと瞳を開き、ようやく自分が腰掛けている物の正体と、眼が合った。


 ぶふう~。

 やたら熱かったのは不機嫌そうなグルドが、仰向けでひっくり返っているから。

 やたら熱かったのは、その鼻息を苦しそうに噴出しているから。

 やたら熱かったのは、グルドの口をアーリアが封印しているから。

 やたら・・・


「ぐぎゃぁああああああああああああっ!!!!?」

 弾ける様に跳ね上がり、およそ年頃の女の子が上げないだろう悲鳴を上げて、封印の箇所を手でまさぐった。

「いやああああああああああああ・・・」

 顔は真っ赤。涙ぐんで、口をあわあわ。

「何してくれてるのよぉぉぉぉ・・・」

「けっ、あほか・・・」

 起き上がる気力も無いらしく、大の字で寝ているグルドは、そのままの姿勢で逆さまのアーリアをねめつけた。

「この、強姦魔が」

「誰がよっ!?」

 ゆっくりと、グルドは黙ってアーリアを指差した。

「んな訳、無いでしょう!」

「じゃあ、色魔」

 あまりの言い様に、あわあわと口をわななかせ、言葉を出せずにいると、ボロボロのグルドは、さも敬虔な信者でございとばかりに殊勝な表情で悲しげに口を開いた。

「今、僕の純粋にして精錬潔白な肉体と魂が、この女の色欲に汚されてしまいました。ここにいる皆さんが証人です。ああ、悲しい・・・」

 すると、アーリアとグルドを囲んでいた十数名の老若男女が一斉に、ぐっと右手の親指を立てて、アーリアに笑いかけた。グッジョブと。


 瞬間、アーリアの世界が白く硬直した。



「どけどけ~い!! 邪魔だ邪魔だ!!」

「ぼふっ!?」

 人垣を割って飛び出したガッシュは、ひっくり返ったグルドを踏み台に一直線、目の前で老婆と化したかに見えたアーリアを、咄嗟に持ち上げて走り去る。目指すは貴賓席。だが行く手は人の群れにすかさず阻まれた。

「ああ!? 黒騎士様!!」

「ガッシュ様だ!!」

「騎士様ぁ~!!」

 瞳にキラキラハートを宿した老若男女が争って殺到する。

「し、しまったぁ~っ!!」

 90度左にカクー!!


「おお、騎士殿ぉ~!!」

「私も持ち上げてぇ~っ!!」

「ああ~ん!!」

 90度右にカクー!!


「おお、アウリーリンよ!! 我に救いを!!」

 流石に心臓はばくばく。かと言って、ここで手にしたアーリアを見捨てる様な事をすれば、騎士としての名誉も地に落ちる。

 己の淑女に思わず救いを求めるが、貴賓席のアウリーリンはと言うと、この光景にパチパチ拍手して喜んでいる。

 万事休す。

 もーーー我慢の限界だ!!


 その時、ガッシュの願いが奇跡を呼ぶ。


 きら~ん。

(アウリーリン・・・)

 老婆と化したアーリアの瞳に、若き源泉がふつふつと沸き起こるではないか。

(アウリーリンに・・・)

「アウリーリンに~会いに行きたいか~っ!!?」

 目の前で、唐突に叫ぶアーリアに、驚くガッシュだが、それは一瞬の事。

 たちまち不敵な笑みを浮かべ、頷いた。

「ああ。アウリーリンに会いたいな」

 その答えに、アーリアはこれまでにないくらいの極上の笑みを浮かべた。


「あ~っはっはっはぁ~~~~っ!!」

 ぼろろ~ん。

 リュートを掻き鳴らすと、そこから一定のリズムで野太い音を刻み出す。

「もう降ろして良いですから、ゆっくり歩きましょう」

「良いのか?」

 ガッシュはアーリアの言葉に半信半疑。そっと降ろすと、アーリアはくるっと前を向いた。

「さあさあ皆さ~ん!! 騎士殿に捉まって捉まってぇ~!! どんどんみんなで一列に~!!」

 そう叫びながら、背をとんとガッシュに預けるアーリアは、今度は左右に大きくゆっくり身体を揺らし出す。

「皆さん、一緒に歩きましょ~う!! あっはっはっはっはぁ~!!」

 すると、それまで面白半分にガッシュを追いかけていた人々が、面白がってガッシュの背中に捉まると、また一人、また一人とその後ろに続き、一緒になって左右に身体を揺らしだす。

「笑って笑ってぇ~っ!!」

「「「「あ~っはっはっはぁ~っ!!!!」」」」


 すると、今すぐにでも兵士達を突入させようとしていた、領主の手が寸での所で止まった。

「なん・・・という事だ・・・」

 唖然とする領主の眼下では・・・


 アーリアは朗らかに叫ぶ。

「せ~のっ!!」

「「「「「「「「「「あっはっはっはっはっは~っ!!!!!」」」」」」」」」」

 見る間に繋がった人の列が、数百人もの長さとなって練り歩き、一斉に笑い声を響かせた。


読んで戴きありがとうございます


今回の落ちはと言いますと、南米の音楽、フォルクローレにあります。

1年だけつくば学園都市に住んだ事がありまして、その縁でつくば大のフォルクローレ演奏サークルの方々の演奏を耳にする機会が増え、特にラストの全員参加での花祭りは毎年素晴らしい迫力なんです。

今年も5月の22日につくば学園都市で公演されるそうなんですが、仕事を休み過ぎて行けそうにありません(苦笑)。いやぁ~残念。今年の文化祭の最終日に行ける様に調整しませんと・・・

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