↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーリア  作者: 猿蟹月仙
55/102

第54話『武闘会の貴婦人』

 人気の少ない、汚い裏路地。

 目のすぐ先で、矢筒に入れた十数本もの矢羽が揺れている。


「どっから、そ~いう話、出て来たのかなぁ~?」

 ひたひたと足早に歩くホークの後を追う様に、アーリア達は先を急ぐのだが。

「ん? そりゃぁ~・・・」

 軽く振り向いたホークが言いよどみ、目線を肩口から上へ・・・

「何となく、繋がってだな・・・」

「あ~、こら! シルフー!」

 はっとその視線の先を追って、アーリアは空を見上げた。

 見れば、既に空気袋を大きく膨らませ、ふよふよと飛び上がりつつあるシルフーが。

 どっと疲れが。

(ど~んだけ、街の人をびっくりさせりゃ気が済むのやら・・・)


「あ~、こらこら。怒らないから降りておいで~」

 立ち止まって、握っていたシルフーの最も長い触腕を引っ張り、アーリアの元へと手繰り寄せる。

 シルフーは、特に抵抗する事無く、ゆっくりと引き寄せられていくのだが、何気に遠くを見る様子でこっちの話を半分も聞いて無いみたい。

「シルフー?」

「・・・」

 返事が無い。まるで・・・

「シルフーちゃん、どうしたんだい?」

「ん~・・・私に聞かれても・・・」

 ちょっと困ってますと表情でルイスに返すが。


「聞こエる・・・」

 ぽつり、萎ませた空気袋を震わせて、シルフーが答えた。

「何が聞こえたんだい? シルフーちゃん?」

「あノね! 聞こえたノ・・・」

 ちゅぷり。まるで指をくわえる子供みたいに、短い触腕を口に、空気袋だった器官に差し入れ、ゆっくりと人の形に戻っていく。

「わかんなイ・・・」


 ふふ・・・と鼻で笑い。

「判んない事だらけだな、こいつは」

「ホーク!」

 アーリアの非難に軽く肩をすくめ、左腕に通した短い弓の先で頭を掻く。

「判んない事だらけだから、旅をして回るんだがな、俺は」

「彼女の存在は、実に驚嘆すべき事なんですよ。新種のシルフを、我々は発見したのかも知れない」

「大人の人は、そういう目で見るんですか?」

 地面に固定するかの様に、軽いシルフーの体を抱えるアーリアは、横目でルイスを睨むのだが、頭の片隅で色々と考えてしまった。


(ホークもルイスさんも、初めて見るって言ってるけど、あっちの世界じゃ別に不思議じゃ無いような・・・)

 アウリーリンの宴会にやって来た、遠い海の精霊達。

 理解し難い異形の姿。

 めくるめく色彩の乱舞。

 めくるめく色彩・・・

 アーリアの脳裏に、あの時の光景が、イメージがよみがえる。

(あれに比べたら、シルフーなんて、全然大した事無いんだから!)


 きゅっと抱きかかえる腕に力が入る。

「アーリア?」

 腕の中で、シルフーの不思議な色合いの目が、きらきらと陽光を跳ね返し、虹色に輝いて見える。

「大丈夫!」

「な~ニが?」

「大丈夫だよ~」

 頭の頭皮らしき部分をなでなで。するとまぶたらしき薄皮を何度もしばしばさせてシルフーは微笑んでる様だ。


「だからかな~?」

「何が?」

 アーリアが思わずこぼした言葉を、ホークが拾う。

「アウリーリン・・・」

「ああ、あの・・・」

「・・・」

 妙に納得。

 何で、あのがさつな騎士に彼女がついて行ってしまったのか。あんなたおやかな彼女が・・・


 ほのくらい水底で微笑んでるアウリーリン・・・


 水草の狭間より差し込む陽光がキラキラと・・・


「ああっ!!?」

「今度は何だよ?」

 苦笑するホークに、アーリアは目をまんまるにして訴える。


「・・・・・・・・・ああっ!?」


 それがホークに感染し、続いてルイスも。


「・・・・・・おお~♪」

 たまらず素敵な笑顔をもらす。


「「「アウリーリン!!」」」


「何ガ~?」



          ◇   ◇   ◇



 その名が呼ばれると、観衆は一斉に立ち上がって腕を振るった。

「「「「「ガッシュ!!!! ガッシュ!!!! ガッシュ!!!!」」」」」

 大気が震え、足踏みに地鳴りが伝わる。

 まだまだ祭りは初日。武闘大会でも予選の予選も良い所に、大大大サービスか、流浪の黒騎士、黒い流れ星、そのリーダー格の【一番星】のガッシュの名が呼ばれたのだから、これは驚きを通り越して驚天動地。

 貴賓席の末席よりすっくと立ち上がった黒騎士の勇姿を、人々は熱狂で歓迎した。


 黒いヘルムを小脇に抱え、右腕を高々と掲げ、観衆に応えるガッシュ。

 ゆっくりと、右に左に体を向け、やがて歓声が静まる頃に、傍らに座る水色のドレスをまとう貴婦人に一瞥してから、深々と主賓席に座す領主へと頭を垂れた。

 彼女が、水の妖精アウリーリンが微笑んでこちらを見つめている。その事が、今のガッシュの胸中を占めるところ大であり、この歓声はあくまで添え物だった。


 スッと領主の手が上がり、出場の許可が下りる。

 その事に、また観衆の熱狂は再燃し、砦全体が震えた。


「けっ! こーいう事かよ!」

 会場の中央。一人つば吐くグルドは、あの女の言った『面白いカード』とやらの意味を呪った。

 先に呼び出されて、これじゃ良~い晒し者だ。

「ほんと、むかつくぜっ!!」

 どんなにわめこうが、この大歓声の中ではかき消されてしまう。

 だが、今は待つしかない。

 さっさと勝ち進んで、行ける所まで行ってやる、と逸る気持ちがじりりとじれる。


 そして、これが結構待たされる。


 歓声が再び収まるにつれ、ゆっくりと頭を上げたガッシュは、次にアウリーリンへと向き直り、右腕を胸に、ガシャリと片膝を着いた。

 なんとも言えぬため息が漂い、人々がこの二人の動きを見守っている。

 その上で、ガッシュは真っ直ぐにその青い瞳を見上げ、揺るぎの無い意思で口を開く。

「我が淑女、アウリーリンよ。どうかこの身を、貴方の為に戦う騎士を祝福したまえ」


 不思議と、その声は会場に響いた。


『ガッシュ。我が騎士殿』

 妖精語の滑らかな響きが、人々の耳へするりと流れ、試合の興奮も助けてか、うっとりと魅了せずにはいられなかった。

 差し出されたガッシュの手を取り、アウリーリンは淀みの無い仕草で立ち上がり、次にはドレスの裾を少し持つ様にして、この席に集う人々へ向けてたおやかに礼をする。

 人のそれとは少し違う、透き通る様な微笑の淑女は、スッと右の手を掲げると、木で組まれた貴賓席にもかかわらずその足元より泉を噴出させ、それに濡れる指先を唇に添えると。

『貴方に栄光あれ』

 そっとガッシュの額に口付けを。

 さざ波の如き拍手と共に、ゆっくりと屈めた上体を起こし、アウリーリンはしゅるりとその身に帯びた薄い水色の腰布を外し、ガッシュの右腕に巻きつけた。

「うむ。我が淑女よ」

『我が騎士殿』

 瞬間、静かに睦みあう互いの目線。

 音は意味を失せ、内なる響きが全てとなる。

 どよめきと共にガッシュは立ち上がり、晴れがましい表情でその腕を更に天へと誇示した。

「いざ、参る!」


 破裂した拍手と歓声の中、一歩踏み出したガッシュは、眼下でにらむ若者を、その荒々しき眼光を初めて見据えた。


「ちっ! 舐められたもんだぜ!!」

 つばを吐き、四肢を奮い立たせようとするグルド。

 その憤りを、真っ向から受け止める黒騎士ガッシュ。


 大地に降り立つと、傍らから差し出された武具を全て拒み、ガッシュは己の帯剣をも係りの者へ渡した。


(あの野郎、何してやがる!?)

 いぶかしむグルドを睨みつつ、人々の見守る中、ガッシュは己の手甲の金具を外した。

 再び、どよめく場内。

 見る間に外されていく、黒い鎧。

 最後に、鎧下の鎖帷子をどさりと大地に放ると、首をぼきぼき鳴らしては拳を鳴らした。

「さて・・・」


「どーいうつもりだ!!? 俺なんか素手で十分だって言うのかっ!!? 馬鹿にするなっ!!!」

 ひときわ吠えるグルドに、ガッシュは涼しげな顔で右腕に巻かれたアウリーリンの腰布を直す。

「そうせくな、若き戦士よ」

 ギロリ。真っ直ぐにグルドを見据えると、不敵な笑みを浮かべた。


 その威圧感に、グルドはハッと息を呑んだ。足に震えが・・・無様な!

 唇を噛んで睨み返すグルド。だが、相手はまったく動じる事無く静かだ。


「お前は、俺の若い頃に良く似ている・・・野心に燃え、その手で何もかもが掴めると信じている目だ・・・」

 そして、くいっと右手の親指で背後を指し、こう告げた。

「この俺に勝てたなら、あの鎧はお前の物だ。だが、お前は勝てない」

「何っ!!?」

 荒々しく風が吹き抜ける。

 人々は、今か今かと試合の開始を待ち受ける。

 だが、ガッシュはそれを手で制してから、ゆっくりとグルドを指差した。


「判らんか? お前には何も無い。今日明日、命を落としても構わないという目をしている」

「それがどうした!!? 当たり前だ!! 俺はいつだって命がけよぉ!!」

 ぐっと胸を張って己を指差すグルドに、ガッシュは含み笑いを浮かべる。

「ふっふっふっふっふ・・・」

「おかしくねぇっ!!」

 その答えに、ガッシュの体は数倍に膨らんだかに吼えた。

「ふ・・・はぁ~っはっはっはっはっはっ!!!」

 

 ガッシュは一呼吸おいて更に吼えた。

「それでは勝てぬ!!!」


「うう・・・」

 一歩、また一歩と近付くガッシュに、グルドはにじる様に後ずさった。

 まるで筋肉の塊が歩いて来る様な・・・


「所詮はやせ犬の遠吠えよ!! お前に命がけで守る仲間はおるか!!? 友は!!?」

「い、居るに決まってんだろっ!! なんで、お前ぇ~みたいな奴にそんな事、言われる筋合いあんだっ!!!」

 そして、ガッシュはグルドのすぐ目の前で立ち止まった。

「俺には居る!! 仲間が!! 戦場で命を庇い合った仲間が居る!! そして・・・」

 ゆっくりと右腕を胸の前に。

「今は護りたい女がいる」

「う・・・」

「お前が護りたいものは、自分だけじゃないのか?」

「ううっ・・・」


「ハンデをやろう。俺に参ったと言わせればお前の勝ちだが・・・この腰布を奪い取ってもお前の勝ちだ」

「馬鹿じゃねぇかっ!! 頭おかしいだろお前ぇっ!!? そんなの関係無ぇんだっ!! 強い奴が勝つ!! 弱い奴が負ける!! 地べた這い蹲って泥水すすってりゃいいんだ!! 俺は違う!! 勝って勝って勝ちまくってそうして!!?」

 そこでグルドは言い淀んだ。その先にある未来が、何も思い浮かばなくて。

(あの糞アマ~っ!! ふざけやがって!! この俺様に、この俺様に、こんな事をぉぉぉぉぉ~~~~~っ!!!)

 言葉を失ったグルドは、両の拳を握り締め、歯噛みする様に身構えた。

 それが、試合開始の合図となった。

読んで戴き、ありがとうございます


今回は、もう少し話を進めたかったのですが、予想以上に脳内で脱線してこの様な形となりました(笑)。

すぐに武闘大会のシーンにと思っていたら、私自信もアーリア達と同じ心境になりまして(苦笑)。


感想などありましたら、お聞かせ下さい。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。